GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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さて思っていた以上に早く最新話書けました。
ただ思った以上に戦闘前の朱音とフィーネの問答パートはプロットの時以上に膨れ上がってしまった(汗

しかもここまで原作ではAXZとXVでやっと明らかになった事実を先んじて突き止めやがった……書いた本人が何を言うと言われても、朱音は『一人で歩き出す』キャラになっちゃっているので、朱音の言動行動に限って言えば私はそれらをただ書き記されているだけなのです(汗
キャラの一人歩きコワ~イしヤベ~イ!

それでは味方にとっては『最後の希望』、敵にとっては絶望を齎す者となるうちの朱音(平成ガメラ)をどうぞ。




#61 - 創造主の正体

 自衛隊と特機一課の援護が設けてくれた機会を逃さんと、絶唱を歌って傷身(しょうしん)を一層痛めつけるのは承知の上で、私はカ・ディンギルに昇り、たとえ月には本当に人類の言語を散り散りにさせた呪詛が存在していたとしても、かの星を穿ったことで起こされる大厄災と破滅を何としても阻止する為、現代に蘇った〝バベルの塔〟を穿ち、櫻井了子(フィーネ)の蛮行を止めることはできた。

 

「月の破壊は、バラルの呪詛を解くとともに重力崩壊を引き起こさせる、その惑星規模の天変地異に、人類は恐怖し、絶望し――新霊長となったこの私に祈願する筈だったッ!」

 

 だが、幾重ものバックファイアで満身創痍となった私にはもう、数千年かけた野望を砕かれた憤怒に苛まれたフィーネの猛撃を、防戦どころか、立花を守ることさえままならず………奴が〝バラルの呪詛〟を月ごと破壊してから行おうとしていた策の内容がまともに耳に入らず。

 

「〝痛み〟だけが……人同士を繋げられる縁(きずな)……それを――それを……それをお前は!――」

 

〝痛みだけが絆〟。

 それが唯一無二の〝真実〟なのだと固執し、それを証明せんとばかり、一方的に私たちは奴から痛めつけられるしかなく。激情に呑まれた容貌からは、最早完全に櫻井女史の面影が消え失せているフィーネからの理不尽を前に抗えない中、フィーネはネフシュタンの重力球を私と立花へ投擲し、引導を渡そうとする。

 くそ……立花の前にまで、這うだけでやっとだ………エネルギーをアームドギアに固形化させる余力も残っていない。

 だからとて……このまま奴からの殺意を貰い受け死する気はさらさらない。

 立花の命も、何より自分自身の命も、諦めるつもりは毛頭ない!

 

〝~~~♪〟

 

 どうにか歌唱でなけなしのエネルギーを生み出し、身体を強化させて立花を連れ退避しようとするも。

 

「――お前たちはぁぁぁぁぁぁーーーーッ!」

 

 フィーネから漆黒の重力球が放たれ………私たちを呑み込もうとした――。

 

 

 

 

 

 ―――瀬戸際の時だった。

 

 

 

 

 

 私たちを、太陽の色合いをしたドーム状のエネルギーフィールドが包み込む。

 その障壁(フィールド)は、爆発の業火とともに押し寄せてくる重力波から、私と立花を防護するだけでなく。

 

「温かい……はっ――傷が……」

 

 障壁は私たちに温もりを与えてくれるだけでなく、私がここまでの戦闘で刻まれた負傷(ダメージ)さえ、少しずつだが治癒していった。

 

「これは……」

 

 身体が癒され余裕ができたことで、私は頭上に浮遊し、かの障壁を張った主――甲羅状の盾の存在に、そして――。

 

〝さあ我が盾よ~~我が友を癒し~~災禍の濁流より守り通せ~~♪〟

 

 かの守護神を生み出した超古代文明語らしい言語ながら、確かに意味を理解でき聞き取れる詩を、凛と美しくも雄々しい歌声で奏でて……彼女は私たちの前に降り立った。

 その後ろ姿を見上げる、私の瞳は……間違いなく目にした。

 

