GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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お待たせいたしました最新話。

ガメラたちは子どもの味方な昭和の初代から、一度攻勢に出たら徹底的に敵怪獣を叩くフルボッコ反撃タイムがございますが、平成ガメラな朱音も負けじと、とても荒々しい戦いぶりになってしまいました(苦笑(アハハ(;^ω^))

無論、オリ技の新技もたっぷりございます。


#62 - 守護者~ガメラ~の猛攻

〝来るよ――ガメラはきっと来るよ〟

 

「はっ! うっ……まぶっ……」

 

 突然、意識と一緒に開いたアタシの目は、いきなり入ってきた光の眩しさを受けて、咄嗟に瞼を閉じた。次はそっと開けて、目が光とピントを合わせたところで、テントの天井と、ぶら下がった電球を捉えた。

 少なくとも、ここは天国では無く、アタシはちゃんと生きている。その証拠に、寝そべったまま辺りを見渡すと、自衛隊と多分一課の方の特機の連中らしい大人たちがいた。

 けど………どうやってここへ?

 覚えているのは、イチイバルのリフレクター機能で、絶唱で大型化したアタシらのアームドギアを浮かせたまま、エネルギーを放射したまま、アタシは朱音(あいつ)に抱き付かれた状態で雲の中に落ちて行った………ところまでだ。

 それに………絶唱のバックファイアで全身のどこもかしくも激痛で軋んでいた自分の身体には、傷らしい傷が見当たらない………血だらけだった口の中からも、血生臭さは一切消えていて、まだ体力は戻り切っていなかったが、普通に起き上がることはできた――。

 

〝~~~♪〟

 

 ところで、朱音(あいつ)から貰い受けた腕時計(スマートウォッチ)から着信音が鳴り出したので、タッチパネルを出して操作してみると。

 

〝雪音クリスさん。草凪さんからの提案で、メールにて連絡しております――〟

 

 一課の人間の一人らしい野郎(名前は津山らしい)のメール文を見た。そいつから伝えられたことは、カ・ディンギルは月をぶっ壊す前に破壊されたこと、朱音がアタシをこの一課のキャンプに送り届けたこと、今の自分の身体と同じく絶唱を歌ったのにピンピンとしてたらしく、そのままフィーネの野望を止め、装者(なかま)を助けるべく鉄火場へとおっとり刀で飛んでいったとのことだ。

 でも………鉄火場からそれなりに離れているここでさえ、小さい頃から何度も味わってきた〝戦火の緊張感〟で、肌がピリピリする感覚から………まだ戦いは終わっていないことに気づく。

 こうしちゃいられねえ………もう休めるだけ休んだ。

 

〝ガメラが私たちの為に戦っているのッ!〟

 

 不意に、アタシと歳が近い以外は誰のものか分からない誰かの声が、脳裏に響く。

 けど分かることもある。

 あの言葉の主の言う通り、朱音――ガメラも、装者(あいつら)も、カ・ディンギルを破壊されながらも悪あがきを続けるフィーネと止めようと必死に戦っているんだって。

 ならアタシだけ呑気にこれ以上、お寝んねできるわけがねえ。

 腕に付いていた点滴の針を思いっきり抜き、アタシはベッドから飛び出した。

 

 色々やらかして……この事態を招いてしまったバカヤローの一人なアタシだけど、今鉄火場へ飛びこもうとしているのは………過ちの清算だけなんかじゃない。

 アタシにだって――〝守りたいもの〟――があるって歌(きもち)が、あるんだよッ!

