GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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いきなりビッキーの話なのですが、考えてみると原作のビッキー、まだ原作GXまで経てもまだ本当の意味で〝対話〟に対する挫折をしていない(汗

だってクリスちゃんにしても、調にしても、キャロルにしても、対話を臨もうと踏み込んで地雷を見事に踏んじゃうことはあっても……対話が上手くいかない現実を突きつけられるより、ぶり返した自分のトラウマに苛まれてしまうから(コラ

つまり現実の壁にぶち当たる前にトラウマで転んじゃってヒーローとして絶不調に陥るのが一作品につき一度は必ず起きると言う。

もしかしたら……今度こそ四期以降は意地悪な金子さんによって対話がままならない現実に打ちのめされそう。

しかも今までも激闘の被害を踏まえると、MCUにおけるソコヴィア協定的なものが装者たちに課せられそうな予感もあるんです(オイ

とにかく前半は未来の愛は重い、後半はクリスちゃん激おこで構成された回です(マテ


#26 - 想いはすれ違う

 図書室の窓から、隣の市民病院の屋上で、朱音と響がいるのを目にしてしまった未来は、あの後逃げるように校舎から出ていき、市内を一人〝彷徨い人〟な様相を漂わせて、一人歩いている。

 響自身の隠し事のできなさ、ごまかしの下手さといった性分、学生寮で同居している環境、そして小学生からの長い付き合いもあって、具体的な形まで分からずとも、何か辛いこと、苦しいことを背負っている気配を、未来は薄々感づいていたものの………どちらかと言えば内向寄りに当たる彼女は、親友の〝隠し事〟を確かめるほどに、踏み込めずにいた。

 そんな中、遠間から、背中越しからでも、響から悩み事を打ち明けられ、それを真摯に聞いて上げている。

 リディアンに進学して、新たにできた友人である彼女に、未来はどうしようもなく心を乱された。

 

 

 

 自分からは、いくら聞いても尋ねても、何も言ってくれない……応えてくれない、ただただ気まずく取り繕った〝愛想笑い〟で、誤魔化されてしまうのに。

 中学の………あのライブの後にあった〝誹謗中傷〟を受けていた頃だってそう……心ないたくさんの〝言葉の刃〟を、毎日毎日、身も心にも突き刺せられて………お父さんがいなくなって………お母さんもおばあちゃんにまで及んで、本当は辛くて、哀しくて溜まらなかった筈なのに。

 

〝へいき、へっちゃら、だって〝私の陽だまり〟な未来がいるんだもん〟

 

 私にすら、自分を〝陽だまり〟だとそう言って、笑顔を見せて強がってばかりだった。

 だからせめて………あの日響を死に際に追いやる原因と、誹謗中傷を受ける原因、家族をバラバラにしてしまった原因の大元な自分が………二度と手を離さないように、〝友達〟として傍にい続けようと、決めたのに。

 その為なら、陸上にも、走ることへの〝情熱〟だって、諦められた。

 潔く、捨てることを………受け入れることだってできた………なのに。

 

〝ごめん未来……〟

 

 一緒に流れ星を見られなくなったと伝える時の、親友の背中が再生される。

 なのに………響は幼馴染である未来にすら明かしてくれない秘密を、背負っている〝重荷〟を、朱音には打ち明けて………朱音は聞いてあげている。

 未来はいくらでも〝受け皿〟になってあげられるのに、朱音がその役を担って、受け止めている。

 親友の自分を差し置いて、響は朱音と、一緒に………共有している。

 未来の心をざわめかせるのは、図書室の窓越しに見た光景だけではない。

 一か月以上前の休日、どこか物憂げな様子だった響が制服姿で一人外出したあの日の夕方、夕飯のお弁当を買いに行った帰りの道中にて、未来は見ていたのだ。

 夕陽が照らされる中、遠くからでも分かるほど、大粒の涙を流して咽び泣いている響と………彼女を優しく抱きしめ、涙を哀しみごと受け止めている朱音の姿を――。

 

〝私には……何も……私だって………いつだって……〟

 

