GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~The Guardian of Symphogear~   作:フォレス・ノースウッド

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翼の『泣いてなどおりません!』まで書く予定が……字数制限の問題にぶちあたってそこまで描けずじまい………なんて体たらくでしょう(大汗

今回初めて、作詞作業と言うものを体験しました。

攻殻機動隊のriseと、ウルトラマンネクサスEDの赤く熱い鼓動の歌詞を元に、うっかり似たような言葉だらけの表現にならないよう気をつけながらどうにか形に、はっきり言って全然自信がないのですが。

追記:規約に沿った上で翼の『絶刀・天羽々斬』の歌詞を掲載しました。


#7 - 不協和音 ◆

 特機二課本部内にてけたたましく轟く甲高いサイレン――ノイズが出現する前ぶれである現象、空間の歪曲が起きたことを知らせる警報であった。

 メディカルルームから急いできた弦十郎と朱音らが、司令室に着く。

 少し遅れる形で、響と翼も入室してきた、

 

「状況は?」

「空間歪曲反応多数、ノイズ出現まで、推定約二十秒」

「本件は、我々二課が預かることを一課に通達」

 

 司令官である弦十郎は、早速指示を飛ばす。

 

「転移反応感知、位置特定、座標は――」

 

 ノイズの出現地点を突き止めたオペレーターの友里あおいは、冷静さを維持しながらもその声音に驚きを混じらせていた。

 

「――リディアンより距離、二百!」

「近いな……」

 

 なぜなら、二課本部の真上な地上に立つ私立リディアン音楽院の校舎と、それほど遠くない場所からノイズが現れたからだった。

 

 

 

 

 

 市内の俯瞰図が映された司令室内のモニターには、紅く点滅するノイズの出現ポイントが表示されている。数は画面内だけでも六つ。

 律唱市にノイズの群団が現れてから僅か二日足らずの間で再び奴らが現れた状況に、私は胸騒ぎを覚えた。

 ひとたび現れれば、周囲にいた人間を躊躇なく襲い、炭へと変え、人々をの精神を絶望の奈落の底へと落としゆく〝災いの影〟ではあるけど、ミクロな視点で見れば、人間一人がノイズと鉢合わせる確率は、実を言うと………東京都民が夜道を歩いている中通り魔に出くわす確率よりも、遥かに低い。

 だからこの数日と言う短い期間に、朝のニュース番組でも報道された〝山中に現れた〟も含めて三度も、それも多数一度に出現するなんて………奴らの存在そのものがおかしいのだが、日々の情報収集で導き出した奴らの今までの行動パターンを照らし合わせると、今回連中のとった行動は、明らかにおかしい部類に入る。

 しかも、まるでリディアンを取り囲むように現れている………陣地を攻め立て、こちら側のものにしようとしているかの如く………胸騒ぎを覚えないのが無理な話だ。

 何を目的に、奴らは動いている?

 

「迎え撃ちます!」

 

 風鳴翼は、今自身が口にした通り、ノイズを迎え撃つべく司令室から駆け出していった。

 そして、戦地に赴く翼の背中を凝視していた響も、何を思ったのか、彼女を追いかける形で走り出す。

 

「響ィ!?」

「おい待つんだッ!」

 

 私と風鳴司令は、響を引き止めようとする。

 ノイズの特異災害に巻き込まれたことはあっても、響は〝実戦〟を全く経験していない素人、武術の類も習ってはいないし、未来の話では中学で部活に入っていなかったどころか、スポーツの一つも嗜んではいないらしい。

 無論……シンフォギアは纏えても、まだ全然〝シンフォギア〟を使いこなせてはいない。

 完全に〝戦う術〟を知らない………ただの女子高生な女の子だ。

 

「君はまだ訓練も何も――」

「わたしの〝力〟が――〝誰かの助け〟――になるんですよねッ!?」

 

 弦さんからの尤な制止の言葉を遮る形で、響はそう言い放つ。

 

「シンフォギアの力でないと―――ノイズとは戦えないんですよね!?」

「そう、だけど……」

 

 響本人にそのつもりはない………のだが、こちらからも返しを遮り、半ば一方的に捲し立てる形で、彼女は私たちに言葉をぶつけてくる。

 

「私だって、朱音ちゃんと翼さんみたいに〝助けた〟いんです! だから行きます!」

 

 まるで、何かに急かされている………よりはっきりとした表現をするなら、強迫観念に駆られた様子で、走り去っていった。

 

 

 

 

 

 ああ……まただ。

 さっきメディカルルームで、風鳴司令からの〝協力要請〟を、ほぼ即断で承諾した時の彼女を目にした時と、同じ〝胸のざわめき〟が、私に迫り、すり寄ってくる。

 

 響………どうしてなんだ?

