GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~ 作:フォレス・ノースウッド
実は無印9話見て気になったことですが、ビッキーは制服のまま会場に急いでたのに、未来は私服でライブを鑑賞。
つまり未来は一度帰って着替える余裕があったと言うことでして、前半はその辺踏まえて書いてます。
そんで後半の戦闘パートでは、劇場版の復習でアマゾンズ見てたせいで、特に朱音辺りが影響受けてます(汗
六月の、末日にして休日。
かねてより予定されていた風鳴翼のライブ、その開演当日。
幸いにしてこの日の天候も、恵まれた晴れ。
晴天の下、首都圏のビル街の道路上、あらゆる車両たちに混じって走る、プロミネンスレッドカラーの大型クルーザーバイク、かの日本大手の機械工業メーカー製なゴールドウイングシリーズに連なる――ワルキューレウイングF6Dが一台。
それを駆るのは、朱音であり、後部席に座っているのは未来であった。
勿論朱音はアメリカでバイクの免許は取得済みであり、外免切替試験にもパスした上で、リディアン入学以前に向こうでのバイトで溜めた金銭と、装者活動の報酬でバイクを買い、足として使っている。
二人が向かっている先は、もちろんながら、翼のライブが開かれる会場(コンサートホール)だ。
「おまたせ、じゃあ行こうか」
「うん」
会場から一番近い駐輪場でバイクを止めた私は、その間待たせていた未来と合流し、私たち二人はその足で会場に向かう。
ソロとなっても尚邦楽界のトップ街道を走る翼のライブ、しかも公式SNSから『当日重大発表あり』と発信されたのもあって、休日の首都圏の喧噪は、歩道一つ抜き取っても、いつもより一層賑やかで慌ただしく、大勢の人が行き交っていた。
創世たちとは、会場近くで現地集合となっている。
さて、なんでここまで未来とタンデムした上に、肝心の響が一緒じゃないかと言えば――。
「ごめんね、せっかく翼さんご本人からチケットもらったのに響ってば……はぁ……」
未来からの溜息、私もあわや貰い息しそうになる。
彼女とのタンデムでここまで来たわけも、その溜息の理由も、あんまりはっきり言うのは憚れるんだけど………響が期限内に課題(レポート)の提出できなかったのが原因なのであった。
よりにもよって、レポート提出の為に担任の仲根先生から課せられた補修の日と、ライブ当日が被ってしまい、当然先生は大目に見てくれるわけもなく、その日の内にきっちり仕上げろと突きつけられたらしい。
多少遅れてでもなんとかライブに行ける様、今頃勉学では中々発揮されない集中力なんとか発揮させようと己を奮い立たせて、強敵たるレポート用紙と睨み合いながら、課題に立ち向かっていることだろうな。
「また先生から〝ヒエログリフ〟と揶揄されなきゃいいけど」
「ああ………今回私のフォローもないから、前よりも解読困難になりそう、なまじやる気もいつもよりたっぷりだったし」
響の独特な、どこぞの古代文明文字じみた文体を想像したらしい未来が、苦笑いの顔となる。
さすがに響を置いて先に行くのは、私も未来の少なからず気は引けたけど、いつになくやる気(勿論何としてもライブを見たいからである)を見せていた響からの後押しで、一足先に会場へ向かうに至ったわけである。
「だから意外だったよ、いつもなら未来、こう言う時は率先して最後まで付き合ってあげてるから」
未来は親友の響には、人助けを〝お節介〟と言うことはあっても、むしろ響の人助けの精神には尊重する理解者であり、保護者に喩えるなら基本的にやりたいようにやらせる放任主義なのだが、さすがにピンチ(もっぱらほとんど学業)の時には最後まではフォローはしてあげている。
