須賀京太郎の悲劇   作:泡泡

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こんな毎日が続くはずだった・・・。一つの分岐点に差し掛かった男子麻雀部員は果たしてどんな結論を出すのか?


変化

 

 俺の名前は須賀京太郎。清澄高校唯一の男子麻雀部員だ。だけど、最近はその立場も危うくなっている。それは俺が麻雀など役しか覚えていないという点で、何の役にも立たないからだ。それに加えて最近は何だか調子が悪くなり続けていた。

 

 キリキリと痛む胸と頭が何だかカウントダウンを知らせているみたいだ。さっさと病院に行けば間に合ったかもしれなかった。それすらも俺には時間がなかった。周りに流されなかったら時間ができたのかもしれない。しかしそれも今となってはわからない。

 

 「あっ須賀君、ちょっと買出しに行ってもらえるかしら?手が空いているのあなたしかいないのよ。大丈夫?」

 

 「あ、うっす・・・(やれやれ、最近の俺に麻雀を教えてくれることもなくなってあるのといえば雑用ばっかだなぁ)」

 

 また・・・だった。竹井久(部長)から雑用を頼まれたのだ。まぁ俺ができることはそれしかないからな。いいカモだと思って連れてきた咲はカモじゃなくて俺より数倍上の実力を持っていた。それのおかげかもしれないけど清澄高校は全国に行けると言う結果を出した。

 

 ズキッ、ズキッ・・・・・・。

 

 今日は胸に鈍痛が走る。昨日は頭に激痛が走った。いつもの事、いつもの事と思って知らないフリをした。ここで俺が弱いところを見せたらほかの部員に支障が出るかもしれない、だから我慢しておこう・・・。この時はそう思ってた。いや、自分で自分を納得させるためにそう思い込んでいた・・・の方が正しい。

 

 「どしたの?具合でも悪いんか?」

 

 「ああ、いいえ。大丈夫です。では行ってきます」

 

 染谷まこが心配してきたのを皮切りに部員らの目がこちらを見る。それがいたたまれなくなって、そそくさと部室をあとにした。

 

 「ぐっ、があっ・・・」

 

 部室の扉にもたれたと同時ぐらいに痛みに襲われた。どうやら今回の痛みは想像以上だった。少し深呼吸しようと思ってもそれすら痛かった。空気を取り入れようと胸を膨らませようとするが、それすらまともに行なうことができない。

 

 「どうしたんだ?俺の胸は・・・・・・。それに最近は頭痛も激しく鳴ってる」

 

 明日は学校が休みだ、今日はあまり無茶をしないで明日一番に病院に行こう、そう思って買い出しへと急いだ。でも、買い出しを行なわないで病院に行っていればあるいは助かったかもしれない・・・。

 

 「た、だいま戻りました・・・。あ、あれ?」

 

 買い出しに少し時間がかかってしまって着いたらもう誰もいなかった。夕方には少し遅い時間帯、遠くの方からカラスの鳴き声が聞こえてくる。それが物悲しさを掻き立てた。

 

 「は、はは・・・・・・。俺なんか皆の視界に映ってないか・・・・・・。部室に来ても卓を囲むどころか、来たら来たですぐに買い出しに行かされる始末」

 

 京太郎はどっと疲れたのか、自分用に買ってきたペットボトルのお茶を一口飲んでそれからゆっくりと帰宅の準備をした。しかしテーブルの上には置き手紙があったことを京太郎は知る由もなかった。

 

 「さ、帰ろ・・・帰・・・・・・、があぁぁぁ」

 

 鈍痛ではなく鋭い痛みが走った。これは今までに感じたことのない痛みで視界が真っ赤に染まったように思えた。いや、思えたではなく目に圧力がかかったせいで充血し、目が文字通り赤くなった。京太郎は察した。そして力無くソファに倒れ込んだ。手を胸に置いて無理矢理押さえつけて痛みを紛らわせようとした。だけど・・・・・・。

 

 (もうこれは・・・無理なんじゃなかろうか)

 

 病院に行った時の医師から告げられる言葉が、絶望的であると予想してしまった。

 

 「まぁ、学校でも家でもそして部活でも俺の居るべき場所はないから・・・。別にイイんだけど」

 

 『麻雀部員の癖にやってることは女子部員のケツ追っかけてるだけじゃないか』 

 

 『ねぇ、あなたがいなくてもいいんじゃないの?』

 

 『早く辞めてくれない?俺のほうが出来るに決まってる!!そして原村は俺のモノだ!!』

 