 一体何が……そこまで君を駆り立て、逸り立てているのだ?

〝死〟の充満した生き地獄を過去に体験していたと言うのに、なぜまたその戦場(じごく)に、こうも躊躇なく飛び込めるのだ? 飛び込もうとするのだ?

 

 今彼女は、命の危険に満ち溢れた戦場に向かおうとしている………なのに、あの子からは、〝恐怖心〟と言うものが、ほとんど感じられなかった。

 恐怖と言う単語に対して、ネガティブな印象を抱く者は多いだろう。実際、その感情の荒波に呑まれ、支配されてしまえば………理性を失い、心を完膚無きまで壊されかねないのも事実。

 でも、全ての生きとし生きるものにとって、〝恐怖〟は絶対に捨てても、失くしてもいけないものだ。

 恐怖があるからこそ、私たち生命は、実は大量の〝危険〟にありふれた世界で、どうにか生を全うできる。

 使い方さえ身に着けていれば、ある意味で〝猛獣〟とも言える恐怖を、心強い味方に付けることさえできる。

 人が普段思っている以上に必要な存在であるその感情の一つは………特に一瞬の油断で命を散らしかねない世界である〝戦場〟では、欠かせぬアイテムだ。

 

〝私の力が―――誰かの助けになるんですよね!?〟

 

 つい先程、そう強く言い放った響から………それが見当たらない。

 と言うよりも、〝恐怖〟以上に極端極まる強迫観念の域で、ある〝感情〟が恐怖を押しつぶしてしまっているよう……な感じが見受けられた。

 しいて………最もそれらしい言葉にするなら………〝自殺衝動〟。

 

「危険を承知で誰かの為になんて……あの子、いい子ですね」

 

 藤尭さんが、戦場に向かっていった響を、そう評したけれど………私は違和感を覚えずにはいられない。

 

 彼の言う通り、表面上では〝誰かの為に危険に飛び込む勇敢な子〟に、見えなくはない。

  確かに、あの子は人一倍強い優しさと善意の持ち主………度々〝わたし、呪われてるかも〟とぼやくことはあっても、他人を故意に攻めたり、中傷したり、貶めたりなんてことは、入学式の日に会って友人となって以来一度もない。

 

「っ………違います」

「え?」

 

 唇を噛みしめ、拳を握りしめる私は思わず、藤尭さんの発言に、搾り取るような声色で……否定の意を示していた。

 よく〝勇気と無謀は似て非なる〟なんて話を聞くが、私もそうだと認識している。

 響がどちらの言葉を指すかと言えば………彼女には悪いが、無謀の方だ。

 

「俺も朱音君と……同じ意見だ」

 

 そこへ、風鳴司令が私の言葉に同調を示してきた。

 

「あの子は翼のように幼い頃から鍛錬を積んできたわけでもなく、朱音君のように前世とは言え〝修羅場〟を潜ってきたわけでもない………ついこの間まで〝日常〟に身を置いていた少女が――〝誰かの為になる〟――と言うだけで、命を賭けねばならない戦いに赴けると言うのは……〝歪〟なこと、ではないだろうか?」

 

〝誰かの為〟………響本人も口にしていた言葉を、司令が口にした瞬間、私の脳裏に閃光が走った。

 

〝人助けと言ってよ……人助けは私の趣味なんだから〟

 

〝私………食べることと人助け以外、何の取柄もないダメな子だから〟

 

〝だからさ………少しでも、みんなの役に立ちたいんだ〟

 

 記憶から……初めて会ってから今日までの付き合いの中で、響の人となりを表した、彼女の言葉の数々が再生される。

 それらがヒントとなり、私の直感が浮かび上がらせる、一つの確信。

 あの子は、立花響と言う少女は―――時に自分の命を軽視してしまうまでに、〝人助け〟と言う呪縛に、捕われていると。

 それを言うなら、私も〝常人〟からは逸脱している。

 死線の数々を経験してきた前世の記憶があるにしても………戦火の渦中へと駆ける覚悟を持ち合わせているのは、充分過ぎるほど人として〝異端〟なのだ。

 そんな異端なる私の目(しゅかん)さえ………あの子の在り方は、危うく、歪なるものに映った。

 

