GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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2023年早々にやっとクライマックスを書き終えることができました(汗

了子さん――フィーネの願いすら呑み込んで暴走し始めたベイバロン相手に、どう世界を破滅から救うのか、本作ではこうなりました。
とくとご照覧あれ!!


#68 - 覚醒ノ旋律~SYMPHO RISER~ ◆

 暗黒の曇天の下闇の中でも、溶け込むどころか周囲の空間を侵食しようとすら勘ぐられてしまう。赤黒く荒ぶるエネルギーの焔(オーラ)がその巨体全身に覆われ、暴走の奈落に堕ちた……黙示録の赤竜ベイバロン――終焉の巫女フィーネ。

 

『Gaaaaa~~~ohhhhhh~~~~―――ッ!』

 

 赤竜が発する……一層禍々しさが増した咆哮は、リディアンとカ・ディンギルらの瓦礫が混ざった破片と砂と煤と、そして大気と音を暴風に混ぜ合わせて飛ばし、私たちが立つ大地にまで容易く届き、髪が激しく靡かれた。

 曇天の空へと首を上げて、悲鳴にも慟哭にさえ聞こえる咆哮を絶えず鳴らし、全身に張り巡らされた触手を、駄々をこねる子どもの八つ当たり同然に振るい続ける。

 

〝戦場(せんじょう)と言う〝悪魔〟にそんな理屈は通用しない、その悪魔は君の心とその想いを打ち壊して嘲笑しようといつでも待ち構えている〟

 

 以前、装者になり立ての頃の響にも話した……前世(かつて)の自身の取り込まれかけた〝戦場に潜む魔物〟……今その魔物は異形の怪獣へと変異した終焉の巫女に憑依し、完全聖遺物と融合した自らを、月が穿たれた世界の支配者にして〝新霊長〟と私たちへ傲岸に自称していながら、逆に聖遺物の操り人形にされてしまった彼女を、今まさに……邪悪な笑みを惜しげもなく浮かべ、悦に浸っていた。

 

「Unexpected result……」

 

私は……〝皮肉なものだ〟と、苦味が溜まる口から、ふと呟いていた。

 

 なんて、報われない。

 

 フィーネは破壊衝動に染められた先の響を嘲笑し尽くしたそうだが、今の奴はそれ以上の暗闇へと転げ落ちた挙句に、現代に蘇った神話時代の災厄へと成り果ててしまった。敵ながら………フィーネが陥った悪辣な運命の因果に対し、口の中に複雑と言う名の苦味を感じながら。

 確かにこの数千年、人の歴史に暗躍、介入、干渉し続けてきた中で、奴がなんとしてでも叶えたい願いは変質し、歪んでしまった。

 奴がその変わり果てた悲願を達成、実現しようとする過程で、余りに多くの人々の生涯を狂わせ、数えても数えても果ての見えぬ程のたくさんの命が、犠牲となったのも確か。

 けれど……神々(アヌンナキ)の一人へ抱いてしまった慕情も、その想いから生まれた〝願い〟そのもの自体は純粋なものであり、本当は否定できぬものではないのだ。

 少なくとも………〝願い〟を叶えようとした最果てが、あの異形とは、悲劇の一文字だけでは表せない。

 何より……私――ガメラも、運命の気まぐれ次第では、あの最果てに至っていたかもしれない。

 あの異形の巨体は、まさに……私(ガメラ)の〝可能性〟の一つに他ならなかった。

 

「〝了子さん〟ッ!!」

 

 響が暴走する赤竜へ、尚も〝櫻井了子〟の名を叫んだ直後、巨獣の眼がこちらに睨みつける。

 無論、私たちに対する敵意と殺意を込めた眼光、だが。

 

「違う」

 

 我が翡翠色の瞳は、見抜いてしまった。

 今の赤黒く変色した巨獣が発するものは、先までフィーネの制御下にあった時と一変してしまったことに。

 

「あの異形を操っているのは……もう櫻井了子でも、終焉の巫女でも、まして神を愛してしまった〝人間〟でもない……」

 