 ある種の〝羨望〟と〝ジェラシー〟が入り混じった心情をも、抱いてしまい、同時に人知れず命がけでノイズと戦い人助けをしている〝命の恩人〟へ、そんな気持ちを持ってしまった己に、自己嫌悪さえしてしまっていた。

 粘液じみて胸の内で周る気持ちが堂々巡りをして整理がつかない中、未来はリディアン他校含めた談笑し合う学生たちも行き交う喧噪の中で、一人行きつけのお好み焼き屋――フラワーに足を運んだ。

 

「いらっしゃい―――おや? 今日は未来ちゃんお一人かい?」

 

 暖簾を潜って扉をがらがらと開けると、藍おばさんが今日もきさくに迎え入れる。

 

「はい、急におばちゃんのお好み焼きが食べたくなって……」

「そうかい、じゃあ今日は未来ちゃんに特別サービスで、うちの〝特性まかない〟、ご馳走しましょうかね」

 

 客足が落ち着いている時間帯もあり、まずお冷を未来に提供した藍おばさんは気前よく当店の裏メニューの調理に取り掛かり始めた。

 

「お願いします………実は昼から、何も食べてなくて………ペコペコで」

 

 カウンター台へと俯くと、コップの中の水面が暗然とする未来の目の周りを映していた。

 肉や野菜などの具材が混ぜ込まれ、練り込まれ生地が熱せられた鉄板の上で焼かれ、じゅうじゅうと食欲を刺激し増進させる効果も付いた、火によって演奏(かきなら)される音色に、未来は耳をすませて、空腹の直ぐ上にある〝胸〟の中で渦巻き続けるドロッとした思いを紛らわそうとしていた中。

 

「未来ちゃん、お腹空いたままか考え込んでいるとね――」

 

 いきなり呼びかけられ、未来は藍おばさんの後ろ姿へ見上げる。

 

「――そう言う時に限って、嫌なことばかり浮かんでくるもんだよ」

 

 その助言に、未来は面食らわされた。

 

「経験あるの、って顔してるね」

 

 器用に裏返しつつ、調理したまま首だけを振り返ったおばさんに、こっくりと未来は頷き返す。

 

「これでもおばちゃん、昔は夢に向かって我武者羅に全力疾走していた時期があってね、でも中々上手くいかなくて、いつも虫が鳴きそうなくらいお腹を空かせて、へればへるほど嫌な考えが頭に張り付いてくるから、大変だったものさ」

「おばちゃんの……〝夢〟って?」

「それは―――秘密」

 

 口元に人差し指を立てた藍おばさんは、長年培った腕で巧みに焼き上げ、プロの絵描きの如き手つきでソース、マヨネーズ、青のり、鰹節を飾りつけたお好み焼きを、食べやすく十字状で綺麗に四頭分にして皿に移し。

 

「何にお悩みかは、無理に訊かないけど、まずは頭を休めて、ペコペコな体に食べさせておやり」

 

 未来の前のカウンターに、特性まかないをにっこりとした笑顔と一緒に差し出した。

 

「いただきます」

 

 未来はいつもよりも深く礼をして合いの手をし、煙が立ち昇って鰹節が賑やかに踊るお好み焼きを食し始める。

 まかないとしておくには勿体ないほどの旨味が、口の中で広がった。

 

〝これじゃ、一人相撲……だよね……〟

 

 段々と食べていく内に、未来の心は余裕と落ち着きを取り戻し、自分の勝手な思い込みに思い込みを重ねて、一人ネガティブな思考が生んだ沼に嵌りかけていた自分を恥じた。

 

〝私ってば……バカ〟

 

 悩みの中身は置いといて、これは自分にとっても響にとっても喜ばしいことではないか?