「朱音君、これを」

 

 司令は私に、補聴器に似た掌に収まる小さな機具を渡してきた。

 

「通信機ですか?」

「そうだ、二課保有のシンフォギアには通信機能が常備されているが、君のギアにも備わっているとは言えないからな、これで本部(こちら)と他の装者とリアルタイムに連絡が取りあえる」

 

 機具の説明に続いて、司令は指示を私に与える。

 

「響君のことが気がかりなところすまないが………上空にいる飛行型を重点的に叩いてはくれないか? 現在装者の中で、長時間の空中戦を行えるのは君しかいないんだ」

 

 私は、私自身の意識を組み替えていった。

 今、自分が為さなければならないことは何だ?

 何のために、私はここにいる? 〝力〟を手にしている?

 今は、今できること、為すべきことに――集中させろ!

 

「了解しました―――草凪朱音、これより出撃します」

 

 風鳴司令に向き直り、戦士のものへと変えた己が〝瞳〟を彼に向け、了承の意を司令含めた二課の面々に返し、司令室を後にして戦場へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

『日本政府、特異災害対策機動部よりお知らせ致します、先程、特別避難警報が発令されました――』

 

 とうに日は沈まれた律唱市の至るところに設置されたスピーカーから、サイレンとともに避難を勧告する女性のアナウンスが鳴り響く。

 大方避難は完了していた為か、街からは灯りが消え、沈黙と暗闇が支配し、炭素の粒子は飛び散り、塊が舗装された大地に散乱している。

 それらは――不幸にも逃げ遅れてしまったヒトだったもの、今日もまたノイズは〝特異災害〟と呼称された不条理をまき散らしていた。

 

 紺色の星空が半分ほど雲に覆われた上空を、飛行タイプのノイズたちが飛び回る。

 もし地上に一人でも人がいるのを感づけば、本能に従い急降下して襲おうとするだろう。

 

「Ah――――ah――――」

 

 この夜空は我らのものだとでも宣言なのか、傲岸さをひけらかした様子でノイズが飛行する上空に響く、シンプルながらも巧みに音程を変え、川のせせらぎを思わせる麗しさと、炎熱の如き力強さが折衷した歌声が奏でるコーラス。

 

 ジェットの轟音と、飛行機雲を描いて夜空を掛ける人影――シンフォギアを纏った朱音だ。

 

〝意識を変えろ! 戦いはすぐ目の前~♪〟

 

 アンチノイズプロテクターの胸部に装着されたスピーカーの役を担う〝勾玉〟から響く音楽。

 正規のシンフォギアは起動すると、スティック状のペンダントが変形し、装者の〝精神〟を元にメロディと歌詞を瞬時に作り上げ、スピーカーとなったペンダントから演奏、それに合わせて胸の奥から沸き上がり、脳に直接投影された〝詩〟を装者が歌う仕組み。

 朱音のギア――ガメラも、それらの機能が再現されている。

 

〝そこは地獄 全てを絶望へと変える闇〟

 

 ルーン文字の原形たる超古代文明語で構成された詩(かし)を歌唱しながら、銃形態のアームドギアの銃口から、火球を撃ち放つ。

 

 《烈火球――プラズマ火球》

 

 朱音――ガメラの基本技。

 

〝我は戦士~~絶望に飛び込む者~♪〟

 

 同時に、彼女の周囲に火球が生成、浮遊し、銃口からのものと同時に発射。

 

 破壊力と引き換えに追尾機能を付加させた火球――《ホーミングプラズマ》。

 

 朱音より中距離の敵にはホーミングを、遠方の敵にはアームドギアからの火球で狙い撃って爆発させ、着実に数を減らす。

 

〝半端な意志では呑み込まれる~守ると謳いながら奪い~救う傍らで切り捨てる~ 渦巻く矛盾が牙を向き~攻め立てる戦場(せかい)〟

 

 最も相対距離の近い個体たちには、素早くアームドギアをロッドモードに変形させ、火炎と遠心力を相乗させた打撃――《火焔打――プラズマインパクト》――でノイズをすれ違いざまに燃え上がらせ、破砕する。

 

 二課が観測した鳥とエイの特徴が掛け合わされた紫色な飛行型は、これで三十体撃破された。

 新手が出現しなければ、残り後十五体。

 

〝嫌な予感がする……〟

 