〝ガアァァァァァーーーオッォォォォーーーッ!〟

 

「ガメ…ラ……」

 

 守護怪獣――ガメラの勇姿(うしろすがた)を。

 

『待たせたな、クリスも無事だ』

 

 炎の中悠然と佇み、その手で私たちを焼き払おうとした火を吸収し、己が力へと変換させながら………ガメラは――朱音は、振り返って凛然と微笑み、歌う肉声の代わりに勾玉から、私に呼びかけた。

 ほんと……待ちかねたぞ……そして、おかえり。

 

「朱音……私と立花は、この様(ざま)だ、だから……」

『ああ、選手交代だ……翼と響にも』

 

 そして――この地球(ほし)に生きるあらゆる生命と、その命たちが奏でる〝音楽〟には――。

 

「――これ以上~~指一本~~奴に手出しは~~させないッ!――♪」

 

 そう、高らかに歌い上げて、その身を球状の炎を纏わせ、美しくも勇壮に――飛翔していった。

 

「頼んだわよ………戦友(わがとも)」

 

 不思議だ……飛び立った朱音の勇姿からは、フィーネに負ける気が、一切しなかった……それくらいの頼もしさを、私は感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 そして間一髪、フィーネの憤怒と殺意と言う油がたっぷりしみ込まれた業火(こうげき)から愛する友らを助け出した朱音は炎を吸収し己がエネルギーとしながら、飛翔、炎のベールを隠れ蓑にまずバリアを生じさせる両腕を両断し、その全身に火の衣を着たまま《爆熱拳――バニシングフィスト》によるロシアンフックを奴の頬へと撃ち、大地へと叩き付け、半径十メートル以上もののクレーターができる衝撃を与えた。

 

「まだ戦いはこれから~~邪悪なる焔を我が力へと変え~~次なる戦場に――臨めッ!♪」

 

 残心の構えで歌ったまま呼吸を整え、ゆったりと地に降り立つ朱音は自身を覆う炎の大半をエネルギーに変え取り込み。

 

『前に言った筈だ……私の〝友達〟に手を出すな〟―――とな、救世主の皮を被った独裁者にして、〝堕天使(あくま)〟よ』

 

 余剰分のエネルギーを排熱処理と同時に手を横薙ぎに払う仕草で、放出させ。

 

『Now――Are you Ready?――Fine』

 

〝覚悟はいいな? 終わりの名を持つ巫女よ〟

 

 銃に形作らせた指を突きつける朱音は、己の大切な人たちを傷つけ、命の危機へと貶め、この地球(ほし)に生きるあらゆる生命に巨大な最悪を齎す巨悪と化した先史文明の巫女へ、改めて〝宣戦布告〟を告げた。

 

「ぐぅ……うぅ……」

 

 一方、告げられた側のフィーネは、一度両断された両腕込みで身体の大半は再生されていたが、朱音(ガメラ)の《バニシングフィスト》の直撃を受けた顔の半分は、未だ火傷で焼き爛れ、ネフシュタンと一体となった身でさえまだ収まらない激痛に呻く中。

 

「ヴぁ……あっ……なぁ……」

 

 翼が〝櫻井了子の面影が完全に消えた〟と表した激情に歪みに歪んだ面持ちを、対照的に凛然としている朱音に向け、徐々に修復されていく声帯から。

 

「なぜ…だ?」

 

 忌まわしく、問いを投げつける。

 クリスとともに絶唱を歌い、カ・ディンギルに荷電粒子砲を一時は押し返すほどのエネルギーを生み出した――と言うことは、それだけ肉体に掛かるバックファイアも絶大なものだった筈だ。

 なのに今の朱音からは、つい先程絶唱を使ったとは思えないほど肉体は壮健……それどころか彼女の内に宿るフォニックゲインの質と量は、先の戦闘時を遥かに上回ってさえいる。