 

 

 

 

 

 

「え……エンキ?」

 

 カ・ディンギルを破壊された憤怒、憎悪、憂き目を私と立花やシェルターに隠れている司令たちにまで及ばぬ様、敢えて挑発的に振る舞う朱音の口から発せられた、メソポタミア文明の神話の神々――アヌンナキの一人らしい神の名を、私がふと呟いた矢先。

 

「神の残滓でしかない貴様ごときが………〝あの方〟の名を気安く――口にするなぁぁぁぁぁぁーーーッ!」

 

 敢えて逆鱗に触れようとした戦友(とも)の思惑通り、激情に駆られたフィーネと――米国暮らしと洋画鑑賞で鍛えられたと思われ、抜き身の剣だった以前の私もまんまと術中に嵌められたことのある皮肉の利いた偽悪的な口調に反して、凛と雄々しい後ろ姿を見せる朱音は――同時に、大地を抉る勢いで疾駆。

 先手を取ったのは、先程私たちに八つ当たりを与えていた時以上に激昂して美貌を歪めさせているフィーネ――が振るう、ネフシュタンの鞭。

 対して地上からすぐ上の低空を跳び進む朱音は、二振りの鞭の初撃を躱すも。

 

「逃がさんッ!」

 

 初撃は囮(フェイント)、回避した瞬間を狙って、今度は六つの鞭の刃が朱音の周囲の八方を塞いて取り囲み、そのまま彼女の血肉を引き裂こうとする。その速さは、今まで振るわれたものと比にならぬ程。

 

「朱音!」

 

 思わず朱音の名を叫んだ……私の瞳は確かに目にし、そして聞こえた。

 

〝甘い〟

 

「迫る危機~~なればこそ~~馳せ続けろ!♪」

 

 凛と精悍に歌い続ける朱音の口元は不敵に微笑み、その表情から発せられた朱音の意思(ことば)……刹那、宙を周りながら紙一重で鞭の凶刃を全て避け切り、急加速。

 

《邪斬突――エルボークロー》

 

 前腕部のアーマーから伸びた三つの刃で、フィーネの喉笛を裂いて切り抜ける。奴の首から血が盛大に噴き出すも、即座に再生されるだろう。

 だが治癒されるまでに、朱音が次なる攻撃を仕掛けるには十分な時間だった。

 フィーネの背後で、背を向ける体で着地し。

 

《邪斬旋脚――レッグシェルスラッシュ》

 

 両足に炎を纏わせて振り向きざま、ネフシュタンの鞭を生やすフィーネの背部へ旋風脚の二連撃で鞭の根元を奴の血肉ごと抉って破壊し。

 

《邪突撃火――》

 

「――ブレージング~~スティンガーァァァァーー~~♪」

 

 足全体を覆う炎をさらに燃え上がらせ、続けざまに上段前蹴りを叩き込み、直撃を受けたフィーネは吹き飛ばされ、瓦礫の山へ灰塵の花を咲かせ激突させられたと同時に爆発の火焔が派手に舞い上がった。

 機器に頼らずとも、その戦いぶりを肉眼で拝むだけで分かる………朱音の歌声から迸る強大で凄烈なフォニックゲインと、それを繊細にして剛胆に御して完全聖遺物を圧倒する、磨かれた彼女の己が戦闘技術を……。

 実際はほんの数瞬の間に起きたことだと言うのに、鮮烈過ぎて私の瞳はスローモーションで友の勇姿(たちすがた)を捉えていた。

 そんな私をよそに、朱音はまだ爆炎が治まらぬ爆心地へ………以前、脳裏に過った前世(ガメラ)の映像を思い出させる鋭利な眼(まなこ)で見据えたまま、片足を下げると、背部周辺にて陽炎を起き始め――たかと思うと、なまじ友を見詰めていたのもあって、視界から消えたと思わせる程の速さで、彼女は疾駆。

 

 この時の私では朱音のあの瞬発力の絡繰りなど掴めなかったが、後に立花が披露したアンカージョッキを参考に、飛行の際に使用するギアの反揚力浮遊システムを応用し、背後の空気を圧縮――から開放した反動で短距離を一瞬で移動する加速法だった。

 

《参連熱爪――ドライフォトンクロー》

 

 炎が鎮まった爆心地へ、朱音は手甲から生やした赤く熱する三つの爪で、爆発の残り香たる灰色の煙を、左切り上げの軌道で振るう。

 

「っ―――!」

 

