最終話だと言いましたが終わりません。この小説に出てくることは実際にはありません。小説だからできたんだ・・・程度にとどめておいてください。
「まさか怜がこんな提案をしてくるとは・・・思ってもみなかったよ」
「でも、これでうちらが離れるような事にならなくて済むちゅー話や。京ちゃんも良かったでしょ?」
「ああ、そうだな。こうして出会えて悲しいこともあったけれど、二人にはホント感謝してるよ」
あれから数日たって須賀京太郎は病室のベッドに上半身を起こした状態で、竜華と怜と三人で話していた。今話しているのはあの時、怜から持ちかけられた提案について・・・。
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「あんなぁ・・・。忘れてもうちらがついているよ。・・・なんや、分からんか?記憶を失ったってそこからまた始まればいいでしょ?そないに、悲しいことでも無いと思うで」
「そうは言ってもなぁ・・・。俺は昨日まで一緒に笑って過ごしていた二人のことを忘れて『誰?』って言って二人を傷つけることはしたくないんだけど。それだったらここで別れたほうが今は辛いけど、時間がそれを無くしてくれると思った。竜華はどう思ってる?」
「うちは・・・うちは怜の意見に賛成や。理由はそやなぁ、京といる時間がとても充実していてここで終わらせたくないってのが理由かな。それは京がうちらのことを忘れてもまた取り戻せると確信に近い何かを持っとる」
両手を胸のあたりでギュッと握り締めたままそう告げてくる。怜も少し体調を崩しているのかどうか分からないが少し顔を赤くしながら、それでもこの提案をしてくれた。
「・・・・・・」
あとは須賀京太郎の結論を待っている状態のようだ。テコでも動かないだろうと京太郎は思っていた。それは出会いから短いながらもそう思えるだけの二人との濃い時間を過ごしていたからかもしれない。
「分かった、負けたよ。こう言う言い方は違うなぁ。俺もこれで終わりってのも嫌いだ。もっともっと二人と同じ時間を過ごしていきたい。それが俺の本心だ!!」
「「あっ!!」」
二人して京太郎の胸に飛び込んできた。軽いとは言え二人分の重さを耐え切るだけの力が京太郎にはなかったが、それでも堪えた。それは意地だったかもしれず、もしくは嬉しさで火事場の馬鹿力的な何かが沸いてきたのかもしれない。いずれにせよ、三人はとても満ち足りた雰囲気を醸し出していた。
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「それで、君たちは具体的にどうするつもりなんだい?」
「「「あっ・・・・・・」」」
我に返ったのは、京太郎の主治医の声が病室の入口から聞こえてきた時だった。
「まぁ、須賀君にも春が来たようで何より・・・」
グッと親指をたてて言われても・・・と三人は恥ずかしくなって音が出るぐらい激しく飛び退いた。
「ま、まぁこれから考えるつもりです。時間が許す限りですが・・・・・・。ねぇ、せんせー?」
「ん、何かな?」
主治医の経験上、京太郎がにんまりと笑った時に出てくる計画は予想できないものか予想の遥か上を行くものであることを感じ取っていた。そしてこの場合も、それから外れることはなかった。
「せんせーの知り合いとか元・患者の中に色々な戸籍を扱う人っている?」
「っ・・・」
やはりそうきたか。と主治医‐後藤田‐は思った。須賀京太郎が考えそれに竜華と怜も賛同した。無理はあるかもしれないが、須賀京太郎と言う人を捨てて全く新しい人を作ろうとしていた。それは戸籍上の話し・・・ではあるが。
「その表情は思うところのある顔・・・ですね?」
ウッと詰まった顔をした主治医の表情を見て、知っていると当たりをつけた京太郎だった。病床についてから何やら勘が鋭くなったような気がしていた。言葉に詰まった見舞い人の表情の奥深い考えを当てることなどたやすい事となっていたからだ。