 

『………』

 

 その朱音自身は、あの状況から生き延びたどころか、この短時間で戦線に復帰できた〝からくり〟を教える気は全く無く。

 

「解せん……」

 

 またフィーネもフィーネで、激情の火が燃え続ける胸の内に蠢く疑念は、朱音のコンディション以上に。

 

「いつも……いつもいつも……お前は、我が計画を、我が策を………悲願を……悉くかき乱し………月から齎される呪詛(バラル)の真実を知っても尚、唯一人類を救済できるこの新霊長(わたし)に立ち塞がると言うのか?」

 

 これまで何度も自身の計画の流れに〝摩擦〟を起こしてきた朱音の瞳から明瞭に語られる………フィーネの野望にして切望は、絶対に断ち切ろうとする意志を示す理由を、理解できずにいる旨を、苛立ちげに言い放った。

 

「~~~♪」

 

 朱音は静かに、しかし胸の内にある赤く熱い〝怒り〟と〝信念〟を宿した強き歌声(いし)で歌い続ける。いつでも戦闘に入れるようにする為でもあるが、敢えて〝歌い続ける〟ことでフィーネへ挑発させる意図も兼ねていた。

 

「かつて神そのものであった貴様も分かっている筈だ………相互不理解に陥った人類が………何度も。幾度も、繰り返し………差別、弾圧、殺し合い、虐殺……何度犯しても終わらぬ流血の歴史を繰り返してきたか?」

 

 わざわざ聞かれるまでもなく、まして相手に〝その通りだ〟と返答するまでもない。

 朱音は――ガメラは災いの影――ギャオスの復活に呼応して目覚めるまで、太平洋の底で眠り続けていたが、マナを通じて……地球の歴史をおぼろげながらも〝夢〟として見てきた………勿論、フィーネの言う人類の悲劇と惨劇に満ちた流血の歴史も然り。

 この悲しき歴史の輪廻を断ち切りたいフィーネの想いは本物であり、朱音はそれを理解し、自身もまた同じ旨を抱いていることを重々理解している。

 

「月にへばりつく〝バラルの呪詛〟さえ解けば………以前雪音クリスが豪語した通り、バラバラになった世界は先史文明(わたしたち)の時代の様に、一つに戻ることもできる」

 

 だが同時に、朱音には人類が背負う〝業〟に関して、フィーネとの間に決定的な齟齬が存在していることも、認識していた。

 

(なんと……哀れにおめでたい)

 

 さらに朱音は、人類救済の意志は本物であるフィーネに抱えている致命的な〝矛盾〟すら、当人より先んじて……その翡翠の瞳は捉えていた。

 

『〝我は来たり、地に火を投ずるために、我は願う、その火の既に燃えたらんことを―――しかして我の受けねばならぬ十字架(くさび)あり、その終えんまでに、いかにこの身の苦しからんことか〟………』

「何を……?」

 

 朱音はその矛盾を突く前置として、もう一つの口――勾玉(マイク)より、ある聖典に記されている一節を引用し始める。

 

『………〝我、地に平和を与えんために来たと思うなかれ、然らずむしろ争いなり、今より後一家に五人あらば、三人は二人に、二人は三人に――』

 

 それ――すなわち

 父は息子に、息子は父に。

 母は娘に、娘は母に。

 

『〝相分かれて――争わん〟……』

 

 唯一神だと信者たちに主張する神が、自らの意志の代弁者――預言者であるイエ

ス・キリストを通じて人々に伝えた〝預言〟の数々が記された正典――《新約聖書》

の《ルカによる福音書十二章》に書かれた…………キリストが信者へと伝えた神の〝言

葉〟。

 

「なぜそこで……神はこの世に唯一つとほざく宗教の教典を述べ上げた?」

 