まあそうでなければ、喩えシンフォギア装者となる運命に見舞われなかったとしても、進学校レベルな高い学力を求められるリディアンでの学校生活は、半年も経たずに破綻していたかもしれない。
「いつもなら手伝ってあげられるんだけど………やっぱり今日ばかりは、どうしても翼さんの歌(ライブ)を最初から最後まで聞きたくて、自分の欲望を優先させちゃった、はは」
けれど今回ばかりは未来も、翼――ひいてはツヴァイウイングの熱狂的〝ファン〟として、どうしてもライブをこの目で見たい欲求の方が、勝っていたのだった。
デビュー当時から、ツヴァイウイングのファンであった未来だけど、彼女のファンとしての一面(かお)を実際に目にした機会の一つがこの間の翼と四人でもデートの時だったりと、余り見たことがなかった。
恐らく………あの〝ライブの惨劇〟絡みで、響を酷い目に遭わせてしまったことへの罪悪感から、無意識に封じ込めて抑圧していた、ってところだろう。
だが響との、装者としての人助けによって起きてしまったすれ違いを乗り越えたことで、折り合いも付けられた様で、私の目からでもはっきりと、ツヴァイウイングのファンと言う未来の一面が窺えるようになっていた。
自分も自身を、八年前のあの日から、勾玉にガメラが宿ったあの日まで〝抑圧〟し続けてきた経験があるのと、ファン同士なのも相まって、私としても喜びたい気持ちを感じている。
「あの自衛官の人たちも、来るの?」
「津山さんとご友人らは確実に来るさ、彼らもツヴァイウイング時代からのファンだからね、写真だってほら――」
開いたスマホを操作して、津山さんから送られてきたメールに添付されていた、チケットを手に景気よくピースサイン津山さんたちの集合写真を見せようとした矢先。
~~~♪
そのスマホから、かの三つ首怪獣の鳴き声兼、かの警備隊の通信音県、特務機関の戦闘指揮官の着信音でもあるメロディが響いた。
私の端末から、設定されたこのメロディが流れることを意味するのは、一つ。
即ち――影よりも深い暗黒の底より、生命(いのち)を脅かす〝災い〟が、現れたと言うこと。
瞳に、胸から沸き上がる闘志の炎が、流れ込んだ。
朱音のスマートフォンの着信音が鳴った瞬間、朱音の美貌は少女のものから、戦士のものへと一瞬で変わる様を、未来は目にした。
翡翠色の透明感ある切れ長の瞳は、初めてシンフォギアを纏った姿を見せて助けてくれたものと、同じ鋭利さを帯びている。
「すまない未来、今急な〝パーティのお誘い〟が入った」
友の面持ちと、いつも耳にするものより低く研ぎ澄まされた声に、未来は彼女のジョーク――〝パーティ〟の一言が意味するものを察する。
「遅刻は……避けられないな、私も響も」
刹那、朱音の戦士の貌から、少女のものが混ざった表情で未来に詫びた。
「気にしないで、人助けなんだもん、創世さんたちには私が上手く説明しておくから」
朱音が、そして響が、友たちがパーティ――戦場(せんじょう)に向かわなければならないことは、折り合いが付けられた今でも、どうしても拭えない〝不安〟こそある。
現に未来の瞳には、彼女の不安の気持ちが滲み出ている。
当然だ。
ノイズに対抗、殲滅できる矛と盾であるシンフォギアがあるにしても、命を賭けることに変わりない。
自ら藍おばさんを助ける為に囮役となった時に味わった恐怖も含めた経験で、戦場で災厄に立ち向かうことがどれほど過酷か思い知ったからだ。
「行ってらっしゃい」
未来はその気持ちも否定せず、受け止めた上で、それでも〝人助け〟の為に戦場に赴く友たちが無事に帰ってくるのを、〝待つ〟役を担う。
「ああ、待っててくれ」
朱音は未来と、頷き合い、その場を後にし、戦場へと馳せるべく疾走した。
