ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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親友の娘と息子

 

 

 さて、かくかくしかじかと、ハリーに一から説明していく二人。

 ジェームズ、リリーの話からピーター・ペティグリューの爆破事件まで全て。徐々に暗くなっていくハリーの顔を見ているのは辛かったが、シリウスは容赦なく真実を述べ続けた。この二人を前に真実を偽っても、何一つ変わりゃしない。

 

「…なるほど、そういう、事だったんだね」

「あぁハリー。その通りだ」

「…でも、お姉ちゃんの部屋に一晩中いたのは納得いかない!」

「はぁ…?」

 

 突然シリウスに対して怒鳴りだしたハリー。素っ頓狂な声が出てしまうのも無理はない。

 

「シリウス、絶対にお姉ちゃんに何もしてないよね? ね?」

「んー、あーんな事やこーんな事をしたかったが、一応親友の娘だk「あ゛ぁ?!」いや、ごめんって」

「ハリー、あんまり乱暴しちゃダメよ。こいつは私が半殺しにするんだから」

「アイルさん?!」

「分かったよお姉ちゃん。じゃあ半分ずつ殺そう?」

「そうね。日々のストレスとこれまでの恨みを全部ぶつけてやるわ」

 

 二人は杖を取り出し、黒い笑みを浮かべる。冷や汗を浮かべるシリウスはその場で後ずさりをし、機嫌を取ろうと必死に声をかけ始めた。

 

「待って! いや、待ってください! 俺、今の今まで死にかけてたんで! アズカバンで衰弱してたんで!」

「選べ変態。地獄か吸魂鬼」

「何その究極の選択ッ。あ、アアァアアアッ!」

 

 誰にも届かない脱獄囚の悲痛の響きは、独りで部屋の中に木霊した。休日はまだまだこれかららしい。

 

 *

 

「はーい、というわけで、『第五十七回、チキチキ、ロンのペット兼ピーター・ペティグリューを捕まえに行きましょだーいさーくせーん』!」

「五十六回までは一体いつしたんだ…そして名前が長い」

「提案者のハリーさん、それでは作戦をどうぞ」

 

 三人でベッドに胡座をかき、適当に作ったサンドイッチを食べながら作戦会議を始める。

 ハリーは口に入れていたサンドイッチを飲み込み、一息がこう言った。

 

「スキャバーズは今、何処にいるのか分からないんだ。だから、捕まえるのはとても大変だと思う」「そうね…確か、ハーマイオニーの猫だっけ? あの子頭良いわよね、捕まえようとしたんでしょ?」

「多分」

 

 シリウスの無実の晴らすためには、まずピーター・ペティグリューが生きているという事を証明しなければならない。最速の方法は、彼自身を捕まえる事。存在を証拠として突き出せば、魔法省も言いくるめられるだろう。

 

「どうやったら捕まえられるかな…」

「『呼び寄せ呪文』とか」

「あれは対象が何処か分かってないと出来ないんだけど…」

「ぁッ…」

 

 すると、ハリーは古い羊皮紙を後ろで握りしめた。

 先ほどから気になっていた、部屋にやってきた時から持っていたその羊皮紙が。

 

「ねぇハリー、それは何なの? 随分と大切な物みたいだけど」

「ラブレターか? なぁハリー、誰にも言わないからさぁ…ちょっと見せてくれよぉ」

「シリウスうざいよ」

「…」

「シリウスうざい」

「…あの、姉弟で揃って、俺の心に追い打ちをかけないでくれる?」

 

 おいおいと泣き出したシリウスは置いといて、アイルはハリーに向き直る。

 

「ハリー、それは何?」

「えーっと…『忍びの地図』って云うんだけど…」

「『忍びの地図』だって?」

「知ってるの? シリウス。というか、何なのそれは」

 

 すると、先ほどの涙は何処へ消えたのか、シリウスは意気揚々と「忍びの地図」について語り始めた。

 どうやら、ムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングス…かつて「()()悪戯仕掛け人」としてそう名乗っていたシリウス達の作ったホグワーツの地図らしい。このあだ名はアイルも知って呼んでいたが、まさかこんな物まで作っていたとは。