 シンフォギアとしてのガメラの力を使いこなしている朱音ならば、問題ない数なのだが、彼女当人にはある懸念から来る焦燥が現状彼女最大の〝敵〟となっていた。

 

 懸念とは、立花響と風鳴翼の二人のこと。

 

〝一緒に頑張ろうッ! 翼さんと三人で〟

 

 自分にそう言った直後、響は急ぎ、翼の下へと走っていった。

 

〝慣れない身ではありますが、よろしくお願いしますッ!〟

 

 きっと、彼女なりに謙虚な姿勢で〝一緒に戦う〟ことを表明しながら、握手を求めたと容易に朱音は想像できた。 

 でも、未だ相棒の喪失から吹っ切れていない今の翼の心情を踏まえれば………ガングニールの装者となった響と簡単に手を握り合うことも、響の意志を受け止められるわけもない、とも想像できる。

 

〝二人の気持ちのズレが、溝を作らなければ良いのだけれど……〟

 

 焦りを押さえつけ過ぎず、かつ流れまいと御しながら、朱音はノイズの殲滅を優先させる。

 

〝災いの影よ――ついて来れるかッ!?〟

 

 両腕の前腕部と両脚のスラスターの出力を上げ、高機動形態で朱音はギアが作詞した詩を奏でて夜空を駆け抜ける。

 

〝ならばなぜ戦う? なぜ臨む? 答えはこの身の奥~我が胸(こころ)の熱く灯す鼓動(ほのお)~常闇の前でも~打ち消せない真実(おもい)~~♪〟

 

 右手にガンモードのアームドギアを実体化させたままなので、若干の不安定さがある筈だが、本人はさほど支障を感じてはいない。

 残りの十五体は全て追走、何としても追いつき、彼女の肉体を炭に変えようと執念にでも駆られた様子で、各々自らをらせん状に捻らせて変形する。

 ノイズの攻撃方法の一つに、自らの肉体の形を変えて突然すると言うものがあるが、飛行型の場合、自らをドリルよろしく高速回転しながら地上の人間を貫くのが特徴。

 朱音からすれば、その姿形は羽を折りたたませたギャオスの高速飛行形態を思い出させた。 

 

〝そうだ、遠慮なく私を貫く気迫で来いッ!〟

 

 さらに加速させる朱音、次第にノイズの群れの密集具合が狭くなっていく。

 

〝生命(いのち)の熱(ひかり)を信じ~今~業火の海を飛ぶ~♪〟

 

 歌詞がサビのパートに入った朱音は、突如飛行スピードを減速させた。

 

〝矛盾さえ抱き締め――〟

 

 対して回転する巨大な弾丸も同然な飛行型ノイズは、全く速度を緩める気はない、むしろさらに加速させて一斉に朱音を襲う気でいる。

 むしろ―――彼女はそれを狙っていた。

 

 朱音はスラスターの推進力も借りて、その場から前方向へ宙返りし、地上からは逆さまの体勢となり。

 

〝今未来を~~この歌で掴め~~!♪〟

 

 その体勢のまま、銃口から一際大きなプラズマの光を発するアームドギアを両手で構え、歌声の声量を上げながら引き金を引く。

 通常のより、桁違いの火力な強大で猛々しい火球が、炸裂音を轟かせて放たれた。

 

 《超烈火球――ハイプラズマ》

 

 通常よりプラズマエネルギーを百二十パーセント以上にまで出力を上げてチャージし、吸収した酸素と掛け合わして放つ、強化されたプラズマ火球。

 威力重視なので連発できないが、その破壊力は折り紙付き。

 

 狙いを付けられた一体は、加速し過ぎていた余り対応できず真正面から直撃、高濃度のプラズマの猛威に、一瞬で身体組成がプラズマ化した個体は、半径数十メートルものの規模の爆発(はなび)を引き起こし、夜天の上空を派手に照らす。

 周囲の他の個体も、一人を追いすがる余り密集していたことで逃げる間もなく巻き込まれ、比較して小振りな爆発を幾つも巻き起こした。

 

〝我は戦士~~災いを焼き払う炎~♪〟

 

 ノイズたちの不意をつく為に体勢の安定を一度犠牲にした朱音だったが、慣れた様子で姿勢制御を行い、滞空状態に入った。

 

「本部へ、上空の敵は殲滅完了、新手のノイズの反応は?」

『現在空間歪曲の反応もなし、地上のノイズも翼さんが掃討しました』

 