 いや……正確には、煙の渦中にいたフィーネの腕を両断したのだと、口を大きく上げた奴の濁音混じりの悲鳴と、激痛で皺に塗れた面持ちから察した。

 フィーネの金切り声がまだ残響されたまま、朱音はもう片方の腕からも三振りの爪を伸ばして相手の下顎を突き上げ、脳髄ごと刺し貫く。

 まさに狩りの技術を磨いた手練れの肉食獣が、一瞬で獲物を仕留める如くの、早業にして、御業だった。

 しかし……今の攻撃すらもネフシュタンはフィーネを再生し、蘇生させる。

 ゆえに、朱音のさらなる猛攻が続く。

 フィーネには、朱音のプレズマ火球すらも防ぐ鉄壁の障壁を有しているが………〝泣き処〟は無いわけではなかったと、私も先の戦闘で見抜いていた。

 それは幾つかあり、形成するまでに僅かだがタイムラグがあり、即座にかつ安定した出力で張るのに最も適しているのは手……その暇の隙を突き、障壁を生成しようとした手を、前腕両腕ごと切り裂いた。

 加えて、いかな鉄壁の防御力を持っていると言えど、手から発した障壁で相手の攻撃を凌ぎ切るには腕を伸ばす必要となり、朱音は櫻井了子(フィーネ)の腕のリーチよりもさらに間合いを詰めた肉弾戦(インファイト)を敢行し始めた。

 意識を取り戻したフィーネの側頭部越しの脳髄に左腕からの肘当て、首の側面へ右手の手刀を当て、私がいる場所からも骨が砕ける音が大きく響き、続き左足で足首を折り、右脚の膝蹴りであばら骨を粉々にし。

 

《烈火斬――ヴァリアブルセイバー》

 

 赤熱化した前腕の刃がまた喉を掻き斬り、手甲の三爪が額から後頭部を貫きフィーネの意識を再び奪った上、爪を生やしたまま中国拳法詠春拳の技の如き、残像すら描く拳打の乱撃を見舞わせ、相手の胴体は火傷と痣に溢れていた。

 先に朱音に切り裂かれた腕は再生こそしているが、その進行は明らかに遅くなっていたのが私の目でも読み取れた。

 これはネフシュタンの再生力も、決して万全ではない証左………高熱の刃で斬られて傷が火傷で塞がり凝固したことで、再生に遅れを来していたのだ。

 ここまで緒川さん、叔父様(しれい)、装者(わたしたち)と連戦が続いていたことを踏まえても……己が肉体と同化したと言う完全聖遺物の再生能力も追いつかぬ朱音の、激しくも力任せで闇雲なごり押しではない、人体の急所とネフシュタンの弱点を正確無比に突いた猛撃の数々を、フィーネは、奴は呻くことも喚くことも叫ぶこともできず一方的に受け続けられている。

〝攻撃が最大の防御〟とは、今こうして朱音が繰り出している攻め方を差すのだろう。

 首元への掌底を、鎖骨が砕ける音と共に貰い受けたフィーネだったが、どうにか意識を取り戻せたか、あるいはフィーネの感情に呼応してネフシュタンが自ら起こした行動か、相手が攻撃をした瞬間と距離ができた隙を狙い、再生し終えた鞭二振りで背部から朱音の胴体を串刺しにしようとする。

 

「後ろだッ!」

 

 大声で警告を朱音へ発した私だったが………朱音は反撃を先読みした上で、わざと距離を離したと、背を向いたまま、蛇腹鞭の切っ先をくるりと舞って回避すると同時に握りつぶす握力で掴み取った様から、感付く。

 

「穿ち抜け~~!♪」

「ぐぁっ……」

 

 そして逆に、意識を取り戻したばかりのフィーネの胴体を、鞭の刃で突き破り、フィーネの口から、腹部から、夥しい血が吐き出され、瓦礫が散らばる大地に不格好な血の水たまりができたところへ、障壁も貼らせまいと三爪でまた奴の両腕を断ち切った。奇しくも叔父様(しれい)は一度奴を追い詰めながらも、自他ともに認める〝人の良さ〟と言う弱点を突かれて串刺しにされた為、ある種の意趣返しとなった。

 どうやら今の一撃で、骨髄ごと穿たれたらしく、血だまりに力無く膝が付かれるフィーネは、疑念と困惑と驚愕が混ざり合う顔つきを表して呟く。

 

「ま、なぜだ……ネフシュタン……ぐぅ……」

 

 ネフシュタンは侵食活動でフィーネを苦しめこそすれども、フィーネが負った蛇腹鞭が突き刺された腹部の傷も、切断された腕の火傷も、一向に治癒しようとしないのである。

 先程まで、何度致命傷を負わせても瞬く間に再生させていたと言うのに……なぜだ?

