いろいろ書き直しては推敲して書き直しては推敲してを繰り返していたらこんなにかかって今いました。
細かいことは後書きで書きますが、必要に駆られて書いた。不安はあれど仕方なかったんです!
新アンケートが活動報告にありますのでご協力お願いします。
【追記】2017/3/10
活動報告にも記載しましたが、私の唯一無二の相棒であるPCが全てのデータを抱えたままお亡くなりになりました。
今後しばらくはスマホからの投稿となります。また、プロットや作成中文章なども一緒に消えた為、作業ペースに遅れが生じています。申し訳ありませんが、ご理解頂きますようお願い致します。
なるべく早く投稿出来るように最善を尽くします。
――2001年6月7日
モニターにはユウヤが操る不知火が行っている訓練が映し出されている。統合仮想情報演習システムにて行われている訓練はハイヴ内の高速侵攻を想定したもの。先日練習機である吹雪から不知火へと乗り換えたユウヤは機体に振り回されていた。主機の出力の違いや未だに掴めていない機体特性が原因で、それが解決すればすぐに手足のように操ることができるだろうと思っている。実際操縦スキルは高い。今もハイヴの内壁に接触して崩したバランスを瞬時に立て直すというリカバリー能力を見せている。しかし機体に振り回されているためにタイムは思うように伸びない。アメリカから来たテストパイロットとしての意地か必死に理想値に近づこうと、遅れを取り戻そうとしているようだ。
俺はそんなユウヤを見ながら、約1ヶ月前に出会って以来会っていない不思議な少女のことを思い出していた。
合同演習が終了し、データを受け取るためにテオドラキス伍長の元へと向かう。すると伍長やその他のスタッフからも盛大に歓迎されて戸惑った。興奮さめやらぬ皆と別れてデータを片手に基地の外を歩き夜風にあたりながら自室へと向かっていた。
「さすがにパージはやりすぎだったか?」
≪いえ、ちゃんとパージできるかは確認しなければならない項目ですので問題はありません。実戦でパージできなければデッドウェイト以外の何物でもありませんから≫
「まぁ、それもそうか」
アイリスと会話しながら歩いていると、髪の長い少女を見かけた。月明かりに照らされて輝く綺麗な銀髪が特徴的で、タリサよりも小さい背の少女はこちらに気づいてこちらへと顔を向ける。
「こんなところでどうした?」
優しく語りかけながら近づくと、彼女の服装が国連軍衛士のような格好だと気付いた。幼さが感じられる顔をじっとこちらに向けて一言も発しない少女の前まで来て目線を合わせるようにしゃがむ。背の高い男が見下ろすだなんて子供には恐怖にしかならないだろうという配慮だった。
「大丈夫か? もしかして寒いか?」
「……あなたはへいき?」
「俺か? 俺は平気だ、ありがとうな」
夜風は何かと冷える。そのことを心配して声をかけると逆に聞かれたので笑顔で答えてやる。
「夜は冷えるから、これ以上遅くなる前に帰りな」
「……うん。またね、きょうしろう」
そう言って小走りで去っていく少女を見送りながら立ち上がる。
≪……レイヴン、名乗っていませんでしたよね?≫
「ああ。それになんだか社に似ているような気がするんだ。……不思議な子だな」
もう姿が見えなくなっているが、彼女が去った方角をしばらく見ていた。
「チェックポイント3――プラス4.52」
≪――ふざけるなっ!!≫
事実としてタイムの遅れを告げるステラの声と悪態をつくユウヤの声に思考の海から現実に帰還する。
ユウヤはままならいことにイラついて悪態をつき、そして搭乗員保護設定を最低レベルに下げた。そこまでして理想値にこだわるのかとも思うが、それが彼のプライドなのだろう。だが搭乗員保護設定とはその名の通り、搭乗員を保護するための設定だ。それが最低レベルということは、十分な保護を受けることができなくなり危険だ。まあ、それ以前にユウヤの乗り方は日本に合っていない。俺も当初は似たような乗り方をしていて、アイリスに初めて教えてもらった時は驚いたものだ。ユウヤがそこを理解できるようにならない限りは進展しないだろうなと思っている。
この1ヶ月間によくユウヤと衝突していた篁中尉の方をちらっと見ると難しい顔をしていた。やはり思うところは同じだということだろう。
テストが終わると無言のまま出ていく篁中尉の後を追う。なんとなく嫌な気がしたのと、無理をしたユウヤが心配なのもある。