 積年の悲願を果たす為なら、どのような障害となり得る存在を切り捨て、排除し、数え切れぬ犠牲を贄として利用すること厭わぬまでも邁進する……執着と狂気と憎悪が複雑に混じり合った剛健なる奴の意志が、最早その瞳には宿されてない。

 あるのは、ただその目が捉える、神羅万象、生きとし生けるものを灰塵に帰し尽くそうとする、ある意味で純粋なる混じり気のない――破壊衝動。

 

「奴の意志も悲願も、愛すら呑み込んだ――〝災厄〟だ」

 

 私の言葉と、それ以上に雄弁に語る眼前の事実を前に言葉を失う戦友たち。

 対して〝災厄の黒竜〟は眼光を装者(わたしたち)に突きつけたまま、ゆっくり口を開けるとともに、喉元にデュランダルが生み出し続ける高エネルギーが集束し始めた。

 

 ~~~♪

 

『みんな離れるなッ!!』

 

 響たちの先頭に自ら立ち、翼とクリスと私は両手のアーマーのプラズマ噴射口から放出したエネルギーを三つの甲羅――《シェルシールド》を実体化。

 うち一つを目の前に、残りの二つを反揚力(リパルサーリフト)で私と左右挟んだ横並びで宙に配置させ、熱線発射の準備を整えている巨竜へと掲げる。

 

《REFLECTOR PARTICLE》

 

 クリスは再びリフレクターを放出。

 

《千ノ落涙》

 

 翼も宙に光刃を出現させ、この前の二重奏の時の様に、円となる形で配置し直す。

 相手の巨竜もまだ、喉と口にエネルギーを蓄えた発射準備の態勢のまま、しかし裏を返せば時間をかけた分だけ強力な攻撃が来る―――のを逆手に取り、こちらも防御の備えを整えているところへ。

 

『お取込み中のところすみませんッ! そのまま聞いていて下さい!』

 

 藤尭さんが緊急の通信を送ってきた。

 実を言えば彼がそうまでして何を報告したいのか、分かっている。私と我がギアーーガメラの熱エネルギー探知能力は、黒竜の体内の炉心(デュランダル)の温度が、秒ごとに昂り続けているのを明瞭に捉えていた。

 

『ベイバロンの炉心温度が急上昇しています、俺の計算だと、遅くてもあと一五分以内に………地球に大穴が開く規模の、大爆発が――』

 

 

 つまり、もう後僅かな時間で、暴走の果ての破局(メルトダウン)が起きる。

 地球(せかい)が滅亡するカウントダウンまで、最早一刻の猶予もない。

 私は戦友たちに、目線で意志を確認する―――翼とクリス、自身の双眸を見合って、お互いの容貌(ひょうじょう)から、これより切り出す手段(カード)と、それを実行する覚悟を確認し合う。

 同時に、滞空させていた甲羅三つ全てを回転させて、電磁フィールドが螺旋を描いて形成される。

 そこへクリスのリフレクターと、翼の光刃(たて)が添えられ、黒竜がこれより繰り出そうとする猛攻を受け止める為の防御力を少しでも上げ。

 

『響、手をッ!』

「う、うんッ!」

 

 歌唱でギアと、障壁(エネルギーフィールド)の出力をキープさせながら、口の代わりに勾玉(マイク)からの声で響に手を繋ぐよう促し、私と響の手は握り合う。響も遅ればせながら、今の私の行為でこれから私たちが……世界の破滅を食い止める為に何をするのか理解したようで、眉間を決然と引き締め頷いた。

 続いて翼とクリスとも手を握り、災厄の黒竜と対峙し並び立つ。

 もう――できるか? できないか?――の問題ではない。

 やるしかない!

 必ず成し遂げる以外に選択肢はない!

 もう聖遺物の暴走を、もうじき起きようとしている〝破滅〟を止められるのは、装者(わたしたち)の〝歌〟だけ。

 だから私たちは、《シンフォギア・システム》の決戦機能と言う切札を使う。

 

「「絶唱――」」

 

 私たちは一斉に、その切札の名を叫び、歌い始めた――。

 

 

 

 

〝Gatrandis babel ziggurat edenal~♪〟

 

