ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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狂った目

 

新学期が始まった。

三大魔法学校対抗試合(トライウィザードトーナメント)」が開かれるという事で、皆ワクワクドキドキ。百年以上も開催されなかったこの行事に丁度巡り会えるだなんて、今年の生徒達はラッキーだ。

十七歳未満はエントリー出来ないと聞いた生徒達は嘆いていたが、これまでに大量の死人が出ていた事は事実。それを考慮した上での年齢設定なので、低学年の子達は特に何も言わなかった。問題は、ギリギリ十七歳以上ではない者だ。

 

「後、もう少し誕生日が早ければ…」

 

という人は決して少なくはないだろう。

だが、まだ一体誰が代表選手を決めるのかは発表されていない。ダンブルドアか、はたまた魔法省の役人かーー人ならば騙せるかもしれないと、試行錯誤している生徒達を見るのは実に楽しかった。

 

「アイル先生、先生は審査員なんですか?」

「いーえ。私ではありませーん」

 

勿論、アイルは一体誰が審査員なのか知っている。

いや、”誰”という言い方は正しくないか。アイルは、一体何が審査員なのか知っている。

「炎のゴブレット」と呼ばれる古い魔法具だ。名前と学校名を書いて入れると、そこから代表選手に相応しい選手を選出するという。また、選ばれた生徒は魔法契約によって縛られ、決して試合を棄権出来ない仕組みになっている。だからこそ立候補にはそれなりの覚悟が必要なわけだがーー彼等にはそれがあるのかさえ謎だ。絶対にふざけている。

 

さて、四年生の「呪文学」の授業は、グリフィンドールとレイブンクロー、スリザリンとハッフルパフで合同授業を行う。

アイルは初日、片付けを手伝って欲しいという口実で、ドラコ・マルフォイを教室に残らせた。勿論、ルシフからの手紙を渡すためだ。父親の前では渡さないで欲しい、という事は、誰にも知られたくない内容なのだろう。アイルは時々、最後のクラスで特に優秀だった生徒を残して、片付けを手伝ってもらうという口実で、話をしたりする事がある。下手に呼び出すよりかはずっと怪しまれない。

 

「ドラコは『呼び寄せ呪文』が上手いのね。これは、得意不得意があるんだけど、少し練習しただけで出来るなんて凄いわ」

「あ、ありがとうございます!」

 

本当は片付けなんて、魔法ですぐに終わる。

本音を言うと、優秀な生徒と駄弁りたいだけなのだが、今回は訳が違う。

教室の外に「耳塞ぎ呪文」をかけ、誰も中に入れないようにすると、アイルは一息ついてこう言った。

 

「実は、夏休みに、ルシフから手紙が来たの」

「え? 兄上から?!」

「そう。それで、これ」

 

アイルは内ポケットから封筒を取り出し、ドラコに渡した。当然、中身は一度も見ていない。

 

「ドラコに、ルシウス・マルフォイのいない所で渡して欲しいって。秘密の内容なのだろうから、中身は見てないわ」

「ありがとうございます」

 

自分に直接手紙を送ってくれなかった事がショックなようだが、秘密ならば仕方がない。ドラコは手紙を受け取ると、小さく微笑んだ。

 

「もう少しで、きっと会えるわよ」

「はい…」

「ルシフは、貴方の事を本当に大切に思ってるわ。大丈夫よ」

「…そう、ですね。戻ってきた時に兄上が褒めてくれるように、勉強も頑張ります」

「えぇ。分からない所があったら、遠慮せずに聞きに来て良いからね、『呪文学』以外でもいけるわよ」

「ありがとうございます」

 

教室を去っていくドラコの背中は、何処か悲しげに見えた。手紙を貰った嬉しさよりも、まだ兄と会えない寂しさの方が勝っているのだろう。早く手紙を渡せて良かった。あの手紙の中身は気になったが、アイルは人の信用を裏切るような真似はしない。

 

一人ため息をつき、手首のブレスレットを見つめる。ルシフがくれた、初めてのプレゼント。

まだ黒い宝石の中には彼の魔力が煌めいている。握る度に彼を感じられる気がして、何よりも大切な物だ。

 

「会いたいなぁ…」

 

早く戻ってきてくれないものか。

 

 

「アイル、今日の昼休み、わしの部屋に来い。話がある」

 

ある日の朝、ムーディにそんな事を言われた。

別段用事があるわけでもないし、昼休みはいつも昼寝か図書室の禁書の棚にいるので、ムーディと久しぶりに駄弁るくらいは構わない。トーナメントはもう少し先だし、今日は打ち合わせもない。

 

お昼になり、簡単に昼食を取ったアイルはムーディの部屋に行く。

相変わらずホグワーツは広い。たった一つの教室に行くだけで、十分も二十分もかかる。さて、面倒だが歩くかと思った矢先、ハリー達と出くわした。

 