整備パレットの落下防止用フェンスに力なくもたれて、ヴィンセントから貰ったミネラルウォーターを呷ってむせた。負荷をかけ過ぎた内臓が起こした拒否反応だ。口内へと戻ってきた水をなんとか飲み下すと、鳩尾を掴みあげられたかのような痛みを感じて顔をしかめる。
「ブリッジス少尉」
忌々しい声を聞いて反射的に舌打ちをする。視線を向けるといつものごとく篁中尉が来ていた。今日は珍しく烏丸少佐も一緒だ。デブリーフィングまで待てないのかという思いを胸に抱きつつ、億劫そうに立ち上がって日本人共にラフな敬礼をした。
「何か言いたいことはあるか?」
「……ありませんよ、中尉」
「わかっていると思うが、少尉――」
「重々わかってますって」
こちらの冷たい態度などどこ吹く風と言葉を紡ぐ中尉にイラつく気持ちを抑え、あんたにだけは言われたくないと言葉をかぶせる。そしてテストパイロットとして、任務に誠実であろうと事実を報告する。
「オレはまだこの機体を完全には制御できていない。
「……そのようだな」
中尉はそう軽く答え、傍らに聳える機体を見上げる。それにつられてオレも見上げると頸筋がミシリと鳴った。
不知火・弐型。それがこの機体の開発呼称だ。機体の各部に新設計の米国製パーツを組み込んだ『新造試作機』といっても過言ではない機体だ。日本の高性能でありながら、操縦制御に難があるという不知火・壱型丙をベースに米国が手を貸してやりいっぱしの機体に仕上げるというものだ。
「スケジュールを繰り上げての実戦機動試験……貴様の提案だったな。慣熟シーケンスに戻してもいいが?」
「まだ実乗18時間、シミュレータを入れても32時間だ。やって見せますよ。基本設計はタイプ97と同じ、所詮は直系機だ」
「…………」
タイプ97の慣熟訓練は不知火・弐型への換装作業が完了するまでの間に行われたものだ。日本機の機動特性を我がものとするために必死に挑んだ甲斐もあり、実乗22時間超える辺りから他の機体と変わらないくらいに扱えるようになった。今回も同じく扱って見せてやる。そしてこの『サムライ』気取りの女に、現実ってやつを思い知らせるのだ。ただただ後ろに控える少佐にも認めてもらわなければならない。悔しいが少佐の腕は本物だ。忌々しい日本人ということに目をつむることさえできれば素直に尊敬できる。
「確かにその通りだが……。不知火とはいえ、弐型は……いや、そのベースとなった壱型丙は、かなり特殊な機体だ。その操縦には繊細さと大胆さの両方が要求される。それも高度なレベルでだ。だがそれ以上に重要なのは、機体を信頼することだ。人馬一体という言葉があるが、帝国軍の衛士は誰もが自然にそれを実践している。貴様もそうあって欲しいものだが……」
機体を見上げる中尉の横顔にふと穏やかな色が灯る。その表情、そしてここにはいない別の誰かに語り掛けるような口調が父を語る母に重なった。それがオレを苛立たせた。
礼節をわきまえ、思いやりの心を忘れない、謙虚で禁欲的な武人。それが子守歌代わりに母が語り聞かせてくれた父の姿だ。物心ついた時から父の姿はなく、母から聞くことが父のすべてだった。毎晩のように祖父が泣きながら母に怒鳴り、父を罵倒する。外ではいじめを受ける。なぜ自分だけがと思わずにはいられなかった。
そんな時、いつものように怒鳴る祖父の口から偶然父不在の真相を聞いた。それは母になにも告げずに、ある日突然日本に帰国してしまったというものだった。それまで信じていたものは、多くの人々を救うために遠い国へ働きに行っているという母から聞かされたもので、真相を問いただしても母は否定も肯定もしなかった。立派な人物のはずの父がなぜ自分たちを守ってくれないのか。長年鬱積した日々の不満から母の語る父の人物像に疑問を感じていたオレは理解した。祖父の言っていることは正しいのだと。
そこからオレは父と自分に流れる日本人の血を憎んだ。オレに日本人の血さえ流れていなければ母もオレもこれほど苦しめられることなどなかったに違いない。
祖父と祖母が亡くなってからはオレが母を守ると決意した。しかし、祖父のようになるまいとすればするほど母の頑なさに苛立ち、気が付くと父を、そして母の過去を罵っていた。口論極まって思わず流した涙に、泣きながら怒鳴る祖父の姿が我が身と重なり、この元凶である父をさらに激しく憎悪した。