 私でさえ、疑問が胸の内に渦巻く中。

 

『自己矛盾によるエラー、これは賭けだったが、案の定のご覧の通りさ』

 

 エコーが混じった朱音からのの通信(こえ)がきっかけで、櫻井了子(フィーネ)に起きた現象の理由に、おおよその見当がつく。

 前にフィーネの傀儡だった頃の雪音と交戦した際に朱音が提出した報告書では、ネフシュタンの鎧は、担い手が負った傷を癒すのと引き換えに、肉体を侵食するデメリットがあると記していた。

 自ら鎧と同化したフィーネも例外ではないだろう、むしろ聖遺物との融合をさらに進めて、奴が自称した〝新霊長〟とやらに上り詰めようとしていた筈だ。

 だがネフシュタンのその機能に、落とし穴があったとしたら?

 ネフシュタン自身の武器で使用者が負傷したことで、融合侵食を引き換えとした再生能力が――〝自分で自分と同化しようとする相手を傷つけた矛盾〟――陥った影響で何らかの機能不全を招いたとしたら……説明はつくし、朱音も直にネフシュタンの侵食を見たことで、その弱点の可能性を導き出したのだろう。

 実際にそうであったかは、朱音としても賭けだったが、彼女の推理は見事に当たりを引いた。

 これは私たちの現代(じだい)の文明からは魔法にも等しい超常的な能力と有するオーバーテクロノジーの塊である完全聖遺物といえど、道具であることに変わりない事実。

 前世は生きた完全聖遺物も同然の怪獣ガメラだったからこそ、聖遺物の力は強力ではあっても〝完璧〟ではなく、欠点は抱えている可能性を推し量り、自身が生きていた先史文明時代のテクノロジーを過信していたフィーネの虚を突き、ここまで追い詰めたのだ。

 

『せっかく慎重に丹念に悲願とやらを進めておきながら……ギアと同化した響に目を奪われ計画の実行を前倒しにした、それが破算に繋がった因果(ミス)の一つだよ、終末の巫女』

 

 歌唱し続ける朱音は、勾玉(マイク)からの電子音声で、月ごと〝バラルの呪詛〟を破壊する計画が失敗した理由の一端を相手に突きつけ、拳銃形態のアームドギアを生成し、フィーネに銃口を向けたが――。

 

「まだだ!」

 

 ここまで朱音に圧倒され尚、フィーネは戦意を失っておらず、朱音が引き金を引く前に上空から飛行型ノイズを呼び寄せ(あのライブの日と、ここ数か月の異常なノイズの出現数を思い返すと、フィーネはソロモンの杖を使わずとも、ノイズを召喚すること自体はできるようだ)、体当たりを仕掛ける。

 咄嗟に朱音は後方へ飛び退きながら、銃弾を放った。

 朱音とフィーネの間に、空から急降下して来た飛行型が盾となったが、弾はノイズを容易く貫通し、奴の額の中央に命中――。

 

《NIRVANA GEDON》

 

 ――したが、直前に胴体を刺し貫いていた鞭は、先端の刃から飛ばされた重力球の勢いで引き抜かれた為に、ネフシュタンの再生機能が回復し、ここまで朱音から与えられたダメージは全て治癒されてしまう。

 これで実質、戦況は振り出しに戻り――飛行能力を持つ朱音とフィーネは、上級へと飛翔、戦闘の場を空に移し、二人の戦いは第二幕へと移った。

 

 

 

 

 まだ蒼穹を覆い尽くす灰色の雲海の下、現代に蘇りながらも穿たれ落ちた巨塔(カ・ディンギル)の四周の上空で、二つの軌跡が、交差し、衝突し合う。

 朱音のシンフォギア――ガメラの杖(アームドギア)と、フィーネが纏うネフシュタンの蛇腹の剣、両者の得物は幾度も激突を繰り返していた。

 

