黒い鳥と英雄   作:天乃天

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大変お待たせしました。
本当に待たせた皆様には申し訳ない!

執筆途中にあることを思いつき、それまで執筆していたものを消して書き直していたらこんなことに。申し訳ありませんでした。
思いついたことというのはアンケートにしましたのでよかったら活動報告の方でアンケートにご協力いただけたら幸いです。ちなみに片方のみの解答でも構いませんので、どうかよろしくお願いします。
前回募集したアンケートの方もまだまだ募集していますのでよかったらお願いします!


第7話 月光

 辺りは瓦礫に包まれ、地面にはいくつものACがころがっている。国は崩壊し、もう機能はしないだろう。それほどまでに破壊しつくされたと言っていい。たった……たった数機の企業の新型ACによっておこされたこの出来事に多くのレイヴンが散っていった。彼我の戦力差は圧倒的。されど雇い主である国からは撤退を許されるわけもなく、次々と仲間たちは殺されていった。光る粒子を纏い、空を自由に飛び回るその機体が綺麗だと他人事のように感じていたが、その機体は自機の前にゆっくりと降りてきた。

 漆黒とも濃紺ともとれる機体カラーのその機体は、頭部の独特な複眼をこちらに向ける。流れるような曲線と所々尖ったパーツで構成されたシャープな機体デザインは美しさもさることながら、圧倒的な機動力を誇る。周囲の仲間たちはその機動力の前に、為す術なく戦場のオブジェクトと成り果てた。

 新型の武装は右腕にブレード、左腕にマシンガンのような火器、そして背中にキャノン系と思われる武装を積んでいる。そして、なにより厄介なのが新型の纏うバリアの様なものだ。そのバリアにこちらの攻撃は阻まれ、一方的に狩りつくされるだけだ。実際そのバリアと機体の機動力、そしてブレードだけでこの戦場を制圧した。

 この場から逃げることは許されず、されど火器の類は新型のバリアによって効果が見込めない。勝機がもし見えるとすれば、左腕に装備しているブレードのみとなる。相手の機動についていくことはできないだろうが、少しでも機動力を上げるためにブレード以外の装備をパージする。

 武装をパージしたこちらを確認したのか、新型はその頭部の複眼を器用に細めながら着地した。しばし静寂が続いたが、新型がブレードを起動したのを合図にお互いに動き出す。

 

 もちろん機動力では敵わないのは承知の上だ。だからこそ相手が機動力を生かせないようなところへと移動する。崩壊した建物が多くある場所へと。

崩壊した建物が邪魔で高速戦闘は難しいと踏んだのだが、新型にはあまり関係ないらしい。新型というより、中のレイヴンの腕がいいだけかもしれないが。

 この狭い空間であろうとも瞬時にロック外へと消えるほどの機動力から放たれるブレードを、瞬発力と直感だけでなんとか防ぐ。新型は他のACを屠った時と同じくブレードしか使っていない。なんとか反撃の糸口を探してはいるのだが、こうまで性能が違うとブレードだけとはいえ防ぐだけで精一杯だ。もちろん防ぎきれない攻撃もあり、すでに右腕部は切り落とされている。

 

≪ここまでだな≫

 

 新型のブレードが左腕部を肩の付け根から切り落とした瞬間、そんな一言が聞こえた。そしてそのまま新型はブレードを横に一閃。モニターに映る新型がだんだんと遠ざかり見上げるような形になっていくことと、衝撃とともに映ったものを見て機体が上半身と下半身に分かれたことを知った。

 地面にぶつかった際のものと思われる衝撃で計器などに身体をぶつけながら再びモニターに目を向けると、新型がマシンガンのような火器の銃口をこちらに向けていた。

 

 

 

 

 

 デモンストレーションを終え、機体をハンガーに固定して一息つくとふと浮かんだ記憶。機体の性能差があったとはいえ苦い敗北の記憶。

正直あの時は死んだと思った。重症を負ったとはいえ生き残ったことは信じられなかった。その後、救ってくれた彼女に恩を返す為に俺は新型ACネクストに乗り戦った。そこであの時対峙し敗れたネクストに再び挑む機会が訪れる。お互いブレードで切りあい結果は紙一重で俺の勝利だった。

 

≪誇ってくれ。それが手向けだ≫

 

 それが彼女の最後の言葉だった。それと共に腕に装備していたブレードをパージし、こちらに投げた。以後、その武器は俺のネクストの武器となった。

 

 このデモンストレーションで勝つことができた際に香月博士が提示した生産ラインの確保の話を思い出し、生産する武器のリストに追加するのも検討しようと考えながらコックピットから降りる。

 慣れているとはいえずっと同じ姿勢だったため、背筋を反らし身体を伸ばすとポキポキと身体から音が鳴った。

 

≪お疲れ様ですレイヴン≫

「最終戦助かったよ」

≪あれくらいお安い御用です≫

 

 アイリスとそんな軽口を交わしながら歩いていると、整備のおやっさんが近寄ってきた。このおやっさんは、流石に俺一人では人手が足りないACの整備の為に香月博士に頼んで手配してもらった整備士だ。本名は石橋 一喜(いしばしかずき)さん、56歳。1人しか配備してもらえなかったが、長年整備士をされていただけあってすごく手際がいい。ACの整備についても1つ教えると10を知るみたいな感じに吸収していって、今や簡単なメンテナンスなら俺がいなくても任せることができるくらいの知識がある。自らをおいちゃんやおじさんと呼ぶこともあって、周りからはおやっさんと呼ばれて親しまれている。それに便乗して俺もおやっさんと呼ばせてもらっている。というか昨日出会ったばかりだがすごく親しみやすい人だ。

 

「おい烏丸やったな!」

 

 そう言うやいなやガシッと肩を組んできて、頭をガシガシと強く撫でられた。

 

「これでおめぇさんの開発した機体も廃棄されずにすんだな!」

「そうだけど、おやっさん痛いよ」

「細けぇこたぁ気にするな!」

「いや、痛いからやめてほしんだよ」

 

 しょうがねぇなといいながらおやっさんは撫でるのをやめて離れてくれた。

 その後、軽くおやっさんに今回のデモンストレーションのデータを見せてもらい、ハンガーを後にする。

 更衣室で耐Gスーツから国連軍の制服に着替えて、武器生産についてと今回の報告を兼ねて香月博士のもとに向かう。

 

「失礼します」

 

 ドアを開けて博士の部屋に入ると、部屋の中は真っ暗だった。どうやらここにはいないみたいだ。お腹もすいたのでPXで食事をしてからもう一度で直そうと思い、来た道を引き返す。途中何か視線を感じたような気がするが気のせいだろう。

 PXでおばちゃんにいつもの合成豚角煮丼を出してもらい、食器返却口近くの端の席を陣取る。

 

「隣、よろしいか?」

 

 やっぱりおばちゃんの合成豚角煮丼はうめぇなと思いながら食事していると後ろから声をかけられた。特に断る理由もないので承諾すると、失礼すると一言言って隣の席に腰を下ろした。エメラルドのような色をした長い髪で、赤い軍服を着ている綺麗な女性だ。制服の形が国連とは違うので、今回のデモンストレーションでここ横浜基地まで来た方なのだなと思いながら食事を再開する。

 特に会話をすることもなく食事を終えた俺は食器を返却し、おばちゃんにごちそうさまと言ってPXを後にする。

 




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まさかこんなに時間をかけてしまうなんて思ってなかったよ・・・

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