ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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ゴブレットから出た名前

 

 

 ハロウィーンに、あまり良い思い出はない。

 十何年前に両親が殺されたのもハロウィーン、クィリナル・クィレルと対峙したのもハロウィーン、ミセス・ノリスが石になったのもハロウィーン……そして今日は、ゴブレットが代表選手を決める日。

 忌み日とも思える十月三十一日。

 嫌な予感がするのは、アイルだけではないはずだ。

 

「さて、ついに、代表選手が決定する!」

 

 夕食の大広間で、ダンブルドアが声高々にそう言う。

 湧き上がる生徒達。

 この大広間の中で警戒心を解かないのは、アイルとマッド−アイくらいだろう。皆浮かれている。行事くらい楽しむべきだが、どうも腑に落ちない。

 カルカロフがいる。マッド−アイもいる。必ず、何かがある。

 

 ゴブレットにダンブルドアが手をかざすと、大広間が一気に静まり返った。誰も何も言わない。

 途端、ゴブレットの炎が青く光り、中から羊皮紙が舞い上がった。

 

「ボーバトンの代表は、フラー・デラクール!」

 

 ボーバトンの生徒の中から、美しい風貌の女子生徒が立ち上がる。ボーバトンの中には泣く人間も見える。

 次は、

 

「ダームストラングの代表は、ビクトール・クラム!」

 

 クラム…あぁ、あのクィディッチ選手の。

 先ほど以上に会場は湧き上がり、中には立ち上がってクラムの姿を見ようとする者もいる。

 次が最後だ。

 

「ホグワーツ代表は……セドリック・ディゴリー」

 

 おぉ!という感心の声と共に、ハッフルパフの生徒達が立ち上がってセドリックを激励した。

 照れ笑いを浮かべながら、セドリックは教員テーブルの近くまでやってきた。チラッと目があったので、親指を立てて笑顔を向ける。

 やはりホグワーツ代表は…セドリックか。

 

「さて、これで各校の代表選手が決まった! フラー・デラクール、ビクトール・クラム、セドリック・ディゴリー。これより彼等は、恐ろしく危険な競技に参加し、その腕を競い合う…皆、この三人を…」

 

 ダンブルドアの言葉が止まった。

 何事かと思い顔を上げてみると、炎のゴブレットが、またもや青く大きな炎を上げている。もう代表選手の発表は終わったはずなのにーー

 驚きも束の間、ゴブレットが四枚目の羊皮紙を吐き出した。

 

「……」

 

 羊皮紙を手にしたダンブルドアは、紙を見たまま立ち尽くす。

 そしてアイルを一瞥すると、大きな声で叫んだ。

 

「ハリー・ポッター! 来なさい!」

 

 教師陣の視線が、一気にアイルに突き刺さる。

 一体どういう事だ? ハリーが、四人目の代表選手?

 怒りと驚きが水紋のように広がり、大広間のざわめきが大きくなった。誰も歓声を上げない。誰もハリーを称えない。

 ただアイルとハリーを交互に見て、「何であいつが」と悪態付くばかり。

 

「アイル、貴女もしや……」

「マクゴナガル先生、誓って、私は何もしていません。たった一人の弟を、死ぬかもしれない競技に参加させるわけがないでしょう?」

「そうですが、これは…」

 

 トロフィールームに入ろうとしたハリーの表情は心なしか、笑っているように見えた。

 

 *

 

「ハリー、君は、自分の名前をゴブレットに入れたか?」

 

「上級生に頼んで入れてもらったか?」

 

 しばらくしてトロフィールームに入ると、ダンブルドアに尋問されているハリーの姿が見えた。

 いずれも首を横に振るハリー。

 マダム・マクシームやカルカロフは怒り狂っている。あんなにも会議を重ね、計画立てしたというのに、四人目の代表選手が現れたのだ。

 皆、ホグワーツに勝ちたい。ダンブルドアも普通の人間なのだと証明したい。それ故に、ホグワーツから二人も代表選手が出る事が我慢ならないのだ。

 

「恐らく、何者かがゴブレットに『錯乱の呪文』をかけ、ゴブレットに四校目があると思い込ませる事で、ポッターを代表選手にする事が出来たのだろう。強力な闇の魔術だ。ポッターには出来まい」

「ではマッド−アイ、ポッターでない誰かが、そんな事をしたというのか?」

「あぁ。ポッターの命を狙う輩がいるかもしれん」

「ほう? 四六時中自分の命が狙われていると思っている貴方は、そういう意見なのですな。では、あの女はどうだ?」

 

 カルカロフが指差したのは、アイル。

 下手に否定するともっと疑われかねないので、いつも通り肩を竦める。

 

「私が? ハリーの名前を、ゴブレットに?」

「貴様なら簡単に出来るだろう、アイル・ポッター? 姉弟共に、さらに有名になろうと躍起になっているのか?」

「とんだ濡れ衣ね。そんな面倒な事しないわ。ハリーには、危ない目には遭ってもらいたくないし……私は、そんなに目立ちたがり屋じゃないしね」

 

 目立ってしまうのは不本意だ。別にわざと扉を吹き飛ばしたりしているわけでもないし、ハリーの名前をゴブレットに入れたりもしていない。

 だがこの状況で、一番疑わしいのはアイルだ。

 

「まぁ、別に良いですよ。私には競技の事を言ってくださらなくて構いません。傍観しているつもりですし、ハリーとも接触しません。これで良いですか?」

「アイル……」

「では、私はこれで失礼します」

 

 一体誰が、ハリーの名前をゴブレットに入れたのだろう。

 マッド−アイの言う通り、ハリーの命を狙っている人間がいるのかもしれない。

 


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