〝Emustolronzen fine el baral zizzl~♪〟

 

〝Gatrandis babel ziggurat edenal~♪〟

 

〝Emustolronzen fine~el~zizzl~~♪〟

 

 朱音、響、翼、クリスのシンフォギア装者四人による《絶唱》の四重奏(カルテット)が唄われた瞬間、彼女たちの全身からフォニックゲインの光と波が放出され、大気と大地を震わせ、風は荒々しく四人の周りを螺旋状に空へと昇る龍の如くうねりを上げていき、少女たちの髪を激しく靡かせる。

 装者たちが先に生成していた盾は、絶唱の膨大なエネルギー)を帯びて、朱音の前世の甲羅のラインが表面に刻まれた半球状の光の障壁に巨大化、かつ五重に重ねがけされ、それら全てが高速回転し始めた。

 絶唱の恩恵(ブースト)も得て、朱音たちが防備を固めたと同時に、《終末の黒竜》の口から、一瞬巨竜の顔を埋め尽くす程の鮮烈なバースト現象を経て、赤黒い熱線が彼女らへめがけ放射――迎え撃つ五重奏の盾と正面から激突。

 曇天の闇の中、熱線と障壁が火花と閃光を煌かせて激しくせめぎ合う。

 完全聖遺物らの三位一体、否――櫻井了子と言う名の器込みで〝四位一体〟同然な黒竜の猛攻を防護しながら、同時に自らが生み出すフォニックゲインで、暴走する聖遺物の活動を鎮めようと奮戦する装者たちだったが、拮抗状態を維持し続けるだけでも、既に限界が訪れていた。

 敵からの戦略兵器に匹敵する強大な攻撃だけでなく、絶唱の負荷と言う決戦機能の代償(バックファイア)が、苦悶の表情を浮かべる少女たちの肉体を容赦なく痛めつけていた。

 その証拠に、呻き混じりに食いしばり、荒れ地に足を踏ん張り、完全聖遺物による厄災に抗う全員の双眸と口元から、血涙がしたたり落ちる。

 彼女らの全力全開奮戦を、所詮は雀の涙にも等しい足掻きだと嘲笑する様に、黒竜のエネルギー出力が尚も膨れ上がり、一層威力を増した極太の熱線を障壁へと叩き込んできた。

 ついに五重の障壁の一枚目が割れたガラス状に破砕されてしまう。

 

「「「「―――ッ」」」」

 

 繋げた手を離すまいと強く握り合い続ける装者たちは、破壊された障壁にシンクロして仰け反り、激痛に鳴く。

 拮抗が崩れ、黒竜の熱線を前に障壁は二枚目、三枚目も破られ……残る二重(にまい)も亀裂が走り、塗り固められたエネルギーが散り出していき、バックファイアの鞭打ちで、装者たちの纏うギアのアーマーもスーツも、身体から裂き出てきた血に濡れていった。

 踏み締める地を抉って後退されていく翼もクリスも、響でさえ……目を開けていることすらままならぬ中。

 

〝絶対に、何が何でも、この世界は――滅ぼさせないッ!〟

 

 朱音だけは、翡翠の瞳を黒竜に見据えたまま、災厄に抗い続けていた。

 その瞳が発する眼差しは、人の身となった今でも変わらぬ……どんな強敵を開いてにしても、時に己が内の矛盾に苦しめられても、あらゆる逆境を前にしようとも、何度打ちのめされようとも、立ち上がり、怪獣と言う〝災い〟に立ち向かい続けたガメラそのもの。

 

〝でも分かっています、ガメラは戦うつもりです……最後まで、独りになっても〟

 

 一度生まれ変わっても変わらぬ朱音――ガメラの気骨は、かつて心を通わせ、共に戦ってくれた少女からもお墨付きを貰っている。

 

〝浅黄が言ってくれたように―――生憎私は、前世(むかし)からずっと、諦めの悪い性質(たち)だったものでなッ!〟

 

 だからこそ、朱音は装者の中で真っ先に気づいた。

 荒野と化した大地から、多数の光の粒子が舞い上がっている現象を、翡翠の眼(まなこ)にて、確かに映る。

 地上から湧き出た小さな星々――フォニックゲイン。

 またの名を――マナ。

