黒い鳥と英雄   作:天乃天

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遅くなって申し訳ありません。
ちょっとリアルが忙しかったのと、いろいろ考えていたらこんなにかかってしましました。

とにもかくにも第9話をどぞ。


第9話 始動

――2001年3月某日

 乱雑に散らばった本がある部屋の中で、顔に傷がある精悍な顔つきの男性が立っていた。白衣を着た女性は、椅子に座りながら目の前にいる男性の話を聞いて楽しそうに眼を細めながら言葉を発した。

 

「へえ、おもしろそうね。いいわ、こちらの条件が呑めるというのなら――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2001年5月2日

 正直、気まずい。急に香月博士からアラスカへ行けなんて言われたのは驚きだが、まぁそれはいい。問題は同伴者がいることだ。そんなこと一言も言っていなかったぞ。挨拶もそこそこに無言。何度か会話を試みるも続かない。こんなに会話って難しかったっけと疑いたくなるレベルだ。

 そもそもなぜ俺はアラスカに行くことになったのかというと、先日のデモンストレーションで見せた新概念実証機開発の腕を見込まれ日本からの要請があり、【XFJ計画】の補佐をすることになったこと。ついでにアラスカで新概念実証機のテストを行うこと。そして、先日要求したAC武器の稼働テストを行うことだ。ACは重いので、後日武器とともにアラスカへ輸送されることになっている。

 急な異動でおばちゃんに挨拶もできなかったし、おばちゃんの合成豚角煮丼を食べおさめることもできなかったのが悔やまれる。おやっさんは俺の異動に伴い、ACの整備担当ということでついてくる。なお、ACと共に後から来るらしいので今はいない。

 と、現実逃避したところでこの無言の空間は変わらない。同行者は帝国斯衛軍から国連に転属した女性であり、今回の計画の開発主任を任されている人物だ。背中まである艶やかな黒髪が日本人ならではの美しさを醸し出している。名を篁 唯依という。凛とした雰囲気の真面目そうな娘だ。もしかしたら俺が上官だからなのかもしれないと思いつつ、この空気に耐えれず寝ることにした。

 

 激しい揺れで目が覚める。どうやらちょうど着陸したみたいだ。固まった身体をほぐしながら輸送機から降りる。迎えの兵士に連れられて各々の部屋へと案内され、そこで篁中尉と別れた。

 

「はぁ、どうしたものかね」

≪どうしたもの、とは?≫

「いや、篁中尉のことだよ。初日からあれでは俺に補佐なんか務まるんかねぇ……」

≪いきなり弱音とは、ずいぶんと弱気ですねレイヴン≫

「対人関係はあんまり得意な方じゃない。いきなり気まずければ弱気にもなる」

≪そういうものですか?≫

「そういうもんだ」

 

 そうですか、とアイリスは呟き会話は終了した。

 とりあえず自室のデスクの上に纏められている今回の資料に目を通す。事前に目を通したものであるが、こちらの基地の方がわざわざまとめてくれたものだ。ざっと目を通す。そして、事前に目を通したものではない資料を見つけて首をかしげる。こんなものは知らない。

 

「不知火改修計画?」

 

 表題にはそう書かれていてはじめはXFJ計画の事だと思っていたが、目を通してみるとどうやら俺が不知火を改修する計画らしい。今回はXFJ計画の補佐に、ACのテストでアラスカに来たのではなかろうか。こんな計画は聞いていない。

 

「アイリスはこの計画を知っているか?」

≪不知火改修計画ですか? それは香月博士立案の計画ですね≫

「……なんでまた?」

≪以前、香月博士からAC世界における技術で不知火の改修は可能かと聞かれましたので、可能か不可能かであるならば可能であると答えました。たぶんそれかと≫

「いつの間にそんなことしていたんだ?」

≪時々、博士のPCをハッキングしてメールのやり取りをしていますので≫

「……ハッキングしたら怒られるだろうに」

≪最初は怒られましたが、今では何度プロテクトを強固にしても侵入する私に諦められたそうです。まぁ、AC世界に比べてこちらの世界のプロテクトなど私にかかれば赤子の手をひねるより簡単です≫

 

 アイリスにしては流暢にしゃべるその声はどこか誇らしげで、きっと実態があれば今頃は胸をはっているに違いないのだろう。しかし今から開発では間に合わないだろうという俺の疑問にアイリスは、事前に私から改修案を提出していますと返事をした。そしておもむろに自身が搭載された小型端末の液晶にある設計図を表示した。

 

「この設計図は……」

 

 全体的に丸みを帯びたボディ。戦術機としては歪な形をした特徴的な脚部。その脚部は普通の脚部とは逆に曲がっているように見える。所謂、逆関節というものだった。

 

≪優れたジャンプ力に旋回能力、またエネルギー効率の観点から逆関節の2脚を選択しました。弱点である積載量と耐久力を補うため、重量よりの中量を新設計しました。またこの機体にはTE装甲のデータを基にした対レーザーコーティングを施しています。空気抵抗や航空力学の観点から機体は丸みを帯びるデザインを採用し、なるべくシャープになるよう心掛けて設計しました≫

 

 アイリス曰く、この機体は俺たちよりも前に到着しており、すでに組み立てられているとのこと。AC到着まではそれのテストをするらしい。ACは完成された兵器であり、テストするのはほぼ武器だけだ。俺がアラスカに来たのはACよりもむしろこの逆関節の不知火のテストがメインなんじゃなかろうか……?

