ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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アイル・ポッターと炎のゴブレット
クィディッチ観戦の前に


 

 

「ねぇハリー、クィディッチ・ワールドカップのチケットを貰ったんだけど、良かったら観に行かない?」

「…え、クィディッチ・ワールドカップ?!」

 

 薄い雲に覆われたイギリスの空。

霊屋敷(ハビフェースト)」に住む三人の男女は、昼食をとりながら談話をしている。

 アイルが取り出したのは、二枚のチケット。「クィディッチ・ワールドカップ来賓席 アイル・ポッター殿、ハリー・ポッター殿」と書かれている。

 

「おや、私の分は?」

「リーマスはお留守番ね。誘われたのは私とハリーだけだし」

「酷いな…誰から貰ったんだ? 来賓席という事は、かなりの高官だろう?」

 

 少し不満顔のリーマス。だが、魔法省の高官が集まる場に人狼である自分が行くのは危険だとは分かっているらしい。

 

「魔法大臣よ」

「「ゴホっ、ケホッ!」」

「大丈夫?」

 

 予想外の答えにむせ返る二人組。規格外なのはいつもの事だが、まさか魔法大臣から招待されるとは。

 

「いやぁね、この間のお礼だって。『貴女のおかげで真実がハッキリした。ありがとう』って。太っ腹だよねぇ」

「そういえば、ロン達もそんな事言ってたな」

「あぁ、ミスター・ウィーズリーに誘われたわよ。でも、これがあったからね。席は自由だし、一緒に行くのも手間だから、バラバラに行く事にしたわ。まぁ、テントは一緒だからすぐに会えるわよ」

「良かった」

 

 ヤンシスでも親友は大切だ。姉とも一緒にいたいが、同じように親友達と過ごす時間も良い。

 

「それにしても、相変わらずアイルは凄いな。魔法大臣と親しいし、こんなチケットまで…来賓席なんて、普通の魔女や魔法使いじゃ絶対に立ち入れないぞ。それに、イギリスで決勝戦が開かれるのは、一体何年ぶりだか…」

「私ってほら、いつの間にか知らない人が周りにいっぱいいるタイプだから」

「あれだね、宝くじ当たったらヤケに友達が優しくなるのと同じだね。学生時代はぼっちだった癖に」

「一匹狼って言ってほしいわね…」

 

 ”ぼっち”は禁句だ。ぼっちじゃない、決して。そう、私は一匹狼。

 アイルは自分にそう言い聞かせる。

 

「お、新聞は相変わらずワールドカップ一色だな。スポーツ紙の記者達が随分とやる気を出している」

この家(うち)のニートにも、就職に対するやる気を出して欲しいわね」

「ニートじゃない、別に働きたくないわけじゃないぞ。ただ、ただな…やっぱり人狼は雇ってくれないみたいだ」

「『脱狼薬』飲んだ? 明日は満月だけど…」

「相変わらず苦いが、上々だ」

「スネイプ先生と協力して、甘い『脱狼薬』を開発してみるね」

 

 *

 

「じゃあ私は、ちょっと庭の手入れをしてくるわね」

 

 朝食が終わると、アイルは席を立った。いくら魔法使いの住む館いえど、植物は好き勝手に伸びてしまう。

 ハリーは「僕も行くよ」と立ち上がろうとしたが、「宿題をやりなさい」と一蹴された。家に教師が二人もいるのだ。ホグワーツの夏休みの宿題の量は気が遠くなる程多いが、アイルは手伝う気はサラサラない。仮にも教師。弟ばかりを贔屓するわけにもいかないのだ。

 

「はぁ…宿題嫌だなぁ…」

「早く終わらせれば終わらせるほど、アイルは笑顔で褒めてくれるぞ」

「よーし、僕頑張る。一時間でこの地獄を全て制覇する」

「その意気だ」

 

 リーマスは元教師だが、宿題を教えるのに抵抗はないらしい。

 流石、元監督生で、ジェームズやシリウスの親友。頭も良い。学生時代から何十年経っているかも分からないのに、多種多様で意地悪な問題を次々と分かりやすく教えてくれる。

 

