GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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着実に更新頻度が伸びていてほっと一息。

ただほんとは、当初だとsymphegazer(ライザーソード)ぶっぱまで一気に駆け抜けるつもりだったのですが、ベイバロンの、融合してる各聖遺物の性質を生かした能力描写、それをエクスドライブに頼らずにどう立ち向かうか?と今度は逆にアイデアがウハウハ出てまた尺伸びた(^^;)




#67 - 暴走する呪詛

 かつてリディアン音楽院が立っていたカ・ディンギルの残骸が散らばる大地は、すっかり冷静末期当時の人々が抱いていた悪夢のビジョンそのものな……黙示録(アポカリプス)が侵攻する光景へと変貌してしまった。

 ますます上空の暗色がかった雲海の黒味が増し、灰色と黄土色で彩られる乾き切った荒野のあちこちから火の手が上がり、立ち昇る黒煙は分厚い雲たちと組んで陽光を遮り続けている。

 古来より人々がイメージしてきた〝世界の終焉〟が、部分的ながら現実となった絵図の中で、私たちシンフォギア装者と、黙示録の赤竜――《ベイバロン》の巨体を纏う終焉の巫女――フィーネとの戦いは未だ終わらず。

 私は持前のプラズマジェットのスラスターで、翼とクリスは回転飛行する私の盾(シェルシールド)に乗って応戦し続ける。

 

《烈火球―――プラズマ火球》

 

「SHOOT~~♪」

 

 ライフルモードのアームドギアから連射する火球含め、完全復活を進める赤竜の肉体再生を少しでも遅延させようと……けれど高威力の攻撃はメルトダウン寸前の炉心となったデュランダルによって空前絶後の大災厄(カタストロフ)を招いてしまう為……装者(わたしたち)が敢えて出力を制限(セーブ)させた攻めを続けるしかない―――一方で、デュランダルの出力は秒刻みに鰻上って、それに比例して私たちの攻撃で傷ついた箇所が再生されるまでの時間も短縮されていく。

 おそらく宿主(フィーネ)たる〝櫻井了子〟の肉体が健在な限り……そのパワーアップも、肉体再生力も上限が無いだろう。

 向こうは圧倒的に持久戦に有利であるに対して、私たち装者はどこまでも不利だった。

 そもそも聖遺物の力を現代の技術で断片的に引き出しているに過ぎない《シンフォギア・システム》の正規品は、ノイズが出現してから自然消滅するまでの間に、対象の人間と心中する前に確実に殲滅する短期決戦型の対特異災害特化仕様の兵器であり……単純なスペックでは完全聖遺物に譲る上、長期戦に不向きなアキレス腱を抱えているのだ。

 

〝光を~~癒しの焔となり~~我が戦友たちを再起せよ~♪〟

 

 少しでもその弱点をカバーしようと、赤竜の体躯を形成し続けながら攻撃してくるデュランダルの光粒子(エネルギー)を防御と同時に吸収して、先程一度は奴を撃破した時と同様、翼とクリスに分け与える。

 だがこの芸当で戦友たちを確実に回復させるには相応の集中力と時間を要し……先程と違い、赤竜の絶えず繰り出される波状の猛攻を前に、常に飛び回って迎撃しなければならぬ私の現状では、戦友たちを癒し切る余裕など無い。

 なので相手の攻撃の微かな隙間を見つけては、雀の涙ほどの微々たる量のフォニックゲインを届けるだけで手一杯な上、連戦続きかつ持久戦に向かないシンフォギアの長期運用で、二人の表情(かおいろ)は目に見えて疲労で青みがかっており、息も歌声も消耗で乱れてきているのが、轟音が反響する戦闘の渦中でも聞き取ることができた。

 いくら回復手段があっても、休息する暇がほとんどないまま戦い続ければ、確実に蓄積された疲労で限界はくる……それは戦友たちだけでなく、櫻井了子(フィーネ)も然りなのだが、その巨体と咆哮から迸る膨大で禍々しい奴の激情が、完全聖遺物たちとの融合を固持させているのだろう………数千年分の時間をかけて怨毒と化した執念は伊達ではない。

