ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
遅れてしまってすみません。
「そう、僕が入れたんだよ」
「どうやってって……内緒だよ内緒」
「ありがとう、課題、全力で頑張るよ」
アイルがどうやって無実を晴らそうか画策していた事も知らず、ハリーは翌日、大広間で声高々にそんな事を言う。
ーーは? 一体どういう事だ?
ハリーが何故、自分で名前を入れたと公言している?
誰かに操られている様子でもない……という事は本当に、ハリーが名前を入れた? 一体どうやって? ハリーにそんな魔法は使えないはずだ。
困惑しているアイルに、マクゴナガルはそっと声をかけた。
「アイル、本当に、ハリーが自分で名前を入れたのですか?」
彼女は首を横に振る。
「分からない……何を考えているのかも、分からないです」
「アイル、私は貴女の事を疑ってはいませんよ。もしかするとハリーは……何もしていないのに責められる姉の姿を見て、庇おうと思ったのかもしれません。もしくは、自分で名前を……」
「そんな……でも、私を庇ったがために、ハリーが孤独になるのは嫌です」
「しばらく様子を見ましょうアイル。他校の校長達はまだ、貴女を疑っています」
「……はい」
*
数日間、アイルはハリーの様子をずっと観察していた。
至っていつも通り。いや、寧ろ多くのグリフィンドール生に囲まれている気がする。
スリザリンは「セドリック・ディゴリーこそが真の代表選手だ!」みたいなバッチを作ってからかっているようだが、当の本人は全く気にしていない。
ハッフルパフもセドリックを応援し、ハリーを目の敵にする様子はなかったが、逆にその潔さに好感を持った者もいるらしい。スリザリンの作った嫌味なバッチをつける人間は、ほとんどいなかった。
ただ一つ、いつもと違った事がある。
それはーー
「ハリー、この頃、ロンと一緒にいないな」
「喧嘩でもしたのか?」
双子がそう言っているのを聞いた。
確かに、いつも一緒にいるロンの姿が見当たらない。ハーマイオニーはいつも通りだが、ロンがいないのだ。
しかし、授業を受けていないわけでもなく、「呪文学」の教室でも、ハリーと離れた席に座っているだけだった。双子の言う通り、喧嘩でもしたのだろう。
授業の終わり、ハーマイオニーにそれとなく聞いてみた。
「ハリーとロンが喧嘩……えぇ、してますよ。とは言っても、口喧嘩とかじゃなくて……ロンが、名前を入れるなら、自分にも教えてくれたら良かったのに、親友にくらい入れ方を教えてくれたって良いのに、って拗ねてしまって」
ずっと有名な彼の陰に隠れて、ずっと優秀な兄の陰に隠れて、劣等感が溜まっていたのだろう。
「あの、ハリーが、自分で名前を入れたと言っている事だけど……」
「あれ、先生はハリーに聞いてませんか? 先生が責められないように、ハリーは嘘をついてるんですよ。少し前にコソッと教えてくれて……ロンには、言う機会がなくて困ってるんですよね」
「そう……良かった。まさか、本当に自分から危険な競技に出ようとしたのかと思ったわ。ハリーに、心臓に悪いからそういう嘘は止めてね、って伝えておいて」
そうか…ハリーはマクゴナガルの言う通り、嘘をついてくれただけなんだ。
自分の事を思ってくれるのは嬉しい。だが、こんな嘘をつかなくても…だからと言って、今更嘘でしたなんて言えないだろうし…これも、リーマスとシリウスに相談してみよう。
*
自分の部屋に戻ると、手紙を足に括り付けたふくろうが、嘴で窓を叩いているのが見えた。
リーマスのふくろうだ。
シリウスは……まだ、ロンドンの屋敷の片付けに忙しいのかもしれない。何てたって、闇の物品やらおかしな道具やらで溢れているらしいから。
さて、窓を開けてふくろうを外に呼び込んだ。
「やっぱりリーマスね。ありがとうふくろうさん」
手紙を開け、中の文章を読む。
『親愛なるアイルへ
「
つい先日、シリウスが「
やはり、イゴール・カルカロフが疑わしいね。あいつは元死喰い人だ。だが、ダンブルドアとムーディの目と鼻の先で大それた行動が出来るとは思わないから、そこは安心しても良いと思う。
何かあったら、すぐにふくろうを送ってくれ。
リーマスより
PS、脱狼薬をありがとう。苦くなくなったから、随分と飲みやすくなったよ。
後、シリウスが夏休み中に君達に会えなかった事を嘆いていたよ。もし
なるほど…リーマスやシリウスも、イゴール・カルカロフを疑っているのだ。まぁ、一番疑わしいのは彼だから仕方がなかろう。
「ハァ…ハリーが嘘をついて、ゴブレットに名前を入れた事を認めてるって、送るか」
ハリーは辛そうな顔は一切見せなかった。
ロンとの関わりは少なくなったかもしれないが、皆に嫌われてはいない。寧ろ応援されているくらいだ。
自分から認める様子は、好感さえも持てる。
だから、それが嘘であってとしても、ハリーが辛くないのなら、それを止める必要はない。
いずれ真犯人も出てくるだろうし、今はそっとしておいた方が、却って騒ぎを大きくせずに済むかもしれない。
それに、近くには少なからず、真実を知っている人もいるのだ。
「試合で、怪我でもしなきゃ良いんだけど…」
ハリーを手伝ってはならない。
アイルはたった一人の姉として、願う事しか出来ないのか。
*
「ハーマイオニー、もしかして、お姉ちゃんに『あの事』言ったの?」
「えぇ。貴方が言ってなかったようだから。…ダメだったかしら?」
「いや、良いんだ」
グリフィンドールの談話室で。
辺りの生徒達は、本を読んだり、悪戯グッズの取引をしたり、スネイプの悪口を言ったりしている。いつも通りの、平穏な寮。
ただ一つ違うとするならば、とある有名な三人組が、今日も二人しかいないという事だ。
「ロンは、まだ拗ねているのかしら」
「良いんだよ…ロンと喋れないのは寂しいけど、避けられてるから『嘘だ』って伝える事も出来ないし。熱りが冷めたら…」
「そんなんじゃダメよハリー、ちゃんと仲直りしなきゃ」
僕だって、好きでロンと喧嘩してるわけじゃないんだ。
ハリーの言葉に、ハーマイオニーはため息をつく。
知っている。
ハリーは、意図してロンの機嫌を損ねたわけではない。
ロンも、好きでハリーを避けているわけではないはずだ。本当ならすぐにハリーを信じられるはずなのに、自分で入れたと公言してしまったから、信じるも何もない。
「僕は別に…悪くない」
「そうだけど…このままってわけにもいかないでしょ? ちゃんと話をしましょ。私が仲裁するから。私も、ずっと二人が別れたままなんて辛いわ」
「…分かった」