ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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ダイアゴン横丁

 

 

 翌朝、ハリーは驚いた。何故だと聞くのは些かヤボかと見受けられる。

 夢のようだった。自らが魔法使いだと知り、姉と一緒に学校に行ける。こんな幸せな事はあるだろうか。一瞬夢だとは思ったが、現実だった。

 今日は、居間の様子がおかしい。

 

 

「アラ、オハヨウハリー。キョウハイイテンキネ」

「オハヨウハリー、キミノブンノチョウショクヲハコンデオイタヨ」

「アイカワラズイイカミダナハリー、サスガアイルニキッテモラッテルダケアルナ」

「「「HAHAHAHAHA!」」」

 

 

 正直怖かった。

 棒読みで虚ろな目をしたダーズリー一家は、アイルに何かされたとハリーは考えるまでもなく分かった。だって、横で苦笑いをして杖を片手に持つ姉がいるのだから。

 

 

「ごめん、やりすぎた。でも、許可は貰ったから。行こうか」

 

 

 アイルはハリーの手を取ると、そそくさと家から出て行った。熱気が二人を包み込んだ。アスファルトから溢れ出る暑い空気は、二人の肌から一筋の水を垂れ流させた。

 彼女はハリーを腕をシッカリ掴んだ。

 

 

「ハリー、良い? 絶対に私の腕を掴んでて」

「つかむまでもなく、掴まれてるけどね」

「あは…そうだね。じゃ、行くよ」

 

 

 バチッという破裂音がして、プリベッド通りから二人の人間の姿が消えた。

 ハリーは息が出来なかった。何だか、狭い管の中を無理矢理二人で通っているような感覚だ。苦しいーー

 

 再びバチッという音が鳴った時、二人はロンドンの裏路地にいた。

 

 

「嗚呼、久し振りにやったけど、どうやら成功みたい」

「っ…今のは?」

「『姿現し』。人間界で言う…テレポーテーションって所かな」

「凄いね…」

「ハイリスクすぎるから、あまり使わないけどね。さ、行こうか」

 

 

 アイルはハリーの手を引き、裏路地から出た。人通りの多いロンドンの通りだ。美人のアイルは、人一倍視線を集めていた。

 そして、本屋とレコード店の間の、よくよく見ても見逃してしまうようなちっぽけなパブの中へ入って行った。誰も二人がそこに入って行った事に気がつかない。

 

 

「此処が『漏れ鍋』。中々不思議な所よ」

 

 

 不思議な所ーーという意見はあながち間違ってはいなかった。

 人間だけでない、鬼婆や吸血鬼といった、別種族の者もたくさんいた。ある人はコソコソと話ながらビールのようなモノを飲んでいたり、ある人は肝臓を注文していたり、またある人は額から1mくらいのツノが飛び出て、そこに荷物をかけていた。

 

 10人中10人が振り向くであろうアイルは、歩く度に皆が振り返った。ハリーは大勢の姿勢を感じて、あまり良い気分はしなかった。アイルは慣れっこなので、気にするまでもなかった。

 

 

「失礼、少し飲んで行かれませんかな? お嬢さん」

 

 

 バーテンは笑顔でアイルに言った。すると、彼女は酷く驚いた顔をした。

 

 

「あ〜、私の事忘れちゃってますか。まぁそうだよなぁ、10年もいなかったからなぁ…」

「え…その声はもしや…アイル・ポッターさん?!」

 

 

 バーテンは叫んだ。すると、周りは一層ガヤガヤ声を増した。『愛された女の子アイル・ポッター』、彼女もまた有名だった。

 

「良かった。覚えててくれて」

「いやいやいや! 貴女のような美しい方を忘れるハズがありませんよ!」

「そんな事ないですよ」

 

 

 漏れ鍋の客たちは、よくアイルを見ようと身を乗り出してきた。ハリーは困惑した。

 

 

「その少年は…?」

「この子は…私の弟の…」

「ハリー・ポッターか?! やれ嬉しや!」

 

 

 有難い事に、ハリーの方が注目度が高かった。だって、実質的にヴォルデモート退治したのはハリーだからだ。『生き残った男の子ハリー・ポッター』もまた、有名だった。客達は二人の周りに殺到し、握手をしようと挨拶をしようと詰め寄ってきた。

