ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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降り注がれる雨

 

 

 今日は雨。

 ジットリとした暗い気持ちで新しい年を始めるのは気に食わないが、お天気の神様には逆らえない。いくらアイル言えども、一応ヒトだ。しかし雨が嫌いというわけでもなくて。ただ靴が濡れんのが嫌なだけなんだよコンチクショーというのが本音。

 

 いくら雨が降った所で、曇った気持ちが晴れるわけでもないし、シリウスの無実が証明出来るわけでもない。暗闇に現を抜かしていると、アイルは紅の汽車の中である人物を発見した。

 

「えっ、リーマス?!」

 

 丁度「空いてるラッキー★」と思って入ったコンパーメントの中には、見知った顔。青白くやつれ、ライトブラウンの色をした髪…顔にはいくつかの傷のある男性。父親の親友の一人である、リーマス・ルーピンだ。

 疲れているのか、窓際の席にもたれかかったまま寝ている。アイルの叫びも耳に届かなかった様子。

 

「お姉ちゃん…知り合い?」

 

 一回り背の高くなったハリーがジロリとアイルを見つめる。後ろの親友達はたじろぎながらも、その光景を黙って見ていた。

 

「えぇ。私達のお父様の、親友よ。リーマス・ルーピン。新しく教員が加わるだろうとは思っていたけど…驚いたわ」

 

 そう言うとアイルは嬉しそうにリーマスの隣に座り、三人を手招く。

 

「起きた時に驚かせてあげなきゃ」

 

 そう言うとアイルはリーマスの鼻に「棒状ペロペロ酸飴」を躊躇なく突っ込んでいく。流石に過度な悪戯をする姉に驚きを抱いたハリーは、そのままため息をついてしまった。だが、そんな姉も可愛らしい愛しいラブユーと思う今日この頃。

 

「先生…その人死にますよ」

「んー、まぁ平気でしょ」

「この人って、『闇の魔術に対する防衛術』の先生なんですかね?」

「多分、そうだと思うわ」

 

 今度はリーマスの顔にチョコペンで落書きをし始めた。鼻の下にヒゲを描き、額には「肉」という文字。完全に低レベルな悪戯だが、結構ショックだろう。

 

「ポッター先生って…その人に恨みでもあるんですか?」

「いやァね…私の父と、その親友達は、リーマスも含めてホグワーツでも名だたる『悪戯仕掛人』だったのよ。そう、今のフレジョに似た感じ。何方かって言うと父達はフレジョの兄貴分にあたるのかな」

「そんな過去が…!!」

「父と母が私を産んでから…暗黒時代ではあったけど、よく遊びに来てくれたのよ。でもねェ…その度に私に『悪戯という名の嫌がらせ』をしてきたのよ…」

 

 時には魔法で猛犬に模した兎に追いかけられ、時には頭から水をぶっかけられ、時には魔法で浮かばせられ、木に吊るされた事もあった。

 

「あいつ等…今思えば、ただの虐待ね。私も楽しんでた面もあるけどさぁ…こいつ」

 

 アイルは真顔でリーマスの頭にチョップを食らわす。若干ロンとハーマイオニーは引いているが、魔法を使わないだけまだマシだろう。

 

「その場にいた癖に半笑いのまま固まって、一回も助けてくれたないのよ。何回も泣きながらリーマスに助けを請いたのに…捨てられた子犬を見るような目しか送ってこなかったのよ…!! いざ、復讐の時」

 

 このままではリーマスがある意味で危険だと思ったのか、ハーマイオニーが別の話題を振る。

 

「そ、そういえば! ハリーから、新しいお宅は『幽霊屋敷』だって聞いたんですけど、大丈夫でしたか?」

「んー…大丈夫も何も、掃除した後にこれ貼ったらスッカリ成仏しちゃって」

 

 幽霊は、いるにはいた。しかし「対霊用呪文」は既に開発済みだ。適当にちゃっちゃちゃっちゃと奥の部屋まで駆逐して、皆さん仲良く成仏させてやった。勿論留まらせてあげても良かったが、血に飢えたような目をしたあの大家族は、絶対に危害を加えてくるような予感がしたんだ。

 アイルは落書きする手を止め、懐のローブから何やら「お札」のような物を取り出して、丁度一番近くにいたロンに手渡す。

 