 いつも誰かの為にばかり頑張り過ぎて………いつも自分のことは、無頓着に後回しにしてしまうあの響が、自分から〝悩み〟を打ち明けていたのだ。

 傍にいると決めておいて、自分は手をこまねいていた中、響にそこまで至らせた恩人の朱音には、むしろ感謝しなくちゃいけない。

 だったら自分も、一人で勝手に思い込んで沈んでいないで、ちゃんと話せば――

 

「ありがとう―――おばちゃん」

「何かあったら、いつでもおばちゃんのところへおいで」

「はい」

 

 さっきまで〝沈痛〟が張り付いていた顔に笑みを浮かべて、未来は藍おばさんに感謝を送った。

 

 

 

 

 ふらわーに入店する前は重かった足取りも一転して軽やかとなった未来は、その足で改めて朱音の見舞いに行くべく、市民病院へと向かっていた。

 

「泣くなって……ここで泣いたって父ちゃんがみつかるわけないだろ?」

「だってぇ……」

 

 途中、道脇に設置されたベンチに座って泣いている小学校一・二年くらいの女の子と、その子を宥める二歳分ほど年上な男の子を見つける。

 

「君、どうかしたの?」

「父ちゃんと、はぐれちゃって」

 

 話を聞くとこの子らは兄妹で、休日がてら父親と三人で外出したら、街中ではぐれて迷子になってしまったらしい。

 

「それじゃ、私も一緒に探してあげる」

「ほんと!」

 

 尋ねた手前、放ってはおけず、未来はこの兄妹の父親捜しを手伝ってあげることにした。

 彼らの話では、下音谷森林公園の近くではぐれてしまったとのことで、その辺から探し始めた。

 駐車場と隣接した園内のレンガ道を歩いていると、鞄に入れていた未来のスマホから着信音が鳴り。

 

「ちょっとごめんね――もしもし?」

『もしもし未来、今時間あるかな?』

「ごめん――」

 

 電話を掛けてきた主である朱音に、迷子な兄妹の父親捜しを手伝うまでの経緯を話す。

 

『じゃあ、その子たちのダディが見つかってからでいいから、病院に来てくれないか? 大事な話があるんだ』

「うん、分かった」

 

 見舞い相手の朱音と約束を交わした直後、レンガ道の向かいから、響がこちらの方へ走って来ていた。

 

「あ、響―――!」

 

 彼女に気づいた未来は、親友に呼びかけるも。

 

「み……未来っ……」

 

 その親友当人は、切迫した様子で鉢合わせた未来に対し、驚きの面持ちをしていた。

 

 もしも、このまま何事もなく、市民病院に着いて、朱音の口から〝真実〟――愛しい親友が背負っている〝十字架〟を知ることができたら、どれ程幸いだっただろうか。

 たとえ、驚愕と、衝撃、戸惑いを覚えながらも、親友の〝本気〟を汲み取って、許容することができたかもしれない。

 だが――

 

「お前はァァァァァーーーー!」

 

〝運命〟と言う悪魔は、最悪の形で、立花響の〝十字架〟を、親友たる小日向未来に、突きつけてしまうのだった。

 

 

 

 

 

「未来―――未来ッ!」

 

 電話越しに、日常が破壊される轟音と、未来と子どもたちの悲鳴を耳にした朱音は、点滴針を抜くと同時に突風の如く駆け出した。

 行く先は、この庭園からも繋がっている非常階段、院内の廊下は走行ご遠慮なのを考慮した彼女は、迷うことなくそこから院内に出るルートを選んだ。

 朱音は屋上と連なる最初の踊り場の手すりに手を掛け、膝を曲げた両脚を横向きから跨がせて跳ぶ――トゥーハンドヴォルトで、六階の踊り場に降り立つ。

 足と階段の接触音が響き終える前に直ぐ様、六階の手すりを、全身の向きをターンさせて跳び越える。

 その先は地面まで約二〇メートル、このまま堕ちれば当然ただでは済まず、傍からは朱音の行動は常軌を逸したものだったが、ターンヴォルトから落下する彼女はなんと五階部分の踊り場の端に手を掛け、両脚を振った勢いで四階部に入り込んだ。

 そのまま急ぎ三階、二階へ駆け下り、地上から二段目の踊り場から、地上の駐車場目がけて飛び降りた。

 足がアスファルトと接地した瞬間、その場で前転し衝撃を緩和し、見惚れるほどな一連のパルクールアクションで病院の外に出た朱音は、駐車場内を疾走する。

 敷地内を超える寸前、右手側から出てきた車が彼女の目の前で急停車した。

 

