モンハン飯   作:しばりんぐ

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 よくよく考えてみたらおかしいなって思ったんです。MHXとか見てるとなおさら。ハンターの狩猟目的移動を、ギルドが保証しない筈がない、と。これがこの章のそもそもの始まりです。
 




旅のお供は味覚のお供

 

 

 まるでインクのような、絵の具のような。あからさまな青と緑が混じり合ったような奇妙な色が、このどこまでも伸びる世界を形作っていた。

 果てに見えるのは空と交わるような水平線。太陽を隠すように広がった薄暗い雲と、濁るように広がる遠海が吸い込み合い、まるで世の果てのような景色を描き出している。

 そんな世界を映すこの窓は、薄いガラスに覆われていた。その心許ない厚みが潮風を遮り、この穏やかな空間を外界から隔てている。潮の風も香りも遮断しているおかげで、この狭い空間にはどこか安らかなで落ち着いた空気が漂っていた。

 

「食べ物や飲み物はいかがですかニャ~」

 

 十席程度の座席と、その座席に沿うように備え付けられた窓ガラス。座席は空間の筋となる通路を挟むように左右に広がり、この空間の設計的美を形成している。

 その通路を音を立てながらゆったりと進むのは、客室乗務員風の衣装を纏ったアイルー、そして彼がひく小柄な台車。その台車には、スナックやスイ―ツなどの間食系食料品とドリンク、お茶といった飲料が所狭しと敷き詰められている。一目瞭然だが、これは俗に言う"船"内販売という訳だ。

 

「なぁ、そこのアイルーよ」

「はいニャ! 何か買われますかニャ?」

「いやな、もっとがっつりしたものが食いたくてな……。他に何かないか?」

 

 波に揺られ、船内の壁が小さく軋む。その船特有の音も既に慣れたと言わんばかりに気にしない彼は、台車の裏に収納されていたメニュープレートを器用に取り出し、そんな厄介な注文をしてきた客ーーもとい俺に見せてきた。それも嫌な顔一つせず。

 

「今なら特製ローストイャンクック弁当が人気ですニャ。在庫も僅かですし、船内食なら特にお勧めですニャよ!」

「ほぅ……これはなかなか」

 

 彼が提示するそのメニューには、仰々しくローストチキンの乗った弁当が紹介されていた。怪鳥イャンクックの強靭な脚周りを用いた噛み応え抜群のロースト。こってりしたブレスワインのタレで十分に焼かれたそれは、肉の繊維が口の中で解けていくような食感で、噛む度に肉汁がどんどん溢れてくるという。そのジューシーさがウリであり、同時にリピーターも生み続けていることで有名なのだとか。

 そんなローストイャンクックを乗せているのは、丁寧に炊き込まれた米らしい。怪鳥のダシで炊かれているというそれは、ふっくらとした形に風味良い香り、そして何よりも奥深い味で人気を博している、と。

 防具の特徴を補助する珠のように添えられた山菜も、弁当をより鮮やかに、それでいて慎ましやかに彩っている。

 船旅で、囁くように身をくねらす波に揺られながら。薄く軋む船らしい音色に耳を傾けながら。窓から見える空と海のコントラストで瞳に色を加えながら。

 そうして咀嚼するローストイャンクックとは、一体どのような味の美を生み出すのだろうか? そう考えるだけで、不思議と俺の口内に唾液が染み出し始めた。

 

「じゃあ、それを。イルルはどうする?」

「にゃ……ボクはお腹空いてないからいいにゃあ」

「……ということでそれ一つくれ」

「ニャ! まいどありニャ!」

 

 快活な笑みを浮かべて料金を受け取った彼はその台車から弁当を取り出し、魅力的な光を放つそれを俺に渡してくれる。仄かに肉の香りを漂わせるそれはまだ温かく、出来立てであることを厳かに証明していた。

 俺の受け取る姿を見ては満足気に頷いた彼は、乗務員室に向けて再び台車を走らせる。一方で、俺の横に座りながら窓の外を眺める俺のオトモアイルーことイルルは、少し萎縮するような顔で(しき)りに空や海に向けて瞳を走らせていた。まるで怯えるように。警戒するように。

 

「……イルル、大丈夫だって。この船は元撃龍船の大型客船。何かあっても、ちょっとやそっとじゃ沈まないよ」

「にゃ、分かってるんだけど……にゃあ。うぅ……」

 

