GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~ 作:フォレス・ノースウッド
一話分、置いてのひびみく回+αです。
なんですけど、また我ながら恐れ多い回になっちゃった(汗
なんでかと言えば、実は私、未来を、ガメラで喩えれば小さき勇者たちでの、主人公の透君のトトへの気持ち(小さき勇者は、子どもを主人公とした親の子離れもテーマにしてる)を無意識にイメージにした、『子離れできない保護者』な感じで書いてしまってたので、今週のAXZの奥さんオーラ出してる未来さん見て、彼女は響の嫁(中の人も公認な)に異論がないからこそ、やっちゃった感を覚えてます(戦々恐々
それはそうと、愚者の石ネタは龍騎の真司、特に浅倉の普段の凶悪さから想像し難い爽やかスマイルでお馴染みのあの迷場面を思い出しました。
てかビッキー、歪さ具合は映司並みだけど、最初は絵に描いた戦闘の素人、でもセンスと咄嗟の機転は抜群でここぞの爆発力は凄まじい、一度苦悩するとドツボに嵌るけど基本単細胞のバカなとこ、まんま真司だよね(苦笑
特機二課のテントの中に置かれたベッドの上で、響は人助けの頑張り過ぎの疲れで、すやすやとまだ眠りの中にいた。
私はと言えば、おばちゃんの命に別状はないと聞いて安心しつつ、あの後〝彼女〟がどうなったのか気がかりな気持ちも抱えて、さっきまで本当に命がけのギリギリだったのに一転して呑気にも程があるけど、朱音のとはまた違った響の可愛い寝顔を傍らで見守りながら、響が起きてくれるのを待っている。
合間に、自分の手を見て、指の一本一本を、動かしてみると、いつもと、変わらない感じに、何とか……戻っていた。
実は、あわや河原の地面に二人でのた打ち回るところを朱音に助けてもらって、救助活動をしていた自衛隊の人たちに眠る響が担架に乗せられて行って、ようやく安堵で緊張の糸がほぐれた時……無我夢中で危ない綱渡りをした、反動だったのか。
後から今頃になって、身体が……〝怖がり始めた〟のだ。
〝未来?〟
手足どころか、両腕両脚、四肢全体が急に勝手に、ひどくぶるぶると震え出して、締め付けられるように胸の動悸が激しくなり、呼吸も乱れ出した。
普通に立つのもままならなくなって、両脚が崩れ落ちて尻もちが付いてしまう。
両方の目じりから、涙も、自分の理性なんか構わずに、流れ始めてしまっていた。
この気持ちの濁流を前に、無理やり抑えつけられるわけがなくて……どうしようもなくなって……また、小さな子どもみたいに、恥も外聞もなく、泣き出してしまった。
〝怖かった……怖かったよ……〟
気がつけば、シンフォギアを着たままだった、朱音の胸と腕の中にいた。多分、変身を解く間もないくらい、自分から飛び込んでしまったんだと思う。
機械的で硬くて武骨な鎧を纏っていたのに、私の激流を受け止めて、抱き止めてくれる朱音の、柔らかい温もりが、心の芯にも、包み込んでくる感じで沁み渡ってきて、温かった。
朱音に支えてもらう形で、二課のテントにまで連れて来てもらった頃には、大分落ち着いてはいたけど、それでも手にほんのちょっとの震えが、暫くの間、続いていた。
今朝はこれ以上お世話になるのは忍びないと思っておいて、結局また私は、朱音にお世話になってしまった。
嫌ってわけじゃ、全然まったくない。
命も込みで、恩人であるし。
実はリディアンに編入して、朱音と会うまでは、親友が〝歪〟を抱えてしまった〝あの日々〟のせいで、響と私の家族以外の人間たちに不信を抱き、下手すると憎悪にまで陥りかけていた私にとって………朱音の優しさと言うか、包容力とも言うか、器の大きさ………もっとはっきり言うといろんな〝愛〟できた〝御恩〟の数々は、本当に〝救い〟となってくれたからだ。
でも………やっぱり………手で顔を全部覆いたいくらい………恥ず、かしい。