「乗って下さい!」

 

 助手席の扉を開けた運転手、朱音の警護に当たっていた私服姿の二十代半ばくらいな二課のエージェントが、乗車を促し、朱音は応じて乗り込んだ。

 車両が発進した直後、特異災害の発生を知らせる警報(サイレン)が街中に響き始めた。

 

「なぜ?」

「司令からの指示です、貴方の即断を見越してのことでしょうね、まさかパルクールを披露するとは思いませんでしたが」

「サラジアのエージェントのように律儀に降りてはいられなかったもので」

「サラジア?」

「後で検索してみて下さい」

 

 かの怪獣映画にちなんだジョークを飛ばした朱音は、スマートウォッチの通信機能を立ち上げる。

 

「友里さん、状況は?」

『現在下音谷公園内で、響ちゃんとネフシュタンの少女が交戦中、ノイズの反応は現在見られません』

 

〝どういうこと?〟

 

 友里からの報告に対し、疑問が生じる。

 一度ならず、二度も少女は狙いである響の身柄の強奪に失敗している。

 今度こそは何としても果たそうと全力を以て現れた筈なのに………なぜ戦力面では有効な、ノイズを操作できる〝古代イスラエル王国三代目の王の杖〟を使っていないのか?

 相手がノイズの天敵な装者でも、物量で攻め込めるアドバンテージを有した手持ちの戦力(カード)を、みすみす切り捨てるなんて………彼女、何を考えている?

 一連の陰謀に加担するあの少女の正体と、その〝胸の内〟に心当たりを見出しているだけに……〝背水の陣〟な筈の彼女の意図が、解せす。

 

〝どうか………無事で……〟

 

 巻き込まれた未来と子どもたちの安否を願う中、車が急停車する。

 

「未来っ……」

 

 フロントガラス越しに、向かうから、どうにかここまで避難してきたらしい、体も服も煤で汚れた未来と、例の父親と逸れた兄妹らしき子どもたちを見止めた。

 

「要救助者を発見、小日向未来さんと小学生二人です」

 

 二人はほぼ同時に車から降り、エージェントは本部に報告し、朱音は彼女らの下へ駆け寄り。

 

「みっ――」

 

〝未来ッ! 大丈夫か!?〟

 

 と、口より発しようとした声が、一単語目で、途切れてしまい、走っていた足も止まってしまう。

 朱音の存在に気づいて、彼女に目をやった未来の瞳から、涙が………溢れ出す様を、目に止まってしまったからだ。

 未来自身は、口を固く結んで必死にこらえようとしていたが………こらえ切れず、瞬く間に彼女の顔は涙で濡れ染まり、膝が屈されて、泣き崩れていった。

 頬を伝って零れた雫が、地に付いた手の甲へ、ぽたぽたと落ちていく。

 

〝見てしまったのか………シンフォギアを纏った……親友の姿を……〟

 

 友の泣き崩れる姿を目にするだけで、朱音はその〝事実〟を知った。

 恐らく、少女の襲撃で生じた二次災害から、未来と子どもたちを守ろうと、彼女らの目の前で、響は聖詠を唄って〝変身〟したのだろう。

 

〝こんな形で………知ってほしくは………知らせたくは―――なかったのに………〟

 

 未来に〝真実〟を伝えるのに逡巡して先延ばしにする余り、こんな最悪の形で………突きつけてしまった。

 己への不徳さ、不甲斐なさに、朱音は自らの拳を震えるほど握りしめ、同じくらいの強さで、歯噛みする。

 

「お姉ちゃん、どうしたの? どこか痛いの?」

 

 そこへ、未来の泣く姿を間近に見ていた兄妹たちは、その理由までは分からずとも彼女を案じ、妹の方は言葉も掛けていた。

 

「怪我の心配はない、君たちを安全な場所まで送ろうと頑張ってた分、ここにきて怖い気持ちが湧いて来たんだ」

 

 涙の理由の大半は……響のことな一方、実際子どもたちの安全を確保する為に、命の危機に瀕しながらも気丈に振る舞っていたのも事実なので、その点を強調して子どもたちに述べる。