 念のため、弦十郎から渡された通信機で本部に連絡、友里によれば新たに出現した個体はいない模様。

 

「そうですか……」

 

 ここ数日のノイズの動きに対する不可解さは否めなかったが、それでも一時的とは言え危機を脱せられたことに安堵しつつ、本部帰投しようとしたその時。

 

『翼! 何をやっている!? 剣を下ろせ!』

 

 向こうから、叫ぶ弦十郎の声がこちらにも響いてきた。

 

〝まさか……〟

 

 彼の切迫具合から、朱音の〝懸念〟が現実に起きてしまったと彼女は感づいた。

 

「っ!―――早まらないでくれよッ!」

 

 彼女は急ぎ、スラスターを吹かさせ、二人のいる地点へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 何が起きたのかと言えば――少し時計の針を戻さねばならない。

 

〝Imyuteus~amenohabakiri~tron~♪(羽撃きは鋭く、風切るが如く)〟

 

 二課本部は、リディアン中央棟以外にも地上に出られる非常用の高速エレベーターが設けられている。

 その一つを使って地上を出た翼は、待機形態の天羽々斬に聖詠を唱えて吹き込み、起動。

 

〝Ya~Haiya~セツナ~ヒビク~Ya~Haiya~ムジョウ~へ~♪〟

 

 コーラスを交えるゆったりと前奏とともにペンダントから放出されたエネルギーが空色の球状フィールドを形作り、内部では翼の全身に水色、白、黒の配色で構成されたスーツとアーマーが装着される。

 

〝Ya~Haiya~Haiya~Haiya~ie~♪――〟

 

 変身が完了してフィールドが分散されたと同時に、胸部のギアから流れる伴奏の曲調の勢いが増した。

 

〝―――アメノハバキリ~Yae~♪〟

 

 翼の〝心理〟を反映して構築された戦闘歌――《絶刀・天羽々斬》。

 

〝颯を~射る如き刃~~麗しきは~千の花~~♪〟

 

 伴奏が歌い出し部分に移行したと同時に、翼は唄う。歌唱することで、シンフォギアの出力、戦闘能力が飛躍的に上昇するのだが、逆を言えば〝一定以上の強さ〟を維持するには常に歌い続けなければならない。

 もし敵の攻撃を受けるなどと言ったアクシデントで、歌唱が中断されれば、ギアを纏う装者の戦闘能力(スペック)は大幅に低下してしまい、下手すると敵からの追い打ちでより装者に危機を招かせてしまう。

〝歌と戦闘〟――本来縁のないもの同士で実感は湧きにくいが………生死を賭けた過酷なる戦場で歌いながら〝戦い〟と言う名の舞を踊ると言うのは、使い手に想像を絶する負担を心身ともに与えるものなのだ。

 ノイズに対抗できる唯一の兵器である一方、使える人間が限られる上に、その特異な特性ゆえ非常にピーキーな兵器でもある。

 それが――〝シンフォギアシステム〟であった。

 

〝慟哭に吠え立つ修羅~~いっそ徒然と雫を拭って~~♪〟

 

 長年、訓練も実戦も積み重ね、ギアの特性も利点も弱点も、強みも弱みも、ピーキーさも熟知している翼は、人類に猛威を振るうノイズたちへ、今宵もシンフォギアの猛威を、日本刀型のアームドギアから繰り出す自らの卓越した〝剣技〟と〝歌唱力〟とともに見せつけていた。

 

 逆立ちの体勢で高速回転しながら、足に装着された曲剣(ブレード)で敵を切る――《逆羅刹》

 

 宙に直剣を複数実体化させて飛ばす――《千ノ落涙》

 

 アームドギアを翼の身の丈を超す片刃の大剣に変形させ、刀身に帯びたエネルギーを上段から振り下ろして三日月状に撃ち放つ――《蒼ノ一閃》

 

 それらの技を惜しげもなく振るって、地上の人間の社会(せかい)を侵食するノイズたちに〝断罪〟の刃を突きつけ、炭素化させていく。 

 戦いの場は、田園地帯の中に敷かれた道路の上へと移った。為す術なく彼女の刃にやられてはなるまいと、両生類の特徴を有したタイプのノイズたちは融合、華々しい初陣を飾った朱音をも一時は手こずらせた大型ノイズへと変貌する。

 だがノイズ戦のエキスパートたる翼からしてみれば、この手の融合タイプも何度となく戦ってきており、連中の攻撃手段など手に取るように分かっていた。

 