「リーマスは本当に頭が良いね」

「そうかい? まぁ…私は勉強が好きだったしね」

「お姉ちゃんは、どんな人が好きなんだろう…?」

「あ、知ってるよ、昔よく恋バナしてたし」

「教えてくださいルーピン様」

「食いついてきたね…じゃあ、この教科を一人で五分以内に解けたら教えてあげるよ。アイルに関する事は、きっとジェームズよりも知ってるはずだから」

 

 それからというもの、ハリーはアイルの話が聞きたいという一心で筆を走らせ続けた。リーマスが口を挟む隙は一切見当たらない。

 良い事なのだろうが…勉強の動力源が”姉”というのはどうなのだろう。

 対してアイルは、自分が引き合いに出されている事も露知らず、マグルは覗く事の出来ない屋敷の庭を魔法で綺麗に整備中だ。

 

「終わった…終わったよリーマス…」

「早い。アイルパワー凄い」

「さぁ、早くお姉ちゃんの好きなタイプを! カモン!」

「はは…」

 

 リーマスはハリーの出来上がった宿題に目を通しながら、そうだなぁ…と少し昔を思い出す。

 

「アイルは優しくて、強い人が好きだろうな…ほら、恋人がいるんだろう? ルシファースト・マルフォイ…彼の噂は私も、かねがね耳にしていたよ。ルシウス・マルフォイの息子で、成績優秀な美青年だってね」

「やっぱ、顔もかな…」

「アイルが面食いだとは思わないけどね、顔も大事だと思う。女だし」

「女だもんね」

 

 ハリーはため息をつく。自分の容姿はまぁまぁ良い方だとは自負しているが、誰もが認めるような絶世の美少年ではないし、さして女子に人気があるわけでもない。

 しかし、この頃段々身長も伸びてきた。まだアイルには届かないが、後一年もすればすぐに抜かしてしまうだろう。

 さて、ハリーには他に、ずっと疑問に思っている事があった。

 

「ねぇリーマス、ヴォルデモートがお姉ちゃんを攫って、地下に閉じ込めていた時期は一週間くらいだって聞いてるんだけど…」

「…そう、だね。酷い目に遭わされたと聞いているよ」

「うん、その事なんだけどね。両親は死んだ、お姉ちゃんは攫われた…じゃあ僕は、その一週間、一体何処にいたの?」

「…あぁ、それか」

 

 アイルに聞いていないのかい?とリーマスが逆に質問をすると、ハリーは首を横に振る。

 アイルにとって、暗黒時代は思い出したくない過去だ。今まで、その時代についてハリーが質問をした事はない。それに、本人が語らずとも近くには必ず過去を知る者がいた。

 

「そうか…ハリーは知らないのか…実は、私も詳しくは知らないんだけどね、聞いた話、あの後君は、ダンブルドアの知人の家にアイルを救出するまでの間、匿ってもらう事にしたんだ。けれど、そこでもワームテールのような、裏切り者が出て、君の居場所がヴォルデモートにバレてしまったんだ…」

「僕の事を匿ってくれた人達は…?」

「無残な事に、殺されてしまった」

「…」

 

 ハリーは手元にあったペンを強く握りしめる。自分が存在するがために、一体何人の人が命を犠牲にしてしまったのだろう。

 何が「生き残った男の子」だ。犠牲の上に立つ汚れた称号に過ぎない。ヴォルデモートに勝ったからといって、自分が特別だとは思っていない。ただ、自分を守ろうとして、姉が死んでしまうかもしれない事が怖い。

 

「ハリー…大丈夫かい?」

「くは…」

「え?」

「僕は、自分のせいで誰かが傷つくのは嫌だ。僕のせいで、お姉ちゃんまで死んでしまいそうで…」

「ハリー、君が責任を感じる事はない。皆、命を懸けて戦っていたんだ。君を守って死んだのなら、彼等も本望だよ」

「…だと良いけど」

 

 *

 

「あー、暑い…ベリー暑い」

 