「こんにちは、三人共」

「「こんにちは」」

「こんにちはお姉ちゃん。…何処行くの?」

「マッド−アイとお喋りに。十何年も会ってなかったから、物凄く楽しみ。彼の授業はどう?」

「実は、明日なんですよ…」

「あら、そうなの。中々クレイジーだって聞いたわよ。楽しみにしてると良いわ、じゃ」

 

耳にした限りでは、実際に目の前で「許されざる呪文」を見せただとか、過激な闇の魔術に関する話をしたとか、彼らしい授業内容だ。

闇の魔術と戦うには、闇の魔術を学ばなければならないと、彼は昔もそう言っていた。闇祓いを辞めてもその癖は治っていないようで、生徒達にも「油断大敵!」を連呼しているらしい。

 

ハリー達と別れ、アイルは再び歩き始める。

途中途中でたくさんの生徒達にすれ違い、たくさんの挨拶をかけられる。寮も性別も越えた所で皆に挨拶が出来るのは清々しいものだ。学生時代は、スリザリンとは関わっちゃいけないみたいな暗黙の了解まであったし。

 

「「あ、先生発見」」

「おう、何か用ですかツインズ」

「「相変ワラズお綺麗デスネー」」

「棒読みで言われても嬉しくありませーん」

 

双子に絡まれた。珍しくリー・ジョーダンといないようだったので、それを聞いてみると、

 

「あぁ、あいつ何か、タランチュラが脱走したって言ってて」

「寮の中を駆け回ってんですよ」

「ロンが泣くわよ…貴方達も捕まえてあげなさいよ」

「だって…ねぇ?」

「ねぇ?」

「はは…そういえば、ハリーに『忍びの地図』をあげたのは二人?」

 

アイルの言葉に、双子は青ざめ顔を合わせた。

 

「ヤベェ、バレてんぞ兄弟」

「バレてんな兄弟。ハリーが話したんですかー?」

「いいえ。シリウスに聞いたら、フィルチの事務室にあったはずだって言ってて。ハリーは貰ったって言ってたし、そこから盗み出せるのは、二人しかいないと思っただけよ。二代目悪戯仕掛人さん?」

「うわぁ、よりにもよってこの人にバレるとかうわー」

「うわーうわー」

「罰則も減点もするつもりはなかったのに、今何故か無性にやりたくなってきたわ…」

「よし、逃げよう」

 

双子にダッシュで逃げられた。今度減点を喰らわせてやる。

小さくため息をつき、今度こそはとアイルはムーディの部屋に向かった。

 

 

「あぁ、お前か。思っていたより遅かったな」

「色々絡まれてしまって…ごめんなさい」

「いや、構わん」

 

先生方の部屋というのは、その人の好みや趣向によって大分内装が変わるものだ。

リーマスは、温かい暖炉やお菓子ボックス、奇妙な魔法生物なんかを部屋に置いていたが、ムーディは一味違う。本物の「かくれん防止器」や「敵鏡」、「秘密発見器」に「闇検知器」までーー彼が闇祓い時代に使っていたであろう道具がたくさん置かれている。

アイルがそれらの道具を見つめていると、ムーディは小さく笑った。

 

「気に入ったか? どれも貴重な物品だ」

「えぇ凄く。…それで、話って何かしら?」

「ルシファースト・マルフォイについてだ」

 

ビクンと体が痙攣した。

動揺するアイルを尻目にムーディは鼻で笑い、外した義足を平然と磨いている。

 

「それが、どうかしたの?」

「ダンブルドアに聞いたぞ。あいつと恋人同士らしいな。ルシウス・マルフォイの息子だと、知っての事か?」

「当たり前よ」

「恨んでいたと思っていたが? お前を保護した時も、あんなに悪態付いていただろう」

「彼は関係ないし…それに、もう、そんな事どうでも良いから…」

 

段々と声が小さくなっていく。

 

「フン、そうか。まぁ、お前が気にしていないのならば良い。だが、いつ寝首を搔っ切られるか知った事じゃないからな。早々に見切りをつけて、別れた方が身のためだ」

「マッド−アイ、彼はそんな事しないわ」

「さぁ? わしはあいつに会った事があるぞ。あれは闇の魔術に浸かっている。そりゃあまぁ、ルシウス・マルフォイの息子だからな」

「それでも、私は彼を愛してるわ。好い加減怒るわよ…ハァ…」

「油断大敵!」

 

ため息をつき、近くの椅子に座る。

改めて部屋の中をよく見回してみると、壁際に、何やら大きめのトランクが見えた。若干動いているようにも見える。

 

「あれ、何なの?」

 

アイルが指をさして聞くと、ムーディは眉を潜めた。まぁ、とても親しい仲ではないから、無理に答える必要はないのだけれど。

 

「地獄の淵を見たいのならば、見せてやるが?」

「まぁ怖い。遠慮しておくわ」

 

やはり無粋だったか。

 





本作の番外編を書かせていただきました。
今回の番外編の題名は、「【番外編】冷淡に見える彼女は」です。
結構前に、アイルの学生時代の番外編を...と言われていましたので書いたんですけど、何か違う気がします。個人的に。

よろしければ、読んでくださると嬉しいです。

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