GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~ 作:フォレス・ノースウッド
原因がクリスちゃんのあざと可愛さを書きたくなったせい(コラ
〝ごめんなさい、ごめんなさい……私はっ―――〟
〝了子さぁぁぁんッ!!
仮設本部艦内を歩く私は、フィーネとの激戦の日の終幕を思い返しながらメディカルルームに足を運ばせていた。
目的地の部屋まであと数歩と言う距離のところで。
「響?」
丁度メディカルルームのスライド式自動ドアから、響が出てくる。
「朱音ちゃん……なんかさっき歌ってたせいかな~~なんかもうお腹空いてきちゃったから先食堂に行ってるね!」
文字にすれば〝アハハ~〟と銘打てる感じで傍からは明らかにぎこちなさが見え見えの笑顔を見せる響は、そそくさと私を横切って食堂のある方角へと走り去っていき、私は遠くなっていく友の後ろ姿をしばし眺めていた。
あの日、あの時以来フィーネ、否、櫻井了子博士は昏睡状態に陥り、三週間程経った今日の時点でも、最新医療技術が整ったメディカルルームのベッドの上で眠り続けたままだ。
その間今日のも含めて響は、昏睡から目覚める兆しが微かな欠片(かのうせい)すら全く見えないままの櫻井博士(りょうこさん)のお見舞いに、何度も訪れていた。
その度に、眠れる博士の様子を窺っては、どうすることもできない現状と、〝人助け〟が趣味なゆえ、彼女を助ける術を持たぬ自分自身にもどかしさを募らせている。
表面上では笑顔を見せても、元より嘘も隠し事も苦手な響なので、私からは取り繕っているのがバレバレなのだが、だからと言って気安い励ましの言葉を送ったところで響の心中で漂う曇りが晴れるわけないし、普段の愛嬌と陽気さ溌剌さがたっぷりな表面の人柄とは裏腹に、この我が友人は一定以上の距離(つながり)に対して臆病になってしまう屈託を抱えている一面もある。
下手に不用意に踏み込めば、人一倍以上繊細な響の心(むねのうた)を傷つけてしまうだろう。
なので私は、今はそっと様子を窺うのに徹していた。
二課支給のスマートウォッチの画面に表示された時計の時刻を見て、今日の計測(レコーディング)の時間が近づいているのを確認し、私はスタジオの方へと向かった。
特機二課仮設本部内にある、歌声で生成されるフォニックゲイン含めた装者のコンディションを測る為に設置されたレコーディングスタジオにて、朱音は左利(レフティ)タイプのエレクトリックギターを携え、マイクの前で椅子に腰かけてブース内にいた。
ただいま、ギターの準備運動も同然なチューニング中。大抵この手の作業の際は、専用の器具(チューナー)でギターの音色を調節するものだが、朱音は自身の聴覚と感性で以て調律できるくらいには音感力を鍛え上げ続けている。
聴覚を研ぎ澄ませ、数回弾いてはヘッドに備えられたペグたちを丁重に回す――を繰り返し。
「うん、これだな」
自身が求める音色になったと頷いてチューニングを終え。
One Two~One Two Three~♪
目を瞑り、足踏みでタイミングを合わせながら深呼吸を経て。
〝遥か~空の星が~ひどく輝~いて見えたから~~〟
マイクに向けて、弾き語り始める。
〝僕は~震えながら~その光を~追いか~けた~~♪〟
歌詞に合わせて、空に手を伸ばそうとするが如く天井を見上げ。
〝割れた~鏡の中~~いつかの自分を見つめてた~~強くなりたかった~~何もかもにっ――憧~れてた~~♪〟
大空を自由に飛び泳ぐ鳥の如く生気溢れながら、しっとりと胸の芯まで染みわたっていく切なさも入り混じった透明感のある歌声と演奏で。
〝君が――望むなら~~それが強く応えてくれるのだ~~今は全てに恐れるなっ――~~痛みを知る~~ただひとりであれ~~♪〟
遥か彼方の光の星からやってきて、地球人(にんげん)に焦がれる程の愛を抱くようになったかのウルトラヒーローの名曲を。
〝微かに笑え~~あの星のように―――~~~痛みを知る~~ただ一人であぁぁぁれぇぇぇっ~~~♪〟