 私が抱いた心証は大当りとばかり――。

 

「八岐大蛇かッ!?」

 

 翼が自身のギアーー《天羽々斬》が退治したかの日本神話で最もポピュラーな怪獣の名を咄嗟に口にするほどに、光の粒子が集まって先端に爬虫類の口と牙を生やした無数の触手が出現し。

 

『二人とも!一旦後退(さがれ)ッ!』

 

 胸騒ぎを覚えた私が二人に警告を発したと同時に、ほぼ一斉に触手の口から稲妻状の光線が発射された。

 不規則で鋭利な蛇行を描いて押し寄せる光線を前に、プラズマジェットの出力を上げてどうにか回避するも、全身に違和感が走る……空から地上へ一直線にしか走らぬ重力が、身体のあらゆる方向から押しかかってきたのだ。

 このままでは滞空する為の姿勢制御が乱れてしまう為、前世(ガメラ)の頃から用いてきたプラズマエネルギーの応用――《反揚力操作(リパルサーリフト)》の微調整で飛行状態を維持させる。

 触手どもが放ったこの稲妻……ネフシュタンの重力波を使った《引力破壊光線》かッ!

 

 

「何っ!?」

「ああっ!?」

 

 長年の飛行経験と勘で私は対応するも、飛び慣れていない翼とクリスは、糸も簡単に周囲の重力の乱れを前に甲羅(こうら)から振り落とされてしまう。

 

《烈火球・嚮導――ホーミングプラズマ》

 

 追撃させまいと、触手たちに牽制の火球を連射して私に気を引かせたことで地上に降り立てた翼とクリスだったけど……引力破壊光線の対処で気を取られている間に再生し終えていた赤竜の頭部(くち)から光線が二人に狙いを定めて放射された。

 

『アタシの後ろに下がれッ!』

 

 翼にギアマイクから警告を発したクリスは再びリフレクターを展開し、エネルギーフィールドで光線とせめぎ合い。

 

(朱音、私たちに構わず行け!)

(分かった!)

 

 アイコンタクトで翼からのメッセージを受け取った私は、赤竜の重力波攻撃対策に反揚力場(リパルサーリフト)で甲羅を自身の周囲に公転させる形で滞空させ、地表ギリギリまで一度降下した上でスラスターの火を盛大に吹かし、真紅の巨体へと突貫する。

 当然フィーネは赤竜の光線を照射したまま触手たちから引力破壊光線をこちらへ乱れ撃ち、ギアアーマー本体と甲羅(シールド)から放出される反揚力の調整で、雷鳴煌めく重力の荒波の中を突き抜け肉薄、竜の体躯に沿って急上昇しつつ。

 

《烈火斬――ヴァリアブルセイバー》

 

 腕部の刃(エルボークロー)で、再実体化されたばかりの赤竜の胴体を抉り切り上げ。

 先の撃破時に、フィーネがいる中枢を記憶している――この表皮の奥(むこう)!

 

《玄武掌――ハードスラップ》

 

 体内に衝撃を伝達させる浸透勁を用いた正拳を叩き込むと、確かな効果はあったようで、赤竜はフィーネの悲鳴を交えたうめき声を上げて光線の照射を止めたところで。

 

《烈火球・螺旋――スクリュープラズマ》

 

 ライフルモードの銃口から、燃焼力と引き換えに貫通力を上げた火球を放ち、赤竜の脳髄に風穴を開けた。

 再生が終わらぬ内に、赤竜の頭上まで上昇した私は足を上げ《蹴爪(カーフクロー)》を生やした踵を振り下ろし、二度目の浸透勁の衝撃を叩きつけ。

 

《旋律囃(せんりつそう)――フォニックビュート》

 

〝鎮まれよォォォォ~~終焉の傀儡たる~~赤き竜ゥゥゥゥーーーー~~~~♪〟

 

 頭頂に降り立った瞬間、手首よりプラズマエネルギーによるワイヤーを射出し、赤竜の口を縛り付け、解かせまいとレギオンの角をへし折った時を思い返して、シャウトスクリームを用いた歌唱でブーストを掛け、力の限り引き上げた。

 赤竜も私を振り落とそうと首を激しく旋回させるが、この程度の遠心力で目眩に苛まれる程、私の脳髄は柔ではない!