「繰り返す悲劇~~この輪廻もまた~人の本性(さが)と~背けられぬ真理」

 

《灼熱斧刃――ハルバードバーニングエッジ》

 

 ―――が、ハルバード形態となった朱音のアームドギアの穂先から鮮烈に煌く暁色の豪火(プラズマ)の斧刃が繰り出す強烈な斬撃たちは、ネフシュタンの蛇腹すらも両断、粉砕した。

 

「くっ!」

 

 忌々しいと言う情動を隠しもせず面持ちに表すフィーネは舌打ち、急ぎ朱音から後退して距離を取る……終わりの巫女にとってはその行為すらも屈辱的だった。

 

〝なぜだ!? なぜこの紛い物如きにッ!〟

 

 完全聖遺物と融合した自身が、自ら生み出した玩具(シンフォギア)の模造品でしかない《ガメラ》に、なぜこうも後れを取らされる?

 なにゆえ紛い物が鳴らす〝歌〟に、圧倒され続けられている!?

 胸の内で蠢く疑念を晴らす解答を導くことも、止まらず絶えず荒ぶる乱脈を抑える術も見つからぬまま。

 

《NIRVANA GEDON》

 

 後退の速度を緩めず、再生し終えた蛇腹鞭たちの先端に多数の重力球を生成し、何十発ものの数で以て、乱れ撃ち出す。

 一方朱音は、フィーネとの一対一の戦闘が開始してより容貌に浮かべていた凛然にして不敵な面構えを崩さぬまま、ギアアーマーの各スラスターを点火し、重力球の弾幕の向こうにいる〝災禍(てき)〟へ、急加速して疾駆。

 強力な重力で対象を引き寄せ、容赦なく捻じり切った挙句に爆発し呑み込む、凶悪な漆黒の弾頭の数の暴力、しかも今回放たれた全てに誘導力も持ち合わせていた重力球たちは、迫る標的に対し一斉になだれ込み。

 さらにフィーネからも新たに、弾頭の生成と投擲の繰り返してその数は急増し、朱音を撃ち落とさんと襲い来る。

 

〝バカな……〟

 

 しかしフィーネの胸中から、この戦闘が始まって何度も零れた言葉が、またしても漏れた。

 朱音と〝ガメラ〟から発せられるフォニックゲインは、尚も質も量も密度も上昇し続け、それに比例し、飛行速度も機動性も飛ぶ鳥を落とす勢いでうなぎ登る。

 曇天の下で輝く炎(ひかり)となった朱音は、重力球の群体を上回る超高速を維持したまま弾幕を巧みにすり抜けていき、同士討ちする弾頭たちが続々と自滅の花火を上げる。

 

《烈火球・嚮導――ホーミングプラズマ》

 

 尚も追いすがる残る重力球も、〝ガメラ〟の火球たちに迎撃され、撃ち落とされていった。

 フィーネは全速力で、肉薄する朱音から離れようと全速力で退こうと試みるも、最早ネフシュタンの飛行力では逃げきれない、蛇腹鞭でもまともに捉えきれぬ速さ。

 ならば最早、己が〝盾〟が頼りだった……幸い地上での戦闘と違い、張り巡らせるまでの距離と猶予があった。

 

《ASGARD》

 

 障壁を張ろうとしたフィーネだったが――。

 

『どこを見ている?』

 

 突如、正面から迫り来ている筈の朱音の声が背後のすぐ傍から聞こえてきた。

 迂闊にもその声に意識が向かれたフィーネが振り向いたが、確かに気配ごと感じたと言うのにそこには虚空だけ。

 

「Jesus(ちくしょう)! どこへ行った!?」

 

 それどころか、朱音の姿自体、この広大な上空の中で、見失ってしまう。

 

〝~~~♪〟

 