 『どうしてあなたがいるの?それだけで足を引っ張っていることにまだ気づかない?』

 

 『なぁ須賀。こう言っちゃあ何だけど、君がいなくても麻雀部は廃部にならない。男子部員が他にいて卓を囲めるならともかく、今の状況一人しかいないなら君が辞めても困らないよな・・・。あぁ須賀がいたいならそれはそれで構わん。だが、周囲の見る目は厳しかろう?・・・考えてくれ(担任)』

   

 自虐的なことを考えないようにしたいんだけど、自分の深奥に残っていた言い表せない感情が一気に吹き出してきた。こんなことを会うたびに言われ続けると否応無しに自分の不出来を実感させられてしまっている。

 

 「は、はは・・・・・・」

 

 カラッカラになった口から出てくるのは乾いた苦笑。ひとしきり笑ったあとはスッキリとまではいかないにしても、鈍痛は治った・・・ように思えた。帰るなら落ち着いたように思える今しかない。と思ったら部室の扉が外から開けられた。そこにいたのは部長の久だった。

 

 「あれ、須賀君帰ってきたの?」

 

 「・・・ええ、さっき戻りました」

 

 「ちょうど良かった。ね、ね。これから暇?」

 

 俺の異変にも気づかずに・・・・・・。申し訳ないけど早く帰りたい。

 

 「暇でないです。では・・・失礼します。すみません、今日は早く帰りたいので」

 

 「えっ?ちょ、ちょっと待って」

 

 部長の横をすり抜けて階段を下りていく。階段を一段ずつ降りていくのと相まって鈍痛が胸から響いていた。引き止められてもどうせまた難癖つけられるだけだと思ってたから・・・。そのまま部長を置き去りにして帰った。

 

 「須賀くーん、明日は来るのよね?」

 

 間延びした平和な声が聞こえてきて、痛みを隠して上を見上げるといつもの表情が見える。

 

 「ええ、何もなければ・・・・・・」

 

 「そう・・・。だったら部室に来てね?」

 

 明日は学校は休みだけど、部員全員で大会に向けて力を付けようとしているのだろう。でも・・・・・・俺が行く必要ないんじゃない?って思った。あぁ、鈍痛のせいで卑屈になりつつあるのかな。幽霊部員でも良いかもな。

 

 「多分ですが・・・」

 

 「うん、何かな」

 

 何も無ければ・・・何て少し期待を持たせようとしてもダメだ。今日のうちにキッパリと断っておくことが必要だろう。そう思って言葉を続ける。

 

 「行けないと思います」

 

 「えっ・・・?」

 

 『どうして』って言う言葉に返事しないまま、振り切って今度こそ学校から出る。

 

 「須賀、君?」

 

 

 久side

 

 私はいつもいつも影で頑張ってくれている須賀君をねぎらうために感謝の言葉を述べたくて明日、来て欲しかったのだ。それに他の部員もそれに快よく同意してくれて明日は部活という名目で須賀君を励ましたかったのに・・・。これじゃあ駄目だね。それにしても・・・・・・。

 

 「いつもと違うような・・・。まぁ、今度聞けばいいでしょ」

 

 私は気楽に考えていた。知らないところで、ひがみによって思わぬ心痛を味わっている須賀君のことなんか想像もしていなかったのだ。

 

 久side end

 

 

 次の日、俺は朝一で病院へと行った。寝起きから鈍痛が酷かったからだ。部室にも行きたかったという少しの気持ちもあったが俺がいなくても部活は出来るだろう・・・いや出来ると考えて病院に行くことを優先させた。

 

 診察を終えて、妙に神妙な面持ちをした医師と向かい合う。

 

 「ここにはどなたかといらっしゃったんですか?」

 

 「いいえ、一人できました」

 

 「・・・本当だったら、ご家族のどなたかと来てくだされば良かったんですが・・・」

 

 「っ・・・いいえ、大丈夫ですのでどうか診察結果を教えてください。俺にもこの痛みの覚悟ぐらいは出来ているつもりです」

 

 「分かりました。須賀さんの体を調べた結果――」

 

 その日、どうやって帰ったか覚えていない。覚えているのは俺の体が原因不明の病気に蝕まれているということだ。それに余命も長くはない。病名が分かっているならそれなりの処置ができたかもしれないが、原因不明となればそうもいかない。

 

 

 ――俺はどうすればいいんだろ――。

 

 

 そんな呟きは小声で出て、そして聞いたものは誰もいない。




 これは作者の妄想と筆休めで書いた作品です。

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