 星々(ひかり)たちの数も、密度も増していき、朱音たちを包み込むようにマナたちは輝きを立ち昇らせていた。

 

〝でも、どこから?〟

 

 装者(じぶん)たちが生み出したものではない……なら、この光(マナ)はどこから?

 

〝~~~♪〟

 

 金色(ひかり)の野を見渡す彼女の脳裏に、直接響いてきた―――音楽(メロディ)。

 

〝あ、そうか……〟

 

 朱音はこの音色から理解した、地球(ほし)に流れる血脈――レイラインを通じて、自分たちに贈られてきた〝歌声(エール)〟。

 

〝ガメラは……一人じゃないわ〟

 

 メロディに耳をすませて朱音は、浅黄とともに自分を信じてくれた女性の言葉を思い出す。

 

〝そうだ、私は……私達は一人じゃない……希望を奏でる歌い手は――装者(わたしたち)だけじゃないッ!〟

 

 大きく胸の奥の底から、深呼吸をすると。

 

〝ありがとう……みんな……〟

 

 朱音は自らに、歌(ひかり)を取り込んでいき。

 

〝「聞こえますか?」激情奏でる~~ムジーク~♪〟

 

 生命(いのち)と言う輝きを持つ者たちからの、音色(いのり)を受け取って、朱音――ガメラは、己が光(マナ)を、立ち上がらせ、エールを送ってくれた者達と一緒に、再び歌い始めた。

 朱音の歌声を耳にした響たちは苦痛で閉ざされていた瞼を開け、歌い上げる彼女を見つめる。

 

〝天に~~解~き~放て~ッ♪〟

 

 この身とギアに取り込んだマナ――フォニックゲインを、自らの歌唱でより高めた朱音は、戦友たちに分け与え、バックファイアで傷ついた戦友たちの身体を癒し、彼女らの心へ、共に奏でる者たちの音色を送り届ける。

 

〝「聞こえますか?」イノチ~はじまる脈動~♪〟

 

 それを続いて理解した翼は、今は亡きかつての片翼(あいぼう)と何度も歌い上げてきた詩を。

 

〝愛を~~突~き~上げて~~♪〟

 

 今度は、朱音の歌声と重ね合わせた。

 

〝はるか~~彼方~~星が~♪〟

 

 朱音と翼に続き、クリスも詩を繋げ。

 

〝音楽となった~~かの日~~♪〟

 

 三重奏となり。

 

〝風が~髪を~さらう~瞬間〟

 

 最後に響も加わって。

 

〝君と僕は~~コドウを~~詩(うた)~にした~~♪〟

 

 装者四人揃っての四重奏(カルテット)へと相成り。

 

〝そして~~夢は~開くよ―――見~たことな~い世界の果てへぇぇぇぇぇ~~~♪〟

 

 この曲を奏でる者たち、全ての歌声が、マナを通じて重なり合った瞬間、フォニックゲインは一気に装者たちの身に集束し。

 

〝Yes~Just~believe~~♪〟

 

 眩くも、黒竜の熱線を受けても全く歯牙にもかけぬ力強い光の柱が天へと立ち昇った。

 

〝神様も知らない~~ヒカリで~歴史を作ろう~~♪〟

 

 地上より立ち昇る光は、分厚い暗黒の雲海を貫き風穴を開け、今まで遮られてきた陽光が光柱を発する装者たちに降り注ぐ。

 

〝逆光のシャワー~~未来照らす~~一緒に――飛ばないかッ♪〟

 

 

 黒竜の全身から、先も彼女たちに猛威を振るった牙を生やす触手たちが伸び、熱線を照射したまま光柱へ引力破壊光線の驟雨を降らせ、重力をズタズタに破壊し瓦礫と砂塵と岩を宙へのた打ち回らせて爆炎と爆音を起こし荒野を傷つけていくも。

 

〝Just feeling~~運命なんてない~~物語は自分にある~JUMPッ♪〟

 

 光柱は、黒竜からのこれ程の猛撃を受けても尚、ものともせず。

 

〝旋律は溶け合って~~シンフォニー~へとぉぉぉぉ―――~~~♪〟

 

 輝きの眩しさは鰻上りの勢いのまま強まり、シンクロして内で唄う装者たちの四重奏(うたごえ)も逞しく洗練されていき。

 

〝勇気こそが~~輝くんだよ――SHINING STARァァァァ―――~~~♪〟

 