 

「それより………君たちも」

 

 子どもたちを見れば………戦闘の巻き添えになった際に、飛び散った破片か何かで、兄は頬に、妹は腕の皮膚に切り傷が刻まれていた。

 怪我そのものは軽傷だが、それでも幼い命に、痛覚――肉体が発する警告は、決して小さくはない苦しみを与えるもの。

 現に、彼らの顔をよく見れば、傷の疼きで歪みそうに、泣きそうになっている。

 

「痛くないよ、だって僕男の子だもん!」

「お姉ちゃんこそ、怪我、大丈夫なの?」

「そうだよ、お姉ちゃんが着てるそれ、病院の服だよね?」

 

 だと言うのに、この小さな身体で、痛みに耐えて必死に戦いながら、患者服姿な朱音を、気に掛けていた。

 

〝おねえ……ちゃん〟

 

 初めてシンフォギアとしてのガメラを纏った日を思い出す。

 あの子も、大勢のノイズに囲まれて、押し寄せる不安と恐怖で一杯一杯な筈なのに………不条理に屈しかけ、前世(ガメラ)の記憶と無力な己に押し潰され、絶望しかけていた朱音を、気に掛けてくれていた。

 改めて、この幼く小さない生命(いのち)たちの、理不尽を前にしても消えぬ健気さと、強さに、胸より温かさを覚え………心打たれた朱音は――

 

「大丈夫、君たちの怪我に比べれば、お姉ちゃんのなんて、どうってことない、だから――」

「あっ……」

 

 両腕を広げて――子どもたちと未来を包み込んで抱き寄せ。

 

〝kiss it~and~~make it~Well♪〟

 

 そう、メロディを奏でて、唱える。

 

「今の、何?」

「痛みが和らぐ、おまじない」

 

 男の子の疑問に、朱音は母性すら感じさせる微笑み答えた。

 彼女が今口ずさんだのは日本で言う、〝痛いの痛いの~とんでけ~〟に当たるおまじない―――〝魔法の言葉〟である。

 

「この人は特機部の人だから、もう大丈夫」

 

 子どもたちの小さな頭に、優しくぽんぽんと手を置き、彼らを安心させると。

 

「この子たちの保護、頼みます」

「お任せ下さい、さあっ君たち、車に乗って」

「う、うん」

 

 ここまで連れて来てくれたエージェントに、後を任せた。

 急ぎ変身して戦場に向かい、響の助太刀に向かいたいが、その前に朱音は、ゆっくりと涙で顔が濡れている未来を立ち上がらせると。

 

「必ず戻る、響も連れてだ」

 

 決意を込めた声音で未来にそう伝え、すれ違い様にそっと、彼女の肩に手を置いた。

 

「っ………」

「小日向さん、こちらに」

「はい……」

 

 振り返った未来は朱音の背中を見つめて、何やら言いたげな様子を見せるも、エージェントに催促されて、車に乗り込む。

 エージェントも運転席に乗り直して車を発進、その場でUターンして走り去っていく。

 

 

 

 

 

 未来たちを乗せた車の後ろ姿を見送った私は、勾玉を手による。

 同時に、脳裏である雑音(ノイズ)たちが響いてきた。

 

 機関銃が乱れ放ち、弾たちが大気を裂いて突き進む銃撃音、それらが人の血肉を打ち貫く音。

 戦車から放たれる砲弾、それが地面に着弾して上がる爆音。

 空を翔る無数の戦闘機から落とされる――爆撃の雨。

 火を吹かして飛翔する………ミサイル。

 そして………それらの兵器の猛威によっていくつも響き渡る………人の悲鳴。

 

 哀しく凄惨な争いの中で、かき鳴らされる…………残酷な〝合奏〟、私も――ガメラも、何度となく、直に耳にしてきた不快なる〝不協和音〟だ。

 

 実を言えば………私は悪しき陰謀の片棒を担ぐ〝彼女〟に対して――〝怒り〟を覚えている。

 