 どこかで帝国に貸しが1つ出来て、そしてなにより面白そうじゃない。と笑う香月博士の姿を頭に浮かべながら資料とにらめっこすることになった。

 

 

 

――2001年5月3日

 昨日は資料とにらめっこしていたせいで寝不足だ。それが原因で昨日何か起きたらしいがそれを知る気力はなかった。大きなあくびをしながら作戦司令室に入る。本日はXFJ計画のテストパイロットがアメリカから着任し、XFJ計画を担当するアルゴス試験小隊と合流した。それに伴い、歓迎と称してケース47という演習をすることになった。戦域想定は光線級が存在するBETA支配地域から170km離れた市街地で、エレメント対エレメントの対人演習だ。

 光線級の単純射程距離は200~300km。重光線級に至っては単純射程距離1000km以上にも及ぶ。従ってこの演習では高度の制限がされている。要するにレーザーが当たる高度にはあがんなよってことだ。機体はアメリカが開発した第二世代の傑作機のF-15Eが3機、アルゴス試験小隊が以前テストしていてそのまま続投となった改修機のF-15ACTVが1機。

 すでに状況は開始していて、アクティヴが執拗に1機のイーグルを追い回す。背部担架を犠牲にして、そのスペースに追加ブースターを取り付けただけあってその機動力は流石だ。それを扱う衛士の技量も流石とほめるべきか。だが、煙幕で見えなくなったからと突撃して運よくイーグルとぶつかってマウントを取ることができたのだが、そこを狙撃されてしまい敗北してしまったようだ。2対2の模擬戦なので仕方ないことだ。この一連の出来事にアクティヴの衛士は納得できずご立腹のようだ。通信越しに喚く声がこちらにまで聞こえてくる。

 状況終了後、俺は逆関節不知火の様子を見るため作戦司令部にいるXFJ計画メンバーと別れて専用格納庫へと向かった。俺は補佐で、しかも本命の計画がある為誰に何を言われるまでもなく抜け出せた。まぁ、本日のXFJ計画側のスケジュールはこのあと特にないらしいからかもしれない。俺の顔合わせは明日やることになったので、今日は気兼ねなく逆関節不知火に専念できる。

 

 しばらく歩いて逆関節不知火が格納されている格納庫へと到着した。そこにはこの格納庫の主たる堂々とした姿で、およそ戦術機とは思えない形をした脚でしかと立つ不知火がいた。ベースが不知火と分かっているから不知火と言っているだけで、その姿はもはや全くの別物だ。面影はもはや残っていない。見てくれはサイズが大きくなったACという感想が多分一番しっくりくる。

 

≪いかがですか? カタログスペックだけならば不知火を凌駕していると自負しています≫

「こいつはもはや不知火じゃないだろう。となると、新しい名前が必要かな。……カグツチなんてのはどうだ?」

≪なるほど、不知火と同じく火に関する名前ですか。改修機として上位の名前になることはいいと思います。火の神様まで昇華するとは思いませんでしたが≫

 

 頭部はACパーツのHE-119に酷似した形状をしており、腕は武器腕のヴェンデッタをTE装甲に変えたような丸みを帯びた形をしている。もはや不知火を改修するという名目で疑似ACを作ったと思われるほどに不知火の原型がない。むしろこれをちゃんと不知火をベースにして作ったのか疑いたいほどだ。デモンストレーションからおよそ2ヶ月でこれだけ形にしたものを作ったことに驚きを禁じ得ない。

 

「もう動かせるのか?」

≪現在、最終チェック中です。明日には実機でテストがおこなえるかと≫

「そうか」

 

 こちらに専念できると思っていたが、肩透かしをくらった感じだ。

 

≪今後の改修予定案がこちらです。目を通していただけますか?≫

「ああ、わかった」

 

 アイリスのディスプレイに映し出された改修予定案に目を通す。ブースターの増設、背部担架の設置、小型V.O.B.の使用、脚部関節改良案などなど。……小型V.O.B.!?

 

「おい、この小型V.O.B.って」

≪はい、カグツチ用に設計しなおしたV.O.B.です。BETAの上でパージすればそれだけで質量による攻撃が出来ますし、推進剤の消費を抑えることも可能です≫

「光線級はどうするんだ?」

≪光線級の対策は目下検討中です。新型の対レーザーコーティングの成果によっても変わりますので≫

「とりあえず保留ということか」

 

 V.O.B.なんてものまで考えているとは思っていなかったが、そこまで問題がありそうなものは他にはなかった。とりあえずはこのままの計画で問題はないだろう。

 

≪シミュレーターにデータの入力は終わっておりますので、そちらで慣熟訓練を行いましょうか≫

「お、なんだ乗れるのか。ならやるかな」

≪強化装備を忘れずにお願いします≫

「……わかった」

 

 あまり着たくない強化装備のことを頭の隅に浮かべながらシミュレータールームへと向かう。

 




デモンストレーションは3月ということが今勝手に決まった←
その間烏丸が何をしていたかというと、霞の相手と香月博士のむちゃぶりの対処、姿を隠してのヴァルキリーズとの演習などをしていたということで←


カグツチですが、腕は本文にある通りです。しかし、頭部も腕も全て完全にACパーツというわけではありませんということを明記しておきます。あくまでも近い形をしたパーツ程度に思っていて下さるといいかと。

なおカグツチは正式に漢字にすると迦具土になります。
神様の名前なら火之迦具土神という名になります。


更新遅いですが見捨てず読んでくださっている皆様、ありがとうございます。
どうかこれからも見捨てず読んでくださると幸いです。

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