今回、空間歪曲反応が探知された地点は、神奈川県内のコンテナターミナル内、と聞かされた朱音は、流麗にして武骨な巨躯に違わず、荒ぶる獣の咆哮と比喩しても遜色ない、猛然としたエンジン音と排気音を轟かすワルキューレウイングF6Dで以て、急行。
『発生地点は、舞浜ターミナル、朱音ちゃんの現在地からの最短ルートをナビゲートします』
「頼みます」
その機械仕掛けの荒馬を完全に朱音は御し、大気を突き抜けて、アスファルトを駆け抜けていく。
シンフォギアが最重要国家機密ゆえの枷で、特機部及び自衛隊による人払いが済むまでは人目を憚らずに〝変身〟して飛行できない事情柄、翼と同様にその為の現場に急行する〝足〟として、このバイクがあった。
『三〇〇メートル先を左折して下さい、端末の機能でETCは通過できます』
「了解」
耳に付けた小型通信機越しに、司令部からのナビゲートを頼りに、現場への最短ルートを走る。
左手のスマートウォッチを見ると、端末からは赤い光点が点滅。
この光点は、端末が周辺の環境をサーチし、守秘義務の塊なシンフォギアを纏えるか否かを識別する機能で、赤い光はまだ人目を気にせず〝変身〟できる状況ではないと示しており、もう暫くは鉄騎の駆って進むしかない。
『コンテナターミナル内にて、アウフヴァッへン波形を確認、イチイバルです』
『クリスちゃんがですか!?』
そこへ入ってきた、雪音クリスが発生地点に現れたことを意味する、藤尭からの報告。
同じく現場へ急行する為、別ルートからエージェントの車両に乗っている響が、通信機越しに驚きの声を上げた。
(偶然、と見るべきだな)
速度を維持しながら朱音は、現況を推察する。
この前ほどではないが、端末に送られてきたノイズの発生範囲から見ても、首謀者(フィーネ)がソロモンの杖による召喚なのは明白。
今さら以前のようにノイズをけしかけてクリスを殺す気なら、生き証人でもある彼女を、今日まで生かして放置しているのはおかしい。
恐らく、クリスがノイズと鉢合わせたのは完全に偶然であり、罪悪感、過剰な責任感、強迫観念に駆られて、戦場に飛び込んだのだろう―――と、朱音はクリスとの接触で窺えた彼女の印象から推察する。
口の中から、苦味を覚えた。
先日の接触の折を思い返す。一度の交流で掛けた言葉一つで、クリスの、幼い自分を虐げてきた〝大人たち〟への不信も憎悪も。
何より、父と母への愛憎が混合された複雑な心情をどうにかしてやれると思ってはいないし。
〝甘ったれるな!〟
一度の発破で――〝身も心も穢れきってしまったから自分は、泥を被って汚れ仕事を一人で背負わなきゃならない〟――クリスの内面に存在する響のとはまた違った〝歪さ〟を払えあのるとも朱音は思ってはいなかった。
安易に彼女の内面の行く末を楽観していないからこそ、口内に覚える苦さが残留し、しかめ面となって尾を引く。
この腹立たしさも含めた感覚は、前にも経験したことがある。
具体的には、初めてクリスがネフシュタンを纏って現れた日の夜の、無理筋の極みな絶唱を放とうとした翼に対してのと、同じもの。
「彼女も世話の焼けるお人だ……まったく」
毒づいて荒くなった声が、顔とヘルメットの隙間から流れ出る。
どうやら自分も含めて、聖遺物と言う存在は、〝歪〟を背負った少女の歌声が、深い眠りから真っ先に飛び起きるくらいお好きらしい。
とは言え、クリスがこの瞬間にもノイズと交戦し、特異災害の被害の拡大を少しでも抑えているのは事実でもあるので、その点ではありがたくもあった。
となると疑問なのは、この数日は息を潜めておきながら、一変してまた急に特異災害を引き起こしたフィーネの意図だ。
聖遺物の力を使わずとも、特異災害自体は低い確率であるが自然発生する―――が、今回の規模を見ても、ソロモンの杖が使われている可能性は、即ちそれを手中に収める終わりの名を持つ者の仕業である可能性が、高い。
なら、今回の目的は?