ほんのちょっとの断片のまた断片分の記憶を思い出すだけでも、顔が熱で火照ってしまう。
〝じゃあ、しようか〟
しかも、ささいな断片でも、あの冗談や演技と見なすには怪しい、本気としか思えない真に迫った朱音のキス顔も思い出されてしまい。
〝おや残念〟
心臓の鼓動は、あの瞬間並に、バクバクと強まり出した。
耳まで、赤く熱くなっちゃってる。
その上、この恥ずかしい気持ちを感じている自分も………まったく大概。同じ寮部屋で、響とルームシェアするようになってからのあれこれを、今改めて、一歩下がった目で思い返してみると、女の子同士だったとしても、傍からしてみれば赤面になるものばかりだった。
あの朱音の冗談と、彼女と安藤さんらから日頃より何かと〝夫婦〟呼ばわりされてた通り、むしろあれだけべったりとスキンシップの多い新婚夫婦染みた共同生活送っておいて、キスの一つもしていないのは逆におかしいと言えちゃうくらい。
確かに………あの日から、リディアンの学生になるまでの、自分と響に遭った色々を思えば………なんだけど。
現に、鏡なんて見なくても赤味具合をはっきり自覚できちゃうくらい、顔の熱が余計に上がった気がした。
あ、いけない、また呼吸が乱れそうになる………こう言う時は。
舌を上の歯の内側に置いた状態で息を吐き切って。
鼻で息を吸って、四つ、数えて。
次に息を止めて、七つ、数えて。
八つ分数えながら、息を口から吐いて。
さっき、遅れてやってきた恐怖で朱音縋った時に彼女から教えてもらった、落ち着かせるにはうってつけらしい『くつろぐ呼吸』を実践してみる。四回ほど、繰り返してやってみる内に、どうにか落ち着きを取り戻し、顔の熱も大分引いてきて、ほっとした。
もしも、例の呼吸法を使わなかったら今頃、ゆでだこな顔から、大声を出して悶えていたかもしれない。
よく率先通り越して積極的に人助けに飛び込む響に、度々口からは〝変わった子だ〟とか揶揄してたけど、そう言う自分も……人のことが言えなかった。
「うっ~~」
そこに、聞き覚えのある吐息が聞こえた。
ほぼ毎朝、間近で耳にしている、響の寝息だ。
「未来っ……」
次に、いつもの〝ちゃん〟を付けない自分の名前を呼ぶ、響の声がした。
「やっとお目覚めね」
心の中で、またほっとしながら応じる。
ちょっと前までの状態で、寝起きしたばかりの響に見られたら、いよいよ恥ずかしさで気を失ってたかもしれない。
「あれ? 私、どうしてたんだって?」
「覚えてないの?」
まだ眠気が強めに張り付いてて、眠る前の記憶がおぼろげな響に、経緯(なりゆき)を説明してあげた。
さっきはあんなに取り乱しかけていたのに、響と言葉を交わし始めた途端、我ながらびっくりしてしまうほど、いつもの調子に戻れていた。
確かに、朱音があの夜教えてくれた、持論の通りだ。
人は、他人たる相手も、自分自身も込みで、自分が思っている以上に、面の皮は厚いし、多いもので、自分がまだ知らない〝一面〟は、たくさんあると言うこと。
だって現にこの瞬間、自分が今まで――無自覚(しらなかった)――自分を知ることができたし、朱音がいなければ、ずっと傍に居た筈の響の、響すらまだ知らない響を、それが響って女の子な一人の人間を形作る〝一欠けら〟なんだと、と受け入れるどころか、多分……知ることすら、できなかった。
「あっ………私ってば……」
武術云々には素人の私でも衝撃を和らげる受け身は取っていたみたいだし、朱音のあの〝手〟に助けられたお陰で大事には至らなかったけど、あの切羽詰まった、本当に瀬戸際の状況で眠りこけてしまったことに、昔『授業中でもお寝んねできる自信はあるッ!』と、堂々と言えることでもないことを豪語していた響は、さすがに自分の頭を抱えて項垂れていた。
〝ぐぅ~~~〟