 

《MEGA DEATH FUGA》

 

 これらの攻撃を受けて尚再生が止まらぬ赤竜は完全に血肉を取り戻すも、今の時間稼ぎの間に、残った体力を掻き集めて大型ミサイルを生成し、構えるクリスは赤竜と接触している大地(あしもと)へと発射し、着弾したミサイルで地上は黄土色の爆発を上げ。

 

《千ノ落涙》

 

 さらに翼も疲労が溜まる身体に鞭打って、大量の剣の驟雨も流し込み、脆くなった地面が赤竜の自重に耐えられず陥没、頭部と長い首の付け根を境目に、巨体の大半を生き埋めにまでさせることができた――。

 

『舐めるなァァァァァァーーーー!!!!』

 

 ―――が、フィーネの絶叫とともに、ワイヤーを振り切って雄叫びを上げた赤竜周囲の大地が酷く震え上がる。

 これは、単なる地震じゃない……赤竜の重力波を帯びた荒れ狂う地の濁流であり。

 

「なっぁ……」

「ちきしょう……」

『翼ァァァーー! クリスゥゥゥゥーー!』

 

 疲労困憊の戦友たちはその場から跳び退くこともできず、足下に走った亀裂が起こす崩落に巻き込まれ、地中に埋め込まれてしまった。

 まだ胸部の勾玉越しに、二人のギアの《アウフヴァッヘン波形》のエネルギーを感じ取ることはできたものの、戦友の安否を確認し直す間も無く、地中から触手たちが芽吹き出し、私にめがけ攻撃を再開。

 

『ちぃっ!』

 

 上昇して躱すも、引力破壊光線の猛攻は一層激しくなり、接近もままならない中……赤竜は地上へと完全に再浮上した。

 触手どもの牙(くち)からは引力破壊光線だけでなく、クリスも使用したことのある重力球も群がって押し寄せる中、《ホーミングプラズマ》で撃ち合い、遠隔操作する甲羅から電磁シールドを張って光線を凌ぎながら、音速を突破する速さで踏み込み、ハルバードモードに変形させたアームドギアの斧刃(やいば)を斬りつけるも。

 

《ASGARD》

 

 フィーネ自身の能力たり……六角形が連なる形で張り巡らされたバリアが、斬撃を阻んだ。明らかに強度はネフシュタン単体との融合時より増している。ここまで堅固になられては……現状の私のレベルでは、攻撃を僅かでも押し通せそうにない。

 こうなれば――〝攻撃は最大の防御〟だッ!

 ハルバードの先端に、螺旋状のハンマードリルを備えたパイルバンカーを伸長させると、杭を高速回転に加え、電磁力による突進力を相乗させた刺突を叩き込み、バリアとの衝突で鮮烈な火花が豪勢に花開く。

 

『無駄なこと!今の我が盾を貫く術など貴様にないッ!』

『誰が貫くと言った!』

『何?』

 

《烈火球・黒雨(こくう)――レインフォールプラズマ》

 

 赤竜の巨体を取り囲むほどの広範囲の虚空に、小型レギオンの群体ばりに大多数の火球(プラズマ)を張り巡らせ、銃弾の如く回して降下し、バリア表面に爆炎の光を轟かせ、そうして生成と掃射を繰り返し。

 

《旋斬甲――シェルカッター》

 