〝思い~出も誇りも~一振りの雷鳴~と~~―――♪〟

 

 現に巨体を前にしても、発せられる歌声には一切の動揺が見られない。

 本体から複数一度に飛ばされ、高速回転して自律行動する凶刃たちに対しては、跳躍からの〝逆羅刹〟の舞で一網打尽にし、ギアの刀を大剣形態に変形させて、大型に引導を渡す〝蒼ノ一閃〟を放とうしていたのだが――

 

「どぉぉぉぉぉーーーーりゃぁぁぁぁぁぁーーーー!!」

 

 翼にとっては予想していなかったイレギャラー――相棒の形見たるガングニールのギアを纏った立花響が、大型の側面へ飛び蹴りをくらわせたのだ。

 ギアの恩恵による強化された身体能力以外は素人そのものな無駄の多い動きであったものの、それでも大型を怯ませるだけの威力はあった。

 

「翼さん!」

 

 助太刀のつもりらしい響の援護に、翼は苛立ちを覚えながらも跳び上がる。

 上昇する翼と、降下する響がすれ違う。

 両者が浮かべる顔つきは、完全に対照的、響は仮にも戦場だと言うのに場とにつかわしくない無邪気な笑みを見せ、翼はそんな彼女の態度が油となって〝苛立ち〟の火が強まっていった。

 

〝四の五の言わずに~~否~飛沫と果てよ~~ッ♪〟

 

 大型の体高より上の高度まで上昇した翼は、稲妻混じりの青いエネルギーを帯びたアームドギアを振り下ろし、蒼ノ一閃を炸裂。

 青白い三日月の飛刃は、大型の巨体を中心から〝ややズレながらも〟、アスファルトごと裂いて真っ二つに両断、ほんの一瞬、断面図が露わになりながらも、全身は瞬く間に炭素分解を起こし、全方位へ流れ出る注入された蒼ノ一閃のエネルギーで爆発し、七十メートルの煙の柱を登らせていった。

 

「翼さぁぁ~~ん!」

 

 煙と相対している翼の背後へ、助力したようで実は結果として〝足を引っ張ってしまった〟響は走り寄ってくる。

 翼の技量なら、ノイズの肉体を丁度中心で両断するなど容易かった………それが響の飛び蹴りでずれてしまった。彼女の腕でカバーはされたが、一歩間違えれば仕留めそこなう可能性もゼロではなかったのである。

 

「朱音ちゃんと比べたら、私はまだまだ足手まといかもしれないけど、一生懸命頑張ります!」

 

 瞳をキラキラと煌めかせる響の笑顔は、憧れの人と同じ舞台に立てる喜びに満ちていたものに他らない。

 

「だから―――私たちと一緒に戦って下さい!」

 

 しばし響に背を向けたまま、彼女の言葉に耳を傾けているのかいないのか、掴めぬ態度を取っていた翼は――。

 

「そう……」

 

 と、呟き、それが肯定の態度だと受け取ってしまい笑みの輝きが増した響に――。

 

「……ならば―――同じ装者同士、戦いましょうか?」

 

 ――不意をつく形で、翼は響に明確な〝敵意〟を突きつけた。

 口元は不敵に笑ってはいるが、両の目は全く笑ってはいない………むしろあからさまに響に対する〝拒絶〟の意志さえ現れている。

 

「ふぇ?」

 

 呆気にとられている響をよそに、翼は右手が握るアームドギアの切っ先を、彼女に向けた。

 

「あの……私は翼さんと一緒に戦いたくて――」

「そんなこと分かっている」

「え? じゃあ……なんで?」

 

 翼が刀の切っ先と一緒に突きつけてくる敵意の意味を、響は全く読み取れずにいる中、噴煙の中に残る爆炎の残り滓のゆらめく音をかき消す、重低な噴射音が場を響かせる。 

 一際大きい、大気の切断音もかき鳴らし、一連の音色の演奏者たる朱音が、響と翼の間に割り込む形で降り立つ。

 

「朱音ちゃん……」

 

 自分より背が遥かに高い同い年の少女の背中を響は見上げ、翼も割り入ってきた彼女に眉を潜めた。

 本部からの通信と怪獣クラスの噴煙から二人の現在地を確認した彼女は、遠間からでも窺える不穏な空気を感知し、実質落下しているも同然に頭部を地面に向け急速降下し、アスファルトと激突するギリギリ手前で向き直り、足のスラスターをメインに速度緩和させて、その身を慎ましく地上に着地させた。