 

 

「あぁ、何て嬉しいんでしょう。お帰りなさい、ポッターさん」

「光栄だ。実に光栄だ」

「アイルさん、嗚呼、近くで見るともっと美しい」

「お二人に会えて、人生で一番最高の日だ!」

 

 

 握手を大勢の人に求められ、ハリーは驚きながらも請け負った。やっと嵐から出られたと思ったら、アイルは悪戯っぽく笑った。

 

 

「これからあんな事がしょっ中あるんだよ。覚悟しとかないと」

 

 

 二人はパブを抜けて、小さな中庭のような場所へやってきた。レンガの壁で、ゴミバケツやら空の植木鉢やらが置いてあった。アイルは何やらブツブツつぶやいて、杖でレンガ壁を叩いていた。するとどうだろうか。レンガはグルグルと回り始めて、一度瞬きをしただけでアーチ型の入り口へと早変わり。

 

 

「ようこそ、ダイアゴン横丁へ。此処では、学用品から日用品などーー様々なモノを取り揃える事が出来る魔法使いの横丁よ」

「うっわ〜あ!」

 

 

 ハリーは興奮した。

 見た事のないモノばかりだった。見た事もないような奇怪な人達ばかりだった。ハリーはアイルにまだ進まないでほしかった。まだ全部見れていない。

 

 

「買い物リストは持ってきてるから…まずはお金を取りに行くわよ」

 

 アイルの言葉は、耳に入らなかった。

 ハリーは足はゆっくりとしながらも、肩から上は激しく動いていた。たくさんのモノをたくさんみたいーーそんなハリーの気持ちをわかっているようで、離れないように手はシッカリ繋いでいるモノの、彼に合わせて歩いていた。

 

 

「あれがグリンゴッツ」

 

 

 小さな店々が立ち並ぶ横丁の中で、際立って美しく大きな建物がそこにはあった。真っ白な石で出来た建物は、太陽の光に照らされて輝いていた。ブロンズの扉の両脇には、赤い服を着た小鬼が立っていた。

 二人で扉の前まで行くと、小鬼はお辞儀をして両開きの扉を開けた。二人で中に入る。すると、もう一つ扉があった。銀色のそれには、文字が刻まれていた。

 

 見知らぬ者よ 入るがよい

 欲にむくいを 知るがよい

 奪うばかりで 稼がぬものは

 やがてはつけを 払うべし

 おのれのものに あらざる宝

 わが床下に 求める者よ

 盗人よ 気をつけろ

 宝のほかに 潜むものあり

 

「グリンゴッツに盗みに入るなんて、狂ってるとしか思えないわ」

 

 

 銀色の扉の向こうは、広い広い大理石のホールだった。何百という小鬼がセカセカと働いている。宝石の真偽を一つ一つ見たり、コインの数を数えたりーー他にも数多の扉があり、別の場所へと繋がっていた。上を見上げると、高いガラス張りで外の光で中が照らされていた。

 歩く度に、カツカツという靴の共に、小鬼の視線はアイルに釘付けになった。二人は、一番奥の小鬼の所まで近づいた。

 

 

「お久しぶりね。ガーライド」

「アイル様でいらっしゃいますか。お久しぶりです。今日は、どんな要件で?」

「ポッター家の金庫からお金を降ろしに。はい、コレ鍵ね」

 

 

 アイルは、金色の小さな鍵を、ガーライドと呼ばれた小鬼に渡した。

 

 

「では…グリップフック!」

 

 

 グリップフックと呼ばれた小鬼は、スタスタとペンギンのように可愛らしく走ってきた。彼はお辞儀をすると、扉の一つへ案内した。

 

 *

 

 一向は、トロッコに乗り込んだ。アイルの目からは光が失せていた。

 

 

「それでは出発します」

 

 

 グリップフックが口笛を吹くと同時に、トロッコを動き出した。

 冷たい空気が頬を掠った。まるでジェットコースターのようだった。クネクネ曲がったり一回転したり、急斜面に差し掛かったりーー

 トロッコは地下へ地下へと進んでいった。水晶や石筍や所々から飛び出し、神秘的に光り輝いていた。

 しばらく進んで、あ、酔ってきたな気持ち悪いなと思った辺りで、トロッコは止まった。ハリーは若干フラフラしながらトロッコから降りた。グリップフックはトロッコにくっついていたランタンを取ると、先に大きな扉ーーおそらく金庫だろうーーの所へ行っていた。