 回転飛行する甲羅(シールド)の刃でバリア表面を刻みつつ、パイルバンカーによる突進をも続行。

 フィーネはバリアをドーム状に、胴体も触手も頭部も諸共、赤竜の全身を囲い込み、火球の乱れ撃ち、盾の斬撃、アームドギアの突撃の三重奏の猛攻を防いだ……だがこれでフィーネも、実質私への攻撃手段を失った。

 下手にその巨体では狭すぎる密閉空間の中で、重力操作を用いた飛び道具を遣えば、せっかく再生できた肉体への自傷、自滅は免れない……仮にデュランダルの暴発で爆発を起こしても、己が防護壁を張ったままでは酸素量の低下も相まって被害は自身にしか及ばない。

 かと言ってバリアを解除すれば、ハルバードの先端(パイルバンカー)は体内のフィーネごと確実に打ち貫く――勢いで私は、絶え間なく押し込み、火球も斬撃も絶やさず攻撃し続ける。

 

『確かに完全聖遺物と〝四位一体〟となったお前に、私一人では勝てないかもしれない―――が、負ける気も毛頭ないぞ!〝終焉の巫女〟ッ!』

『その為の〝度胸試し〟と言うのか!? 〝地球(ほし)姫巫女〟めッ!!』

『然りッ!!』

 

 先に倒れるのは私か? それともフィーネか?

 互いに譲らぬチキンレース。

 それが諦めの悪い私が、背水の陣にて選んだ勝負。

 これでたとえ……勝てなかったとしても、構わない!

 それがどうした!?

 

「お前にだけは~~絶対に負けられないッ~~~負けるわけにはいかないんだァァァァァーーー!!!♪」

 

 超古代文明語による歌唱で、私はフィーネに宣言を突きつけたッ!

 

『なぜだ!?なぜなのだッ!?』

 

 お互い譲る気は一切ない一進一退の攻防の最中、フィーネは赤竜の唸り声混じりに私へ、声音に〝理解できない〟と添えて、問いを発してきた。

 

『そうまでしてお前は、シンフォギアの模造品(まがいもの)なぜ戦い続けるッ!? 何を以てお前を戦場(いくさば)で歌いぬかんとする意志を貫かせているのだッ!?』

 

 どうも今頃になって……私がなぜ〝戦っている〟のか?〝歌っている〟のか?疑念が過り、解せずにいるらしい。

 いや、正確には……草凪朱音(わたし)と言う存在を知ってからずっと、心の深層(むいしき)で抱いていた疑問が、何度も私が奴の想定を超えたであろう行為を見せてきた積み重ねもあって、ここにきて表層意識まで急浮上してきた、ってところか。

 

『復讐か!? それとも地球(ほし)の代行者のつもりか!?』

『そうかもしれない……――』

 

 ある意味で、奴の言葉は私の在り方において、どちらとも的を射ている。

 私の心(むね)の内は、この瞬間にでも絶えず……私の大切な愛する家族の命を奪ったノイズへの復讐心を糧とした黒い炎が燃え続けている。

 この炎は……ノイズと言う存在そのものが完全に根絶されでもしなければ、生涯消えないだろう。

〝地球の代行者〟も、あながち間違いではない。

 この星そのものを神と定義するならば……私は〝神の力〟を預かりし者だ。

〝地球の意志〟が私に、前世(ガメラ)の能力をシンフォギアの特性を再現した上でこの力を授けた伺いし切れぬ意図は、幾つかあるだろうが……その内の一つは確定している――地球存亡の危機。

 事実フィーネは〝月を穿つ〟と言う未曽有のカタストロフで、この地球と、この星で生きる全ての生命を脅かそうとし、奴の凶行を止める〝抑止力〟として、この世界の地球の意志は、私に己が生命(マナ)の欠片を預けた。

 そういう意味で私は――〝地球の代行者〟――なんて身分を持っている身だ。

 だが――。

 