 

 

 

 

 

 

「どういうおつもりです?」

 

 響を庇う形で彼女に背を向け、翼と正面から相対している朱音は、刃をこちらへ向けたままの〝先輩〟へ是非を問う。

 日常の場にいる時と比較すると、戦場での彼女の声音は低く凛然とし、〝ガメラ〟としての厳然とした眼差しで翼を見据えていた。

 日常の世界の中にいる時の彼女は、大人びて鋭利さもある美貌に反して年相応に表情豊かな〝女の子〟であるだけに、戦士としての様相の鋭さは、よりシンフォギアを使えるだけの一介の女の子でしかない響の不安を際立たせられている。

 かと言って、一昨日の時以上に切迫している為、その時朱音が用いたユーモアを発してはいられない。今そんなことをしても逆効果になるだけだ。

 

「私が〝立花響と戦いたい〟からよ――草凪朱音」

 

 片手で刀を構えたまま、翼は偽らざる己が旨を明かす。

 朱音の背後から、翼の真意が読めず納得できていない響の心情を反映した吐息が零れた。

 

「私は立花響を受け入れられない………ましてや力を合わせて戦うことなど、風鳴翼が許せる筈がない」

 

 突きつける刃を中心に、全身から発せられる翼の闘気が俄然強まり、彼女の声遣いも低くなっていく。

 

「そこをどけ草凪朱音――そしてアームドギアを構えろッ! 立花響ィ!」

「なっ! 待ってください!」

 

 声量も上げて、翼は響に〝アームドギア〟の具現化を要求してきた。

 当然、そんな要求を応じられるわけないと、響当人に代わって朱音は抗議する。

 

「今の響に、アームドギアを実体化できるだけの技量があるとお思いですか? 装者の武器を生成することがどれ程難しいことか、知らない貴方ではないでしょう?」

 

 いくらシンフォギアに適合して装者となっても、戦闘能力を確保する為には本来相応の訓練、鍛錬が必要となってくる。

 特に装者の主武装たるアームドギアとは、具現化し尚且つ武器として十全に扱えるようになるまで、長い期間使い手が自らを鍛え上げ、実戦を積み重ねなければならないものだ。

 

「だが貴方は初陣で成し遂げた………なら全く不可能と言うわけではない」

 

 朱音が返してきた正論を、暴論と言ってもいい反論で一蹴する。

 それこそ朱音が初戦からアームドギアを実体化できたのは、それを可能とする下地が揃っていた上に、何より彼女に確たる強靭な〝戦う意志〟を持ち合わせていたからであり、例外中の例外に該当する上。

 

「どうしても〝一緒に〟戦いたければ立花響、アームドギア――貴方の戦う意志を私に見せるがいいッ!」

 

 そもそもの話……響はシンフォギアの大まかな特性の説明を櫻井博士らから受けただけで、アームドギアのことなど全く知らないのだ。

 

「それは〝常在戦場の意志の体現〟、何物をも貫き通す無双の槍――ガングニールのシンフォギアを纏うのであれば………胸の覚悟を構えてご覧なさい!」

「そ……そんなこと言われても……私、アームドギアが何なのか分かりません……」

 

 だからいきなり有無も言わせず〝構えろ〟などと言われても、響は分からないと答えるしかない。

 

「分からないのに、いきなり覚悟とか、構えろとか言われても………全然分かりませんよ!」

 

 彼女の反論も、全く以て正論だ。朱音も響のこの発言には同意できる……一方で、時に正論は人の心をささくれさせ、乱してしまうものでもある。

 この現況において、響の正論な反論は、風鳴翼の〝逆鱗〟に触れてしまった。

 翼は、構えをといて刀を下ろし、二人に背を向けて歩き出した。

 しかし後ろ姿から放出される戦意も、敵意さえも失せず衰えないどころか、さらに膨れ上がり――。

 

「覚悟を持たず……のこのこと遊び半分に戦場(いくさば)の渦中へしゃしゃり出てくる貴方は……」

 

 翼の言葉は、半分は言いがかりであり、されどもう半分は事実でもある。

 さすがに響も、遊び半分な軽い気持ちで戦場には来ていない。

 が、朱音の見立て通り、彼女にある種の呪縛として存在している〝人助けしたい〟衝動に駆られ過ぎた余り、戦場の過酷さ凄惨さを認識、想像できぬまま、覚悟も伴なえず入り込んでしまったのも否めなかった。