 何年も、あの〝不協和音〟と隣り合わせで、一秒でも長く生き長らえるのかすら………分からない〝恐怖〟の日々を、命が無慈悲に奪われていくその〝地獄〟を………直に目で、耳で、心で味あわされ、直面し続けてきたと言うのに。

 彼女は………故郷である筈のこの日本で、特異災害をも利用し、幸いにも人同士の醜い争いに巻き込まれることなく過ごしてきた人々を………未来(こどもたち)の音楽(いのち)を脅かし………自らの両親の〝願い〟を足蹴にして、どんな理由を、想いを心に秘めているにせよ………自身の人生を狂わせ、憎んでさえいる筈の〝地獄〟を、引き起こす側に立っている。

 その現実が…………とても腹正しい。

 彼女がそのような残酷な〝選択〟をしなければ………響の胸にあるガングニールは目覚めることはなく、ただの女子高生として、日常の中で人助けに励む普通の女の子として…………いられ続けたのかもしれないのに。

 長年の親友とも、こんなすれ違いをせずに、済んだと言うのに。

 

〝我―――ガイアの力を纏いて―――〟

 

 だからこそ、私は内なる〝猛獣〟の手綱を握りしめて御しながらも、〝義憤〟と戦意の炎を、静かに燃え上がらせ、聖詠を唄う。

 

〝悪しき魂と、戦わん〟

 

 その〝不条理〟―――我が〝炎〟で―――断ち切るッ!

 

 

 

 

 

 決意の火を滾らせ、勾玉を持つ右手を左肩に当て。

 

「ガメラァァァァァァァァーーーーーーーー」

 

 自身のかつての名であり、シンフォギアの名を叫び上げ、前方に突き出した勾玉より発せられた光に包まれた。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、シートベルトしなきゃダメだよ」

 

 この時、後部席に座っていた少年は、ガラス越しに―――朱音が変身する様を、妹からの注意が聞こえなくなるほど夢中になって、目にしていた。

 

 

 

 

『そのまま響ちゃん側から見て一二時の方角に進んで下さい』

「はい!」

 

 今度こそ自分を捕えようと三度、襲撃してきた少女から未来たちを守るべくガングニールを起動させた響は、二課本部オペレーターからのサポートも受けつつ、戦闘に差し障りのない場所へ少女を誘導させていた。

 

〝響………どうして………〟

〝未来ぅ………ごめん〟

 

 一瞬、この姿を見せてしまった時の自分を見る未来の姿が過りながらも、歌いながら今置かれている状況に意識を集中させ、少女からの鞭の攻撃を躱しながら森の中を駆け抜ける。

 

「どんくせえ癖に一丁前の挑発をッ!」

 

 一方少女は、挑発的言動は崩さずにいながらも、内心。

 

〝くそっ………アタシのしたことが…………関係ないやつらを巻き添えにしちまった………〟

 

 結果を言えば無事に逃げ延びたとは言え、自分の起こした〝戦闘〟に民間人を巻き込ませてしまったことを悔やみ、それを招いた自分を攻め立てていた。

 

 完全に周りには自分と少女以外、人がいないことを確認した響は、移動を止めて相手を向き直す。

 止まったところを狙い、少女は鞭の一閃を振るうも、響は籠手が装着された両腕をクロスして防御した。

 

 

「やってくれるな、どんくせえノロマがッ!」

「〝どんくせえノロマ〟なんて名前じゃないッ!」

「あっ?」

 

 偽悪の仮面を被ったまま煽り立てる少女に、響は反論を投げ返す。

 

「私は立花響!一五歳! 誕生日は九月の一三日――血液型はO型――身長はこの間の身体測定じゃ一五七センチ! 体重はもう少し仲良くなったら教えてあげる! 趣味は〝人助け〟で好きなものは〝ごはんアンドごはん!〟――あと――彼氏いない歴は年齢と同じィッ!」

「っ………」

 

 これには少女も、今戦っている状況を忘れかけるほど呆けそうになり、困惑を見せていた。

 

「な……なにトチ狂ったこと抜かしやがるんだ? お前は……」

 