歌詞の通り、かのヒーローを生み出した創造主が生前に残した――〝本当に強い人間は、戦う時かすかに笑う〟の言葉の通り、口元を微笑ませて、最後まで弾いて歌い切った朱音だった。
どうしてギターの弾き語りでフォニックゲインを計測してもらっていたかと言うと、実際シンフォギアを纏っての戦闘は〝ながら歌唱〟になるので、どんな事態(アクシデント)に見舞われても歌唱の中断によるギアのスペックの低下を避ける為と、私の昔からの趣味(新しくギターを買いたいのだが、装者としての活動の忙しさとどれにしようかの迷いで、まだ購入できずにいる)と、あと新たな〝戦法〟を編み出そうとしてる意図もある。
それが何なのか今は秘密と言うことで。
「お疲れ様でした~^」
さて、今日のフォニックゲイン測定の為の録音を終え、ブースを出て控室に戻ると。
「リピアー、アタシらはあんたがそこまで命を賭けるほどできた生物(いきもん)じゃねえんだよ~~~うぐぅ~~~」
私の視界と聴覚は、大泣きしているクリスの姿を捉えた。
腕で拭っている目尻からは多量の涙が噴水みたくアーチを描いて放出され、嗚咽も鼻水混じりに盛大なもの。多分防音が利いていなかったら、歌う集中力が途切れて最後まで歌い切れなかったかも。
と言うか、アニメのギャグ表現なそんな泣き方を現実にする人、初めて見た~~なんて感心するのは置いといて。
「クリス、とりあえず落ち着こう」
「すまねえ」
私は苦笑を浮かべて懐からポケットティッシュを取り出してクリスに渡す。
ハンカチって手もあったが、この泣き方とクリスの性格を踏まえれば、勢いで鼻も噛んで―――案の定、彼女は控室中に野太い鼻息を轟かせるのであった。
「そんなに感動したんだね……シン・ウ〇トラマン」
「あったりめえ~だ!」
先日私はクリスに、弦さん式のトレーニングを少しでも適応できるよう慣らしも兼ねて、一九六六年に放送され大ヒットした某特撮ヒーロードラマのリブート映画(チョイスは完全に私個人の趣味全開である)をお勧めしてみたのだが、さっき私が歌った主題歌を聞いてこの感涙っ振りを見るに、私の想像以上に心打たれたらしいな、こっちも勧めた甲斐はある。
私だってかの映画を初めて鑑賞した時は、主題歌が流れた頃にはぽろぽろ泣いて感極まったものでね。
「クリスがレコーディングしてる間に昼食(ランチ)作っておくけど、今日は何がいい?」
「じゃあおにぎりとお好み焼きで」
「また~~あれはカロリー高くて頻繁に食べるものじゃないって、前にも言わなかった?」
「んなのは歌とおっさんの珍特訓で使い切りゃ良いだろ、文句あっか?」
私の口から溜息とセットで漏れた苦言に対しそう豪語するクリス。どうもこの前に差し入れした時以来、すっかり彼女の好物の一つになってしまったらしい。
「分かったよ、じゃあご希望通りに」
「よっしゃ♪」
ガッツポーズを取ったクリスは、意気揚々と口笛を鳴らしてブースに入っていく。
さて、私は厨房に向かうとしますか。
クリスが自分たちに笑顔を見せられる様になったと言うことは、それだけ以前は長年紛争地帯で過ごした弊害で刺々しくささくれだって荒んでいた彼女の心が、穏やかになっている証であり、そんな戦友の様子を見て、私も俄然気合いが入ったのでありました。
「すみません、今日も厨房使わせてもらいます」
「おや朱音ちゃんこんにちは、構わないよ」
食堂に来た私は勝手知ったる感じで厨房に入り、ここのシェフをしてる二課職員のおばさん(二課に来る前は海自の給養員として多くの自衛官の皆さんのお腹を満たしてきたとのこと)に了承を得た上で、髪を纏めエプロンを着て、手を念入りに洗う。
「今日のメニューは?」
「メインは健康志向のお好み焼の予定なんですが、豆腐はありますか?」
「あるわよ、天道屋の手作り絹ごしが、どうぞ使って」
「あ~あそこの絶品ですか~~ありがとうございます」
さてと、クリスの希望通り今回のランチの主役はお好み焼きを作ろうと思うけど、さっきも彼女に苦言を呈したようにカロリーがか~な~りある料理。
と言うわけで、ヘルシーかつ運動する上で欠かせないタンパク質もしっかり摂取できるアレンジで行くことにした。
具体的には、生地の材料のメインに小麦粉に代わって絹ごし豆腐を使う。