 

「奏の……奏の何を受け継いでいると言うのッ!!」

 

 翼は朱音からは十メートル離れた地点より跳び上がり、宙返りながら全身は放物線を描く。

 狙いは響、落下速度も味方につけた上段の一閃、手に携える刀も〝峰〟ではなく〝刃〟、当然ながら真剣、たとえギアの鎧を纏いし装者でも、そんな一撃をまともにくらえば………ましてや素人の響に、剣の達人たる翼の剣撃を躱すことも、防御することも叶わない。

 朱音は足のスラスターを絶妙な出力で吹かし後退、響の〝盾〟となる形で立ちはだかり、右の掌に装着された火炎噴射口から放出された炎を瞬時にロッドモードのアームドギアに変え、翼の上段を受け止めた。

 激突による金属音を鳴らすロッドと刀。

 上段の一閃を阻まれた翼はロッドと密着したまま刃を押し込み、その反動を利用し右足で蹴りつけるも、対する朱音も素早く反応してロッドの柄で防御。

 

 二撃目の蹴りも防がれながらも、飛び退きながらアームドギアを大剣モードに変えた翼は三日月の刃――《蒼ノ一閃》を。

 

 迎撃する形で朱音も自身のアームドギアをガンモードに変え、チャージされたプラズマエネルギー弾――《ハイプラズマ》を発射。

 

 青色のエネルギー刃と、橙色のプラズマ火炎弾が宙で衝突し、爆音を響かせて焔の玉が巻き起こった。

 

 着地した翼は大剣のまま、剣先を相手に向けた雄牛の構えを取り。

 

「下がれぇ! 彼女は本気だ!」

 

 朱音も中段の構えを取りながら、翼から発する〝闘気〟が本気であることを悟り、背後の響に下がるよう警告する。

 その響は、どうにかある程度言われた通り後退したものの、二人の装者な少女が発する鋭利で張り詰めた大気に、言葉を失っていた。

 

「良い目と覇気、二度目にしてギアのその強固さ………そこの覚悟なき半端者より、貴方と戦う方が興じれそうだ………草凪朱音」

 

 剣豪の血に刺激を受けたのか、不敵な笑みを見せる翼は朱音に賞賛の言葉を贈り、対して贈られた方の朱音は、とても喜ぶ気にはなれなかった。

 響と天羽奏の間にできた因果には……確かに納得しがたく、嘆きたくなる理不尽さはある。

〝人助け〟と言うカンフル剤でアドレナリンが溢れた影響で、今の響に〝覚悟〟が足りなかったのも否定できない。

 

「どうしても、やると言うのですか?」

 

 だからと言って………こんな八つ当たりをしていい道理はない。

 これでは………天羽奏(あのひと)が浮かばれないではないか。

 風鳴司令だって、こんな〝私闘〟の為に私たちに委ねたわけじゃないと言うのに。

 

「彼女に戦場(せんじょう)の過酷さ、戦士が背負う十字架を説く気なのなら、他にもやり方があるでしょう?」

「…………」

「答えて下さい!」

 

 朱音の切実な問いに対し、これが〝答えだ〟と言わんばかりに、翼は大剣からの剣撃を連続で振るってくる。

 

(これもまた、強い自我を得てしまった人の性か………仕方ない!)

 

ガメラとしての朱音の思考は、最早戦いは〝不可避〟と判断した。 

 ここで下がれば、不条理を被るのは響……なら絶対に下がるわけにはいかない。

 苦虫を噛みしめながらも、朱音は翼の荒々しく激しい剣裁を、己が得物(アームドギア)で捌いていく。

 大剣と長柄の棒、どちらも武器としては大型の部類に入ると言うのに、彼女らは残像を描くほど目にも止まらぬ速さで互いの武具を振るい、ぶつけ合う。

 

「どうして……」

 

 激戦と見ることしかできない響の。

 

「どうして二人が戦わなきゃいけないの!?」

 

 虚しく響く叫びが、夜空へと木霊した。

 

つづく。




ここから暫くの間、公式も認めるうざい後輩とキレ気味の先輩に挟まれる守護神の苦労が続きます。

リアルタイム時は防人口調に戸惑いながらも翼に感情移入してたものだから、当時の響がほんとうざい上に地雷踏みまくるから、お前はもう黙れを突っ込みたくなる衝動が何度も出ました。

それもスタッフの狙い通りだったわけですが(汗

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