そこへ、狙ったのかと勘ぐりたくなるタイミングで、響のお腹の中が、鳴き出した。
そう、世の女の子たちにとって、ある意味一番鳴ってほしくない音の一つ、お腹の虫さんの鳴き声である。
「はぁ~~お腹空いた……」
夢の中でごはん&ごはんをこれでもかと食べまくっていたのは、眠っている間に時々見せていた涎を口から垂らしてふにゃっとしてだらけた表情の寝顔と寝言で、大体察しはついたけど、いくら夢の世界でたらふく食べても、身体にとっては霞を食べるようなものなので、覚めればお昼ぐらいからずっと命がけの人助けをしてきた反動が、空腹の形で響に押し寄せてきていた。
「そう来ると思って、とっておいたから、はい」
起きたら真っ先にお腹を減らしてくるだろうと見越していた私は、ベッドの傍らに置いていたお皿を持って、くるんでいたラップを外して、響に盛り付けられた料理を見せてあげる。
「カ、カレーッ!」
料理とは、見るからに柔らかく煮込まれた鶏肉と、かぼちゃにナスにアスパラにほうれん草やパプリカら野菜たっぷりでルーもご飯も大盛りの具だくさんカレーライス。
できれば、響への料理の差し入れは、自分で作りたいところだったけど、残念ながらお手製ではなく。
「朱音が作ってくれた残りなんだけどね」
「しかも朱音ちゃんの!? うわ~い!やったッーー!」
朱音のお手製な特製で、老若男女問わず食べれるようにミルク等で辛味を抑えつつ、本場みたいなコクと風味あるのに、家庭的な味わいもある逸品もの。
空腹なのもあって少し気分が沈み気味だった響は、テンションがぐるりと変わってハイになって、まんまるな両目をキラキラとさせて、冷めてても美味しそうな具だくさんカレーを眺めていた。
朱音が作ったのもあって、食欲はより増進されているのが分かって………少し、複雑。
特異災害が終息してほどなく、いくつか設けられた避難所のテントでは炊き出しが行われてたんだけど、料理を作る人手が足りない事態に陥ったらしく、ノイズとの戦いを終えたばかりの朱音が自ら名乗り出て、髪をアップに纏めた制服にエプロン姿で小さな子ども一人がまるまるすっぽり入りそうな大鍋でカレーライスを作り、避難してきた人たちと、人名救助に勤しんでいた自衛隊の人たちに振る舞っていた。
朱音の料理スキルがいかんなく発揮されたカレーは大評判で、また災害に晒された人たちの心をほぐし、温めてくれていた。
でも―――あれには驚かされたよね。
ノイズが現れる度に、小さなリサイタルを開いて持前の歌声を振る舞っているとは聞いていたけど、まさか朱音があそこまで、彼女曰く〝戦友〟とのことらしい自衛隊の隊員さんたちから、アイドル並の人気があったなんて。
芸能人も真っ青な美人だし、屈託なくて気さくで表情も包容力も豊かなお姉さんな人柄を持つ一面もあるから、虜(ファン)になっちゃうのは、分かる気は一応……するんだけど。
〝まだまだたっぷりありますよ、おかわりをご希望の方はいますか?〟
〝おかわりご希望します!〟
〝こら津山! 抜け駆けすんじゃねえよ、俺もっす〟
〝俺にも!〟
〝俺もください!〟
〝おかわり〟〝おかわり〟〝おかわり〟〝おかわり〟〝おかわり〟〝おわかり〟
と、朱音が一声呼びかければほとんど一斉に、皿を持った腕をピーンと伸ばし差し出しておかわりを求め、今でも地上波でちょくちょく放送されてる空に浮かぶお城を巡る冒険活劇な映画のワンシーンにそっくりな光景ができていた。
〝OK(オ~ケィ)、じゃあ順番はちゃんと守って下さいね〟
その時の朱音は圧倒されるどころか、極めて涼しい笑顔(ひょうじょう)で応対していて、私はつい、そんな友達に〝お母さん〟ってイメージを浮かべてしまった………結構大人びた容姿にコンプレックスがあるのを知っているので、内に秘めておこう。
