GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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シンフォギアシリーズ毎日配信と、XVの最新情報、キングコング:髑髏島の巨神のがブースト掛けてくれたおかげで、最新話ができました。
完全オリジナルパート。
次回は、司令たち二課サイドの方を描く予定です。


#54 - カディンギル、浮上

 つい先程まで、大量のノイズが跋扈する災害地にして戦場となっていた東京スカイタワー周辺の、首都摩天楼。

 そのアスファルトの一角より、一機の陸自ヘリが、轟音とともにプロペラを高速回転させ、地上から上昇していく。

 響を戦場へと送り、朱音に間一髪のところで救われた自衛官が操縦するあのヘリだ。

 ヘリが登りゆく空は、朝から数時間前までの間の時点では澄んだ青天だったと言うのに、今はほの暗く、分厚く何層の重なった大量の雲海たちにすっかり覆い尽くされてしまっており、場所によっては雷鳴の閃光さえ走る。これまでまだ雨が降っていないのが、不思議なくらいだ。

 曇りゆく天と、地の狭間のコンクリートジャングルの中を、タワー周辺に出現した特異災害を打破したばかりの朱音たち四人のシンフォギア装者を乗せたヘリは進む。

 行き先はリディアン音楽院、かの学び舎が立つ地は、曇天の濃度も、雷鳴の騒がしさも、一際激しい。

 そして――今大地は、リディアンの地を中心に、大きく戦慄し、震撼していた。

 

 

 

 

 

 私と朱音は、ヘリ内部の手すりに掴まり、自衛官が座す操縦席の直ぐ後ろより、窓越しにリディアンがある筈の方角に目を向けている。

 ふと、背後が気になって振り返る。我が目線の先には、ヘリの向かう先にいる筈の小日向ら友たちへの不安の想いを顔に浮かべた立花と、そんな彼女を心配しているが、どう声を掛けたものか惑っている雪音クリスが、向かい合わせになる形で後席に腰かけていた。

 そして朱音は、以前なぜか私の脳裏に浮かんだ〝ガメラ〟のものと同じ、鋭利な戦士の眼で、真っ直ぐ一点を見据えている。

 何を隠そう………装者(わたしたち)の中で、最初に〝カディンギル〟の正体を悟ったのも、朱音だった。

 

 

 

 

 

 ここより、ほんの少しながら、刻(とき)を遡らせてもらおう。

 

 

 

 

 

 雪音クリスが、残る空母型全てをほぼ同時に撃破し、残存兵たる小型ノイズたちも全て仕留め終え、スカイタワー周辺に出現した特異災害を収束させ『状況終了』となった時にて。

 地上の私と立花の下に、朱音と雪音は同時に降り立った。

 ひとまずは戦闘を終えたので、一旦私達はギアの結合を解く。

 

「やったやった~~クリスちゃ~ん♪」

 

 先の続きとばかり、勝利の歓喜の共有と感謝の印も兼ねて、早速立花はまた雪音に、私からは良い意味で遠慮の欠片もなしに抱き付いた。

 

「勝てたのはクリスちゃんのお陰だよ~~♪」

「だから接着剤みたいにひっついてくんなバカっ!」

 

 とは言えさすがにここまで遠慮がないと、つい咄嗟に抱擁を解こうとするのも無理はない。

 だが雪音の照れで赤らめた顔も含めた、傍からはとても微笑ましそうな光景を見ると、案外――。

 

「満更でもなさそうだな、あやっ……」

 

 と、話題を朱音に振ろうとした私の口は、友の名を(あやうく立花たちにいる前にて名前で)口にしかけたところで、途切れた。

 

「どうした草凪?」

 

 腕時計型端末の立体画面を、険しい表情で操作し続ける朱音に、苗字で訊ね直す。

 

「本部と連絡が取れない」

「えっ?」

 

 私もおっとり刀で自分の端末を手に取り出し、本部へ――司令(おじさま)たちへの通信を試みるが……結果は同様の不通、緒川さん含めたエージェントたちにすら連絡がつかない状態に陥っていた。