 俺の声掛けに反応しながらも、やはり恐怖感が収まらないのか俺の体にそっと身を預けるイルル。海上での移動。これは彼女にとってトラウマとも言えるかもしれない。彼女がチコ村に流れ着いたのも、海上難破が原因だったらしいのだから。

 それでも頑張って俺に合わせてくれるあたり、イルルの人の良さが窺える。

 そんな彼女が、俺にもたれ掛かることで引き攣らしていた表情を少し緩ませた。そうして、少し躊躇いながらも俺の顔を見上げてくる。

 

「……旦那さん、その、ボク……」

「……あぁ。それで安心するんだったら、もう少しそうしていてもいいぞ」

 

 その言葉に少し安堵したように、イルルは小さな鳴き声を上げて俺に全体重をかけてきた。とは言っても、所詮はアイルーの体重。人間にとっては大した負担でもない。

 そうして静かに目を閉じる相棒を見ながら、俺は弁当に添えられた割り箸を二つに分ける。特に偏りなく綺麗に分けたそれを右手で構え、左手でそっと、その弁当の蓋を開けた。

 耐水性をもち、かなりの分厚さを誇る加工紙に囲われたその弁当。そこには所狭しと敷き詰められた炊き込みご飯があり、その上にローストされたイャンクックが一切れ。そしてその周りにユクモ地方で採れる特産タケノコやドスマツタケなどといった山菜が散りばめられていた。

 山菜に使われたこれらも中々価値のある食材だが、やはりこの弁当という世界の中では主役を立てる脇役という扱いらしい。薄く切り分けられたそれらの量は、やはりと言うべきか少なめである。だが、その代わりとでも言わんが如く、ローストイャンクックは自らの存在を強く主張していた。

 大きく切り分けられたその一切れは、弁当箱の面積の半分は占めるかとどうかという程大きく、その厚みも十分すぎるくらい豪華である。ブレスワインが使われているというそのタレは濃厚な香りを強く放ち、空腹に揺らぐ鼻孔を大胆に(くすぐ)った。

 

「あ~、たまんねぇなこりゃ……」

 

 十分に見た目と香りを楽しんだのなら。

 とうとう真にこの弁当に迫ろうと、俺は右手の指に力を込めた。箸越しに伝わってくる米の感触。柔らかそうなその見た目通り、ふっくらとした感触が箸から存分に伝わってきた。

 イャンクックという貴重な鶏肉のダシを贅沢に使い炊き込まれたその米は、窓から入り込む光を妖艶に反射する。その米を染める色は本来薄い茶色なのだが、光を帯びて神々しい白色に僅かながら染まっていた。

 立ち昇る湯気の色も相まって。発せられる風味豊かな香りに助長され。

 これ以上我慢するのは酷だ。そう訴えるかの如く、俺の口内はいよいよ唾液で溢れかえりそうになる。そんな水中闘技場のような口内へ、俺は摘まんだ米を一心に放り込んだ。

 

「いただきます。……んっ、これは……ッ!」

 

 濡れた舌に舞い降りた奇跡。ほんのりとした甘みと、米らしいはっきりとした旨み。

 怪鳥のダシに包まれたその味は、しっとりとした食感とのマッチ具合が素晴らしい。噛むごとに、口内をダシの香りで染め上げていった。五穀豊穣米ほどでないにしても、そのもっちりとした米らしい食感は、炊き込みご飯には打って付けと言えよう。そう感じてしまう程重厚で、奥が深い味覚がじっくりと舌や顎を肥やしていく。

 ダシには鶏肉らしいさっぱりとした旨みが含まれているようで、どこかガーグァ鶏ガラスープとも通ずるような味のようだ。あっさりとした脂分はしっとりもっちりが特徴のこの米の旨みを控えめに、しかし確実に助長しており、鶏飯という名の矜持を過不足なく表現している。

 米に添えられた特産タケノコは、どうも薄く鰹節で染められいるようで、如何にもユクモらしい味を構成していた。ドスマツタケは濃厚なキノコの風味と、キノコらしい歯に残る噛み応えを残している。脇役といえど、ユクモ村を代表する食材だ。味に関しては文句の付け所がない。

 

「いいねぇ……。気持ちも舌もあったまってきた」

 

 口の中で広がる穏やかな味覚。それに満たされた舌は、ふといつかの味覚を思い起こしていた。

 バルバレ集会所で、たまたま本日限定ということで用意されていた炊き込みご飯。鶏飯でこそなかったが、ダシの風味とさっぱりとした後味はこの味とよく似ている。同時に配られていた黄金芋酒の独特な風味とも、それはそれはよく合っていた。