「――だが~~災厄に立ち向かう~~地球(このせかい)に生きる~生命(いのち)守護者(ガメラ)となることを~~選んだのは~~――」

 

 義務でも、使命でもない。

 誰に頼まれたわけでもない。

 まして、誰から押し付けられたわけでもない。

 力を手に取るのも。

 この世の、戦火(じごく)に身を投じる覚悟を決めたのも。

 災厄を齎す存在ならば、人外の〝異形〟だろうと、たとえ同じ〝人間〟だったとしても、戦う十字架を背負ったのも。

 何より、家族の願いに背を向けて――守護者(ガメラ)となる選択を取り。

 

「――~~私自身の~~〝歌〟だぁぁぁぁ~~―――ッ♪」

 

 決断を下したのは、他らない――自分だと、己の〝胸の歌〟なのだと、肉声(うたごえ)に込めて、歌い上げた。

 

『歌だとッ!?そのような理由で……〝安く取るに足らない命〟を守る為になどと~~私に立ち塞がり続けると言うのか!?』

『そんな戯言で切り捨てるなッ!!』

『なに!?』

 

 ゆえに、手前勝手に命を、取るに足らない価値などと決めつけるフィーネの傲岸を許すわけにはいかない。

 

『お前が誰より愛し続ける神――エンキは、たった一人でも、同じ神々が齎す災厄から、人類を守ろうと、立ち向かってきた、違うかッ!?』

『っ!?』

 

 赤竜の唸り声から、確かにフィーネが愕然とする声が聞こえた。

 現代にまで語り継がれた神話の内、どこまで真実か、定められる術はない。

 しかしフィーネの反応から、《旧約聖書六章・創世記――ノアの箱舟》のノアその人でもある、《アトラ・ハーシス》の叙事詩にて描かれていた通り、先史文明時代の人類は、神々(アヌンナキ)によって何度も滅亡の危機に瀕し、その度に肉親でもある同朋たちと、時には武力衝突の形で戦ってまでも、人々を守り続けた……〝愛していた〟……それは確かだ。

 

『終焉の巫女!お前のやっていることは、愛する神(エンキ)の御意思に対する、冒涜以外のナニモノでも無いのだぞッ!』

 

 この事実をはっきり突きつけたところで、数千年も積り、歪んでしまった……元は〝純粋な慕情〟だった筈の蛮行は、止められない。

 それでも……言葉にして送らずにはいられなかった。

 だってこれは……かつてアヌンナキが人類に対して行ってきた凶行同然にして、エンキの〝愛〟を踏みにじる……〝呪詛〟に他らない。

 だからこれ以上、お前の〝呪い〟に堕ちてしまった〝願い〟の為に、犠牲を……誰一人出させるわけにはいかないんだッ!

 

『よぶ……な……』

 

 パイルバンカーの火花が飛び散るマゼンタカラーの障壁越しに、赤竜の顔が震えを見せて俯いたと思うと。

 

『あの方と同じ〝眼〟で……あの御方の名を……口にするな! その口から歌を――放つぁぁぁぁーーーー!!』

 

 今まで発してきたのより甲高い、あのギャオスどもの鳥肌を立たせる奇声(なきごえ)に似た……けれどどこか悲痛さが際立つ咆哮を赤竜が上げた。

 直後――私とフィーネとの間に差し込まれていたバリアに、突然ひび割れ始める。

 今奴が張り巡らせていたバリアの強度は、赤竜の咆哮程度で壊れるほど脆弱じゃない……なぜ?