さっきまで、真剣かつ沈着で必死に、凛々しい顔つきで救助活動を行っていた姿をまじまじと見ていたので、中学生男子ばりに鼻の下を伸ばしておかわりを願い出るその落差にちょっと苦笑いしちゃったけど、私も勢いで普通盛りを三杯分食べちゃうくらい、美味しかったのは、隊員の皆さんと同感だった。
「ほら、口から涎が零れてるよ、だらしない」
「あ、ああ~~」
「もう、腕で拭こうとしちゃダメだってば、私のポケットティッシュ使って」
「あはは、ごめんね未来」
はしたなくもだらしないのは否めなかったので、手で後ろ髪を掻いてあははと笑い返す響に、懐から取り出したポケットティッシュで口元の涎を吹かせてあげる。
「いっただきま~す♪」
これで心おきなくとばかりに、響は朱音お手製カレーを食べ始めた。
ガツガツって擬音がぴったりな、カレーは飲み物って言葉をイメージするほど流し込む感じで、勢いたっぷりに。
「響、そんなに慌てて食べたら――」
嫌な予感がして注意してみたら、的中。
響の食べる勢いに、響の身体は着いて行けず、案の定、むせてしまった。
一度口に入れてしまったものを吐き出す事態、にはならなかったけど、今までほとんど風邪をひいたことのない響の喉は、盛大に咳を吐き出していた。
「水もってきたら、ゆっくり飲んで」
「あ、ありがと未来」
近くに置いてあった給水器から紙コップに水を注ぎ、咳は止まったけど息を荒らしている響にそっと渡す。受け取った響は、言われた通りにしょぼしょぼと少しずつ水を飲む。
〝未来ゥゥゥゥゥーーーーーーッ!〟
あの時の―――最速の最短の一直線な勢いで助けに来てくれた、あの勇ましい姿と全くの正反対。
ほんと………響ってば、日常(ふだん)だと本当に世話が焼けるし、焼かせるんだから。
割と、いや〝割と〟を以上よりも遥か凌ぐ度合いに響って………〝小学生の男の子〟なところ、あるんだよね。
いつの間にか、いつも通りおっちょこちょいあわてん坊で、何かと世話がかかる男子っっぽいところがたくさんある親友の世話を、私は焼いていた。
けれど、この〝いつもの〟に、昨日まで響を拒絶しかけていた心の中が和らいで、穏やかな感じを心地良いと思っている自分がいる。
響がこうして見せてくれている〝いつもの〟も、響って一人の人間のほんの一側面(ひとかけら)だってことは、分かっているし、今の私は、ちゃんと受け止められている。
だから、かな?
響の、シンフォギアを纏う戦士――装者としての一面(かお)を知る前よりも、響との〝いつもの〟を、より尊く、より喜ばしく、感じている気がした。
「ごちそうさまでした」
一時はむせるほどの勢いで朱音お手製のカレーを食していた響は、食べ始めとは一変し、しめやかな様子で合いの手をして、食事の締めのあいさつをし。
「未来」
親友である未来に、真剣な眼差しを向けて。
「何?」
「話が……未来にちゃんと伝えておきたいことが、あるんだ」
友に伝えなければならない旨(おもい)の、第一歩を、踏み出そうとしていた。
テントの外は、すっかり夕暮れとなっていた。
暁の色合いとなり、東京湾の海面に隣り合う公園の歩道を、響と未来の二人は、歩んでいた。
響は先に進み、未来は友の背中を見つめる形で。
未来にとって、親友のその優しい〝背中〟は、特別な存在。
けど一時期、装者としての響を知る少し前の頃の彼女にとって、その後ろ姿は〝恐れ〟を抱かせ、直視し難いものとなっていた。
今でこそ、杞憂だったと言えるが、そこに行き着くまでは、どんどん、自分の手が届かない遠くまで………自分から離れて行ってしまう――自分の知る〝立花響〟でなくなってしまうそうな………不安に襲われてさえいた。
ほんのちょっと前までの、自分の心の内を思い返して歩きながら、夕空を、街を、海原を眺めていた未来は――
「あっ……」
――向こう岸にいる、人影を見つける。
遠間からでもはっきり目にできる銀色の髪をした、少女。