 

「……黄金芋酒、飲みたいなぁ……」

 

 残念ながら、ここには黄金芋酒はない。あるのは、このローストイャンクックのタレに使われたというブレスワインだけだろう。

 だが、舌が味覚の記憶を思い起こすままに、何となく黄金芋酒が懐かしくなってしまう。そういえば、今回の旅を決行する要因の一つとなったものにも黄金芋酒は関わっているのだから、当然と言えば当然だろうか。

 箸で摘まみ直したローストイャンクック。それを口に含む前に、俺は舌に残る味を、そしてその記憶を再び咀嚼し始めた。

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「――シグ君、ドンドルマに出発する見通しを立てたというのは本当かい?」

「あぁ、マスター。世話になったな。近いうち旅立つとするよ」

 

 そう、それはニャン次郎の依頼を受けるよりも前の話。どこから嗅ぎつけてきたかは知らないが、バルバレのギルドマスターが、俺にそう問い掛けてきたことが始まりだった。

 元々俺が目指していたのは、ユクモ村ではなかった。本当の目的地はドンドルマ。ハンターズギルドの最大勢力の地へ向かうことが、そもそもの目的だったのだ。

 ところが、そんな俺の強かな計画も、渋るように髭を擦るギルドマスターの一言により瓦解することとなる。

 

「率直に言うよ。今はドンドルマに行かない方が良い。……というより許可できない」

「……は? え、どういうことだよそれ……」

 

 突然彼から放たれた禁止を意味する言葉。当然容認されると思っていただけに、その突然の行動制限に俺は不覚にも呆気にとられた。

 だが、何も意地悪でそう言っているのではないということは、彼の表情を見れば火を見るよりも明らかだ。きっと何か、何か理由があるはず。

 

「これはまだあまり浸透してない情報なんだがね……ドンドルマが機能停止寸前に陥っている」

「……え、それって……」

「うむ。どうやら鋼龍の突然の襲撃に見舞われたらしい。町の被害、ギルドの損害が著しくてね。現に活動休止状態だ」

 

 鋼龍、クシャルダオラ。古龍種に属するその古龍は鋼の如き鱗を纏い、嵐の如く山を崩す。風を起こし、纏い、操るという超常的な力を持つまさに天災そのものであり、危険度も戦闘能力も並のモンスターとは比較にならないという。そんな古龍が、ドンドルマを嵐で飲み込んだと?

 確かにドンドルマはその地理的関係上、モンスターの襲撃に遭いやすいという特徴を持つ。故に対古龍の防衛機構は十分に存在していただろうが――それをものともしないとは、本種の戦闘能力の高さを、否が応でも感じてしまう。

 

「……それでね、今はその復興作業を筆頭ハンターたち……そして我らの団に行ってもらってるんだ」

「我らの団? 団長やソフィアとかがか?」

「あぁ、そしてキャラバン専属のハンターも一緒にね」

 

 聞けば、このバルバレギルドに属する筆頭ハンターら四人と、我らの団が協力して現在街の復興に勤しんでいるらしい。件の生態異常の根源であったという謎の古龍、シャガルマガラの討伐を成し遂げた我らの団ハンター。未だ会ったことのないその人物も、今ドンドルマで汗水を流しているのだとか。

 そう語るギルドマスターは、そのような危機的状況にも関わらず、何処か自信に溢れるような、信頼で満たした表情を崩さなかった。彼がそこまで入れ込んでいるらしい我らの団ハンター。どうやら、相応の実力を併せもっているのだろう。

 

「だけどさ、それで俺の出立を許可できないというのはどういうことなんだよ。どうせなら俺も手伝って――」

「いや、これ以上の混乱を避けるため。そして安全管理のためにも、ドンドルマの復興作業は彼らに集中させることになってね……」

 

 それでも抵抗がましく俺が口を挿むと、彼は目を伏せながら首を横に振った。まるで子供を諌めるような表情で、俺が諦めることを願うように。

 量より質。ギルドから信頼されたハンターを少数精鋭で集め、彼らに復興作業を従事させる。それがバルバレギルドと大老殿が決めた方針だという。それ故に、人物の出入りには厳しい制限が設けられているのだと彼は語った。

 

「……ギルドの信頼、ねぇ」

「勘違いしないでおくれ。私はシグ君のことを信頼しているよ。腕のいい、頼れるハンターだって。……けれど、けれどね……」

「分かってる、分かってるよ。……過去の行いは、どう足掻いてもなかったことには出来ないって」

 

