「それじゃあ、行ってくるよ・・・。ってどうして君らのほうが死にそうな顔してるんだい?」
手術室へと運ばれているわけだが、ベッドに横たわりながら少しの角度を持たせてくれているおかげで二人の顔を見ることができた。京太郎の主治医は手術の前にと数分の間話す時間を設けてくれた。それで話しているのだが、竜華と怜はさっきから泣きそうな顔をして京太郎が着ている手術着の袖を掴んでいた。
「「だって・・・」」
「君らが思い悩んでもしゃーないだろ?あとは主治医のせんせーに任せるだけ!!」
「ほんまに京ちゃんは強いなぁ。なんでそないに強いんや?」
竜華が尋ねてきて、横で怜が同意するようにコクコクと頷いていた。その様子を眺めていた京太郎は、ハァーとため息をついた。ため息をつかれた側としては予想できなかった反応らしく呆然としていた。少しだけムッとしていたかもしれない。
「あのな、俺がここまで前向きに考えることができているのは君らのおかげなんだよ。君らに出会うまでの俺はこんなにも前向きに考えることはできなかった。いつもいつも後ろ向きに考えている、いや全てに関して諦めていたっていったほうが正しいだろうか」
京太郎の言葉に聞き入っているのかその場には準備のために手術室に入っていった看護師が走り回っている音と医師が指示を出している以外は静寂しかなかった。
「それ、ほんま?」
「ああ、本当だ。俺には空虚しかなかった。毎日ただ生きているだけの人形だったんだ。それでも偶然とはいえ怜に会えて、それから竜華に出会えた。それからの俺は
二人ともその言葉に俯いていた顔をこちらに向けてきた。やや緊張気味に言う。なんだか、タチの悪い告白みたいだなと思いながら自身の心の内を吐露する。
「俺はこの数ヶ月の間、君らに会えて話して一緒に行動してすごく楽しかった。自分の病気のことを知ってから、空虚に空虚を重ねたみたいに生きる屍になっていたがそれでも隙間を埋めてくれる二人に嬉しさを感じた。ここまで前向きになれたのは竜華と怜のおかげだ。だからこの言葉を送るよ」
ここまで一気に言った。そして深呼吸をしてこの言葉を紡ぐ。単純な言葉だけど多分言えていない言葉。
「ありがとう!!・・・・・・きだよ」
「「っ!!」」
あれ?俺何言った?確認する暇もなく、パクパク口を開け閉じしている二人を尻目に看護師によって手術室へと運ばれていった。どうしてって聞くと『これ以上は無理です。ごめんなさい』と言葉が返ってきた。数分と言いながら多くの時間を取っていてくれたので京太郎も感謝するだけで恨みなどは言わなかった。
「感謝します。俺は俺なりの言葉で二人に言いたいこと言いましたから。あとはせんせーらに任せるだけです」
「分かった。これから君には全身麻酔をかける。目が覚めたらベッドの上だ。・・・難しいとは思うけれども私たちもチームとして一丸となって立ち向かうからな」
「ええ・・・・・・」
そのまま目をつぶる。段々と意識が落ちていく。そして何も感じなくなった。
~竜華と怜side~
「行っちゃったね・・・」
「そやね・・・」
「入る前の言葉・・・聞こえた?」
「うん・・・」
会話が続かない。すぐに途切れてしまう。手術にかかる時間は数時間から数十時間とも言われており、予測がつかないらしい。それでふたりの様子を心配して来た看護師には京太郎がいた病室で待っているように言われたが、頑なになってその場から立ち去ろうとはしなかった。
「ねぇ?」
「うん?」
怜が竜華に聞く。
「返事どないする?」
「うん、嬉しいけれどこのタイミングで言わないで欲しかったわ。怜はどう?」
「うちも同じや」
嬉しさ半分、悲しさ半分の気持ちが交差していた。二人の思いとしてはもっと早く言って欲しかったところだろう。それでも・・・。
「これからや、忘れたとしてもまた思い出作ればいい。そのためにいるんやから!!」
竜華がそう告げて怜が同意する。手術室に通じる廊下に設置された長椅子に座りながら見えることのない室内のほうを凝視しながら気持ちを再確認した。
「言いっぱなしはあかん。しょうに合わないんやからな?ちゃんと戻ってくるんやぞ」
二人はそのまま交代交代でうたた寝をしながら彼が戻ってくるのを待ち続けた。
~竜華&怜side end~
手術は困難なものになっていた。須賀京太郎の脳内に巣食っていた腫瘍は、記憶を司る部分を圧迫しており慎重に慎重を重ねないと除去できなかった。主治医のスキルも相当なものであり、この手術に対して自信を持って望んでいたがそれでも難しかった。
それでも細かな除去を繰り返していた。少しずつでも前に進まないとこの手術の終わりは見えなかった。ただ時間だけが過ぎていた。四時間、五時間と進むにつれて
それでも何とか終わらせることができた。これからの術後の経過を見守る必要があり、大小の手術を繰り返すかもしれないが最初の足がかりとも言える最大の難所を乗り越えることができた。
フッと『手術中』の赤色灯が消える。手術室から出ても自分の足がガクガクいっているのが分かったが、それでも待っているであろう彼の友人に伝えねばならぬことがある。
麻酔で眠っている須賀京太郎を横目に見ながら、廊下に備え付けられている長椅子から勢いよく立ち上がった二人に向かって言う。
「終わりましたよ。最大の山場は超えたと言えます。京太郎君にはよく頑張ったねと言いたいところです。それにお二人にも・・・」
「「っ・・・。よ、よかったぁ」」
ヘナヘナと椅子に力無く倒れ掛かり二人して涙を流す。
「須賀君は麻酔のせいで一時間ぐらいは眠ったままです。一、二日後には意識もはっきりしてくることでしょう。それからノートを見せることにしたらどうですか?今晩は
そう言ってここまで待ち続けた友人に関しても休息を促し、休むことに同意したので看護師に休む場所を提供させた。
待たせておいて文字数の少なさ。これから修正していって文字数や話の完成度を上げていきたいと思います。