 金色(かがやき)の中心から、黒竜の巨躯(すがた)すら視界から一時消え去るほどの光の衝撃波が放出され。

 

〝もっと高く~~太陽よりもた~か~くゥゥゥゥ―――ッ♪〟

 

 その異形の個体を、上空を支配していた曇天ごと、容易く吹き飛ばし、どこまでも澄み切った蒼穹が、露わとなった。

 

 

 

 

〝凄い……〟

 

 ところ変わり、二課のシェルター。

 ツヴァイウイングを代表する曲――《逆光のフリューゲル》を子どもたちと級友たちとともに送り届けた未来は、ドローンのカメラ映像越しに金色の閃光を目にし、咄嗟に両腕で目を覆いながら驚嘆する。

 自分たちの歌声でフォニックゲインと一緒に、戦場で唄い戦う〝親友(とも)〟たちへエールを届けるアイディアを提示した当の本人でありながら未来は……〝戦えない〟自分たちが、ここまでの超常的な現象を起こすことができた事実に圧倒されている中。

 

〝この……歌の前奏って?〟

 

 まだ光でホワイトアウトしている映像(モニター)と併設された、ドローンのマイクが捉えた音を発するスピーカーから、メドレー方式で次なる曲の前奏が流れ出した。

 昔からツヴァイウイングのファンだった未来は、その静かな曲調から始まるイントロの段階から、曲の正体を見抜く――聞き抜いた。

 

〝何処~までも飛んでゆける~~両翼が揃えば~~♪〟

 

 スピーカーから、朱音たち四人の合唱(うたごえ)が響いてきた。

 

「双翼の――」

「――ウイングビートだッ!」

 

 以前迷子になった困っていたところを未来が助けた兄妹の内の兄と、その歌の名を口にする――《双翼のウイングビート》と。

 

『みんな!まだ歌えるかな?』

「うん!」

「もちろんです!」

「こんなアニメみたいな奇跡!私たちでも起こせたんだったら、最後までとことん歌い切ってやるわ」

 

 陸自音楽隊による伴奏(サポート)を仕切っていた津村陸士長が、子どもたちとクラスメイトたちの、まだまだ歌える意志を〝チューニング〟し。

 

〝私も、私の歌声がみんなの羽根(つばさ)になれるのならッ――〟

 

 未来も心の内で、歌声を紡ぐ決意を固め直して。

 

〝やっと繋いだこの手は~~絶対離さな~~い~♪〟

 

 未来たちは装者たちとともに、再び歌い始めた。

 

 

 

 

 

 

〝離さ――なァァァァ~~~い~~ッ!♪〟

 

 翼のソロでその詩が唄い上げられた瞬間、装者のギアマイクが発する伴奏をバックに、光柱が収まり、輝きのベールで秘められていた――蒼穹の中を浮遊する朱音たちの勇姿が現わされた。

 四人とも、その身に纏うシンフォギアの色合いは青空の中心に鎮座する太陽の如き白と暖色を基調とした赫々とし。

 アーマーとスーツの形状もメカニカルから神秘さも感じさせるものへと様変わりし……何より一際目に付くのが、天使を連想とさせる神々しい光の翼。

 元より飛行能力を有していた朱音だけでなく、響も翼もクリスも、その光翼を以て《双翼のウイングビート》の伴奏が鳴り響く蒼穹を駆け、黒竜の周囲を旋回する中。

 

〝惨劇と痛みの~~癒えない記憶は~~♪〟

 

 朱音が、原曲では天羽奏が担っていた詩を、蒼穹と言う舞台(ステージ)に立って歌い。

 

〝夢でも呻くほど~~胸を刺す様~に~~♪〟

 

 次に翼が、原曲でも自らが担っていた詩を奏で。

 

〝互いの思い出の~~♪〟

〝写真は微笑み合っ~~て~♪〟

 

 クリスと響もこの歌の輪の中へと入り。

 

〝今日の「私たち」の~一瞬を~~表すかのように~~♪〟

〝重なる~~♪〟

 

 詩の一部をアレンジして歌う朱音に続いて、響と翼とクリスの三人の歌声が、詩の通りに重ね合う。