 小鬼サイズの鍵穴に、アイルの渡した金色の鍵が差し込まれた。すると、金庫はギギギ…と軋みながら開いた。ハリーは驚いた。なんと、金庫の中には目が痛くなるほどの金貨や銀貨、銅貨が幾千幾万と入っていたのだ。

 

 

「全部、私達のお金よ。両親が残してくれたの」

「おお…」

「金貨がガリオン。銀貨がシックル。銅貨がクヌート。17シックル1ガリオン。1シックル29クヌート。簡単でしょ? ちょっと待ってて」

 

 

 アイルは金貨や銀貨や銅貨を少しかき集め、バッグにお金を詰め込んだ。

 

 

「これで一年は大丈夫。じゃ、買い物いこっか」

 

 *

 

 買い物は一通り済ませ、ハリーは最後に杖を買う事になった。ちなみに、ハリーはアイルに誕生日プレゼントとして白ふくろうを買ってもらった。中々可愛い。

「紀元前382年前創業 高級杖メーカー」と、掲げられたみすぼらしい店は、中々ツッコミ所満載の場所だった。二人は店の中に入った。すると、そこにはギョロっとした銀色の目を持ち、不気味な雰囲気を纏う老人が一人。

 

 

「おうおう…そろそろ会えると思っていましたよ、ポッターさん」

「こんにちは、オリバンダーさん」

「おぉ、アイル・ポッターさんか。相変わらず綺麗だ。覚えているぞ。貴女が杖を買った時の事。桜に不死鳥の尾羽、29cm。そうじゃったな?」

「ええ」

 

 

 アイルは、店の壁に背をつけてハリーの様子を見た。

 店の中は、細長い箱が天井まで積み上げられ、少し地震があったら崩れ落ちてきそうだ。老人はハリーを巻尺で測り、様々な杖を渡した。しかし、どれも彼には合わないご様子で、中々決まらなかった。アイルは自分の時の事を思い出していた。そう、自分の時もハリーと同じく中々杖が決まらなかったのだ。

 

 

「では…これはどうかな。珍しい組み合わせじゃが…柊に不死鳥の尾羽、28cm、良質でしなやか」

 

 

 ハリーは老人に杖を渡された。途端、彼は何やら手が熱くなったような気がした。力がフツフツと湧いてくるようだった。杖を振り上げ、そして勢いよく下ろした。すると、金色の火花が飛び散り、それは空中を踊るように舞い、鳥の形になって消えた。

 

 

「凄いわハリー! 流石私の弟!」

「まったく見事じゃったポッターさん。さて…不思議じゃ…本当に不思議な事もあるモノじゃ…」

 

 

 老人は、ハリーの杖を箱にしまって袋で包みながらブツブツとつぶやき続けていた。

 

 

「何が、そんなに不思議なんですか?」

「…ポッターさん方、特にアイルさん。わしは自分で売った杖は全て覚えておる。誰にどんなモノを売ったかさえもな。お二人の杖に入っている不死鳥の尾羽は、同じ不死鳥が提供した三枚のうちの二つなのじゃ。あとのもう一つは…不思議な事じゃ。お二人の兄弟杖が…その傷を作ったというのに」

「っ…それは、どういう意味ですかっ」

 

 

 アイルの目は殺気立っていた。

 

 

「アイルさん、無理に思い出させたくはないが…きっと貴女が一番理解している事だとわしは思う」

「クッ…!」

「34cmのイチイの木じゃった…もしかすると、兄弟羽が三人に共通したモノを見つけたのかもしれん。嗚呼、貴方方もきっと偉大な事をなさる。『あの人』に並ぶ、偉大な事を…あれは悪じゃったが…偉大な事をしたには違いない」

「オリバンダーさん、もう言わないで…」

 

 

 ハリーにとってこの時のアイルの苦しい顔は、一生忘れられないモノとなった。

 

 

 




フォイフォイイベント? そんなもんねぇってばよ!

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