霊屋敷(ハビフェースト)」、庭にて。

 アイルは相変わらず黒いローブを羽織ったまま、魔法で庭を手入れしている。幽霊屋敷と言えど、草木は伸びるし暑いもんは暑い。

 マグルの夏服を着れば話は済むが、何だか露出の多いものばかりだし、ローブでないと落ち着かない。

 真夏の白昼で庭に一人。寂しい。とりあえず「冷却呪文」をローブにかけて、日陰で涼み始めた。少し休憩だ。

 

「あぁ…伸びてるなぁ木。一年放置してたらそりゃああれるだろうけど…庭師でも雇おうかな。いや、お金かかるな。…うちのニートにやらせよう」

 

 ホグワーツに行っている間は、リーマスに屋敷の周りの整備をしてもらう事にしよう。どうせ屋敷に引きこもって絶賛ニートニートするつもりなのだろう。丁度良い仕事じゃないか。

 屋敷の壁の影にしゃがみ込んで涼んでいると、何処からふくろうの鳴き声が聞こえてきた。今度は何事かと周りを見回すと、上空から見覚えのない黒いふくろうが舞い降りてきた。

 ふくろうの足には手紙が括り付けられている。魔法省でも、ウィーズリー家でも、ホグワーツでもないこのふくろう…一体誰からの手紙だろう。

 

 目つきの悪いふくろうは、アイルへ足を突き出してきた。手紙を取れと言っているのだろう。

 不審に思いながらも足に括り付けてある手紙を取ると、ふくろうは一瞥もせずに再び飛び去ってしまった。さて…この手紙はどうしよう。

 

「『スペシアリス・レベリオ 化けの皮、剥がれよ』」

 

 杖で幾度か叩いてみたが、手紙は特に動きを見せない。どうやらただの手紙のようだ。

 今まで何度か、呪いのかけられた手紙やものが届いたりした事があった。死喰い人ではないだろう、きっと面白半分で送ってきたに違いない。故に、不審な届け物には全て警戒しなければならないのだ。この頃はそういったものも減ってきたと思っていたのだが…。

 

「誰からかしら…」

 

 ふくろうが落とした手紙を開けてみると、「愛するアイルへ」と、何度も何度も見た事のある字が書かれていた。

 

「ルシフ…?!」

 

 一心不乱に一面を開き、中の文章を食い入るように見つめる。

 

『愛するアイルへ

 突然手紙が送られてきた事に、オマエはきっと驚いた事だろう。しかし不審には思わないでほしい。

 去年の夏にオマエと再開して、もう一年も経ってしまうのか。時間が過ぎるのは早いものだ。出来る事ならば、オマエと共に生徒に教鞭を取っていたあの頃に戻りたい。

 それより、シリウス・ブラックの無実が証明されて本当に良かった。オマエは前から、彼の事を信じていたから。オマエの幸せそうな笑顔を隣でずっと見ていたい…けれど、しばらくはそれさえも叶わないようだ。

 俺にはやらなければならない事があるんだ。だが信じてくれ、俺はまだ、オマエを愛している。どんなに邪魔されようが、どんなに苦しめられようが、どんなに引き裂かれようが…俺の気持ちは絶対に揺らがない。

 

 アイル、もし俺の弟に会う機会があれば、この封筒に同封してある別の手紙を渡してくれ。ただし、父上の前では遠慮してくれると嬉しい。

 一方通行ですまない。愛してる。

 ルシファーストより』

 

「ルシフ…」

 

 あぁ、会いたい。

 けれど、今は無事が知れればそれで満足だ。まだ彼が自分の事を愛しているという事が分かっていれば。

 封筒を広げてみると、確かにもう一つ手紙が入っている。人の手紙をみる趣味はないので、そのまま封筒に入れ、ローブの内ポケットにしまった。満ち足りた気分だ。

 

「…もう少し、頑張ろ」

 

 




さて、今回から炎のゴブレット編スタートです。
今回からタイトル通り、アイルが死ぬほど愛されて参りますので、ハリーのヤンシスっぷりとヴォルの執着にご注目ください。

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