ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
ダーズリー家は、夏休み中ずっとあの「HAHAHAHA」棒読み状態だった。別に不自由はしなかったが、かなり鬱陶しかった。白ふくろうは、『魔法史』で見つけた”ヘドウィグ”という名前にする事にした。ヘドウィグはアイルの部屋に置いてもらっている。
教科書はとても面白かった。自分の知らない世界、これから行く世界が楽しみで楽しみでならなかった。ハリーの部屋に飾られているカレンダーは、過ぎる度に一つずつバツ印で消されていた。
そして、9月1日の朝。ハリーは忘れ物がないか10回くらい確かめ、それでもまだ足りないと思っていた。あまりにも興奮して朝4:00に起き、ついアイルを起こしてしまった。だが彼女は怒る事なく笑顔でおはようを言ってくれた。
「私も、ホグワーツに初めて行く日は、ドキドキしてすぐに起きちゃったの。でも大丈夫。私がいるからね。何も心配する事はないからね」
そう言って頭を撫でてくれた。
「お姉ちゃん、どうやってホグワーツに行くの?」
「ロンドンの、キングズ・クロス駅からよ。詳しい事はお楽しみ。手紙の中に切符が入ってたのでしょ?」
「うん」
ハリーは、ポケットの中から切符を1枚取り出した。何度も何度も見返して、アイロンがかかったかのようにピシッと平行を保っていた。
「9と4分の3番線 ホグワーツ行き」
と書かれている。
「9と4分の3…? そんなのがあるの?」
「イエスでノーよ。ハリー、これから行くのが不可思議な世界だって事を忘れないようにね」
アイルは優しく微笑んだ。そして、ヘドウィグをカゴから出した。白い影は部屋の中を嬉しそうに飛び回り、ピーピーと鳴いていた。パルは枕の上でくつろいでいた。アイルが撫でると、嬉しそうに鳴いた。
「さて…そろそろ行こうか」
*
ロンドンは、イギリスの首都であり多くの建造物を誇る。
その中でも、キングズ・クロス駅は立派な建造物だ。広大な土地を誇り、その威厳として紳士たる姿勢は多くの人間を誘っていた。キングズ・クロスも美しいが、アイルの並べば虫以下の存在となってしまう。
「さぁハリー、行くわよ」
ハリーは嫌だった。
「どうしたの?」
ハリーは自分の姉が大勢から見られる事が嫌だった。だって、そしたら自分も注目されてしまうし、姉も目立つ事は好きじゃない。でも、それはどうしようもない。
「おーい…ううん、まぁ確かに『姿現し』はキツイけど、ハリーは耐久あると思ったんだけどなぁ…んにゃろ!」
呆然としているハリーの頬を、アイルはグイッと抓った。
「っ!」
「目を覚ましたね。じゃあ、行こうか」
カートを見つけ、そこにハリーの荷物を積み込んだ。トランクや鳥かごでいっぱいだが、アイルの荷物は見当たらなかった。それについて聞くと、
「あぁ、私は魔法でバックを『永久拡大』したから、その必要はないの。パルは、先にホグワーツに行かしてるわ」
「そう、なんだ…すごいねお姉ちゃん!」
「勉強すれば、この程度なら卒業までにできるようになるわよ」
ふくろうを持っているせいか、アイル以外の理由でも注目されていた。朝なので、マグルで混み当ている駅。途端、後ろを大家族の一団が通った。
「あれは…魔法族ね。行きましょ。一緒についていっても怒られはしないでしょうしね」
アイルとハリーは、大家族を追った。大家族は、ハリーと同じく大きなトランクをカートに乗せ、ふくろうも一羽いる。炎のような赤髪の持ち主達で集団移動故か、一際人の目を集めていた。
「あぁもう…本当にマグルだらけね」
「その通りですわおば様」
「っ?!」
いつの間にか、大家族の母親であろうかーーふっくらとしたおばさんの横に、アイルはいた。他には、四人の赤毛の子供。
「あら失礼。あの子が今年入学で…」
アイルはハリーを見た。
「知り合いもいないので、良ければお子さんとお友達になれたらと…」
「あら嬉しいわ! 私はモリー。モリー・ウィーズリーよ!」
一向は進みながら喋る。アイルはモリーに優しい笑顔を向けながら言う。
「私はアイル・ポッターです」
「あ…いる…? って、貴方、あのアイル・ポッター?」
モリー並びに、赤毛達は驚いた様子を見せた。ハリーは思う。きっと、早くに友達を作ってほしくて自分から動いたのだな…と。本当に優しい姉だ。
アイルはモリーの問いに対して頷いた。すると、赤毛の双子が同時に言う。
「「おっどろきー。聞いた通りの美人だ」」
「あら、ありがとう」
「「って事はこっちは…」」
双子が言いかけた時、モリーが金切り声を上げた。丁度、9番線と10番線の間の壁の前に立っていた。