 少し遅れる形で、立花と雪音も異変に気付き、一時は勝利の余韻込みで緩んでいた二人の面持ちも固くなり、緊張が走り込む。

 

〝~~~♪〟

 

 かと思いきや、朱音の制服のポケット越しに、どうやら映画に出てくる怪獣の鳴き声らしい着信音が鳴った。

 朱音は懐から自身のスマートフォンを手に取り、画面を操作する。

 

「藤尭さんからだ」

 

 どうやら、朱音の〝隠れファン〟でもある一面をこの間知った、藤尭さんからの伝言(メール)らしい。

 それを読んでいた朱音は、狼狽するくらい酷く驚愕した様子で、片手を額に置いた。

 歳相応より大人びている類希な美貌は………〝なぜ今まで気がつかなかった〟と言わんばかり、宝石と見紛う翡翠色の瞳も、大きく揺れ震えていた。

 

「なんと、書いてあった?」

「見て……」

 

 促された私は、朱音からスマートフォンを渡され、メールの文面を見る。

 

〝私達はみんな、今『黒辻さんの椿屋敷』にいます、待ち合わせ場所はそこで〟

 

「どういうことだ?」

 

 腕時計端末に、他の誰かと通信している朱音に意味を問う。

 私には、皆目見当が付かない……せいぜい暗号か何かぐらいしか分からん。

 

「カディンギルの場所がどこか、分かった」

「な、何だとッ!?」

 

 当然、聞いた私達三人は驚きを禁じ得ない。

 私など、叔父様のと似たような反応となっていた。

 

「どこだよッ!? フィーネの野郎が完成させやがったカディンギルは!」

 

 雪音など、襟元を掴み上げそうなくらいの語気で詰め寄る。

 

「リディアン地下……――」

 

 続けて朱音から、それ以上の驚愕を齎す事実を………私達は、鋭き槍の一閃に貫かれたが如く、胸の心(うち)にへと、突きつけられた。

 

「――〝二課本部〟――そのものが………〝バベルの塔〟だったんだ」

 

 驚きで掻き乱された心中が治まってくれない中、騒がしいローター音が、すっかり曇天となってしまった空より響いて来て、おそらく朱音が先の通信で呼び寄せたらしい、一度戦場(いくさば)より退避した陸自のヘリが、葡萄色がかった黒髪を靡かせる彼女の背後に降り立つ。

 夏に入りたてな七月の、色鮮やかな青天の色を一切見せまいとでも言いたげに、空を完全に覆い隠すほの暗い雲どもは、私達の心情を代弁するように、雷光を轟かせた。

 

 

 

 

 

 ヘリが地上から上昇をし始めて程なく、大地が、まるで前世の自分(ガメラ)が地中を突き進んでいるかのように、大きく震撼した。

 

「このままリディアン周辺に急行します」

「お願いします」

 

 ヘリの上昇への影響は、少々揺れが一瞬大きくなった程度でそれほど出ず、ある程度の高度を確保したヘリは、鈍い灰色に染まった宙の中、リディアンを進行方向に進んでいく。

 もうちょっと離陸が遅かったら、揺れに巻き込まれて、最悪その場で転倒していたのは確実だったので、幸いだ。

 正直、変身して直接リディアンが〝あった〟場所に急ぎたい気持ちも胸中渦巻いていたが、それをどうにか制御しようと、己に言い聞かせ続け、次の〝戦場(せんじょう)〟を見据え続ける。

 まだ特異災害との戦闘を終えて間もないし、相手――フィーネは実質、覚醒状態な完全聖遺物を〝三つ〟も有している。

 

《ソロモンの杖》

《ネフシュタンの杖》

《不滅の剣――デュランダル》

 

 しかも、奴のアジトで起きたアメリカの民間軍事会社所属の傭兵部隊との戦闘の〝痕跡〟の数々を手掛かりに踏まえると………自ら響と〝同質〟になった可能性が高い。

 そんな相手に、血気に逸って独断専行して挑むのは愚行、私一人で勝てるほど、今の相手は伊達ではなくなっている。

 だから先の戦闘で消費した体力の回復と温存とを兼ねて、わざわざこのヘリの自衛官(パイロット)に、カディンギル周辺の、ギリギリ危害が及ばない範囲(エリア)まで送ってもらっているのだから。