〝クリっ……ス?〟
間違いなく、その少女は、今朝行き倒れているところを未来が助け、出会った雪音クリスであり、そちらから彼女はこちらを見つめていた。
だが、未来が存在に気づいた途端クリスは、ばつの悪そうに、逃げるように、その場から走り去っていく。
〝クリス!〟
未来は思わず、腕を伸ばして、その手から〝待って〟と発したが、両者の間を、海と言う彼方が隔てているが為に、その想いは対岸の少女に届くことなく、宙を舞った。
〝でもよかった……無事で〟
それでも、クリスが、友達になりたいと未来(じぶん)より伝えた少女が、生きていてくれている。
未来にとって、今はそれだけで十分で、胸に手を当て、その内側に抱えていた懸念の気持ちが安堵で押し上げられて、口から息とともにこぼれ落ちた。
「未来」
「え?」
最中、自分の名を呼ぶ響の声がして、目線を移す。
気がつけば、二人とも足を歩ませるのを止めていて、響は海と陸の境界線(てすり)に手を掛け、あどけなさの残る丸みある瞳を、夕焼けに塗られた東京湾の海面を、眺めていた。
海から吹く風は、二人の髪をゆらりとなびかせる。
「なんて言うか………ほんと………前から何回も言っちゃってる気がするけど」
海へ、普段の彼女からは想像し難い静粛とした眼差しを向けたまま、響は唇を開き、打ち明け始める。
「色々と………本当に、ごめん」
友からの謝意で、今までの拒絶してしまった自分が思い出されて、未来の胸(こころ)が、ずしりと響いて疼く。
「私……どこか未来に、甘えてたんだ……私にとっての〝陽だまり〟な未来なら、私がシンフォギアで人助けしてるのを知っても、分かってくれるって、応援してくれるって、虫の良いこと思ってた………本当にその時が来たら、未来がどんな気持ちになるか………ろくに考えもしなかったくせに」
〝そんなことない! 響は何も――〟
未来の胸の中で、浮かんだ言葉が喉を通り、舌に乗って口より発せられそうになった。
〝ダメだ……今は……〟
一歩手前の直前で、彼女は唇を固く締めて、流れ出ないように踏ん張った。
〝なら………もっと堂々としなさいよ!〟
〝これ以上………響の友達じゃいられない〟
あの時や、あの時と同じように、友の境遇を嘆くこの〝痛み〟に流されるがまま、ここでまた響の言葉を遮って、言葉の濁流を流し出してしまえば………また自分たちは自分の想いに反して、お互いを不用意に傷つけ合ってしまう。
こんな過ちをまた繰り返したら、永遠に自分たちはすれ違ってしまうかもしれない。
今はそっと――そしてちゃんと、親友の言葉に耳をすませ、傾けるんだと、未来は自身に言い聞かせた。
どう応えるかか、聞き終えてからでも遅くはない。
「それどころか………上手く、言葉にできないんだけど………思い上がってたんだ、私」
眼差しを、海原から夕空へと、響は見上げ移し。
「シンフォギアがあれば、それを手にした自分なら、人助けができるって、誰かの助けになれるって…………でも……本当の人助けは―――一人じゃ、一人だけの力だけじゃ、できないんだって」
自身が行き着いた〝境地〟を、言葉にする。
「助ける方だって一生懸命だけど、助けられる誰かだって一生懸命で、一緒に助け合う〝気持ち〟があって、助けられるんだって、朱音ちゃんは、それを知ってるから皆に歌を届け続けてるし………翼さんだって、その助け合いがあるから使命を全うできるんだって気づけたと思うし………そして奏さんも、助けたい人たちに〝諦めるな〟って、歌で叫び続けてた………なのに私は、さっきの未来が頑張るところを見て………やっと分かったんだ………今まで未来から〝お節介〟だって言われる度(たんび)に、人助けだ、私の趣味なんだって………言っておいてね」
苦笑も交えた、いつもの日常で見るのとはまた違う、粛々とした笑みを響は未来に向ける。