 ともかく、チキンレースであちらが先に根を上げた以上、敢えて膠着状態を維持する意味はない。ハルバード形態のアームドギアをプラズマエネルギーに戻して後退――すれば、まだ冷静な判断力をフィーネが持っていれば追撃してくるだろう。

 その前に先手を打って、少しでも時間を稼ぐ。

 

〝障害を穿つ槍と~~相成れ~~我が歌声よ~~♪〟

 

 ギャオスの忌まわしい異形を思い出したのを切欠に、私は奴らの技と、前世の自分の雄叫びをイメージに深呼吸、両手を向き合わせてプラズマエネルギーを球状に集束。

 

《超振動熱波――ヴァリアブルレリース》

 

「Rele―――ase―――~~~~!!!♪」

 

 叫び声をプラズマにぶつけ、高熱を携えた〝超振動波〟を放った。

 衝撃波(シャウト)は亀裂で強度が落ちた障壁を打ち破り、直撃を受けた赤竜が悲鳴を上げた次の瞬間。

 

〝~~~♪〟

 

 聞き覚えのある〝戦闘歌〟のメロディと、がむしゃらに真っ直ぐな歌声を聴覚が捉えた。

 

「朱音ちゃん!」

 

 上空を見上げると、赤竜の頭上目掛けて急降下するガングニールのギアアーマーを纏った響の姿を目にする。

 響は右腕を振り上げると、彼女の腕を覆うギアアーマーが大型化、肘に推進器を、拳にはナックルバスターを携えたジェットハンマーパーツへと変形し、そのまま落下の勢いを上乗せして相手の頭頂に拳打を叩きつけた。

 異形の頭部は丸ごと破砕され、首から下の赤竜の巨体は、その場で機能不全に陥った機械の如く、動態を停止した。

 

 

 

 

 先に地上に降り立った響の下へ、スラスターをゆっくり吹かせて降り立つ私。

 足先が瓦礫の山に触れた瞬間、戦闘で溜まった疲労で若干ふらつきかけたが、その程度で済んだ。

 初陣の時から課題だった《シンフォギア・システム》の短所たる体力消耗の度合いの高さは、鍛錬と実戦の積み重ねで大分改善されている。

 

「大丈夫なのか?」

 

 一度は暴走を招いてしまい、翼を傷つけてしまったショックも相まってでギアも纏えないほど心身が憔悴していたと言うのに、一転して戦線に復帰し派手な参上を決めてきた響に、容態を尋ねる。

 

「まあ……変身できるくらいには、何とかへいき、へっちゃらかな、朱音ちゃんは?」

「まだ立ち続けられるくらいの体力は、何とか残ってるよ、助かった」

 

 正直、これ以上親しき仲だった筈の〝櫻井了子〟と戦わせてたくなかった想いもあって複雑だけど……助太刀に来てくれたことに礼を述べた。

 

「朱音、立花?」

「戦場(てっかば)に戻ってきやがったのかよ、バカヤロー……」

 

 赤竜がまた再生して活動を開始するまでの間に、生き埋めになった翼とクリスを探そうと思ったが、その前に当人らは自力で地上に脱出していた。

 さっきまで瓦礫と土の中だったのもあり、アーマーとインナースーツ含めたスーツ二人の全身は煤だらけだ。

 

「クリスちゃん!?」

 

 クリスの無事な姿をここでようやく直に目にできた響は、彼女に駆け寄って手を握る。

 

「絶唱を歌ったのに……大丈夫なの!?」

「人の心配する余裕あんならちったあ自分にも労らえってのバカ……でもまあその、あんがとよ」

「よかった……」

 

 照れ顔を見せるクリスに安堵して笑みを浮かべた響は、次に翼の方へと目を向け、一転してその顔を曇らせる。

 

「翼さん……わたし、翼さんに……」

 

 先の暴走で襲い掛かってしまった件で、罪悪感に暮れる響に対し。

 

「詫びなくていい、言っただろう?謝るべきは〝私たちの方〟だと」

 

 これ以上響の気を病ませまいと、温かく気を利かせ。

 

「謝るっ――つ~ったら、アタシもまだ言ってなかったな……」

「クリスちゃん?」

「この前は悪かった……ひでえこと言った上に、友達を巻き添えにしちまって」

 

 クリスも、フィーネの傀儡だった頃に、響からの言葉を拒絶して糾弾し、未来たちをも戦闘に巻き込んでしまった一件のことで、この場で謝意を示す。

 