まずは先にキャベツと食物繊維たっぷりのニラを刻んでおいて、ボールに豆腐を入れて滑らかになるまで崩して潰したところで千切りキャベツとニラ、卵、薄力粉、豚バラ肉、肥満防止の効果もあるタイの魚醤(ナンプラー)、マヨネーズ、ソースを入れて、キャベツの水分を逃さぬ様に手早くも、丁寧にかき混ぜ~る。
次にホットプレートにサラダ油を塗って中火で温めて、生地を流し込んで一度広げてから円状に整えて焼き、ひっくり返す前にここで鰹節を振りかける。こうすると外はかりっと中はふわっとなり易くなるのだ。
そして片側が焼けてきたところで両手にヘラでひっくり返し、ヘラで円状から四角上に折り込み直し、人数分均等に切り分けていく。
「四角い方が均等に焼けるんだってね」
「ええ、結構コツは要りますけど」
このアレンジなら内部に熱が入り易くもなり、外のカリカリ感と中のふんわり感が増すんだよね。
その証拠に、我ながらよくできたと言いたくなるほど、パンケーキばりに生地が膨らみ厚くなっていった。大体三~四センチはあるだろう。
「よし、か~んせい~♪」
まだ後乗せの調味料はまだだけど、生地に関しては名づけて――《スクウェアお好み焼き~ヘルシー豆腐スペシャル~》ができあがり~♪。
主食の自分が食べる分ができたので、それをお皿に入れて一旦ラップで覆った私はおにぎりと副菜の方に取り掛かる。できるだけ出来立てのものをクリスに食してもらいたいので、彼女の分は後でだ。
豆腐はクリスの分を使ってもまだおつりが来るので、その分はサラダの具の一部にする。
抱き合わせにする野菜はミニトマトとパプリカとレタスとサンチョ。
レタスとサンチョは手で程よいサイズで千切ってお皿に入れ、その上に豆腐を乗せ、さらに細かく切ったパプリカとミニトマトを入れつつ、鰹節と醤油とゴマ油、隠し味に砂糖もちょっと入れて完成。
これもラップして冷蔵庫に一時保管し、次はおにぎりだ。
〝~~~♪〟
これには私なりの作るコツが一つある。
あるわらべ歌を鼻唄で歌いながら、リズムに合わせて握り飯の形を整えていくのだが――。
「朱音ちゃん、その歌……」
「これはですね、数え年の頃、よく母が私を寝かせる時に子守歌として聞かせてくれたんです、このリズムに乗って握ると良い感じに三角形になってくれるのですが」
歌の名は――《APPLE》。
実は二〇世紀末に起きた、明言することすら憚られる大規模な発電所事故が起きた東欧の某国発祥のわらべ歌。
でも私にとって、今は亡き家族との大事な思い出の歌。
妙に元気があり余り過ぎて眠る気なんてないと、浅黄にそっくりだった母に駄々をこねた夜でも、この曲を聞かされたら、一転して睡眠(ゆりかご)の中に入った――なんてことがよくあったよね。
「何か気になることでも?」
そんな幼き日々の記憶を追想しつつも、おばさんがこの曲に対する関心の内容を問うてみると。
「確かね、翼ちゃんが初めてギアを起動した実験の時も、その『APPLE』だった筈なのよ」
「え?」
この事実に関しては完全に寝耳に水だった私は呆気に取られ、うっかり手の内にある形状が整ってきたおにぎりを落としそうになった。
一二年前に翼が《天羽々斬》を目覚めさせた歌がこの曲ならば、すなわち……櫻井了子の遺伝子に潜んでいたフィーネの因子を覚醒させた歌でもあると言うわけで、おばさんから思わぬ話を知らされながらも……今はそのことは胸に秘めつつ、午後のトレーニングに備えて英気を養う為のランチ作りを続ける私だった。
数十分後、食堂フロアの一角にて、朱音とクリスは差し向かいで座り。
「いただきます」
「いっただきま~す」
同じ合いの手でも、朱音のは祈祷を行うように『いただきます』の意味をしっかり噛みしめて粛々と、反対にクリスは待ってましたと言わんばかりのはきはきと意気揚々に両手を鳴らして、朱音お手製の《スクウェアお好み焼き~ヘルシー豆腐スペシャル~》とサラダとおにぎりの詰め合わせ、飲み物にココナックのミルクスムージーの組み合わせなヘルシーだががっつり体力も補給できるランチを食し始めた。