全く読めずにいる。下手に意図も意味も無く、無作為に聖遺物を濫用すれば二課に居所を掴まれかねないくらい、二課における獅子身中の虫も同然な奴だって存じている筈。
半ば愉快犯染みたフィーネの行為に、朱音の眉は顰められる。
そして前回と同様………櫻井博士は、司令部に〝不在〟。
(入れ込み過ぎるな、今は奴らの殲滅が優先だ)
以前から胸の内にて抱える〝疑念〟が強くなるのを感じ取りつつも、〝今やるべきこと〟へ意識を向き直した朱音は、東京湾と夕陽を拝められる首都高の一区域(アスファルト)内に入ると、より一層スロットルを吹かし、さらに荒馬を加速(けしかけ)、急ぎ――ノイズが出現し戦地と化した地に向かう。
フルフェイスのヘルメットのバイザーで隠れている、朱音の猛禽類染みた翡翠色の瞳は、一層の凛々しさ、そして手練れの狩人そのものたる、鋭利さと眼光を秘めている。
一方で、朱音にはどうしても看過しておくことができない〝気がかり〟が一つ、残っており。
「司令」
司令室にいる弦十郎に、朱音は通信を掛けた。
リディアン地下、特機二課本部司令室は、特異災害の最中だけあり、情報を集め整理し、絶えず変化する状況を組み立てる友里や藤尭らオペレーターたちの声、コンソールの操作音や電子音などが混ざり合い、騒がしい様となっている。
喧騒とした空気と反対に、弦十郎は思考を動かし続けつつ、かの軍師の残した言葉の一節を体現させて、山の如く腕を組んで座していた。
しかし、豪胆さが人型の顔(かたち)へと具現させたに等しいその精悍な顔立ちには、微かに煮え切らない狼狽えを滲み出させている。
おそるおそると、鍛え上げた図太い腕の片割れを伸ばし、その手をコンソールに触れようとする直前。
『司令』
卓上のスピーカーから、朱音の、平時より低く凛然とした戦士の音調な声が聞こえてきた。
彼が心中迷う理由、それは今まさにライブ真っただ中で、大勢の観客を前に歌っている我が姪――正確には………■■■■■■である、翼のことであった。
現在、特異災害の切り札たるシンフォギアを担える二課所属の装者は三人となっているが、依然戦力としては虎の子であることには変わりなく、ひとたびノイズが出現した以上、装者たちは緊急招集に応じ、災害地にして戦場に出撃しなければならない。
歌手活動中の翼とて例外ではなく、本来であれば彼女にも緊急招集を賭けなければならない。
いつもならば………弦十郎個人の私情は抜きにして、直ぐにも翼と緒川に連絡している筈なのだが、今日ばかりはどうしても、彼女らに通信を繋げられずにいた。
〝叔父様、お話があります〟
ライブ本番前日に、翼が打ち明けてきた〝決心〟が、真っ直ぐにそれを伝えてきた〝眼差し〟が、何度も弦十郎の脳裏にて再生される。
ノイズ出現の報を伝えれば………たとえライブ中でも翼は〝防人〟としての使命を優先し、マイクの代わりに剣を握って、戦場に飛び込むだろう。
だが……翼の〝歌〟を、このまま中途で終わらせてしまっていいのか?
翼は今――自分の意志(つばさ)で、飛ぼうとしている。
だと言うのに………防人としての使命は、風鳴の家に生まれた〝性〟は、それすらも許さないのか?