 神が複数存在し、人類と明確な繋がりを持っていた最後の時代の生き証人にして橋渡したる巫女であったフィーネにとって、この世に存在する神は〝唯一〟を前提とする一神教は、ユダヤもイスラムも、無論キリストも含めて厭わしい存在だった。

 

『〝櫻井了子〟と言う稀代の天才の頭脳を乗っ取っていながら………その意味も分からないのか? 終末の巫女』

 

 引用し終えた朱音は、引き続き肉声を歌唱に使い続けながら、フィーネへ挑発と皮肉を発し。

 

『なら敢えて教えてやる――キリストが自ら楔(じゅうじか)を背負い、人類の原罪を浄化しようとした点を除けば――これはお前が数千年人類の流血の歴史とやらに介入し続けたお前の〝罪〟そのものだ』

 

 続けて……《ルカ福音書十二章第四九節》を口にした理由を突きつけた。

 

「〝罪〟……だと」

『そう……救済とは程遠い、〝人類の原罪〟ってやつをより一層、昏く、深く、度し難くさせる災厄………生憎私の目からはな、お前の〝悲願〟とやらは、そんな形にしか見えない』

 

 なぜ朱音が〝そんな形にしか見えない〟と断言したのは、明確なる根拠と確信がある。

 

『確かさっき、お前は私の友にこう口にしていたな――〝痛みだけが人を繋ぐ絆〟………人類史をこの目で見てきた果ての結論にしては、チープが過ぎるぞ』

「ッ!」

『待て』

 

 今の朱音の言葉たちはフィーネの逆鱗に触れるもの――彼女は元よりそれを承知の上で、敢えて言い放った。

 

『お前がべらべらと自分の目的を語った分だけ、私も言いたいことを言わせて貰う、どの道私とお前が争うのは不可避だからな』

 

 朱音はフィーネの悲願を〝チープ〟と断じた理由の説明を続ける。

 確かに相互不理解の呪いがかかった人類の、数え切れぬほど繰り返されてきた悲劇の歴史は、フィーネの言う通り〝真理〟の域にさえ至る確たる〝真実〟だろう。

 

『だが、お前が櫻井了子を肉体と魂に憑依したその日から行ってきた諸々だけでも、それはお前が誰よりも憎み、この世から無くしたいと願っていた筈の〝悲劇〟そのものだ………せいぜい、争いを一つ潰すと同時に火種を何十、何百もばら撒く行為も同然』

「な……に……」

 

 それを聞いたフィーネは、一瞬怒りすらも忘れ。

 

〝貴方の〝戦いの意志と力を持つ人間を叩き潰す〟やり方じゃ、争いを亡くすことなんてできやしないわ、せいぜい一つ潰すと同時に新たな火種を二つ三つ、盛大にばら撒くくらいが関の山ね〟

 

 以前にクリスへと突き刺した己が言葉を思い出す……多少の差異はあれども、朱音が今言ったことは、その時自分が言ったものとほぼ同様であり、まさかこんな形で自身に還されてくるなどと………微塵たりとも思っていなかった。

 

『私なりにあの予言を解釈するなら……〝大それたことを為そうとすれば、必ず反発するものが現れ、時に大いなる災いすら招く〟……私からすればこれだけのことをしていながら、なぜ人類全てがお前にひれ伏すと思っていたのか? お前は〝新霊長〟などと言う存在ではない……聖遺物と融合していようが今も変わらず、お前が憎み嘆き続けていた歴史の〝歯車〟に過ぎず――』

 

 完全聖遺物と細胞レベルで融合を果たし、自らを呪詛(バラル)から解放した後の人類を導く〝新霊長〟と称したフィーネを朱音は――。

 

『自ら招いた因果で呪われた人類を救おうとした意志は本物であっても………今のお前は〝痛みこそ絆〟とほざき、争いと言う混沌(バラル)を産み落とすもう一つの〝呪詛(のろい)〟そのものだッ!』

