黒い鳥と英雄   作:天乃天

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お久しぶりです。

まだ途中なんですがキリが良いとこまで書けているので短いですが投稿しようかなと思った次第です。




第14話 気付き

 おやっさんや久野さんとACのメンテナンスをやり終えた俺は自室へと向かう道中、不知火・弐型の格納庫にふらっと立ち寄った。特に何かあったわけではないが、ふと足が向かってしまったのだ。

 格納庫入口までやってくると話声が聞こえてきたので足を止め、話の邪魔にならないよう入口の影に身を隠す。べ、別にユウヤの声が聞こえたから隠れたってわけじゃない。

 

「なぁヴィンセント、オレに足りないものは……なんだと思う? 教えてくれ。不知火・弐型(こいつ)を……使いこなすために、オレに足りていないものは何だ?」

「機体のせいじゃないし、だからといっておまえの腕が悪いとも思わない。おまえは米軍機を操らせたら、間違いなくトップクラスの腕前だ。そいつはオレが保証してやる。だがそれだけに、身体に染みついた米軍式のやり方はなかなか消えないし、どうしてもそのやり方で不知火・弐型(こいつ)を操ろうとしちまう。限界域での反射的な動作であればある程な」

 

 どうやらヴィンセントがユウヤに日本機の扱い方をレクチャーしてくれるみたいだ。これでユウヤが日本機について理解してくれれば彼女とのトラブルも減って、今後のXFJ計画も順調に進みそうだ。

 

「おまえはやっぱり、機体を強引に制御したがる傾向がある。それは機体を整備していればわかる事なんだ。例えばどの部品が早く消耗するか、どこにダメージが蓄積しているか、とかでな。それっておまえの性格が影響している部分もあるけど、米国製の戦術機を米軍の戦略に則って使う、米軍衛士の部品消費傾向ってやつにピッタリ合致しているんだ」

 

 ブースターで強引に機体を制御する米軍式はACに通ずるものがある。そういう点ではユウヤはACに乗せたら化けるかもしれない。

 

「でもな、不思議な事に、同じF-15(イーグル)を使っていても日本軍の傾向は結構違うんだよ。つまり戦術機って奴は、その国の戦略や戦術に合ったものが作られる訳だから、おまえのやり方で日本機を調整すると、その国では使いづらい機体になる。さっき唯依ちゃんがおまえに言いたかったのはそういう事さ。でしょ? 少佐殿?」

 

 そう言いながらこちらに視線を向けるヴィンセント。それにつられてユウヤもこちらに視線を向ける。気づいていたのか、なかなか鋭いやつだ。観念したとばかりに両手を上げながら2人に近づく。2人は軽く敬礼してこちらを迎える。

 

「話の邪魔をしないようにと思っていたのだが、気づいていたのか」

「偶然見えちまいましてね。そうだ、少佐直々に日本機についてこいつに教えてやってくれませんか?」

「おいヴィンセント!」

「んだよ、あの少佐直々なんてそうそうあるもんじゃないぜ?」

 

 日本機を知るには日本の人物、しかもその人物は新しい概念の機体や現行機の改修を任されるほどの人物だということ。さらにはその人物は自身も認める程の操縦技術を持つ。そんな人物から直々に教えてもらう機会など滅多にあるものではない。しかし、自身の日本に対する憎悪が素直に教えを乞うことを邪魔している。

 

「ブリッジス少尉……いや、腹割って話すときに堅苦しいのはなんだな。ユウヤ、おまえがオレを嫌っているのは分かっているつもりだ。たとえ嫌っているのだとしてもその相手を利用しろ。個人的な感情でチャンスを見逃す方が愚かだろ?」

「いや、俺はアンタを……」

「オレでよければいつでも助けになってやる。だから存分にオレを利用しろ」

「アンタは……いや少佐、教えてくれ」

 

 なにか吹っ切れたかのようなスッキリした顔のユウヤはまっすぐにこちらを見つめる。日本云々を完全に克服は出来ていないのだろうが、オレを頼ることに躊躇いはなくなったのだろう。

 

「いいだろう、じゃあヴィンセントの話の続きだ。日本機には頭部モジュールに大型のセンサーマストがある。これは複合センサーのカバーなんだが、それ以外に空力的に重要な役割を持っている。米軍機では空中機動制御の殆どを腰部の推力偏向機能に頼っているな? 日本機では空中機動中に頭部モジュールの向きを意図的に変えることで、より重くて大きな跳躍(ジャンプ)ユニットを動かすよりもはるかに小さい電力消費で姿勢制御ができるんだ」

「なっ……!?」

 

 ユウヤが驚愕に染まった顔でいる隣でヴィンセントはうんうんとうなずいていた。少しするとユウヤはハッと何かに気づいたようでブツブツと呟きだした。

 

「そうか……あの不可解だった機動制御のずれは……」

「頭部モジュールのセンサーマストだけではなく、前腕部にあるナイフシースも役割的には同じだ。最前線の国の機体はどれも同じような作りが多い。Su-37UB(チェルミナートル)がいい例だな。いや、F-15E(ストライク・イーグル)F-15・ACTV(アクティヴ・イーグル)を比べた方がわかりやすいか」

「今まではおまえが聞く耳を持たなかったが、オレはずっと言っていたんだぜ? ここまで詳しくはなかったけどな。つまり、物事は本人がその気にならなきゃ、いくらまわりが一生懸命教えてもダメだってことさ」

「う……そうだな」

 

ここぞとばかりにヴィンセントがユウヤにたたみかけ、ユウヤが少し怯む。

 

「この話を聞いてすぐにでも不知火・弐型(こいつ)に乗りたいだろうが、今日おまえさんは無茶をして身体にダメージを負ってしまっている」

「う……」

「計画補佐としては明日のテストに響くと困るんでね、早く身体を休めてもらいたいところだな」

「……わかった。少佐、いろいろと悪かった……」

「気にするな」

 

 そう言って格納庫を後にする。2人と別れるとやっとしゃべれるとばかりにアイリスが口を開く。

 

≪レイヴン、おふたりと別れるなり笑みを浮かべてどうしたのですか?≫

「いやなに、操縦に慣れるにはやはり実戦に勝るものはないと思ってな」

 

 自然と笑みを浮かべていたことに指摘されてから気づく。

 さて、明日のテスト内容はどうだったかなと思案しながら自室へと戻るのだっ―――

 

≪なにやらお楽しみ中のようですが、レイヴンの明日の予定はおふたりとは別件でテストとなっております。ですのでおふたりとは別行動となりますよ?≫

「あれ、そうだっけか?」

≪はい。スケジュール管理もお任せください。アイリスです≫

 

 出鼻をくじかれすごすごと自室に撤退する。得意げなアイリスになぜ自己紹介したのかと突っ込む気力はなかった。

 


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