綺麗な直方体状に焼き上げたお好み焼きの生地を、それこそパンケーキを食べる風にフォークとナイフで一口サイズへ丁寧に切ってもの柔らかに咀嚼して味わう朱音とは対照的に。
「うめ~な」
クリスは予め朱音がサイコロ上に切り揃えておいたお好み焼きに、上手持ちで持ったフォークでザクっと突き刺し、思いっきり大口開けて口内に放り込んだ。既に唇にはソースの口紅で塗りたくられている。
「別にわざわざ切り刻んでなくてもよかったのによ」
「想定される事態に、予め対策を講じるのは当然のことさ、この前テーブルがどれだけ被害を受けたと思ってる?」
「うっ……」
にこっとと釘を刺してくる朱音に対し、ソースの口紅に染まる口周りに青のりとご飯粒が無精ひげの如くこびりついているクリスは気まずそうに眼は泳がせ、相手が発する苦言の視線から、己が目線を逸らした。
この際はっきり言ってしまうと、クリスは――食べ方が〝汚い〟。
食器類を幼児がよくする〝上手持ち〟で使うなんて序の口可愛い方で、一度食べ始めればお口周辺はあっと言う間にソースら調味料と食べかす塗れになり、先日朱音がこの食堂で今回同様お好み焼きの時やスパゲッティを振る舞った時など、お皿どころかテーブル上に食材が散乱して荒れ放題になる有様で、朱音は次に使う職員の為にと念入りに掃除する羽目にもなった。
今度はテーブルへの被害を少しでも抑えるべく、クリスの分のお好み焼きは前以て分割し、机上の端にはお手拭きとティッシュ箱と除菌スプレーも置かれ、お皿から追い出された食材回収用のビニール袋も朱音の懐に用意してある念の入れようである。
一方で朱音は仮にも自身より一歳年上のクリスの数え年頃な幼児っぽい食べ方に配慮はしても、そうなった理由までは言及しなかった。わざわざ本人に聞かなくとも、クリスの境遇を踏まえれば察しが付いたからだ。
クリスもクリスで、今自分は〝テーブルの前で椅子に座り、お皿に盛りつけられた料理に食器類を用いて食べる〟のが当たり前の生活環境にいて、そこでの己の食べ方は大いに問題あると自覚はしているので、彼女なりに改善するよう努め、朱音からの注意にもありがたく耳を傾けている―――のだが、言われっ放しなのは性に合わない天邪鬼な性分持ちゆえに。
「で、でもよ、あの防人アイドルの部屋に比べたらまだマシになっただろ?」
「確かにその通りではあるね、あの防人先輩の才能(タレント)と比較したらまだ可愛いかな」
そんなクリスの額に冷や汗流して苦笑して、翼を引き合いに出した言い分に朱音は〝そう来たか~〟と、ほくそ笑みながらも同意を示した。
装者たちはルナアタック直後から約三週間は、ほとぼりが冷めるまでこの仮説本部含め、政府が用意した施設でしばし共同生活を送っていた。
つまり、公的な場や芸能人としての偶像(かめん)で隠されていた翼のプライベートな一面が朱音以外の装者にも露わとなったと言うわけで。
〝潜水艦(こっち)に移ってたった三日でこの汚部屋(ダストルーム)っ振り、地獄だね〟
前から薄々察していた朱音も含め、翼の部屋を片付ける能力が絶望的かつ致命的に欠けた弱点を直に目にさせられたのだ。
〝そ、そこまで酷くはないだろう! せめて煉獄に留めてもらえないか!〟
〝つまり『穴があったら入りたい』くらいには恥ずかしいと思ってるわけね〟
〝ぬぐっ……『よもやよもや』だ〟
うふふと翼の苦し紛れの言い訳にジョークで即応する余裕たっぷりだった朱音に対して、クリスも響も、その時は散らかり放題な部屋の惨状を前に口をあんぐりと開けて呆然させられるのであった。
朱音の言う通り、部屋全体に比べればクリスの弱点はまだ被害範囲はテーブル上に留められているので、まだマシと言えなくもないだろう。
翼が天性のコメディアン気質の持ち主である証明となった汚部屋(ダストルーム)のエピソード込みで、雑談と言う調味料が降りかけられた料理を食する私とクリス。
命の値打ちが紙切れ未満な戦火の中を長年孤独に彷徨っていた境遇上、クリスは他人との距離の測り方が苦手であり、それは荒っぽくも不器用な口調と感情表現から如実に語っており。だからか、私が作ったのも含め、美味しい料理を食している時、当人は無自覚だろうけど、響に負けず劣らず人一倍以上に頬を緩ませ笑顔で食べてくれる。