 

「見てろよ? 『我、此処に誓う。我、良からぬ事を企む者なり』」

 

 シリウスがアイルの杖を向けると、スルスルとインクが流れるような模様が現れ、あっという間にホグワーツ全体の見える地図となった。

 足跡一つ一つに名前がついており、その人が今、何処にいるのかが分かる仕組みになっている。それだけではない。事細かな場所や秘密の通路まで書かれてある。

 

「凄い…流石『初代悪戯仕掛け人』ね。ハリーはこれで、私の部屋にシリウスがいるって知ったのね」

「うん、襲われてるのかと思って、慌てて…」

「誰かに言ったの?」

「いいや。早くしなきゃ、って思ったから」

 

 今となっては、誰にも言わないで良かったと思える。もしシリウスの事がバレてしまえば、叱責だけでは済ませられない。

 

「何処で見つけたの? それとも、誰かに貰った?」

「え、えっと…」

「言えない?」

「…うん」

「なら良いわ。本当は問い詰めて減点しなきゃいけない所だけど、お父さんやシリウス達が作った物だから…ハリーが持ってる方が良い」

「そうだな。その方がジェームズも喜ぶ」

 

 そうして、軽いノリの三人は地図の中の「ピーター・ペティグリュー」の字を探し始めた。

 アイルが自分の部屋の場所をチラと見てみると、「アイル・ポッター」「ハリー・ポッター」「シリウス・ブラック」「ピーター・ペティグリュー」の文j…あ。

 

 これが間違いでなければ、部屋にいる事は分かった。恐らく、部屋から逃げ出るタイミングを逃したのだろう。「ピーター・ペティグリュー」の文字が、この部屋の入り口付近でドアが開くのをジッと待っている。

 アイルは近くの空き瓶を手に取り、割れない魔法をかけ、そのまま杖を振り上げた。

 

「『アクシオ 来い』!」

 

 驚き顔の二人は無視して、アイルはそのまま杖を瓶の方に向けた。すると、ドア方面から物凄いスピードの毛だらけの物体が飛んできて、瓶の中にドスッと嫌な音を立てて入った。

 すぐさま蓋を閉め、中を覗いてみる。そこには汚らしいネズミが一匹。ネズミは慌てて出ようともがくが、瓶の中だという事に気がついて唖然とした。

 

「人には戻らない方が良いわよ。この瓶、割れないように魔法をかけたから」

「あ、アイル…それはもしかして…」

「えぇ。ピーター・ペティグリューよ」

「…本当だ、奴だ」

 

 瓶の中を確認したシリウスは、苦々しい顔で頷いた。酷く怯えた様子のネズミーーもといワームテールは、まだ諦めずに踠いている。

 

「これ、いつからお姉ちゃんの部屋にいたんだろう」

「さぁ? 最初に私の部屋を見た時、私とシリウスの名前しかなかったんでしょ? それなら、ハリーがドアを開けた拍子に入ったんじゃない?」

 

 この部屋には小さな穴もない。きっと安全圏だと思って入ってきたのだろうが、ある意味で魔物の巣窟だ。しかし、間違いに気がつくのが一足も二足も遅かった。

 瓶の中で一人、人に戻る事もままならない裏切り者は項垂れた。弁解する事も出来ず、今はただこの瓶の中に閉じ込められているしかないのだ。

 

 *

 

「…という訳で、シリウスの無実を証明します」

「本当、貴女はいつも規格外な事を言いますね」

「よく言われます」

 

 あの後、アズカバン担当の魔法省の役人を数人呼び出した。

 アイルが「シリウスの無実を晴らす」と言ったからか、丁度仕事が片付いたらしい魔法大臣までやってきた。暇人達め。

 