 意識的にしていた偽悪的声音が一時消え、思わず響に苦言を呈してしまう少女。

〝トチ狂った〟などと言う表現は行き過ぎだとしても、引かれるほど突っ込まれるのは無理ない。

 戦いの最中にて、ここまで自身のパーソナリティを事細かく、大声ではっきりと、体重は秘密なのに彼氏は生まれてから現在まで一人もいないこと含め堂々と、長々と述べ立てる輩など、恐らくこの先の人類史でも響以外に現れることは絶ッ―――対、ないであろう。

 

「私たちは――ノイズと違って言葉を持っているんだからちゃんと話し合いたい! どうしてそんな怖い力を振るっているんか――知りたいんだッ!」

 

 しかし、響は〝トチ狂って〟少女に言葉を投げかけているわけでは――断じてない。

 ご覧のとおり、本気も本気で敵対している筈の少女との〝対話〟を望み、求めていた。

 

〝話し合いたいだ? また戦場(いくさば)のど真ん中でバカなことを――〟

 

「何て悠長! この期に及んでッ!」

 

 内心、また響への苛立ちが芽生えつつも、口調を偽悪的なものに直し、響の呼びかけに余裕ぶった態度で一蹴し攻撃を再開する。

 

〝何?〟

 

 牽制目的だったさっきのと違い、今度は確実に当て、ノックアウトさせる気で振るわれた鞭の猛攻の数々を、響は回避しいく。

 

〝この間よりさらに動きが? どうなってやがる!?〟

 

「だから止めよう! こんな戦い! ちゃんと言葉を交わして――話し合って、通じ合えば―――分かり合えるよ!」

 

 得物を持つ少女の手の力が強まり、さらに鞭の攻撃が激しさを増していっても、双眸に強い眼差しを帯びた響は避け切り、語るのを止めない。

 

〝ちっ! ―――聞く耳を立てんじゃねアタシッ!〟

 

 響のその姿勢に、苛立ちが強まった少女は舌打ちを鳴らす。

 

「だって私たち―――」

 

 心の底から、対話を、立場では敵対していても分かり合おうと呼びかける響だったが――

 

「―――同じ〝人間〟だよ! 人間なんだよッ!」

 

 続けて発した………思いの丈の籠ったこの響の手(ことば)は、意図せずして、少女の〝逆鱗〟に――

 

「ウルサいッ!」

 

 ―――触れてしまっていた。

 証拠として、バイザーを被る少女のあどけなさが残る整った容貌は、響への憤怒一色となって歪んでしまっていた。

 

 

 

 

 

 クソッタレが!

 胸ん中で疼き、沸騰しやがった熱は、真っ赤な血ごと一気にアタシの頭んにまで昇ってきやがった。

 けどアタシには………それを抑えつける気なんざ、毛頭ない、逆に歓迎したいくらいだ!

 さっきから……聞いていればこの野郎は………そんな耳障りが過ぎて反吐が出てきやがる綺麗言(キレエゴト)を………おめでてえくらい度が過ぎて癇に障る青臭さを―――胸糞悪い空虚でクソの役にも立たない理想論を―――ベラベラベラベラ知ったように―――ほざき吐きまくりやがってッ!

 

「何が分かり合えるだ!? 言葉を交わせるだぁ!? 理解(わかり)合えるもんかよ! そんな風にできてるもんじゃねえんだよ―――人間ってのはッ!」

 

 お前のほざく通り――言葉を持っている癖に争っているのが人間だ!

 言葉を使えるくらいの知恵(おつむ)で、同じ人間を殺すおぞましい武器、殺戮兵器――力を生み出して殺し合っているのが人間だ!

 その人間たちに、歌と音楽でお前みたいに仲良くしよう、仲良くなろうとのこのこ国中が内戦で鉄火場となっていた国に転がり込んだパパとママを無残にぶち殺しやがったのが人間だ!

 同じ人間と人間から生まれたアタシら子どもを、道具も同然に弄んだ屑揃いな大人どもも人間だ!

 いくら痛いと言っても、いくらやめてと訴えても、これっぽっちもアタシの話なんか聞いちゃくれなかった連中も、同じ人間だ!

