須賀京太郎の悲劇   作:泡泡

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 続きです


苦渋の決意

 

「っと、携帯・・・。あ、部長からの着信がこんなに・・・」

 

 まだまだ震える手で携帯を見ると、着信履歴の上からかなりの数が部長からの着信で埋まっていた。

 

 「どうせ、いつものように買い出しでしょ・・・・・・」

 

 その時は深く考える事はなかった。それに明日は日曜日なので、自分の身の回りのことを何とかせねばと思い、早めの就寝に至るのだった。しかし就寝中も時折激しく痛む胸に幾度か目覚めることになった。加えて頭痛もかなりの頻度で痛むのだった。そのせいもあって、熟睡できたのは太陽が顔を出し始めた頃だった。

 

 ピピピピ・・・・・・。

 

 けたたましく鳴り響く携帯の着信音で眠気が半分ほど覚めた。見ると、昨日から立て続けに着信がある部長からの連絡らしい。今になって、どうしてマナーモードにしておかなかったのかそれだけが心残りだった。煩わしく起こされることもなかったのに・・・と。

 

 「・・・・・・っ。アホくさ」

 

 痛みのせいでよく熟睡できなかったので、休みの日ぐらい麻雀から離れていたかった俺は再三鳴る携帯の電源を切りそのまま寝ることにした。夕方になってからはチャイムの音も聞こえてきたが、それすら無視して痛みに耐えながら、痛みに知らないフリをしてその日を乗り切った。

 

 次の日、俺はひとつの決意をする事にした。それが誰かを傷つけることになったとしても、もう一緒になんかいられない・・・と思って出した結論だった。教室に入っても咲以外から挨拶が返ってくることなど無かった。咲が挨拶するのも社交辞令だと思っていた。うん・・・いつものことさ、暴力に訴えることは今のところないが無視される、陰口を叩かれるなど日常茶飯事となっていた。

 

 「京ちゃん、おはよう。昨日はどうしたの?」

 

 「おは・・・よ。ただ家でゴロゴロしてただけだ」

 

 普通の挨拶すら煩わしく思うようになっていた。その反応を見てクラスメイトはまた陰口をし始める。曰く、優しくないだの。曰く、何あの態度・・・とかだ。俺にどうしろと言うんだ?まぁ、今日で最後だ。そのための手続きはもう済んでいる。やる事は限られているだろう。

 

 「そうなんだ・・・。ねぇあのさ、京ちゃん。今日部活来れる?」

 

 「・・・・・・」

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 (京太郎)にとってタイミングが良いところで、チャイムが鳴った。

 

 「ほら、席に座った、座った」

 

 「う、うん・・・・・・(何だか京ちゃんの様子がおかしい)」

 

 チャイムが鳴ってもそこに居座ろうとしている咲を自分の席へと急き立てた。それから授業が終わるたびに、咲が京太郎の元にやってくるのだが、それを全て無視していた。いや、せざるを得なかった。少しでも緊張を解くと、激痛が全身に走るからだ。それで咲が悲しそうな目でこちらを見てもそれに対して何の返事も返すことができなかったというわけだ。

 

 昼休みになっても咲は相変わらず、京太郎の所にきたが、煩わしく思っていたので保健室で休むこととした。それに・・・大事な用事も出来たから・・・ね。

 

 それは――。

 

 「失礼します・・・・・・」

 

 保健室に行く前に職員室に行くことだ。まぁ、用事は分かるよね。そう、退学届けだ。

 

 「どうした、須賀?」

 

 目当ての担任は職員室で食事をとっている最中だったが、京太郎の姿を見るとその手を休めてこちらを見た。

 

 「ええ、先生に用事がありまして・・・」

 

 「そうか・・・・・・。で、何だ?」

 

 スッと胸ポケットから封筒を出す。“退学願”と書かれた封筒だ。それを担任の机の上にそっと置いた。

 

 「冗談・・・ではなさそうだな?理由を話せるなら聞くが、話してくれるか?」

 

 「ここを出て違う所に行こうと思いまして・・・。それで退学願を出したわけです」

 

 「そうか・・・・・・」

 

 ふっと担任の目は遠くを見るかのように少し、細くなった。それから呟いた。

 

 「お前、麻雀はどうするんだ?」

 

 「ッ・・・。すっぱりと辞めますよ。どうせ俺には手の届かない場所でしたし、これから行くところでは麻雀などできなさそうですから。俺に麻雀なんて似合わなかったんですよ」

 

 「分かった。これは俺の方で預かっておく。俺としてはお前の気持ちが変わることを願うが、お前の気持ちは変わらないってことでいいんだな?」

 

 「はい、変わりません」

 

 「意志も堅いようだし、あとは自分で麻雀部のほうに行って退部してこい。それぐらいはお前の方でけじめをつけろ。嫌われる言い方もできるだろうし、本当のことを伝えることもできるだろう。どっちにするかは任せるよ」

 

 「ええ、ありがとうございます。退部は今日中にして明日を最後に退学しますので・・・・・・」

 

 「・・・お前が何を考えているのかはわからない。だが、俺はお前の味方だ。・・・・・・これは俺の携帯番号だ。何かあったら連絡するといい」

 

 手帳の1ページを切り取ってそこに自分(担任)の名前を書き、その下に携帯番号を書いたメモを渡してきた。

 

 「頼りにします。・・・っ、失礼しました」

 

 少し涙がこみ上げてきたのは、ここだけの話だ。いつもは気づかなかったのに、俺って担任に恵まれていたんだなぁと思ったのは最期の事だった。

 

 「それにしても・・・。予想はしてたけど、退部せにゃならんか」

 

 溜息と一緒に漏れたのは本音だったのか、それともこれで解放されると思って無意識に漏れたことだったのか。

 

 ――今となってはどちらでも変わらない・・・か。さてと部室へ行こうか。




 作者自身が小中高と担任に恵まれなかったので、作中の担任は気遣ってくれる優しい人物にしました。

 時系列としては全国行きが決まった辺り?になるでしょうか。少しずつ絡ませながら殆どは須賀sideからの視点中心に書いていこうと思います。

 もう一度言いますが、この作品には麻雀の要素は全く出てきません。それでもいいよって方だけがご覧ください。

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