やりきれない心境と同時に、風鳴の業そのものである弦十郎の父の姿までも浮かび、眉間が少し歪められて、歯噛みした。
「なんだ朱音君?」
心中の〝迷い〟を押し込み、弦十郎は朱音からの通信に応じる。
『翼先輩に出撃の要請は?』
「いやまだだが……翼にもこれから連絡をするつもりだ」
『なさらないで下さい』
「なっ……」
獅子を思わす厳つい弦十郎の双眸が、虚を突かれて大きく開く。
『現場には、私と響の二人で対処します』
沈着で淡々とした朱音の、端的な一言に、弦十郎は口を少し開かせて、驚きと困惑の息を呑んだ。
『私は今回、風鳴翼に、鞘から刀を抜かせるつもりはありません』
抑えた声色で紡がれる朱音の言葉。
しかしその声には、確かな厚情が込められている。
翼を想うがゆえに、拭えぬ迷いが渦巻く弦十郎の心中を、朱音は見抜いていたのだ。
『私もです』
「響君……」
会話を聞いていたらしい響からも通信が入る。
『翼さんには、みんなを元気づけて、勇気づけてくれる翼さんの歌を、最後まで歌い切ってほしいんです、たくさんの人に届けさせたいんです』
人々の命だけではない。
人々の〝希望〟となっている翼の歌を、朱音と響は守ろうとしている。
その二人の想いを汲み取ったのか、司令部を見渡せば、友里や藤尭らが笑みを見せて弦十郎に頷いた。
「っ……」
同じく彼女たちの強い意志を聞き受けた弦十郎は、目を閉じて微笑む。
「よし分かった――」
次に開いた時には、彼の瞳に漂っていた迷いが払われていた。」
子どもが心からやりたいことを、やりたいように尊重させる。
それを見守り、全力で後ろ盾となって応援し、支える。
それが、風鳴弦十郎と言う男の、信念とも言える〝大人〟としての流儀である。
(翼の歌も、守ってやってくれ)
「―――頼んだぞ」
この想いも込めた言葉で、弦十郎は朱音たちの意志を後押しし。
『『はいッ!』』
力強く、二人の装者(しょうじょ)は応じるのであった。
空が、ほんの刹那の、昼と夜の境界線である黄昏時へと近づいている。
前世(ガメラ)ほどではないが、人並み以上に目の良い私の瞳は、前方で検問を張る自衛隊の方々の姿をはっきり捉えた。
向こうの皆さんも私の存在に気づいたようで、光る誘導灯を持った自衛官さんの一人が腕を振っている。
『現場近辺の避難誘導、完了しました』
通信で現場近辺の避難活動も終えたようだ。
さすがだと、ヘルメット越しに綻ぶ。
いつもながら、仕事の手際が早いこと。
彼らのような、たとえ非力でも今できることを精一杯果たす人たちがいるからこそ、私たちは心置きなく守る為に〝歌える〟のだ。
一度綻んだ口元を結び直し、意識の集中を高める。
ブレーキを掛けると同時に、車体を逸らした急制動で、バリケード一歩手前でバイクを停止させ。
「バイクの回収、お願いします」
素早く降り、ヘルメットを自衛官の一人に投げて渡し預けてバリケードを飛び越え。
同じ守りし者である同士たちに笑みと一緒に会釈すると、速きこと風の如く走る。
一応端末を確認すれば、ギアを目覚めさせられることを意味する青いランプが点いていた。
ここからは、思う存分に――〝飛べる〟。
〝Valdura airluoues giaea~♪(我、ガイアの力を纏いて、悪しき魂と戦わん)〟
アスファルトの上を駆け抜けて私は、聖詠を唱える。
発光した勾玉から放出されたエネルギーが、紅緋色の球体となって疾走すr私の全身を包み込むと同時に。
「タァッ!」
人工の大地からほぼ垂直に、空へめがけ跳躍。
フォニックゲインから具現化された鎧(アーマー)が続けて全身に装着され、変身完了。
空中(そのば)から、既に爆音と火花を上げる戦場一点を見据える私は、ギアが備えるスラスターを全て点火させ、最短にかつ一直線で、宙を翔け抜ける。