「そういうことだ、むしろ何度手折れようとも、その度にこうして這い上がることができた立花のその強さに、胸を誇ってあげることだ」

「っ……はい」

 

 二人からの思いやりに、響の……無自覚に強い〝自己否定〟を抱えている人一倍繊細な心はようやく一時の安らぎを得て、笑顔でこっくりと頷き返した―――ところで。

 

「まだ、粘ってくるか……」

 

 なんて、しぶとさ。

 私たちの間に流れていた温もりのある静謐を打ち破る形で、三度赤竜の咆哮が、大地と虚空を震え上がらせてくる。当然、響のパンチを受けて破壊された頭部ごと、肉体は再生し終えていた。

 けど……なんだ?

 今の赤竜の巨体からは、さっきまでは感じなかった違和感が過ってくる。

 

『遠い昔……あの御方の想いを人々に伝える巫女(よげんしゃ)であった私は……いつしか愛するようになった』

「なっ――なんのつもりだフィーネ!?」

「こ、ここに来て惚気話か!?」

 

 唐突に発せられる……終焉の巫女の告白。

 

『だが……この胸の内をあの御方に告げる前に……人類から《統一言語》が……神々と語り合えるたった一つの方法が……奪われてしまった』

 

 いや、独白(モノローグ)か……奴の言葉は私たちに向けたものじゃない。

 

『私はずっと……たった一人……《バラルの呪詛》を解き放つ為に抗ってきた……』

 

 胸騒ぎを肥大化させていく違和感は……確固たる異変へと相成る。

 フィーネの声は、櫻井了子の肉声を、原型も面影がも完全に消え去るほどに……変化し、歪み、雑音混じりになっていき――。

 

『いつの日かもう一度……この胸の内の想いを届けたかった……ただ――それだけだったぁぁぁぁぁーーーッ!!』

 

 赤竜の口から、悲鳴にも似た痛々しくも……背筋に鋭利な悪寒が走るくらい、おどろおどろしさがさらに増して喚かれる雄叫びを、曇天に向けて発せられた瞬間……その巨体の足下を端に、赤黒く淀んだ……〝破壊衝動〟に蝕まれた時の響と全く同じオーラが――。

 

「おいおい待てよ、これって……」

 

 咆哮を放ち続ける黙示録の赤竜――ベイバロンの全身を染め上げていく。

 私はさっきの、奴の鉄壁の障壁が突如脆くなった理由を悟る。

 フィーネがあのバリアを扱えると言うことは、明確な自我で完全聖遺物たちを制御していたと言うこと。

 それができなくなったことが意味するのは、即ち……完全聖遺物が奴の手から離れ、逆に浸食しようとしていたに他ならない。

 

「まさか……」

「了子さん……そんな」

 

 目の前で起きている異変(げんしょう)を前に、私たちは目が離せないまま……戦慄する。

 

「暴走……」

 

 かつて、櫻井了子と言う己が子孫の魂を塗りつぶし……完全聖遺物と融合した自身を〝新霊長〟と称し、ガングニールの暴走のトリガーを引いた響を嗤った終焉の巫女は、皮肉にも……〝破壊衝動の化身〟へと、その身を貶めてしまった。

 最早……奴自身が……〝呪詛〟そのものであった。

 

つづく。

 




当初はXDUでの『先覚の協力者』同様ベイバロンを暴走する予定なんてなかったのですが、書いている内に『原作以上に長期間完全聖遺物三つと融合している以上、何も起きないわけない』『エンキが呪詛を発動しなかればならなかった事情を知らぬまま、〝一人〟で抗い続けて願いが歪んでしまった成れの果て』を描こうとして、こうなった(コラ

掘り下げれば掘り下げる程、了子さんは『悲しい悪役』です。
しかもバラルを解除できたらその時点でバッドエンドまっしぐらなのですから。

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