 何もない狭い空き教室に、逃げられないように魔法をかけ、アイルは皆の前でネズミを人に戻した。もしこれが本当にワームテールでなければ赤っ恥所では済ませられないが、「忍びの地図」が間違う事なんてない。

 魔法省の役人だけでなく、ホグワーツの教師陣も固唾を飲んで見守る中、ネズミは汚らしい小男へと姿を変えた。

 

「ワームテール! お、お前は…本当に…!」

「あぁリーマス、私を助けてくれ! 私は、私は無実なんだ!」

 

 と、小男(ワームテール)はリーマスに無実を訴えたりしたが、無実ならば何故今まで姿をくらましていたんだ、という話になる。

 いやはや、何十年もネズミとして過ごしていたなんて、根性だけはあるようだ。そういえば、「動物もどき(アニメーガス)」になったら味覚も変わるのだろうか。

 

「アイル! あぁ、本当に綺麗になったな。お母さんそっくりだ。そう、君の両親と私は、親友だったんだよ…!」

「はいはい、そういうの良いから」

 

 裏切った癖に、何を今更。

 

「アンタのせいで…両親は死んだ。アンタがいなければ、私はあいつと出会う事なんてなかった。アンタのせいよ…全部全部」

「アイル…許してくれ。許して…私が話さなければ、私を殺すと、あの方がそう仰ったんだ!」

「…」

 

 シリウスやリーマス、ジェームズならきっと、友を守るためならば自らの命だって投げ打つだろう。彼は前から臆病な男だった。何方かと言えば、親友達の光に呑まれていただけ。所詮は、その程度の友情だったというわけか。

 許せない、けれど…自分が可愛いのも理解出来る。死にたくないという気持ちも、痛い程分かる。

 アイルは杖を握りしめてはいるが、もうワームテールに向ける気は起きなかった。後は、しかるべき場所で、しかるべき対処を。

 

「自白したな。捕らえろ。あいつは『動物もどき(アニメーガス)』だ。警備を厳重に行え」

 

 魔法大臣の言葉で、役人達はすぐさまワームテールを捕らえた。

 これから、吸魂鬼に連れられてアズカバンに連行されるらしい。これでもう、シリウスの無実は確定した。何十年も背負わされていた偽物の罪の荷を、彼はようやく下ろす事が出来るのだ。

 

「ミス・ポッター…まさか、本当に、ピーター・ペティグリューが生きていたとは…」

「ずっと言ってたでしょう? シリウスは無実だと」

「本当に申し訳ない。ミス・ポッター、今シリウス・ブラックが何処にいるか分かりませんか? 直々に謝罪と、指名手配の解除を行いたいんです」

 

 少し青ざめている大臣。色んな事がありすぎて、頭が混乱しているのだろう。そこで、アイルが爆弾を投下する。

 

「あぁ、彼なら私の部屋にいますよ」

「…え」

「だから、私の部屋にいますって。いやぁ、昨夜、私の部屋を訪ねてきたんですよ。吸魂鬼の警備、ガバガバですよ」

「…え」

「アイル、ちょっとこっちにいらっしゃい」

 

 おや、マクゴナガルが黒い顔をして手招きをしている…。ヤバイ、嫌な予感しかしない。

 

「何で指名手配犯を部屋に匿ってるんですか! もしシリウス・ブラックが無実でなかったら、どうなっていた事か…」

「いや、平気ですよシリウスくらい。杖持ってませんでしたし、熟練の魔法使いを数十名連れてこなきゃ、私は倒せませんよ」

「その自信は相変わらずですね…まぁ良いでしょう。では、シリウスを連れてきてください。説教はその後です」

「はい…」

 

 *

 

『シリウス・ブラック、実は無実だった?! 魔法省の捜査不足に批判殺到』

 

 翌朝の新聞の大見出しには、そんな文字がデカデカと書かれていた。

 本文には、魔法省や大臣が直々にシリウスに謝罪をし、賠償金を支払ったという事が書いてある。本文の途中には、すっかり姿を整えてドヤ顔をしているブラック氏。五十代になっても、かなりイケメンだ。