「な~んて、言ってみたけど、ここまでずっ~と、朱音ちゃんにも翼さんにも、奏さんからも、そして未来からも、助けられっぱなしの、まだまだのひよっこだよ」
「響………」
受けた未来はこそばゆい気持ちになる………助けてもらったと言う存在の中に、自分もいたことを。
多分、さっきの囮役を買って出た時のことだろう。
その時の未来は、恐怖に屈服されそうになりながらも、己も誰も彼もの命も諦めたくなくて、無我夢中で起こした行動でもあったからだ。
「でもね………未来」
手すりに掛けていた手を離し、響は正面から未来を見据える形で向き合い、風景に当てていた眼差しを一度閉じるのと経て――
「やっぱり、私―――〝人助け〟が、したいんだ」
――開かせると、友の瞳と真っ直ぐに合わせあい。
「もしかしたら、あの日に生き残って、誰かを傷つけた自分への負い目もあるかもしれないし、ただ見てるだけだった自分のままでいるのが嫌って気持ちも、あるかもしれない………ようは、後ろめたさも入った〝ワガママ〟かもしれない、それでも………」
改めて、日々〝陽だまり〟だと称してきた、幼馴染の親友に。
「それでも――助けを求めてる人たちがいるなら、一秒でも早く、最速の最短に、真っ直ぐの一直線に、駆けつけて、救い出したいんだ―――みんなから受け取ってきた想いも籠った………なのより私自身の、意志(きもち)で」
己が胸の奥の心に宿る、強き自身の想いを、告げ切った。
受け取った未来は、暫く黙して、親友の言葉を、噛みしめる。
「み、未来」
以前のように取り乱してしまったり、涙を流すこともなく黙したままの未来の様子を響が気になり始めた頃に、未来は。
「じゃあ」
まず、一言。
続いて一歩、二歩、三歩と、響に歩み寄り。
「私は、私なりに響を助けられるように、その響の意志(ワガママ)を応援する」
両手で、響の〝左手〟を、小さな子どもに抱擁するように優しく掴み取ると。
「だから―――〝諦めない〟でね、みんなもだけど、響自身も」
「え?」
親友の口から返されてきた言葉に、響はぱちぱちっと、きょとんとした瞳を瞬かせた。
「みんなの為に、がむさらの一生懸命に頑張れる響が大好きだからこそ、響には、自分の為でも頑張れるように、なってほしいから」
「う、うん」
未来は、響の手を掴んだまま、〝陽だまり〟の如き、満面の笑顔を、届けるのであった。
――――――――――
夕暮れでの、未来と響とのやり取りから、さらに少し経っての、黄昏時にて。
園内の野外イベント用ステージ上にて。
傍らにスピーカー、その手にマイクを携え、ライトに照らされた朱音と翼の二人。
今を生きている人達へ向けた歌は、これまでは朱音一人による独奏であったが、今回は『初心に立ち返りたい』と言う翼からの希望もあり、二重奏(デュエット)となった。
自衛官たちや子どもたちも含む民間人ら、そして響に未来ら観客による期待の固唾が呑まれる中、プレーヤーと繋がったスピーカーから、ジャズテイストなトランペットを主軸とした出だしから、エッジの利いたギターサウンドがメインな前奏が流れ始め。
〝~~~♪〟
二人の歌姫による、簡素なステージをものともしない、歌声が奏でられていく。
即席ライブの一曲目は、気持ちのいい風が吹く都会にぴったりな、風の都を守りし探偵にして、二人で一人の仮面のヒーローの、主題歌。
ラップを利かせたノリのいい伴奏(メロディ)に乗ってシンフォニーを生み出す彼女らの歌声は、文字通り、観客を熱狂させていった。
つづく。
特殊EDのつもりなおまけパートで朱音と翼が歌っているのは、勿論、続編漫画でファンを絶賛ゾクゾクさせている二人で一人な探偵たちのです。
追記:朱音の人物紹介欄に、ausuさん作の朱音のイラストが載ってます。
今後朱音はこのデザインで行きますが、引き続きイラストは募集しております。