ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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真夜中の訪問者

 

 

「『ルーモスボール 光の弾よ』」

 

 外に一歩出れば、暗闇が広がっている。流石にこのまま外を歩き回るのも困難なので、懐中電灯レベルに辺りを照らす光の弾を作り出し、近くに浮かした。少し上から蛍光灯の光が出ているような感じだ。

 近くの植物の葉を見てみると、まだ青々として美しい。全く手入れされていないというのに、庭には雑草一つ生えないで清々しさを保ったままだ。利点でもあるが、此処が『霊屋敷(ハビフェースト)』と呼ばれる所以でもあるのだろう。こんなに便利なのに。

 何かしら魔法がかかっているのだろうが、下手にいじって破壊してしまったら怖い。あまり触らないようにしよう。

 

「後で、『守りの呪文』をかけておこうかな」

 

 こんなに豪奢な屋敷だったら、侵入者や泥棒でも来るかもしれない。警備会社に頼ると何かしら厄介事が起こりそうなので、もう関係者以外立ち入れられない魔法をかけてしまおう。

 途端、

 

『アイル…』

「ッ?!」

 

 誰かが自分の名前を呼んだ気がした。ハリーではない、低く落ち着いた暗い声。今のは一体、誰だろうか。

 

「誰かいるの?! 大人しく出てきなさい」

 

 屋敷の壁を背に、アイルは杖を構えたまま辺りを見回す。すると、木の陰から、ある人物が姿を現した。

 

 少々乱れた長い白髪、少し物悲しげな黒い瞳ーーその姿はまさに、ルシルファーストそのものであった。

 彼はこちらに微笑みを浮かべたまま、少しずつ近づいてくる。アイルは目の前の現実に狼狽えるも、目の前の人物が本物か確かめるため、ある問いを投げかける。

 

「…貴方がくれたブレスレットには、何色の宝石がついていた?」

「黒だ」

「私が貴方にプレゼントしたものは?」

「緑色のリボンで、髪を結んでくれたな。まだ…」

 

 彼は儚い光を瞳に浮かべながら、白い髪の毛を整える緑色のリボンを見せつけた。アイルは胸が熱くなる気分がして、左手首につける彼からの贈り物を、同じく見せつける。

 互いを互いと証拠付ける証のような存在が、離れ離れとなった魂を再び結びつける。

 

「本当に…本当にルシフ?」

「あぁ、本当だ。ずっと、会いたかった」

 

 ザクッという草を踏みつける音が二人分鳴り響く。気がつけばお互いに涙を流しながら抱きつき、声を出さずに泣いていた。

 一年振りのこの温かさを、もう二度と離したくない。しかしずっと抱き合っているわけにもいかず、先にアイルが切り出した。

 

「ルシフ…今まで何処にいたの?」

「俺はーーそれは…オマエにも、言えない」

「何故?」

「…」

「言えないならそれで良いわ。また、貴方に会えたんだから。それだけで良い」

 

 何も教えてくれなくて良いから、一秒でも長く一緒にいたい。

 日記に縋った去年の忌まわしい記憶など、すぐに洗い流されてしまう。今はただ、彼と少しでも長く一緒にいたい。

 

「アイル、この一年間、何度この日を夢見ていた事か。本当に良かった、元気そうで」

「私はいつでも絶好調の天辺にいるわよ。…ルシフ、怪我は完治したよね? まだ痛まない?」

「平気だ。もし仮に治ってなくとも、オマエとこうして抱き合っているだけで、すぐさま傷まで消えてしまいそうだ」

 

 ルシフはアイルの髪を愛おしげに撫で、その手をスルスルと顎まで滑らせ、そのまま口付けをする。今までの埋め合わせをするかのように、口の中で舌と舌が優しく絡まり合う。蛙チョコレートのような、甘い甘い口付け。

 

「この時を…ンッ、永劫に、瓶詰めにして…しまいたい」

 

 ルシフは途切れ途切れながらも口付けをしながらつぶやく。アイルも激しく同意したい。この幸せが続くのなら、グリンゴッツの金貨を空にしても、自らの魔力を悪魔に差し出しても構わない。それほどまでに、彼が愛おしい。時間なんて止まれば良いのに。

 唇が離れると、アイルが小さな声で言う。

 

「バーカ…キスなんかじゃ、この一年は埋まらないわよ」

「では、次会う時にはもっと別の何かを…そう、お互いになくては生きていけない程の何かを、プレゼントしよう」

 

 意味深な事を堂々と発言しないでいただきたい。アイルは笑みを浮かべながらため息を零した。

 

「ねぇルシフ、良かったら泊まっていかない? あの…何も聞かないから」

「俺は、お楽しみは最後に取っておくタチだし…オマエの弟が怒るだろう? それに、俺はすぐに戻らなくてはならない。本当は絶対に会ってはならないんだ」

「わ、分かった」

「悪いアイル。いつか、必ず話すから。それまで、俺以外に惚れるんじゃないぞ?」

「ルシフもね」

 

 *

 

 ハリーの所に戻るアイルは、当然の事ながらご機嫌だ。誕生日にアルバムをプレゼントした時以上にご機嫌だ。一年間も神様からお預けをくらっていたルシフと、今夜やっと再開する事が出来たのだから。今日はもうお腹いっぱい。熟睡できそう。

 部屋に戻るとすぐに、ハリーは拙い形をしたクッキーを差し出してきた。きっと星やハートの形を作りたかったのだろうが、角がかけていたり、逆に直線になっていたりしている。

 

「あのー…ハリー?」

「これ食べて」

「もう十時だよ? 私の怖い物知ってる? 体重計と夜更かしだよ。ボガートと出会ったらすぐさま体重計が現れるくらいに恐怖だよ?!」

「良いから食べて。お姉ちゃんは百キロになっても綺麗なままだから」

「お世辞も良いトコだねハリー!」

 

 しかし折角作ってくれたのだろうから、食べないわけにもいかない。此処で食べなかったら、ベッドまでついてきそうだ。くそっ、こんな夜にお菓子を口にする事になるとは…。

 

「うん、美味しい」

「本当? 良かった。いつまでもあんな男の汚れがお姉ちゃんの口の中についてるだなんて、吐き気がするからね!」

「…え?」

 

 ハリーはクッキーをもっと食べてと言わんばかりに差し出してくる。いつもは透き通るようなエメラルドグリーンをしている瞳が、今日は少し赤みを帯び、濁った色をしている。

 

「僕見てたよ。まさかマルフォイの奴と密会するなんて思わなかったけど…随分楽しんでたよね」

「教育に悪いものを見せてごめんなさい」

「良いよ別に。たださぁ…やっぱ嫌だから、全部食べて。僕の...クッキー(まぁ、僕の血が、たっぷり入ってるんだけどね)」

「う、うん…」

 

 教育に良くないのは弟の思考かもしれないが、此処はスルーだ。教師としてあってはならない事だが、現実から目を背ける方がずっと楽。このまま否定していたら爆発しかねない。

 明日の朝にたっぷりと、体重計の恐ろしさについて教えてあげないと。

 

 

 




アイルがボガートと対峙したら、体重計とハリーの亡骸が出てきます。体重計の方がデカイです。

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