ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
「本日は、『
金曜日の朝の、ダンブルドアの第一声だ。
今日はついに、「ダームストラング専門学校」と「ボーバトン魔法アカデミー」の生徒達がやってくる。
一体、どんな生徒だろう……ダームストラングはクラムがいる。ボーバトンは男女共、美形勢が多いと聞いた。楽しみだ。それに、ホグワーツの代表選手は誰になるのだろう。個人的には、セドリック・ディゴリーあたりが妥当かと思われる。
「楽しみですね、先生」
「そうね、どんな方法で来るのかしら……」
アイルの今日の最後の授業は、ハッフルパフとグリフィンドールの六年生。勿論、セドリック・ディゴリーもいる。
相変わらずハンサムで、周りの女子達が彼の事を見つめている。女を侍らせるような性格ではないようで、いつも一緒にいるのは男子の同級生だ。
「期待してるわよ、セドリック。立候補するんでしょ?」
「まぁ……今の所はそのつもりです」
「いけるわよ、貴方なら。まぁ、贔屓するわけにはいかないけど……」
「まだ分かりませんよ。僕なんかより、ずっと実力のある人はいっぱいいるし」
「私、教師四年目だけどね……貴方程優秀な生徒は、今まで会った事ないわ。もっと自信を持ちなさい」
アイルがそう言うと、セドリックははにかんだ笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます、先生にそんな事言ってもらえるなんて」
「本当の事だもの。さ、皆で行きましょ。ダームストラングとボーバトンの生徒が来るわ」
*
生徒達は、玄関ホールに集められた。
各寮の寮監が生徒達を並ばせ、それぞれ身だしなみの注意をしている。他校から遥々やってくるのだ、少し見栄を張らせてほしい。
そのまま玄関を抜け、石段を降りて城の前に整列した。晴れた寒い夕方。多くの生徒が、寒さで震えている。月さえも、禁じられた森から顔を出しそうだ。
「寒い……」
「先生、魔法で暖かくしてください」
「仕方ないわね……『ヒーディスト 暖めよ』」
杖を取り出して、寒さに凍えた生徒達を皆暖める。
「これくらいで大丈夫かしら?」
「流石アイル様だぜ!」
「意地悪な他の先生方とは違うなぁ」
「双子、静かにしなさい。グリフィンドール五点減点」
「「何で?!」」
途端、薄暗い空の彼方に、城に向かって突進してくるものが見えた。
生徒達もその存在に気がついたようで、先生方の制止も聞かず、あれはドラゴンだ、空飛ぶ家だ、等と言いながら立ち上がった。ダンブルドアも、興奮して飛び跳ねている。
やってきたのは、巨大なパステル・ブルーの馬車。
像程に大きな天馬に引かれ、こちらに近づいてくる。彼等が巨大な音を立てて着地すると、その衝撃で、生徒の何人かが吹っ飛んでしまった。もう少し配慮してくれないものか。
馬車の戸に描かれた紋章から察するに、ボーバトンだろう。
「ほら、落ち着きなさい! 呪文解くわよ!」
アイルの言葉で、ようやく辺りが静まり返った。
すると、馬車の中から誰かが出てきた。ハグリットよりも少し背の高い、巨大な女性だ。こんな人が乗っていたら、そりゃあ馬車や天馬も必然的に大きくなる事だろう。
彼女は、ボーバトンの校長、マダム・マクシーム。
「ダンブリー・ドール、おかわりーありませーんか?」
「お陰様で上々じゃ」
「わたーしのせいとです」
続々と、馬車から生徒達が降りてくる。
誰も彼も、十七歳か十八歳のようだが、あまりの寒さに震え、縮こまっている。着ているローブは薄いし、マントを羽織る者もいない。
イギリスとフランスでは温度差が激しいが、まさかこんな格好で来るとは思わなかった。
「仕方ないわね……『ヒーディスト 暖めよ』」
流石に可哀想なので、アイルは彼等にも呪文をかけた。
どうやらボーバトンの生徒達は城に入るらしい。
すれ違い様に、何人もの生徒達が、片言の英語でアイルにお礼を言ってきた。
ボーバトンの生徒が全員城に入った頃、誰かが囁いた。
「何か聞こえないか?」
途端、黒い湖の水面が騒めいた。
揺れは段々と大きくなり、いつの間にか、水中から巨大な船が姿を現す。ダームストラング校だ。