 そんな目を覆いたくなる、塞ぎたくもなる、瞑りたくもなる〝現実〟も知らねえ温室育ちの癖に………知ったような口で―――偉そうにッ!

 

「気に入らねえ!気に入らねえ! 気に入らねえ!――気に入らねえッ!」

 

 もう融合症例(こいつ)を引きずって連れ帰るって■■■■からの〝頼み〟すら、どうでもいい!

 

「何も分かっちゃいねえくせして知った風にペラペラと口にする偽善者(ヒポクリット)ヤロォォォォーーーがァァァァァァーーーーーー!!!」

 

 この手でこの〝キレイゴトヌカスギゼンシャ〟を、叩き潰す!

 

 お前の何もかも―――全てを―――踏みつぶしてやるッ!

 

 

 

 

 

 激情の濁流に流されるまま、少女はネフシュタンの鎧の飛行能力で跳び上がり。

 

「吹っ飛べッ!」

 

 鞭の先端より、漆黒の雷撃を纏ったエネルギー球――《NIRVANA GEDON(ニルヴァーナ・ゲドン)》を投げ放つ。

 響は交差した両腕で、一撃で翼をも追い込んだエネルギー球を受け止め、大地を踏みしめる両足が後退させられながらも耐えていたが。

 

「もってけよ――」

 

 そこへさらに。

 

「―――トリプルだッ!」

 

 二連続で《NRVANA GEDON》を地上の響へ、投げつけた。

 追い打ちのエネルギー球の衝突で、響の姿を飲み込むほどの爆発が、巻き起こり、辺りは巨大な爆煙に覆い、漂った。

 

〝お前みたいのなのがいるから………私はまた――〟

 

 迸らせた激情と、大技を三連続で放った代償による消耗で、息が荒くなっている少女は滞空状態を維持しようとするも、ふらつく中。

 

 煙(ベール)の奥より、〝焔の弾〟が、少女へと肉薄する。

 避けようにも、消耗の影響で思うように飛行制御できず、直撃を受けて、鮮やかな爆炎が轟く。

 

〝今の火の玉、ヒポクリットヤローのじゃない………〟

 

 着弾から、拡散して膨れ上がるプラズマの炎から、煤で鎧の至る箇所が黒ずんだ少女が地上へt落ちていくも、どうにか態勢を立て直して降り立った。

 まだ地上を彷徨って流れる煙に浮かぶ、人影が目に止まる。

 

〝まさか……〟

 

 そのまさか、であった。

 響のではない人影が、手を手刀の形にした左腕で、煙を振り払う。

 

「今度は――」

 

 右手には、少女を撃ち落としたプラズマ火球を放って銃口より白煙を上げるライフル――アームドギア。

 

「――私が相手だ」

 

 少女が最も戦いたくはなかった、見えたくなかったイレギュラーなる装者。

 最も少女の意志を揺さぶらしてくる相手。

 最も彼女の心を、脅かしてくる存在。

 

 政府官僚らからは、《紅蓮の戦乙女》と呼ばれ。

 

 ■■■■からは――《地球(ほし)の姫巫女》と異名を付けられし、戦士。

 

 草凪――朱音。

 

「雪音(ユキネ)――クリス」

 

 朱音は、生命(いきとしいけるもの)を脅かす〝不条理〟に立ち向かうあのガメラの眼差しそのもので、少女と相対し、彼女の名を、呼び上げた。

 

つづく。

 

 




当SSでは花笠藍って名前を勝手につけてしまったふらわーのおばちゃん。
巷ではおばちゃん=織田光子(翼の尊敬する憧れの歌手)説があり、そのネタ使おうかなと思ったけど公式側の見解がもし違ってたらと言う可能性もあるので、織田光子だったのかもしれないし、ライバル歌手だったのかもしれないバランス(中の人が元ウルトラマンのつもりで演じたガイアの石室コマンダーのバランス)で描きました。


澤海(ゴジラ)「一番怒らせちゃ不味い奴を怒らせて、どう見てもそのクリスとやらが勝てる要素が全く見られねえんだけどな」

怪獣王が言ってやるな(コラ

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