「此処よ。もう少しで出発だから、急いで! ほらジョージちゃん、先に行きなさい」
「ちえーっと、お母様はセッカチですな」
双子の一人は、目の前の壁にカートごと突っ込んだ。ハリーは目を疑った。ジョージは壁にぶつかる事なく、すり抜けてしまったのだから。驚いてアイルの方を見ると、さぞ涼しい顔をして明後日の方向を向いていた。
「次、フレッド、行きなさい」
「ほほいのほい。フレッドちゃんが通りますよ〜」
双子のもう一人は戸惑う事なく、ダッシュでレンガの壁に突っ込んだ。すると、さっきと同じようにめり込んで消えていった。
「あ…」
「怖がってはいけない。大丈夫よ。私が一緒にいるからね」
アイルは優しく微笑み、ハリーの頭を撫でた。彼と同じくらいの赤毛の男の子は、アイルに見惚れていた。その男の子の後ろで、こちらを恐る恐る覗いているのは小さな女の子だった。モリーはアイルを見て手で誘った。
「お先にどうぞ。この子達、少し人見知りでね」
「いえいえ…さぁ、行くわよ。少し小走りで良いから…」
「う、ん」
ハリーは壁を見た。相変わらず硬そうだ。もしかして、飛び込む瞬間だけスポンジのように柔らかくなるんじゃないかと思ったが、そんな事はなかった。目の前の赤い敵は、依然としてハリーを嘲笑うかのように存在していた。アイルはそんなハリーの中での変換も気に留めず、何も言わずに9に走り出した。
ーーよし、お姉ちゃんに弱虫だって思われたくない!
敵にぶつかった。しかし、衝突する気配はなくスーッとすり抜けていく。あれ、なんでだろう? 突然ガヤガヤ声がハリーの耳の中に入ってきた。気がつくと、ハリーはあのマグルだらけのキングズ・クロス駅にはいなかった。今は、魔法使いだらけの「9と4分の3番線」だ。
目の前には、大きな紅の汽車。アイルの瞳のように真っ赤なホグワーツ特急から出る白い煙は、プラットホームを充満していた。アイルは、ハリーが迷子にならないようにシッカリと手を握った。
黒、エメラルド、赤ーーと奇々怪々なローブを着た集団は、言うまでもなく魔法使い。そして、マグルの服を着る立派な卵達。空中では、小さいが色とりどりに光り輝く紙鳥が数多舞っていた。
ダイアゴン以上に混み合うホームは、永世の如く遥か彼方へと続いていた。
「凄いでしょう? これから7年間…この道を通るのよ。そして、子供ができたらまた此処に…素敵でしょう?」
「うん…お姉ちゃん、僕がんばるよ」
「よろしい。それでこそハリーだ。さ、別に此処で用があるわけではないから、先に汽車に乗るよ」
子供達は親とまだ話していて、汽車に乗っている人間はそこまで多くはない。
アイルはハリーの荷物の入った重い荷物を持ち上げ、ハリーに先に行かせて汽車に乗り込んだ(ハリーはこの時、筋トレしようと切実に思った)。
汽車の中は、何だか高級宿泊汽車のような印象を与えた。スベスベとした魔法陣の模様をした床、2メートルほどある丸く凹んだ天井、そして、一つ一つ分けられたたくさんのコンパーメント。ハリーは先に進んでいると誰もいない空きのコンパーメントを見つけたので、紳士らしくドアを開けて、アイルを誘った。
「あぁ、ありがとうねハリー」
アイルは笑顔でお礼を言うと、コンパーメントの入る。そこからは、少しかなり高いがプラットホームの景色がよく見えた。大好きなママとパパにキスをされている子供、友達と戯れ合っている子供ーーどれもこれもハリーにとって羨ましいモノだった。ハリーに友達なんていなかった。ダドリーがハリーに嫉妬して、嫌っている事はみんな知っていた。故にか、ダドリーの権力と力を恐れてハリーに近づこうとする人はいないのだ。
そんな中、ただ一人…心からの優しさを与えてくれるのはアイルだった。ハリーは、アイルが大好きだ。
「さぁてハリー。まずは君に基本的なホグワーツの事を説明しておくね」
「え、なに?」
ハリーは、アイルの向かいの赤いソファに座った。
「ホグワーツは、4つの寮に分けられるの」
「うんうん!」
彼は、興味津々だった。魔法界の事なら、なんだって知りたかった。アイルはその事を理解していた。最後の最後まで渋って。でもそんな意地悪なアイルもハリーは好きだった。
「『グリフィンドール』『レイブンクロー』『ハッフルパフ』『スリザリン』っていう、寮よ。全て、ホグワーツを創立した偉大なる魔女と魔法使いの4人の名前から取られたの。ほら、ホグワーツからの手紙に、紋章があったでしょ?」
「あぁ、あの動物の…」