 嘲りを含むような声が漏れる。マスターが言葉を繋ぎ終える前に。その言葉を上書きするように。

 大方ギルドのことだ。かつてのハンター活動は目を通しているだろう。そして、俺の今までの活動――それもバルバレに来る前のこともチェック済みという訳か。

 

「まぁ、気にしないでおくれ。昔は昔、今は今だ。酒に流してしまおうじゃないか」

「あ……あぁ。すまない」

 

 そんな優しい声と共に、彼はトクトクとおちょこに酒を注ぎ始める。独特な匂いを放つ黄金芋酒の香りは、少し鼻を突くようで。鼻がむず痒くなったようにも感じた。

 そんな黄金色の表面に映る景色を見ながら、俺は思わず憂いを漏らしてしまう。自らの計画が見事に瓦解したことに対する、乾いた憂い。

 

「……あーあ。折角旅費貯めたのになぁ……」

 

 独り言のつもりだった。ギルドマスターとの会話の起点にするつもりは毛頭なく、そのまま流してもらうつもりだった。

 しかし、そんな俺の思惑からは大きく外れ、その言葉に対してギルドマスターは不思議そうに首を傾げる。そうしてその疑問を言葉に変えた。

 

「旅費? ……まさかシグ君、ドンドルマへの旅費を用意していたのかい?」

「ん、まぁ、そうだけど」

 

 今となってはそれも意味を為さない。そんな意味を込めて嘲るように肯定すると――何故かギルドマスターは、唐突に頭を抱え始めた。人の間違いを憐れむような、そんな頭の抱え方。

 一体どうしたのか。今度は俺が湧き上がる疑問を口にしてみれば、彼の口から驚くべき事実が解き放たれた。

 

「……えっとだね、ハンターの都市移動はギルドが旅費を保証するという制度があってね――――」

 

 

 

 

 

 

 

「――――にゃっ……にゃあッ!!」

「……あっ」

 

 突然の衝撃が、俺とイルルを意識の深淵から引きずり上げる。

 風斬り音と共に響く生物独特の咆哮音。それと同時に、船が大きな唸り声を上げた。

 まるで上から押し付けられたかのような衝撃。それに船は勢いよく海に押し込まれ、船内が嫌な悲鳴を上げる。その揺れに、乗客も触発されたように悲鳴を上げ、アイルーのひく台車は轟音を立てて崩れ落ちた。

 しかし衝撃は、それだけでは収まらない。船が何とか浮き上がったと感じた、その瞬間だった。今度は投げナイフの如く鋭い何かが、船の側面を打ち鳴らす。その飛来したものの幾つかは、見事に窓ガラスを射止め、脆く薄いそれを粉々に斬り砕いた。

 まるで狙い澄ましたかのように風を斬るたった一枚の刃。それは窓を砕いても速度を全く緩めずに、箸に摘ままれ宙に浮いていたこのローストイャンクックを射抜いた。射抜いてしまった。

 

「何にゃ! 何か飛んで来たにゃ!」

 

 突然の出来事にパニックを起こす乗客。その乗客を見て事の重大を察したのか、顔を青く染める乗務員。イルルは身を起こしては、この事態にはっと剣を構えていた。

 しかし、当の俺はといえば茫然自失。目の前で、この右手の箸で。しっかりと摘まんでいた筈のローストイャンクックは、肉片すら残さずに消えていたのだ。掴んでいたはずのものを突然失った箸は、虚しく何度も空を掴み直していた。消えたローストイャンクックを、追い求めるように。

 

「だ、旦那さんしっかりするにゃ! 何かが来たみたいにゃっ」

「……あれは? もしや……鱗、か?」

 

 平静さを失いかけた彼女の声が俺の耳元で奏でられる。ようやく事態を飲み込めてきた俺は、そっと目線を弁当から船内へ逸らした。メインディッシュが失われたという現実から目を逸らすように。

 そんな俺の視界に映り込んできた事態の犯人。それは船内の壁に残っていた。残念ながら、俺のローストイャンクックを奪ったものは窓を通して海の深淵へと消え去ってしまったようだが――その同胞は幾つも船内に残っている。

 窓を貫いたのは、船内の壁に突き刺さっていたのは。それは、黄金色の刃だった。鋭く加工されたようにも見える。深々と壁に喰い込むほどの斬れ味だ。しかし、それは人の手によって生み出されたものではないことは一目瞭然だった。

 何よりも、その形。鱗なのだ。刃の如く鋭く光る鱗なのである。

 