やがて母が床に臥せるようになった。祖父祖母に資金的援助を求めづらく、女手一つでオレを育ててくれた弊害だった。このままでは母も自分も保たないと思い、軍へと志願した。自らが尊敬される米国国民になることで、母の誇りとなることで、父と日本人の血という呪縛から母と自分を解き放つつもりだった。母は反対せずに黙って見送ってくれた。それから死にもの狂いの努力の末、エリートの称号であるテストパイロットの座を勝ち取ったが、母は父への思いを抱いたままこの世を去った。
結局、母を救うことはできなかった。その事実が重くのしかかり、その罪悪感から逃げるように戦術機操縦技能を執拗に磨き上げた。そしてそれは自らを支えるアイデンティティとなったのである。
「……で? なんだっていうんですか?」
「やはり貴様には荷が重いのではないか?」
こちらに向き直った中尉の表情はいつものように日本人形のようだった。そして発せられた言葉に瞬間的に怒りがこみ上げる。しかしそれをなんとか抑え込む。
「数値的な結果が理想値を下回っていることは認める。だがそれは、さっきあんたが言ったように、このジャジャ馬の機体特性、特に未調整な部分が大きく影響している。その部分に関しちゃ、最初に不知火・弐型に乗った時から繰り返し改善を要求しているものがほとんどだが、未だにどこも直っちゃいない。それもひっくるめて、オレは帳尻を合わせているはずだ。戦術機開発という荷が重いのはそっちの方じゃないんですかね、中尉」
直す気なんて全くないだろうというのはこれまででしっかりとわかったことだが言わずにはいられない。未だに中尉の後ろに控える少佐は無言のままだ。ことの成り行きを見守っているようようだ。補佐という立場から口は挟まないつもりなのかもしれない。しかし、少佐ならばオレの意見は理解できるのではないかとも思うのだがどうなのだろう。
「確か前に言ってたな。テストパイロットなんて『職業』、最前線にはないって」
「その通りだ」
合同演習が終了して中尉がオレの元に来たときに言われた言葉を思い出す。歓迎という名の『CASE:47』の演習のことを馴れ合いと言った時のことだ。
「自身と相手の能力を全て知り、なおかつ相手の行動まで事前に知り得ている状況……。逆に問うが、これのどこが馴れ合いでないというのか! BETAには人間の予測など全く通用しないんだ! そして死などものともしない強靭な生命体が無限とも思える物量で押し寄せてくるんだぞッ? 人間同士で戦うための訓練が何の役に立つ!? 最前線にはテストパイロット等という『職業』はないんだ! 機体のせいだと? 我々の先達はもっと性能の劣る機体で、必死にBETAの侵攻を食い止めて来たんだぞ!? だからこそ我々は今こうして、暢気に演習ごっこに興じていられるんだ!」
演習をごっこ呼ばわりし、テストパイロットの話を聞かない奴の手で開発された機体なんてのは、衛士の命を無駄に消費するただの金のかかる棺桶になる。
「じゃあ中尉、ひとつ質問がある」
「許可する」
「テストパイロットの意見を聞かない以上、あんたは覚悟できているんだろうな?」
「覚悟……?」
一瞬、わからないほど微妙に目を細めた中尉に、貴様にだけはその言葉を使われたくないと言われた気がした。奥にいる少佐は何を考えているのかわからない顔をしているが、特に止める気もなさそうに思う。だから思うことそのすべてを今ぶちまける。
「あんた達日本人が、人の命をどう思っているか知らないが、こんな機体で衛士を最前線に送るだなんて正気の沙汰じゃない。完成した機体に乗るだけの中尉にはわからないだろうが、設計図通りに組み立てた戦術機なんて、高価で奇抜な棺桶程度の代物なんだ。戦術機を戦術機として完成させるのはオレ達テストパイロットだ。この機体を完成させるのは、設計屋でも軍のお偉い方でも、まして計画主任のあんたでも補佐の少佐でもない。たとえそうなるのがあんた達日本人だったとしても、オレがテストした戦術機のせいで多くの衛士が無駄死にする事だけは、テストパイロットとして我慢ならならないんだよ……!」
少佐、あんたならわかるだろ。と目線を送るとなんとも困ったような表情をしていた。わかってくれると思っていただけにその表情はオレを苛立たせた。そして、いくら尊敬できる腕をしているとはいえ日本人に期待をしていた自分に気づき、その事実にさらに苛立つ。