「Hがーー当たり前だけどーーホグワーツ。そして、『グリフィンドール』は獅子、『レイブンクロー』はワシ、『ハッフルパフ』は穴熊、『スリザリン』は蛇をシンボルとしている。ホグワーツを守り囲む4人の創設者…そういう意味が込められてあの紋章は作られたの。ハリー、貴方はどの寮に入るかはわからないけど、どの寮も素晴らしい所よ。ホグワーツの生徒になれる事を、誇りに思ってね」
「分かった! でも…どうやって寮を決めるの?」
ハリーの質問を聞き、アイルは遠目をしながら子供っぽく笑った。
「内緒♪」
「わーーまた…勿体ぶって」
「だってさ、言っちゃったらつまんないでしょ?」
「うぅ…」
ボーっとバイクの唸りのような汽笛が鳴り響いた。窓から外を見ると、親が子供に手を振っている。しばしの別れがさぞ辛いのか、涙ぐむ魔女も多数見られた。汽車がゆっくりと動き出す。次第にスピードが上がって行き、ついにはプラットホームが見えなくなった。
「今からホグワーツへ。楽しみねハリー」
「うん。これから、新しい生活が始まるのか…」
すると、突然コンパーメントのドアがとんとんと叩かれた。ドアの外を見ると、キングズ・クロス駅の時の赤毛のハリーと同い年の少年と、双子がいた。ハリーがドアを開けると、三人は中に入ってきた。
「「おったまげ〜、この汽車大人も乗れるんだな。あ、他に空いてなかったんで此処良いですか?」」
「おう双子くん。実は私、ただの大人じゃないんだなぁ。あと、普通大人は乗れないよ。良いよ、私達のいる場所でよければ」
「え、何? ありがとう」「俺は魔法関係だと推測するぜ。ありがとう」
「実は私、今年度よりホグワーツ魔法魔術学校に就任いたしました。アイル・ポッターです。以後、お見知り置きを。ミスター・ウィーズリー君達? どういたしまして」
さりげなく二つの会話をこなすアイルは、同じく双子に向かってウインクをする。すると、彼らはわざとらしく拳が二つ入るくらい口をあんぐりと開けた。そして、笑いながらハリー側のソファに座った。ただ、双子の片方はアイルの方に座った。
「じゃあ、君はポッター先生の息子?」
赤毛の少年は、ハリーに目を向けた。ハリーは丸メガネを通して少年を見た。鮮血のような髪に、ソバカスのある顔。何処かぼんやりとした何処にでもいそうな男の子だ。
「おや我が弟よ無神経な」「此処は世辞でも『お姉さんですか?』と聞く所だぜ」
「君達も随分失礼だね。私とノリが合うからって、何言っても良いワケじゃないぞ少年よ」
「「失礼いたしました。
「うん、皮肉かな? これでも26だぞまだまだ熟女の域には達してないからな」
楽しんでるなぁ、とハリーと少年は三人のやり取りを見ていた。
「おっと失礼先生。俺はフレッド」「俺はジョージ」
「僕は、ロン・ウィーズリーです。先生」
「「ホグワーツの『二代目悪戯仕掛人』あーんど『最強の悪ガキ』とは俺らの事よ!」」
「随分いらない不名誉な称号ね」
フレッドとジョージは胸をどでんと張る。そして、さりげなくロンも自己紹介をしていた。
「ロン、君はお兄さんと違って礼儀正しいね」
「な、失敬な!」「我々、英国紳士ですぞ?」
「悪戯に真摯なだけでは?」
「「ちゃいます。紳士です。レディを尊重する世界一の紳士です」」
「はいはい…で、この子は私の弟のハリーよ」
「「「え?!」」」
双子と少年が驚きという名の見事なハーモニーを奏でた。まさか、本当に今までアイルの息子だとでも思っていたのだろうか。
アイルの隣に座るフレッドは、ハリーの近くに来て彼の前髪を持ち上げた。そこには、思い出したく過去を物語る稲妻型の傷跡があった。
「もしかして、あのハリー・ポッター? 『生き残った男の子』?」
「そうよ」
「もっとおったまげだ。伝説に二人も出会えるなんて」
ジョージは今度は顎が外れるほど口を大きく開けた。もう明らかにわざとだ。
「あ、えっと…僕はハリーだよ。よろしく」
「あぁ、よろしく。僕はロンだよ。ロン・ウィーズリー!」
ロンは嬉しそうにもう一度挨拶をした。
「すごいや。僕と同学年だよね?」
「うん。一年生だよ」
「よかった。友達が出来た。同じ寮になれると良いな」
「和気藹々とした弟よ…兄は嬉しいぞぐすん」「ちなみに先生、先生は何の寮だったんスか?」「グリフィンドールよ」
さぞ当たり前かのようにアイルは言う。
「おう、俺らもグリフィンドールなんですよ」「というか、我が一族はみなグリフィン!」
フレッドとジョージは自分の事のように威張って言う。
「騎士道貫くグリフィンドール! 勇猛果敢なグリフィンドール!」
ハリーは苦笑いしか出なかった。
知名度はハリーの方が上だけど、人気度はアイルの方が上ですね。だってだって、美人なんだもん!
フレッドとジョージは、書いていて楽しいですね。