「これって…何ですか? よく分かんないけど、何か禍々しい怖いものを感じます」

「それ私の魔力。日本の魔法使いはね、こんなの使って霊対策してるの。私の場合は適当に紙に書いて魔力込めただけなんだけどね。…あ、これで一儲け出来そう」

「そ、そんな物を何で持ってきたんですか…」

「そんなの、ピーブス対策に決まってるじゃない」

 

 秘密の部屋の一件で完全に調子に乗りやがっているあのポルターガイストを、日本で使われる術で退治してやろうという寸法だ。正直消し去りたいほど嫌いではないが、鬱陶しい。うるさい。迷惑。ミスター・フィルチでさえも毛嫌いしているというのに。

 何故ダンブルドアがピーブスを追い出さないのかが分からない。まぁどうせ、あのポテチ野郎の事だから「面白い奴じゃからのうポリポリ」と新作ポテチを食べながら言うのだろう。今度毒入りの物でもプレゼントフォーユーしてやる。

 

「何だかいつも…ごめんなさいね。三人の時間を奪っているようで」

 

 ホグワーツ城の中ではまだしも、汽車の中で友人同士募る話もしたい事だろう。

 

「そんな事ないです! 寧ろ、私と先生の知的なトークを二人が邪魔してるんで。また、先生の創った魔法、教えてくださいね」

「えぇ。勿論よ」

「やっぱ天才女子トークに男子は不要ですよね〜」

「そ、そうね〜」

 

 ハーマイオニーの…知られざる心内が見えてしまった、気がする。

 

「思ったんだけど、お姉ちゃんの魔法ってちゃんと魔法省に申請してるの? 前にハーマイオニーが少し言ってたけど…」

「えぇ勿論。法律違反なんて嫌だからね」

 

 一応暇な時に魔法省に顔を覗かせて、新しい魔法を登録してもらっている。流石に教師として認められていない魔法を使うのは良くないと思うし、生徒達にも教えたいし。

 

「そう言えば、魔法ってどうやって創るんですか?」

 

 ロンがそう質問する。確かに「魔法の錬金術師」という二つ名知っている者からしてみれば謎だ。魔法を使うのは容易いが、魔法を創る方法は分からない。図書館の本にも載っていないし、知っている者も少ない。勉強熱心なハーマイオニーにも聞かれた事のある質問だ。

 

「魔法は…鳥が空を飛ぶように、魚が水を泳ぐように、人が空気を吸うようにーー私の場合は何となく創ってる!」

「な、何となく…?」

「そう。なんか、『意識したら出来ちゃったーわーいやったぞー』みたいなノリで」

「それで良いのか?!」

「それで良いのだ」

 

 具体的な創り方? 学生時代の時からこうだよ。

 ダンブルドアに聞いた事があるが、彼も分からないと言っていた。人の限界とは計り知れない物よ。ヴォルデモートは多くの闇の魔術を生み出したと聞いている。今度会ったら聞いてみよう。

 

「正直、創り方が分かった所で十代の子供が魔法を作れるわけがないから、知る必要ないわ。自分なりに命と青春を謳歌しなさい」

「え、でもお姉ちゃんは学生時代に魔法を創りまくってたんでしょ?」

「ハリー、ロン、これが天才の領域よ」

 

 ハーマイオニーは何処までも味方してくれる。アイルの存在と才能を教師として、天才として評価してくれるのは嬉しい。

 

「アイル先生…学生時代人気者だったんだろうなぁ、羨ましい」

 

 ロンの切実な呟きを、アイルは笑顔で一蹴する。

 

「私、友達なんて一人もいなかったわよ」

「そうなんですか?!」

「えぇ。自分で言うのも何だけど、私は魔法力が高すぎたから、ホグワーツに入った時点で完全にはコントロール出来ていなかったの。だから、無意識に甲冑を破壊したり大広間の扉を吹き飛ばしたりして、誰も近寄らなくなっちゃった」

 

 大方、ホグワーツに入学した辺りから魔法の制御は完全に出来るようになるが、アイルはそれだけ習得が遅かった。溢れ出る魔力を抑えられず、人を傷つけてしまった事もある。

 

「まぁ、今振り返ると笑える思い出ね。先生方は優しかったし、ハグリットは友達になってくれたし」

「先生も先生で、中々苦労してるんですね」

「うーん、私は一人が楽だったから、そこまでじゃないのよ。皆みたいに毎日友達と一緒にいたかったっていうのもあるけど…暗黒時代だったから」

 