 

「朱音(くさなぎ)……」

「何?」

 

 次の戦場の方角への視線を変えずに、私は翼からの問いかけに応じる。

 

「先の言伝(あれ)が暗号なのは私でも分かった、だがあれでなぜ……〝本部そのものがカディンギル〟だと、あれが浮上する前に感づけたのだ?」

 

 そうだな、向こうに着くまでに説明できる時間があったので、暗号の種明かしをして、翼の胸中に渦巻く疑問を晴らしておくことにしよう。

 

「薄々翼も感づいていると思うけど、あの暗号のモチーフは、ある時代劇の映画だ」

 

 その映画とは、現在でも世界規模で巨匠と讃えられているある映画監督の代表作の一つにして、一九六〇年代のジャパニーズシネマ界黄金期に公開された時代劇。

 主演俳優の驚異的に卓越した殺陣の技量もあって、好みがアクション映画に偏りがちな司令もよく見ている、数少ない時代劇映画の一つ。

 剣の腕が立ち、頭もよくキレる流浪の剣客である主人公が、血気盛んだが危なっかしい藩の汚職を暴こうとする若侍とともに、その汚職の黒幕たる大目付に囚われた城代家老(若侍の一人はその家老の甥)を救出するべく、時に敵側に自ら売り込むなどのいくつもの手を打ち、奮闘するって言うのが、大まかなストーリー。

 

「そんな主人公と若侍が家老の妻子を救出して隠れ家に選んだのが、汚職を働く奸物一味の一人が構える『黒辻の椿屋敷』の直ぐ隣な、家老の甥の屋敷」

「っ! 『灯台下暮らし』か!」

「That’s right(そういうこと)、それで思い立ったんだ」

 

 もしもだ。本当にカディギンルが、モチーフたる旧約聖書バベルの塔の通り〝天を仰ぐほどの塔〟だと仮定して。

「そんな目立つ代物を、誰にも気づかれずこっそり作るのに、一番相応しい場所は?」

「地下以外にない……」

 

 そう、翼が言った様に、まずは地下へと振り進める形で建造していくしかない。

 

「そして、例の映画で、城代は甥の若侍にこうも言っていた」

 

 城代家老曰く――〝最も悪い奴は、とんでもないところに潜んでいる、危ない危ない〟――と。

 

「その〝最も悪い奴〟たる裏切者にして黒幕が、二課をも欺く裏で建造を進め、完成させていた塔の〝隠し場所〟こそ………」

「リディアン地下、二課本部のエレベーターシャフトだった……ってわけさ」

「くっ! なんてことだ!」

 

 翼は、悔しさの余り、舌を盛大に掻き鳴らす。

 私もそうしたいくらい、悔しい想いが胸中でざわめき苦虫が噛まれ、双眸の眉間(はざま)が皺寄せてしかめ面になる。

 私達はずっと、この一連の事態の黒幕が押し進めてきた陰謀の〝象徴〟を、知らぬまま、何度もずっとこの目で直に見てきたのだ。

 あの極彩な色合いをした、遺跡の壁面の如きエレベーターシャフトの内壁。

 全く以て騙された………あれはてっきり、表向きはマイペースな陽気さを崩さない〝彼女〟の趣味だと思い込んでだ……けどよくよく思い返して見れば、内壁に描かれた壁画は、メソポタミア文明のものとそっくりだった………カディンギルのこと自体知ったのはついさっきであり、まだその塔を使って何をしようとしているのか判明していないとは言え、〝彼女〟がフィーネである確証は以前から得ていたのに………気づいたその時まで〝バベルの塔〟がどこか気づけなかった……本部の可能性を、疑念の欠片すら浮かばなかった。

 こんな自分が、腹立たしくて、歯ぎしりしそうにすらなる。

 

「そうなれば、やはり………フィーネの正体は……」

 