特異災害に脅かされようしている人々、勿論クリスも含めてあらゆる〝命〟、その命たちが織り成す〝歌〟、それだけではない。
その人たちの希望となっている、歌姫としての翼の――〝歌声〟――を、守る為に。
夕空と夜空が混じり紫の空色となった、黄昏時。
多色多様な無数のコンテナたちが立ち並び、ガントリーグレーンがそびえ立つ湾港埠頭のエリア内では。
《BILLION MAIDEN》
〝~~~♪〟
苛烈で荒々しいクリスの戦闘歌の伴奏と歌声と、この音色たちでも消しきれないイチイバルの回転式多銃身機関砲(アームドギア)の銃声と、放たれた銃弾を撃ち込まれ炭素分解され飛び散るノイズの肉片と嬌声(だんまつま)が、騒々しく飛び交い、いくつもの爆発による炎が戦場を照らし、黒煙が紫の空へと昇っていく。
《MEGA DETH PARTY》
腰部のアーマーから展開された発射装置(ランチャー)から、ミサイルを一斉発射。
小型の群体らに向けられたものは着弾と同時に撃破したが、ターミナル内にそびえ立つ身長二〇メートルほどの大型二体は、ミサイルの直撃を何発も受けつつもものともせず健在であった。
「ちっ……」
攻めあぐねる状況にクリスは舌打ちをする。
二課ではタイプF――要塞型と分類される、二体召喚された大型個体。
フランスのパリにある大聖堂に酷似した金色の巨体は、たとえシンフォギアでも並の攻撃では寄せ付けぬ堅牢を誇り。
さらにその巨躯の全方位に備えられた砲塔の内四問から、小型ノイズを高速で発射。
咄嗟にクリスは横合いに飛んで回避するも、地面に着弾した弾頭(ノイズ)は爆発し、爆風で彼女は吹き飛ばされ、アスファルトをのたうち回る。
広域殲滅力に優れたクリスのイチイバルであるが、他のギアのように推進機構を持たないゆえ機動力では難があった。
体勢を崩され横たわるクリスを見逃すノイズではなく。
「はっ……」
小型たちの突進と、要塞型の砲弾が、迫る―――が。
〝~~~♪〟
イチイバルのとは異なる音色が響いたと思うと、上空から降ってきた〝火球の雨〟が、突進する個体たちを、クリスに命中する直前で撃ち落とし。
「テェヤァッ!」
最後に残った二体も、裂帛の喚声を上げた、ガングニールを纏う響が繰り出した蹴りと拳を叩きこまれ砕け散った。
「お前……」
クリスの盾となるように彼女の前に立った響は、右腕のハンマーパーツを引いて、拳にエネルギーを集め、疾駆。
地上を、目にも止まらぬダッシュから突き出した拳で、多数のノイズを一度に撃破し、空気中には数えきれないノイズの灰が舞った。
以前の戦闘よりもさらに磨きがかかった響の戦い振りを瞬きも忘れて見つめるクリスの耳に、噴射音が捉えられる。
その場から立ち上がりつつ空を見上げれば、朱音がスラスターを吹かしておもむろに地上に降り立った。
刹那。
突如朱音は、クリスへと肉薄し、右手の手刀を突き出した。
手刀は、クリスの頭部のギリギリをすり抜け、彼女の背後から不意を突こうと迫っていた人型を――
《ラッシングクロー――激突貫》
指先の爪で突き刺した。
「Beware(油断するな)」
朱音がクリスに忠告を発して手刀を引き抜くと、刺突された人型は炭素化し崩れ落ち。
振り向き様に朱音は、左手の噴射口からハンドガンを生成。
歌を唱え、歩を進ませながら引き金を引き、地上の小型たちを次々撃ち抜き。
螺旋形態で突っ込んでくる飛行型らには、足先に炎を纏わせた右脚からの上段廻し蹴りで薙ぎ払った。
その朱音の背部へ、蝉に似た顔つきをした人型が、ハサミ状の手で頭部を裂こうとする。
が、首を傾け躱した朱音は、背を向けたまま人型の腹部へ肘を押し当てると、鋭利な刃が突き差された、生々しい斬撃音が鳴った。