「み、皆様! 落ち着いて聞いてくださいニャ! モンスターの襲撃ですニャ!」

 

 ひっくり返った台車の横で、震える体を押さえながらそう声を張り上げたのは、あの乗務員アイルーだった。それが起爆剤になったかのように、乗客たちが悲鳴を上げる。このまま自分たちは、海の藻屑となってしまう。そう悟ったような、悲痛な叫び。

 この船は元撃龍船ということもあり、峯山龍クラスの衝撃でなければそうそう破壊されることはないだろう。だが、それも結局時間の問題でしかない。誰かが襲い来るモンスターを撃退しなければ、この船はいずれ沈んでしまう。

 

「チッ……仕方ない! 迎撃するぞ!」

「ふにゃっ……りょ、了解にゃあ……っ!」

 

 武器を取り、船を襲うモンスターを確認しようと窓から外を覗く。

 空はいつの間にか苦悶の表情へと変わっており、まるで唸るような声を上げていた。乱気流に見舞われるように。轟く雷鳴を内包するかのように。

 そんな荒れる空と海のコントラストは、踊り飛ぶ一頭の飛竜による独壇場となっていた。俺にとってローストイャンクックがご飯なら、アイツにとってのご飯は俺たちということか。

 

「お、お客様!? も、もしやハンターでしたかニャ!?」

「あぁ、アイツの相手は俺たちに任せな」

 

 甲板に繋がる扉へと続く通路。そこで横転する、先程弁当を買ったあの台車。横で諤々と震えていた乗務員アイルーは、俺たちの姿を確認するや否やその曇り切った表情を一変させた。降って湧いた希望に縋るように、俺の方へと駆け寄ってくる。

 そんな彼の背後で地に伏せる台車は、見事なまでにその中身を散乱させていた。袋詰めされたタンジアチップスは粉末状にまで砕け、ビンに貯められていた筈のボコボコーラは床の木材を薄く染め上げている。

 そして、乗務員アイルーの「在庫も僅か」という言葉が差していたであろう残りのローストイャンクック弁当は、見るも無残な姿になっていた。

 

「……絶対許さんぞ、あのクソ竜が……!」

 

 青い光を放つ海と、白い光に染まる空。空と海を繋ぐように雷鳴が駆け巡る。まるで大銅鑼のように大気を打ち鳴らすそれは、荒れる船を軋ませるほど重圧的だった。

 そんな空を舞う竜は、響く雷名に抵抗するように。鳥のような、甲高く響く声を震わせその身を奮い立たせる。

 

 千刃竜、セルレギオス。

 

 その声の主――大型客船を襲った張本人は。荒れる海に濡れる甲板の上へ舞い降りたのは。金の刃を幾重にも巻いた、鋭い手足を持つ鳥のような姿をした飛竜。

 その正体の名は、俺の大切なローストイャンクックを台無しにしたそいつの名は、それだった。

 

 

 

 

~本日のレシピ~

 

『ローストイャンクック弁当』

 

・ローストイャンクック   ……280g

・ブレスワインのタレ    ……たっぷりと

・怪鳥ダシの炊き込みご飯  ……1/2合

・鰹節込み特産タケノコ   ……10g

・ドスマツタケの切り身   ……8g

・その他各種山菜      ……少量

 






前編、終。


また長くなった。そして長くてもいいかなぁと思い始めた。でもやっぱダメだと思って前編後編に分けました。だってながぁいんだもん!

メタ的な話をすれば、シガレットさんと我らの団ハンターを会わせたくなかった、というのが本音の1つです。やはり我らの団ハンターは読者の皆様の分身。この作品内とはいえ、登場人物という枠組みの中で限定させたくないのです。あと、ドンドルマ復興クエストは旅団クエストでもあるため、どのみちシガレットさんに出る幕はない(キリッ

さて、今回もエピソードクエストの内容を踏襲したものですが、ちょっとオリジナル展開にしちゃいました。とは言ってもレギオスさんは台本通りなんですが。何にせよ、後半ですかね。
それにしても、目の前でローストイャンクックが消えてしまったシガレットの心中や如何に。私だったら発狂するやもしれません。戦闘シーンの全くない話ということで、少し物足りなかったかもしれませんね。メインディッシュをお預けされたシガレットさんの如く、戦闘シーン(メインディッシュ)も次回にお預けということで。
ではでは!


 ……ついでに作者はモンハン小話なら夏の怪談編が一番好きだったりする。うん、どうでもいいね!

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