 二番目のシンフォギア――《イチイバル》を、《ネフシュタン》の鎧を、二課より奪い取り。

 結果として、間接的ながら奏さんの死と、響が装者となる運命を招き、

 祖国の片割れ――アメリカと密かに結託して《ソロモンの杖》を手にし、広木防衛大臣を暗殺する罪を向こうに侵させ。

 装者候補だったクリスを拉致して自らの〝手駒〟に仕立て上げ、ガングニールの破片を体内に宿す響を何度も狙わせ。

 表向き二課防衛強化、実際はカディンギル完成に至らせる為に仕組んだ茶番劇であった《デュランダル》移送作戦と、クリスによる襲撃。

 何より……長い時間ともにしてきた〝仲間〟を長いこと欺きながら、陰でこつこつっと少しずつ〝天を仰ぐ塔〟の建設に勤しみ、完成へと漕ぎつけ、陰謀を進めてきた。

 

「ああ」

 

 特異災害対策機動二課、組織内部の獅子身中の虫……そいつに該当する人物は―――〝一人〟しかいない。

 

「翼が今、頭に思い浮かべてるであろう人物で、正解だよ」

 

 翼のしかめ面も、黒幕に対する怒りで深くなる。

 私と違って……〝奴〟とはもう十年以上ものの長い付き合いなのだ、その積み重ねてきた交流(じかん)の分だけ、怒れる感情が増してしまうのも、無理はない。

 

「叔父様(しれい)たちは、いつ頃からフィーネが何者であるかを、掴んでいた?」

「結構、前からだね………司令としては〝大人たち〟だけで全てにケリを着けた上で、私達装者(こども)に打ち明けたかったんだろうけど」

「全く……叔父様らしいと言えばらしい……草凪が自ら対ノイズ戦力として志願でもしなければ、自分ら〝大人のみ〟でフィーネのアジトに乗り込み、決着をつけようとしていたと………容易に想像がついた」

 

 そうだね―――と、心中で翼の叔父に対する言葉に同意(うなづく)。

 弦さんが理想とする、ちょっと独特が過ぎる〝大人像〟と、己が目指そうとする頂きに向かって、ともすればストイックに、ひたすら愚直に、どこまでも我武者羅に突き進む姿勢、その信念に裏付けされ鍛え上げ過ぎた余り――現日本国憲法第九条に抵触すらする〝戦闘能力〟。

 けど、ゆえに………二課の〝大人たち〟の中でも、一際〝子ども〟を装者(せんし)に仕立て、どれほど鍛えても〝人〟であるが為に無力さを噛み締めて、私達が戦場に飛び込む姿を見送り続けていた。

 

〝くどいのは承知の上で――〟

 

 そんな弦さんの、元公安警察官にしては良くも悪くも〝甘ちゃん〟なお人柄を心から〝好き〟だからこそ、私はあの時。

 

〝――くれぐれも奴から、〝アキレス腱〟を突かれないよう気をつけて下さい〟

 

 自分から〝くどい〟の一言を使うくらいに何度も念入りに………敢えてきつめに〝忠告〟をしたのだ。

 その心(やさしさ)を、一番近しかった、親しかった筈の〝彼女(あいて)〟により……利用されて、足蹴にされてなんて、ほしくなかったから………。

 

「皆さん、もう直ぐ着陸地点です」

 

 危ない、パイロットのお陰もあって感傷に浸っていた意識を、今自分たちが置かれている〝状況〟そのものへ向き直した。

 一応、フィーネに悟られない様、最悪の事態に対する〝備え〟は奴のアジトに乗り込む遥か以前より、予め施してはいたし、伝言のニュアンスから………未来たちも含めて無事かもしれないが、実際のところみんなの消息と現状は不明、フィーネに悟られず伝言を送るのは、藤尭さんでもあれが精一杯だったに違いないし。

 今は無事であってほしいと願いを胸に、祈っていることしかできない。

 

「り、リディアンが……」

「そんな……」

 