朱音が肘を引き抜くと、前腕のアーマーから、三つの曲刃が伸びていた。
《エルボークロー――邪斬突》
その三連の刃による肘打ちでカウンターを取られた蝉顔の人型は、立ったまま仰向けに倒れ炭素化した。
刃をアーマーに収納させた朱音は、すかさずロッド型のアームドギアを生成し、クリスを中心に攻めてくる群れ相手に、振るうロッドの穂先から放射されるプラズマの炎で迎撃する。
その流れる様な、手練れの獣めいて洗練された体捌きを見せる朱音の後ろ姿に、見止めることしかできずにいるクリスに。
「勘違いするな」
朱音は、この状況において、クリスが口にしそうな〝言葉〟を先んじて口にし。
「私たちは偶々同じ敵を相手にしているだけ、無理に慣れ合うつもりはない、だが――」
クリスへ目を向けると。
「――勝つ為の〝最善〟は――尽すべきだ」
そう言い伝え、続けて生成した甲羅状の盾を投擲し、ノイズの群れの渦中へと飛び込んでいった。
「っ……くっ……」
一泊置いて、朱音の言葉の意味を読み取ったクリスは、ばつの悪そうな表情を浮かべて、後頭部を右手で掻き。
攻撃された際に一度手から零れ落ちたガトリングガンの片割れを拾い直すと、何段も積み上がったコンテナの上にまで跳び上がり。
「貸し借りは……な、なしだからな……」
自分に言い聞かせるように、若干歯切れの悪いくぐもらせた口で呟くと。
「もってけやッ!」
二人への〝援護〟を開始させた。
小型らの群れは、殲滅力の高いクリス――イチイバルに任せ、朱音と響は二体の要塞型に、それぞれ相手取った。
朱音の方は、空中飛行できる持ち味を生かし、その巨体を二本の足のみで支えるゆえに小回りの利かない要塞型の周囲を旋回。
近づけさせまいと砲塔からノイズの弾頭を乱射するが、自在に宙を泳ぐ朱音は悉く躱し、その内の一発を避けて高度を下げると同時に砲塔めがけライフル形態のアームドギアから。
《プラズマ火球――烈火球》
――を連射し、一方向の砲塔を破壊。
できた死角を突き、要塞型への足元へ飛び込み。
スライディングからのエルボークローで、片足を両断。
《シェルカッター――旋斬甲》
他の砲塔も、朱音の脳波で遠隔操作された盾の斬撃で潰される。
巨体の足下を潜り抜けた朱音は、勢いに乗ったまま三点着地の屈めた体勢を取り、エルボークローが伸長されたままの右腕を構える。
刃は超振動し赤熱化。
小型ノイズたちはクリスからの弾丸とミサイルのシャワーで近づくこともできない。
飛び掛かろうとする獣にも、居合腰の剣士にも見える構えから、一気に疾走。
《ヴァリアブルセイバー――裂火斬》
一瞬で、切り抜けた。
赤熱した爪から迸ったプラズマエネルギーの炎刃は、要塞型の堅固な巨体を一撃で両断。
朱音に背を向けられたまま、要塞型の体組織はプラズマ化し、爆発四散して果てたのだった。
一方で響は、もう一体からの砲撃を跳躍で回避し、ハンマーパーツを引いて、落下速度も乗せた拳撃をアスファルトに叩き込む。
大地を抉ってひた走る衝撃波は、要塞型の両脚ごと破砕して、足場を崩した。
クリスが援護している間、もう一度ハンマーパーツを引く響。
肩部近くまでパーツ限界に引き絞り、両脚にもハンマージャッキを展開し、その場より跳び上がり、突貫。
大きく振り上げた拳を撃ち込み、ハンマーパーツから生じた衝撃波は敵の巨体に風穴を開け、もう一体の要塞型も撃破せしめた。
残っている小型たちも、三人の装者を前では敵ですらなく、ほどなくターミナルに召喚された個体は全て狩り尽くされた。
こうして、翼の〝歌〟は、特異災害に脅かされることなく、朱音たちの奮闘によって守り抜かれたのであった。
つづく。
感想お待ちしてま~す。