 程なく、朱音の歌声が、フィーネの周囲四方八方から響き出した。

 絶えず歌声は発信場所も距離も変化する上に、複数から同時に鳴り渡る為、フィーネは混乱させられる。

 朱音の場所どころか、どこから攻撃が来るのかも把握できない中――正面の目と鼻の先にて朱音が現れ。

 

「Recei~ve~♪」

 

〝受け取れ〟と奏でた宣言通り、朱音はフィーネへ胸部に左腕からの肘鉄、下顎に右手からのアッパー、さらに頭突(ヘッドバッド)を見舞い、すかさず背後に回り込んで前転の勢いを相乗させた踵落としを脳天に叩き付けると、素早く距離を取った。

 

 

 

 

 

 

 地上にいる私からでも、フィーネが空中戦を選んでしまったのは致命的な失態だと言うことが見て取れた。

 怪獣としても、シンフォギアとしても――ガメラには飛行能力があり、朱音は前世込みで飛行そのものと空中戦闘の経験を豊富に持っている、そんな友からすれば空は自分の庭も同然。

 さらにどうやら、朱音の脳波で、常にフィーネの視界の死角となるよう巧妙に操作されている火球たちにはスピーカー機能もあるらしく、上空は何重にもエコーのかかる朱音の歌声が轟き、奴は狩人が仕掛けた罠だらけの地に追い込まれた獲物同然に、ネフシュタンの飛行能力を扱えぬまま漂い、翻弄されている。

 自身に有利な状況下で朱音は、反揚力システムとジェット推進を兼ね備えた飛行術で一撃離脱を繰り返し、視線が定まらぬフィーネを圧倒している。

 フィーネの憤怒の猛撃に晒されていた私たちの危機に駆け付けた時から、朱音は奴に負けはしない確信を持っていたけど、自分の想像を超えて友は、完全聖遺物と同化した終わりの巫女相手に、有利な戦況を維持し続けていた。

 担い手自身の戦闘能力の差と、扱う聖遺物に対する練度の差も理由の一つではあるが………もう一つ挙げるとすれば――。

 

 

 私達の時代からすればオーバーテクロノジーの塊である完全聖遺物は、確かに申し分のない強力な武器。

 然れども、私は両者の戦闘を見続けていて気付いた。

 なまじ〝完全〟であるがゆえに、完全聖遺物は定められた機能を超えることはできない。

 

 一方で、櫻井了子とフィーネ、この二者が聖遺物の欠片より生み出されたシンフォギアシステム。

 起動は無論、使える人間自体も限られ、十全に扱うには常に歌い続けなければならず………その上〝歌う〟以上、装者(にないて)の精神状態に左右され易い………事実私もそんなギアの欠点を幾度も味あわされてきた。

 だが……〝歌〟を戦う力に変えるシンフォギアの機構は、弱点であると同時に完全聖遺物にはない〝強味〟でもあった。

 装者のコンディション次第では、カタログスペックは無論、創造者自身の想像をも超える力を引き出せる。

 

 朱音曰く〝地球の意志〟が模倣した異端の出自とは言え、彼女の〝ガメラ〟も紛れもなく〝シンフォギア〟。

 その上、自身の前世の力を宿し、鍛え上げられた己自身をさらに磨くことを常に欠かさず、何より〝歌〟をこよなく愛し、災厄から〝守る為に戦う〟意志(おもい)の熱量を上げ続けている朱音ならば――見方を変えれば定められた能力を超越できぬ完全聖遺物と同化したに過ぎない、シンフォギアを玩具と揶揄したフィーネ相手に――生みの親が予想もしていなかった技術と能力を以て、ここまで有利に立ち回り、猛攻で追い込んでいるのも頷けた。

 

「さあいざ見せよう~~我が歌の炎を~~♪」

 

 ジャズの如く状況によって幾重にも変化するガメラが奏でる伴奏と、朱音が歌い上げる詩――が合わさった〝音色〟が、一層の盛り上がり、転調。

 ここまで空戦技術を惜しみなく生かした、搦め手の高機動戦術から一転、フィーネと真正面から対峙し、真っ向から突貫する挑発的と言える手を決行し始めた。

 明らかに〝大技〟を、お披露目する気だ。

 