 *

 

 ロンとハーマイオニーが執拗にアイルの学生時代を聞きたがっていたので、大半の会話がその話題となった。ほとんど話す機会もなく封印していた記憶ばかりだが、学生時代も悪いものではなかった。

 ぼっち道は極めていたけれど、それでもホグワーツは新たな世界を開拓してくれた。新たな知識をくれた。新たな魔法をくれた。そんなホグワーツの教師に今はなれている。今まで叔父の会社を手伝ったり他にも色々と手をつけてみたが、もしかすると教師が適職かもしれない。人に教えるのは苦手だけど。

 

 魔法は数学や理科と違って、答えが決まっているわけではない。結果は人によって変わるし、完成度も得意不得意もある。覚えただけでマスター出来る科目ではない。勿論、連衆すればそれなりに使えるようになる。

 逆を言ってしまえば、魔法もマグルの勉強もさほど変わりはない。ただ例外として、アイルのような人間がいるというのも確かだ。

 

「ポッター先生がそんなに魔法を使えるのって、やっぱりたくさん勉強したからなんですか?」

「うーん…私の両親は優秀だったし、父方は純血の家系だったから血筋だと思うよ。ハリーも戦闘系の呪文が得意でしょ? 私は『呪文学』みたいな日常でも使えるものが好きだから」

「やっぱり血筋なのかなぁ…」

「でも、それが全てじゃないわ。私の母はマグル生まれだったけど、人気者で美人で頭も良くて魔法も凄く上手かった」

 

 ヴォルデモートから父と共に何度も逃れられたくらいにね、と付け加えたかったが、流石に一生徒にそこまで話す必要はないだろう。不死鳥の騎士団自体が暴露して良い内容ではないし、そもそもヴォルデモートの名を出せば二人が驚く。

 ふと窓に目をやれば、黒い雲から強い雨が打ち付けているのが見える。今日は雨が酷い。湖を渡ってくる生徒は大変だろう。それに、九月の初めだというのに何だか寒気がしてきた。リーマスも起きる様子はないし…。

 途端、列車が突然急ブレーキをかけて止まる。汽車の中の明かりも消え、一面が真っ暗。他のコンパーメントでも生徒達が騒いでいるのが聞こえる。

 

「て、停電?!」

「落ち着いて。『ルーモス 光よ』」

 

 アイルは杖先に光を灯らせて皆の安否を確認する。

 

「私は…他の生徒達を見回ってくる。もう魔法なら使って良いから、明かりをつけておきなさい。暗闇の中だと混乱が増す」

「お姉ちゃん…」

「大丈夫よ。どうせ車掌が、ファイアウイスキーでも飲んで酔っ払って動力止めっちゃったんでしょ。よくあるわ」

「よくあっちゃダメな事案だよね?!」

 

 アイルはコンパーメントから出ると、明かりを持ったまま廊下を歩く。驚いて皆コンパーメントに飛び込んでしまったようで、廊下には誰もいない。

 コンパーメントの中を覗きつつ、皆がいる事を確認。ついでに「ルーモス」も使えているか確認。去年二年生に教えたばかりなのだから、使えない方がおかしい。真っ暗なコンパーメントには声をかけて明かりを入れつつ、車掌のいる一番先頭に向かう。

 

「あぁ寒い…これは、雨のせいじゃない」

 

 歩く度に、より大きな寒気が込み上がってくる。これはーー車掌の不祥事ではないな。

 

「『エクスペクト・パトローナム 守護霊よ来たれ』」

 

 彼女が守護霊(パトローナス)を呼び出せば、目の前には青く泡沫のような光を放ちながらも業火の如く鬣を靡かせる獅子の姿が現れた。

 

「吸魂鬼が来る。追い払っておいで」

 

 この寒さ、不快感は吸魂鬼以外有り得ない。とりあえず吸魂鬼は守護霊に任せるとして、早く明かりの復旧をしてしまおう。生徒の怯えが増長してしまう。

 

「ッ、あれは…」

 

 突如数メートル先に姿を現したのは、黒いボロボロの布切れで出来たようなーー魂の抜け殻、吸魂鬼だった。

 





更新が遅れてしまって誠に申し訳ございません(スライディング土下座
これから速めていきますので、どうかその振り上げた拳をお納めくださいまし。

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