「ぐぅ………私自身が……呪詛だと?」

『異論を聞く耳はあるが、聞いてもどの道私は撤回する気はないし、仮に月を穿つとも呪詛を一つ解いたとして、現代の人類にそう都合の良い結果を生むとも思えないしね』

 

 真っ向から否定し………反論を聞く気はあっても発言を覆すことはないと、ヘッドセット越しに耳をとんとんと指で叩きながら、〝終末の巫女〟が数千年の長き時の果てに、悲願も己自身すらも歪んでしまったと、呪詛(バラル)から解放………ここまではっきり言い切った。

 けれど朱音には――。

 

『それとやり合う前に、もう一つ、質問しておきたい』

 

 確実に避けられぬフィーネとの戦闘の前に、もう一つ、相対するこの災禍を引き起こした元凶に言っておきたいことがあった。

 

『お前が巫女として仕えていた……この世界の人類の創造主たる神々――〝アヌンナキ〟』

 

 アヌンナキ――それこそフィーネ曰く〝あの方〟を含め、先史文明時代に深く関わっている、メソポタミア神話の神々を総称する名。

 

『その頃の人類が争いと無縁だったのなら、彼らに文明の創造法を伝授した神々の間にも……ただの一度も〝内戦(シビルウォー)〟は起きなかったのか?』

「…………」

 

 この朱音からの〝問い〟に、フィーネは一転俯き何も答えないまま……金色に彩る櫻井了子の瞳を泳がせる。

 朱音にはむしろ、その反応で十分だった。

 メソポタミア神話に限らず、古今東西の多神教に登場する神々は、良く言えば個性が立つ、悪く言えば我が強すぎる〝ろくでなし〟ばかり、日本の神道の八百万の神々でさえ、その多くは当時の日ノ本の人々に丁重祀られ、崇められるまで、むしろ害を与える荒神であった。

 そして〝アヌンナキ〟もまた、例外では無かったと、フィーネの反応が何より証明していた。

 

(さて……そろそろ戦端は開かれる)

 

 もう朱音にはフィーネと問答を交わす為に使う御題(カード)は、使い尽した、それにたとえ残っていたとしてももう朱音は口頭による〝争い〟はお開きにしようとしている。

 フィーネとて悲願を成就する為、櫻井了子として弦十郎ら二課の面々ととも日々を過ごす傍ら長年温めてきた計画の要たる虎の子の《カ・ディンギル》が倒壊した程度で……今更、引き下がる気はないだろう。

 

〝I Love you,SAYONARA〟

 

 密かに繋がっていたアメリカ政府の差し金である傭兵部隊の亡骸に血で書き残したメッセージは、二課に対する決別の置手紙にして、不退転の決意表明でもあったのだから。

 

「最早貴様の問いを真に受ける気は、私になど毛頭ない………ましてここまで来て、悲願を遂げるまでの進撃を止めるつもりもない………特に草凪朱音、貴様にはな」

 

 現に、再び心中に激情の炎が強まり出したフィーネは、眉間が皺で歪む怒れる金色の瞳を、朱音へと向ける。

 朱音も戦闘を回避する選択肢は、元より捨てていた。

 今やフィーネの憤怒の対象は……天を仰ぐ塔――《カ・ディンギル》による月諸共、バラルの呪詛の破壊する計画を破綻させた者たち全て………当然その中には、響も翼もクリスも、弦十郎ら二課の人達もいる。

 そして今、フィーネとまともに戦えるのは自分しかいない………文字通り今の朱音は〝人類最後の砦〟そのものだった。

 

(上等)

 

 朱音はその事実を重々受け止めながらも、重責を全く背負い込んではいなかった。

 前世の孤独な激闘の数々に比べれば……終末を齎す巫女との戦いなど、どうということはない。この程度で重圧に押し潰されている様では……守護者(ガメラ)は務まらないし、その十字架を背負えはしない。

 そして何より――。

 

(今の私は――〝一人〟であっても、決して〝独り〟じゃない)

 