そうだ、もっと言ってやれ――オレを援護するタリサの声すら苛立ちを覚えていると無表情のままで中尉が言葉を発した。
「言いたいことはそれだけか?」
いつものように熱くなり反論するのではなく、冷静なその一言にオレの苛立ちはさらに加速した。こっちはこんなにも思いの丈をぶつけたというのに、たった一言で済ました中尉を殴りたい衝動を必死に抑える。
お前の国の機体を作っているんだぞっ! いくら日本人だからと言ってBETAと戦う衛士がオレのテストした機体のせいで無駄死にだなんて到底許せるものではない。問題点はちゃんと挙げているのにも関わらず、修正する素振りすら見せないのは一体どういう了見なのか。
いくつもの思いが浮かび上がる。握りしめる拳に力が入り、わなわなと震えているのが自覚できた。
「搭乗員保護レベルを下げてまで、理想値の達成に拘ったようだが……」
「それがどうした」
確かに搭乗員保護レベルの変更は今回のテスト項目になかった。だが、今まで挙げた問題点を修正してこなかった分もひっくるめて帳尻を合わせただけに過ぎない。苛立ちを隠さずにした返事にも何の反応もせずに中尉は相変わらず無表情のまま続ける。
「もう無理はしなくていい」
「――!?」
「とにかく、今日はゆっくり休め。明日以降のスケジュールは内容も含め再検討、貴様は別命あるまで待機任務とする。以上だ」
思わず口をついて出そうになった不満や悪態をなんとか飲みこみ、中尉を睨む。しばらくこちらを見ていた中尉は踵を返し、この場を去ろうとする。それを慌てて呼び止める。
「待ってくれ中尉。今のはどういう意味だ?」
「どうもこうもない。我が国の衛士の心配をする前にまず、貴様自身の身体の心配をしろ」
数歩歩いたところで呼び止められた中尉は半身振り返り、そう口にした。
「そんなことを聞いてるんじゃない。ごまかすな」
「ごまかしてなどいるものか。貴様が言ったように、搭乗しているだけで衛士の生命が脅かされるような機体を作るわけにはいかない、ということだ」
今までこちらが指摘した問題点を改善しなかったくせに、今更どの口が言うのか。そして未だにはっきりと答えない中尉。少佐に目を向けても状況を静観しているようで口を挟まず、あくまで補佐という立場を貫いている。
「へえ、やけにあっさりしたもんだな。ここにきてやっと自分たちの間違いに気づいて、開発コンセプトを転換するってわけか?」
あくまでしらを切る中尉に挑発をかける。
「XFJ計画機の要求仕様は、我が国が置かれた状況から導き出されたものだ。変更は一切無い」
「いちいち回りくどいな。あんたらしくないぜ中尉、もっとストレートに言ったらどうだ?」
ゆっくりとこちらに向き直った中尉は表情に怒りを滲ませながら言い放った。
「でははっきり言おう。『XFJ計画』は、貴様個人のプライドを充足させるためにやっているのではない」
「なに……?」
「これまで我慢してきたが、貴様の思考、言動は、一国の命運が懸かった戦術機開発計画を私物化するに等しい」
「私物化、だと……?」
「今更だが、貴様には失望した」
それだけ言い残して中尉は再びこちらに背を向け歩き始めた。
「オイちょっと待て……っ!?」
追いかけようとしてよろけたオレはそばにいたヴィンセントに支えられる。先ほどの呼び止めなぞ無視して中尉は遠ざかっていく。
「オレを降ろすなら勝手にしろ! だが、何が私物化だって言うんだ! いい加減にしろ!! あんた達の我が儘放題に合わせて結果を出したオレが計画を私物化しているだと!? ふざけるなッ!」
遠ざかっていく中尉に怒号を浴びせるも気にした様子など見られない。少佐はしばらく困った顔でこちらを見ていたが、一言も言わずに中尉の後を追って去っていった。
「ふざけるな……ふざけるなよッ!!」
今までの分の怒りも爆発したオレの怒号は格納庫に空しく響いた。
調べたらロックは1発ではなく警告が来るそうです。
これでダメな様なら素直に書き直します。なるべく自分の言葉で書いてはいるんですけどね……。
ただいろいろ説明しておきたかったのと、この衝突は必要不可欠だったので書きました。烏丸は補佐だし、この二人の衝突が必要だったので蚊帳の外状態でしたが仕方なかったんです。
もし一発ロックかかってしまったらごめんなさい……。
今後とも拙作をよろしくお願いします。