「この期に及んで舐めた真似を見せるかッ!? 〝地球(ほし)の姫巫女〟ッ!」

 

 幾星霜を掛けた悲願を打破された上に、〝新霊長〟となった筈の身でありながら、奴から自らの産物(シンフォギア)の模造品を纏う朱音に手玉を取られ続けてきたことで、フィーネは完全に冷静さを失い。

 

《ASGARD・TRINITY》

 

 朱音の次なる攻撃を、正面切って防御する形で打ち砕こうと、六角形状の障壁を三重に形成し、ネフシュタンの鞭たちを網目状に盾を宙に固定させて待ち構える。

 奴と言う名の〝障害(かべ)〟を超えてカ・ディンギルを破壊する機会を掴み取る為の囮(フェイント)に、絶唱による高機動の絶刀(れんげき)を選択したのは間違いではなかった。

 現状の私と天羽々斬の攻撃手段では、絶対防御の域に達したあの盾を破ることはできなかっただろう。

 この万全の防護に対し、朱音はどうする気か?

 傍からは真っ向勝負に挑む気で、三重の障壁めがけ突撃の勢いを緩めぬどころか一層、虚空を疾駆する速さを引き上げ。

 

《流星ノ焔雷撃――バーニングメテオブレイク》

 

 右足に稲妻迸る猛火を帯びた跳び蹴りと言う名の朱音の矛と、フィーネの盾が激突、曇天の地上を眩く照らす閃光が一瞬迸ったのを経て、巨大な火花とエネルギー波を散らしてせめぎ合う両者。

 いけない……いかな朱音の炎(フォニックゲイン)でも、あの三重の盾は強固過ぎる……真っ向勝負ではいずれ根負けしてしまう。

 フィーネも気づいた様で、歪んだ嘲笑を浮かべた最中。

 

『デェアッ!』

 

 朱音は盾と押し合ったまま反揚力の突進と、スラスターの出力上昇を同時に敢行し、右足から発せられる雷の輝きが増した。

 直後、フィーネの全身のありとあらゆる表皮が裂かれ、鎧(ネフシュタン)は派手に飛び散った多量の鮮血に染められ。

 

「Ahaaaaaaaaaaaa――――――ッ!」

 

 激しい疼痛を受けたらしい咆哮が、辺り一帯へ隈なく反響した。

 今のは、叔父様譲りである中国拳法の発勁の御業。

 対象に接着した零距離から、強力な打撃を放つ寸勁と、衝撃を相手の体内に注入させる浸透勁、さらに雷撃も加えた重ね打ちで、フィーネの全身の神経が寸寸に撃砕され、障壁は固体からエネルギーの気体に霧散していく。

 障壁の強度の保持と肉体再生を促す電気信号を送る為に必要不可欠だった神経が断裂されたことで、ネフシュタンの治癒機能はまたも不全に陥った。

 

「巨悪の災禍よ~~その身に刻むといい~~――」

 

 元より朱音はこれを狙って陽動の蹴りを放った………そして自ら掴んだ機会を逃す友ではなく、今度は右手に炎雷(プラズマ)を集束。

 

「バニシングソードォォォォォーー~~――」

 

 右腕を覆うプラズマは、ガメラの面相となり雄叫びを上げ。

 

「ファンガァァァァァーーーッ!」

 

《爆熱豪砕牙――バニシングソードファンガー》

 

 朱音、渾身の豪打が、フィーネへ盛大に打ち込まれ、炎(ガメラ)は奴の身を呑み込んだまま………辛うじてそびえ立ち続けていた満身創痍のカ・ディンギルの外壁に衝突。

 今の一撃で生じた激震が決定打となり、天を仰ぎ見る巨塔は、異名の通り天へ火山の噴火の如く火炎を放出しながら崩壊し……大地を震撼させて完全に倒壊していく。

 

「勝った……」

 

 私は、終わりの巫女の蛮行を打ち砕いてみせた朱音の勇姿を見上げながら……そう呟くのであった。

 

 

 

 

 

 だがこの時の私は、知る由など無かった。

 戦いはまだ、終わっていない―――と。

 

つづく。

 


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