 ――今の朱音(ガメラ)には、災いに毅然と立ち向かう力をくれる者達が、たくさん存在している。

 バベルの塔を立て、それを仕えていた神より破壊され、統一言語を奪われる罪を犯してしまってから幾星霜……この巫女が繰り返してきた〝悲劇の輪廻〟は、ここで終わらせる。

 

(さて……どうやって戦端を開くか……)

 

 決意を締め直す朱音は、いつでも応戦し、迎え撃てる様〝無形の位〟で構えたまま、如何に再戦の鐘を鳴らすか思案していた。

 切願を阻む存在全てに向ける憤怒を剥き出し、先程は弦十郎には〝櫻井了子〟の顔を見せて逡巡させたところを無慈悲に串刺し、戦う余力を一切残っていなかった響達へ理不尽に八つ当たりをしていながら、フィーネは先手を打ってこない。

 かと言って朱音も、安易に先制攻撃するつもりもない、下手に攻撃しても奴の鉄壁にも等しい障壁(バリア)に防がれてしまう上、迂闊に冷静に対応する隙を与えれば、背後にいる響たちを巻き込むかもしれないし………友を安全な場所へ送ろうとしても、ネフシュタンも飛行できるので行った先で戦闘に巻き込まれる人の数を増やしてしまう。

 となれば……上手く朱音の方に敵意を一点集中させる塩梅でフィーネを挑発して煽り、あちらから先攻させるしかない。

 

(問題はどうやってまたフィーネを煽るか……)

 

 先程、計画が成功すると信じて疑わなかった為か………フィーネは装者たちに自分から、己が正体と己が蛮行の数々と、その果てに成就しようとする〝悲願〟を出し惜しみの欠片もなしに、わざわざ教えてくれた………。

 

(そう言えば……)

 

〝私はただ……〝あの御方〟と並び立ちたかった……〟

 

〝だがそれはあの御方の逆鱗に触れた……人の身が同じ高みに至ることを許してはくれず……その超常の力で怒りすら表し……〟

 

 フィーネが仕えていたと思われる、アヌンナキの神の一人のことを口にした時の奴の様相は、明らかに一線を画していた。

 口振りから見ても、フィーネがバベルの塔を建てようとした理由は……単なる忠義を超えたその神への慕情とも言える想いが多くを占めているのは、間違いない。

 そしてフィーネは、朱音が〝アヌンナキ〟の言葉を口にした時、否定をしなかった。

 ならば――該当する神の正体に、朱音は自然と行き着く。

 

「そうやってまたこの時代でも、争いの悲劇を繰り返すのか?」

 

 アヌンナキの神々の中で、人類の創造主――親とも言える神は、ただ一人。

 

「そうなればお前が仕えていた神は到底許してくれそうにないぞ……〝あの御方〟、否――」

 

 世界の創造主にして、知識と魔法を司る神、その名は――。

 

「――むしろ、人類(ひと)を創造しておきながら、相互不理解に落とした挙句この地球(ほし)から去り人間(わたしたち)を見捨てた……〝エンキ〟の思う壺だ!」

 

 エンキ――朱音がかの神の名を口にした瞬間。

 

「口に……するな……」

 

 収まらぬ憤怒をどうにか御しようとし、朱音の出方を窺っていたフィーネの――。

 

「神の残滓でしかない貴様ごときが………あの方の名を気安く――口にするなぁぁぁぁぁぁーーーッ!」

 

 感情の箍と言う名の防波堤が、決壊した。

 

(さあ来い)

 

 両者は同時にその場から、相手めがけ駆け出す。

 

〝これ以上お前と言う呪詛(バラル)の為に、誰も犠牲にはさせんッ!〟

 

 星の姫巫女と、終末の巫女、両者の戦いの鐘が――今鳴り渡った。

 

つづく。

 




朱音がパトレイバー劇場版Ⅱで引用された聖書の一節を使う場面は勿論、脚本が伊藤和典さん繋がりです。

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