「・・・最近の須賀君には隠すことなどできないなぁ。・・・・・・うん、私は知っている。裏の人間で他人の戸籍を変えることのできる人を、ね」
「だったら、僕がせんせーに頼みたいことは分かりますよね?」
「それは・・・」
言葉につまる主治医の先生。
「僕が手術のあとに自分の名前を忘れたっていいんです。もうこの名前を呼んでくれるのはせんせーのほかには竜華と怜しかいないんですから・・・。悲しいとかわびしいとかそう言う感情はもうどこにもないんですわ」
須賀京太郎の隠すことのない考えを聞いてややしばらくの事だった。
「分かった、わかったよ。君の思いは伝わった。手術が成功したら、その時は自分の名前を使うこと。手術の成功もしくは失敗して記憶喪失になった時には戸籍上で変えること・・・これでいいね?」
「ええ、ありがとうございます」
「「・・・・・・」」
主治医と京太郎の会話に対して一言も口出さずに聞いていたのは竜華と怜の二人。涙を一杯溜めながら堪えている表情は見ていてとても辛いものだった。だから主治医の先生が立ち去ったあと、すぐに二人を腕の中に抱きしめた。
「「っ・・・」」
「ごめんなぁ。二人にも辛い選択肢を与えてしまって。戸籍上は変わって新しいものになるかもしれないけれど、今までの“須賀京太郎”って言う男子との楽しい思い出は何もかも無くなってしまうかもしれないんだからなぁ・・・。今ならまだ間に合うと思うけど・・・?」
二人はそれでも別れないと思ってまた、最後の問いかけをする。これでまっさらな関係に戻すことも可能であるが・・・。
「ううん、うちはもう決めてる。どないなことがあっても京ちゃんと別れとうない!!」
竜華が言う。
「うちも同じや。どうしてここで京を置いて無かったことにする?そないな、選択肢はないよ」
怜も同じようなことを強い口調で告げた。
「ありがとう・・・。二人がそう言ってくれて、本当に嬉しいよ」
二人の答えに堪えきれずに涙を流す京太郎だった。
「さて、これからの事をもう一度復唱しておこう。手術に向けて俺は二冊のノートを書いておく。表紙が赤いノートと白いノートだ。赤いノートは竜華に持っててもらう。怜に白いノートを持っててもらう。これは俺が目を覚ましたあとに重要なものになってくる」
「「・・・・・・」」
二人は真剣な眼差しでこちらの言うことを聞いている。二冊のノートは術後に関係する事柄が書いてあるのだ。
「白いほうは俺が目を覚ました時に二人の顔を見て、名前を当てたとき・・・、つまり記憶がそのまま残っている時だ。そして・・・赤いノートが」
「うちが持ってるのは京ちゃんがうちらを見ても何の反応も示さない、その時って話やね?」
「あぁ、もしかしたら辛辣な言い方をしてしまうかもしれないが、今のうちに謝っとく・・・。すまんなぁ」
ベッドの上で二人に向けて、頭を下げる。この二冊はこれからの行動予定表のようなものだ。二冊とも自分が書いたものだが、白いほうは自分で自分を褒める内容になる。『よくやった』とかそんな上向きの事が内容になる。
そして赤いノートのほうだが、これは記憶喪失になった場合に開かれるノートになっている。目の前にいる二人が俺にとってどういう存在か、これからどうするのか・・・そう言った事を書いてゆくつもりだ。
言ってなかったが明日の午前には手術だ・・・。どういった結果になるか分からないがそれでも竜華と怜には本当に感謝している事をどちらのノートにも書いた。
さぁ明日はある意味勝つことの確率が低い戦いへと赴くわけだ。
自分が使わない言い回しは難しいです。読んでくださった方で「あれ、ここが変?」って思われた方は指摘してください。
数話後に完結します。あとはちょっと外伝っぽく考えていることがちらほらあったり、なかったりしてます。