どんな魔法を使ったのか分からない生徒達は立ち上がり、歓声を上げた。
随分と豪奢な船だ。よく見ると、生徒達が操縦しているのが分かる。全員がガッチリとした体つきをしていて、寒がっている様子は少しも見えない。が、ボーバトンとは違い、分厚い皮のマントを着ているだけのようだ。
城まで彼等を率いてきている男性だけは、違うものを着ている。高価そうな銀色の皮だ。
そしてあの男はーーイゴール・カルカロフ。
「ダンブルドア! あぁ、元気かね?」
「元気いっぱいじゃよ、カルカロフ校長」
元、死喰い人……。
アイルはカルカロフを小さく睨みつける。スネイプのような、そんな存在である事を願うばかりだ。今回のトーナメントで、何も起きなければ良いのだが。
すると、ダームストラングの生徒の中に、ビクトール・クラムがいる事に皆が騒ぎ始めた。
まぁ…興味ないわね。
アイルは足早に、城の中に入っていった。
*
大広間に全員が入ると、いつもよりも狭く感じてしまう。
二校の参加者達は、それぞれ適当なテーブルにつき、教職員は上座につく。カルカロフは兎も角、マダム・マクシームが兎に角大きいので、少し影が出来る。
アイルはいつもの席に座り、食事を食べるボーバトンとダームストラングの生徒達を眺めた。
此処にいる間、彼等はホグワーツの教師から魔法を学ぶのだ。
「呪文学」は、語弊があってもある程度把握は出来るので楽だが、「魔法薬学」や「変身術」はそうもいかないだろう。まぁ…お二人共ベテランですからね。
ボーッとサラダをつついていると、大広間に誰かが入ってきた。
「魔法スポーツ・ゲーム部」の部長、ルード・バグマンと「国際魔法協力部」の部長のバーティ・クラウチだ。
恐らく開会を見に来たのだろう。
デザートが出終わると、ダンブルドアが立ち上がり、お二人の紹介と試合の詳細について語り始めた。
バグマンとクラウチが、試合のために骨身を折ってくれた事、審査員として試合を評価する事等。話が終わったかと思えば、フィルチが宝石の散りばめられた木箱を持ってきた。
ーーあぁあれが、「炎のゴブレット」か。
「皆も知っての通り、試合を行うのは三人の代表選手じゃ。各校から一人ずつ…選手は課題の一つ一つをどのようにこなすのか採点され、三つの課題の総合点が最も高い者が、優勝杯を獲得する。代表選手を選ぶのは、公正なる選者…『炎のゴブレット』じゃ」
ダンブルドアが杖を振った事により、ゴブレットの全貌が見えた。
一見すればただの古臭い杯。だがその縁からは、溢れんばかりの青白い炎が踊りだしている。
代表選手になりたい生徒は、羊皮紙に学校名と名前を書いて入れる。
結果が分かるのは、明日のハロウィーン。
「そういえばマクゴナガル先生、二校の生徒達は何処に泊まるんですか?」
「ダームストラングは船、ボーバトンは馬車ですよアイル」
「なるほど……」
解散となったが、人数が人数なだけに、大広間の入り口が詰まっている。
カルカロフは、自校の誘導と称してダームストラングの生徒達の方に駆けて行ったが、本当はクラムが心配なだけなのだろう。相当な過保護っぷりだ。
それでも詰まりは直っていないよう、おまけに入り口付近で多くの生徒達が足を止めているので、アイルはため息をついて入り口の方へ歩いて行った。
「何をやっているの。止まらないで、早く寮に戻りなさい」
チラと入り口付近を見ると、カルカロフは目を見開き、固まっているのが見えた。
一体何をしているのかと生徒を掻き分けて行ってみると、ハリーとカルカロフがかち合わせていた。
「ハリー・ポッターに……まさか貴様、アイル・ポッターか?!」
カルカロフの言葉に、ダームストラングに加えボーバトンの生徒まで騒ぎ始めた。
まさか伝説の二人がいるとは思っていなかったのだろう。二人を見ようと、多くの生徒達が背伸びをしている。
対してホグワーツは、「何を今更」状態。
大した事ではなかったと知ると、そそくさと寮へ戻ってくれた。
「イゴール・カルカロフ……何も言う事がないのなら、早く船に戻りなさい。出口を塞いでいるわ」
ハリーとカルカロフは、なるべく接触させないようにしなければ。