まあそれはそれは、作った身からすれば冥利に尽きる笑顔で、こちらもほっこりと嬉しい気分になるだけでなく、ついついちょっかいも掛けたくなりそうになるが、下手に話題に上げるとその素直になれないツンデレな性分で見せてくれなくなってしまう懸念があるので、敢えて言及せずに自分の目の保養とさせてもらっていた。
けどやっぱり、クリスも翼とは別ベクトルで、天性のコメディセンスを有しるよね。そうでなければ〝やさいもっさい〟だとか〝ちょせい〟とかなんて単語を普段遣いなんてしない(ちなみに前者は千葉県木更津市の言葉で『ああ、そうさ』を意味し、後者は『ちょろくせえ』の略語)。
前に、どこでそんな言葉を知ったのかそれとなく聞いてみたら。
〝これは昔パっ――あ~~……パパと、ママに教えてもらったんだよ……〟
気恥ずかしく頬を赤くし、後頭部をぼりぼりかいて明後日の方角へ目線を逸らして教えてくれた。一度両親の呼び方を〝親父とおふくろ〟に訂正しようとしたが、フィーネのアジトでの弦さんとの問答で知られてしまったと気がつき、渋々元から使っている方で呼んでいたのもひっくるめてなんと言うか、あざとさ込みで〝愛されキャラ〟と呼ぶのが相応しい。
〝特機分二(とっきぶつ)には!まともな人間はいないのか~~!!〟
そのくせ自分は純度一〇〇パーセントツッコミ側の人間(実際は彼女のか~な~りボケ能力も高い方なのに)と思ってる節もあって、そこもまた面白くて退屈させない愉快なお人だよクリスって。
「ところでよ〝あのバカ〟は今日どうしてんだ?」
心中で〝噂をすればなんとやら〟で、クリスは指に付いたおにぎりのご飯粒を舐め取りながら次の話題を振ってくる。
「〝あのバカ〟って誰?」
「あのバカは……あのバカだろ」
「だから〝どこのバカ〟?」
「どこのって……」
クリスの言う〝バカ〟が誰を指しているのかとうに分かっている私は、わざと白を切った。
「私に言わせれば、私含めて、人間と言う生物自体が〝バカ〟な種、だからあのだのどうのだの言われても、該当する数が多過ぎて誰のこと言ってるのやらさっぱりなんだけど」
「お前が〝バカ〟だったら他の人間のバカ度数がとんでもねえことになっぞ」
そんなお酒に入ったアルコールの濃度みたいな言い方、ツボだね~~と思いつつも、彼女の独特の語弊センスによるツッコミはスルーし。
「で、どこのバカの骨のことを言ってるのかな?」
私は微笑みをクリスに贈り、クリスが誰のことを言ってるのか、彼女の口からはっきり名前(ことば)を発するまで、だんまりを決め込むよと、この笑顔(ひょうじょう)で宣言する。
「っ……」
もはやぐうの音も出ない様子で照れくさく困惑するクリス相手に、時間にして大体三〇秒くらい経ったところで。
「だぁぁ~~~あの〝バカ響〟のことだよ!!」
よく言えました。
クリスは某汎用人型決戦兵器の弐号機パイロットなヒロインが主人公くんを呼ぶ時みたく、響の名前を口にした。
「な~んだ、ちゃんとフィーネ以外の人間にも名前を言えるじゃないか」
「おまっ――朱音に言わされたんだろうか!!」
せめて一矢報いたい意図でもあったのか、わざわざお前呼びから訂正して、私の名前も発してくれた。
「ほんとに根性が捻くれた奴だよな!!」
「ふっ、褒め言葉として受け取っておくよ」
顔をゆでだこにして抗議してくるクリスに対し、私は涼しい微笑のまま、ココナッツスムージーを一口飲んで余裕を見せつけ。
「我が祖父(グランパ)が言っていた―――〝相手とどう接していいのか分からない時は、まずは名前を呼ぶことから始めよう〟って」
「またじいちゃんの格言なんたらか、ほんと朱音はおじいちゃんっ子だよな」
「ありがとう、極上の賛辞を贈ってくれて」
私にとって尊敬する偉人の一人なグランパの孫であることは最上の誉れである為、たとえ皮肉で言われたとしても喜びの気持ちが遥かに勝るのだった。
さて、前置のジョークはこの辺にして、クリスが響のことで何を聞きたいのか、本題に入るとしよう。
つづく。
使用曲:M八七/米津玄師『シン・ウルトラマン主題歌』