 

「シリウス…元気でやってるみたい」

「そうだな。今はロンドンの実家で、絶賛片付け中だそうだが」

「へぇ、ロンドンに実家があるのね」

 

 新聞を読みながら、アイルは隣に座るリーマスと駄弁る。本来ならば隣はスネイプの席だが、彼はリーマスと一緒にいる事を嫌がってあまり大広間に来ないのだ。

 

「実はね、アイル…私…この仕事、辞める事になったんだ。形としては、自主退職なんだけど」

「え、どういう事よ?」

「バレちった。人狼情報」

「マジか」

「マジ」

 

 確かにこの頃、「リーマス・ルーピンは人狼ではないか」との噂が所々から聞こえていた。

 いや、何処から漏れたんだそれ、と思ったが認める事はせず、単に噂としてスルーしていた。が、どうやら誤魔化しきれなくなったようだ。誰が噂を流したかなんて容易に想像出来てしまう。嗚呼、何だか悲しくなってきた。

 

「じゃあ何、リーマスは…また無職? そんな…やっと、やっと立ち直って職につけたのに…!」

「あのさ、人をさも”今までニートでしたー”みたいに言わないでくれる? アンブリッチのせいで就職が難航してたんだよ。本当はもう五十代入っちゃったからさ、ずっとホグワーツ教師しようと思ってたのに…」

「そうよね。ったく、ダンブルドアに抗議しなきゃ」

「良いんだ、もう」

 

 抗議のふくろうが相次いでいるらしい。赤の他人からしてみれば、自分の子供の教師が”人狼”というのは不安でならないだろう。今は「脱狼薬」も発明されているから、それほどの心配はいらないというのに。

 この頃スネイプの機嫌が良いのはそのせいだろう。

 

「これからどうするの? リーマス」

「そうだなぁ…ホームレスでもしながらまた就職活動再開かな…」

「じゃあ、私達の家に来ない? 新しい家を買ったの。部屋も腐るほど余ってるから…良かったらどう?」

「…本当に良いのかい?」

「えぇ。平気よ。定期的に『脱狼薬』も送るから。あれくらい材料揃えば簡単に作れるし」

「わお、流石規格外」

 

 シリウスは無罪放免。ピーター・ペティグリューはアズカバン行き。リーマスと同棲決定。

 去年と比べ、まだ平和な一年だ。ヤンシスには少々不安が溜まり気味だが、多くの収穫と真実が見えた。

 嗚呼、これで今まで陰を生きてきた人間が堂々と外を歩ける。本当の親友と笑顔を交わせる。

 

「ハリー、リーマス、夕食出来たわよ!」

「はーい」

「今行くよアイル」

 

 悪夢が、じわじわと幸せとの距離を詰めているとも知らずに。





...はい、というわけでアズカバン終了〜! ドンドンパフパフ〜♪
え、適当だって? これが平常運転です。
今回の話でストックがなくなってしまったので、今週はストック溜めに勤しみます。来週からゴブレットにいけると良いな。

さて、実は先日「ハリー・ポッターと呪いの子」を購入しまして、先ほどまで読んでおりました。ネタバレはいたしませんので、ご安心を。
簡潔な感想を述べさせていただくと...とても素晴らしいお話でした。台本形式ではありますが、慣れれば読みづらくもなく、いとも簡単に世界観に入り込む事が出来ました。
完結編というと、微妙だったり、面白くなかったり...と若干期待ハズレな作品が多いですが、「呪いの子」はある意味で私達の期待を裏切ってくれます。まさかこんな展開があったのか...と七巻まででは細かく描写されなかった部分や伏線を丁寧に回収し、ポッタリアンに新たな夢を与えてくれました。
1900円と、それ程高い金額ではありませんので、お財布に余裕があれば、皆様も是非ご購入する事をお勧めします。

本作は、「死の秘宝」が終わり次第「呪いの子」を続けて書く予定ですので、末長くお待ちいただけると嬉しいです。

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