 宗教画を連想させる光景を創造して歌い続ける朱音たちを前に、忌まわしいと断じるかの様に口内にエネルギーを掻き集め熱線を放とうとする黒竜だったが、攻撃するどころか、次第に巨体全身を震え上がらせ苦しみ出した。

 

〝色の違う砂時計~~♪〟

 

〝「なぜ?」~と空を仰ぐ~♪〟

 

 装者たち当人と、未来たちと子どもたちの歌声が編み出した高濃度のフォニックゲインによって《限定解除(きょうか)》されたシンフォギアを纏う朱音たちの歌声は、世界の破滅を起こす寸前だった筈の完全聖遺物たちの暴走にすら干渉する域の音色(パワー)を発していたのだ。

 黒竜の全身は、レンズの焦点が合わないカメラの映像の如くぼやけ、先に触手たちが、一体、また一体と次々、砂状に姿かたちが崩れ落ちていく。

 

 

〝時は二度と~~戻らない~♪〟

 

〝変わ~らぬ~過去―――囚われるのは~もう~止めてぇぇぇ―――~~~♪〟

 

 詩がサビへと至る直前で、黒竜の胴体から、その巨躯を構成していた聖遺物の一角、

不滅の剣――《デュランダル》の柄が露わになった。

 

〝歌がッ~濁りを許さない~~両翼だけのムジーーーク~~♪〟

 

 四人揃っての四重奏でサビを歌い上げる朱音たちは、もがき蠢く黒竜と正面から相対する形で並び立ち。

 

〝空がッーー羽ばたきを待つよ~~逆光の先へ~と~~♪〟

 

 朱音と翼は右手を、響とクリスが左手を掲げると、各々の掌から放射されたフォニックゲインが、巨大な手を象り――同時にデュランダルが黒竜の肉体から完全に飛び出し、装者たちへ引き寄せられていき、四羽(よつば)の歌声の手が不滅の剣の柄を掴み取った。

 

〝どこまでッ――も飛んでゆける~~両翼が揃えば~~♪〟

 

 出だしの詩を復唱する装者たちに対し、デュランダルを失った〝破滅の黒竜〟は、巨体の内に残っている全てのエネルギーを口内に掻き集め、狙いを定める。

 

〝やっとッ――繋いだこの手は~~絶対~離さない~~♪〟

 

 朱音たち四人も、レイラインを通じて未来たちとともに歌い続け、デュランダルを天空へ向けて振り上げると、金色の両刃が輝き始め、切っ先から黒竜の全高よりも巨大な光の刃がそびえ立ち。

 

〝どんな――♪〟

 

〝ものでも――♪〟

 

〝超えて――♪〟

 

〝みせると――♪〟

 

《覚醒ノ旋律~SYMPHO RISER~》

 

〝今再び~誓うッ~~!〟

 

 黒竜の口より熱線が放たれたと同時に、〝光刃〟ごとデュランダルを上段から振り下ろした。

 

〝運命なんて~~ないことを~~♪〟

 

 激突し合う光刃と熱線。

 

〝この奇跡でッ―――示せッ~!〟

 

 光刃から光の奔流へと変わった、装者たちから繰り出された斬撃は、黒竜の熱線をいとも簡単に打ち破り。

 

〝生きることに~夢を―――〟

 

 

 デュランダルの刀身ごと光となった金色の奔流は、《破滅の黒竜》を完全に呑み込み。

 

〝諦めない~ッ! 夢を~~ッ!!〟

 

 装者たちが歌い終えると同時に……〝世界の破滅〟は、終焉を迎え……光と同化して、消滅していく。

 

「了子さんッ!」

 

 そんな中、響はあの光の奥にいる筈の〝彼女〟を助けるべく飛び出し。

 

「――ッ!」

 

 朱音もあの輝きの渦中へと、飛び込んでいくのであった。

 

つづく。

 




使用楽曲

・逆光のフリューゲル/『戦姫絶唱シンフォギア キャラクターソング1 ツヴァイウィング』より
・双翼のウイングビート/『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED キャラクターソングアルバム2』より

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