 後席から、操縦席近くまで来た響とクリス、それと翼と私。

 装者(みんな)全員、ヘリのフロントガラスの遥か向こうにある光景を前に言葉を失いかけるくらい、驚愕に呑み込まれそうになる。

 暗く鈍く淀み、黒味も厚みも増して忙しなく上空を廻り続け、ともすれば夜天よりも暗黒が支配する曇天の下、リディアン音楽院高等科の校舎は………最早、ほとんど存在していないも同然だった。

 見るも無残に、建物の瓦礫に破片たちが、至るところで山々となった廃墟以外の何者でもないものに、変貌してしまっていた。

 そして、ほんの少し前まで校舎の中央棟が建っていた大地を大きく突き破り………六三四メートルものの東京スカイタワー約三棟分ものの長さなエレベーターシャフトと言う名の化けの皮を剥がして隠されていた姿を傲然と私達の瞳へ見下ろすかの如く晒して、雷光煌めく曇天をも突き抜け先端が灰色の雲(ベール)で隠されるほどの高さと………けばけばしさが突き抜けすぎる極彩かつ多色に塗りたくられたメソポタミア文明風の壁画だらけな外壁を誇る――巨塔がそびえ立つ。

 

「あれが……」

 

翼の口から、そう一言零れ落ちた。

 リディアン音楽院を……そこで日々営まれていた〝日常〟ごと破壊し尽くしたあれこそ、文字通りにしてその名の通り―――〝高みの存在〟。

 転じて―――〝天を仰ぐほどの、塔〟。

 

「カディンギル―――〝Tower of Babel〟」

 

 私達が巨塔を注視する中、ヘリは着陸を阻む障害の少ない地上へと、降り立って行った。

 奴がこの塔で何をしようとしているのか、まだ分からない。

 だがこれだけは分かる―――何としても、奴の目論見を、打ち砕かなければならないと。

 私はとうに、奴と戦う覚悟は決めていた。

 

「未来……みんな……」

 

 けれども………それを決めきれていない〝友〟もいた。。

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありません、これ以上の手助けは……」

「いえ、ここまで送って頂けただけでも感謝しています、後は私達でどうにか収束させますので」

「っ………頼みます、気をつけて下さい」

「はい」

 

 朱音たちを下ろした陸自ヘリのパイロットは、もう自分できることはない事実に、口内に広がる苦味を噛み締めて朱音たちに託し、彼は再びヘリのローターを回し始めて上昇、カディンギル周辺より退避していく。

 この先待ち受けているであろう〝黒幕〟が、未だノイズを自由自在に御する《ソロモンの杖》を有している可能性が高い以上、このままこの場に止まらせるわけにはいかなかったのだ。

 四人の装者たちは走り出し、リディアンの敷地内だった廃墟の渦中を急ぎ駆けていく。

 

「朱音ちゃん」

「何だ?」

「さっき翼さんと話してたことなんだけど……」

 

 そんな中、走り続けながら響は、朱音に問う。

 

「う、嘘だよね? その……フィーネが……」

 

 ここまで来て、今さら嘘も隠し立ても、意味がない。

 響の、薄々察しつつも、信じられない、本当であると思いたくない気持ちを汲み取り、案じつつも、朱音はフィーネの正体をはっきり伝えようとしたが―――直後にその必要はなくなった。

 

「はぁ!?」

「おいでなすったな!」

 

 四人はほぼ同時に各々の視界が捉えた人影を前に疾駆を止め、見上げる。

 辛うじて、まだ校舎の面影、建築物としての生前の姿をわずかに残していた廃屋の頂上にて――

 

「残念だが、今私達が見ているものが……真実だ」

 

 ――当の本人が、嘲笑を地上の装者たちに見せつけて、彼女たちを待ち構えていたのだから。

 

「まだその姿を―――私達の前で見せつけるか? 櫻井ぃ……了子」

 

 そう、櫻井了子こそ――一連の事態の裏で糸を引いていた首謀者そのものにして。

 

「いや―――フィーネッ!」

 

 終わりの名を持つ者――《フィーネ》であった。

 朱音は黒幕へ、翡翠の瞳から眼光を放って、担架を切った。

 

つづく。


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