ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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教師としての責任

 

 

 

 頭から血を垂れ流しながらも、アイルは日記帳に牙を突き刺した。途端、耳をつん裂くような鋭い悲鳴が廊下中に木霊した。

 トムはハリーを踏みつけるその足を除け、一人で苦しみ、のたうち回り始めた。牙が刺された日記帳からは、黒いインクが血のようにとめどなく溢れ出し、勢いを止めない。やがてトムの体が光りだしーー消えた。彼がいたその場所には、カランとアイルの杖が転げ落ちる。

 

「先生! こっちです!!」

 

 すると、廊下の角から声が飛び込んできた。ハリーの親友であり、今回の件で一番マトモだっただろうロンの声だ。

 ドタバタと走る音と誰か数人の声が合わさって聞こえてくる。

 

「アイル! ハリー!」

「先生…遅い、ですよ…お年ですか…?」

 

 こんな状態ながらも、アイルは不敵に笑う。やってきたのはダンブルドア、マクゴナガル、スネイプだった。

 彼女の体はもう限界に近づいており、スネイプが駆け寄って支えた頃には意識を失った。バジリスクと真正面から杖なしで対峙して生きていたのは、きっとアイルくらいだろう。

 

「…すぐにアイルとハリーを医務室へ。ハリー、君は喋れるかの?」

「はい、先生」

 

 外傷の見当たらないハリーは魔法で縄を解かれ、何とか立ち上がる事が出来た。そしてアイルの杖を拾い、慌てて担架で運ばれる姉の姿を追いかける。

 

「ダンブルドア…これは、やはり継承者との戦いの後なのですかね?」

「無論、そうじゃろう」

「何故、何故助けに入らなかったのですか?」

「わしは…新作のポテチを食べながらパトロールをしておった。皆と同じじゃ。この異変に気づかなんだ。ちなみに新作は何と『寿司味』じゃ」

「…」

 

 *

 

 継承者は消え、連れ去られたアイルも戻って来た。やはり骨がかなり折れていたようだったが、流石魔法界。優秀な校医マダム・ポンプリーの呪文の一つ二つで片付いた。

 それにしても、あの廊下は大惨事だ。壁は崩れ、片方にはバジリスクの遺体が横たわっている。その後廊下を修理しようとして発見した時は、『もう死ぬかと思った』と先生が証言したらしい。ちなみに研究のため、ダンブルドアが全部回収したとのこと。

 

 三日は絶対安静と言われたため、アイルは体が回復してもベッドの上でふて寝していた。まだ少し折れた骨が痛むが、明日にもなれば完全に復活するだろう。

 幸運な事に、ハリーには軽いアザが出来ただけで、本体の眼鏡も「修復呪文」ですぐに元通りだ。そして、石へと変化した生徒達も元の姿を取り戻し、ホグワーツの日常へと戻り始めた。

 ただ一つアイルが気がかりだったのは、

 

「ダンブルドア先生…私、やっぱりクビですかね?」

 

 アイルは完全復活したのち、校長室で再びダンブルドアとの対話を始める。

 あんな事件を引き起こしたのだ。いくら誘惑され、操られていたとはいえ、教師が生徒を襲うという事態は決して起こってはならない事。この三日間、安心もあるけれど、クビ覚悟でベッドに横たわっていた。

 もしホグワーツを辞めなければならなくなれば、またダーズリー家のドリル会社の接客をしなければならない。楽しいちゃあ楽しい仕事だけど、縁談話がしつこいのだ。

 

「うむ…去年のあの出来事、覚えておるかの?」

「私が、十年ぶりにストーカーと再会した年ですね」

「うん、結構斜め上に行ったけどあながち間違っちゃいないね」

「もとい、ヴォルデモート卿がまだこの世に存在し、復活しようと目論んでいると確信しざるを得なかった年です」

「その通りじゃ」

 

 ダンブルドアはガラス皿に大量に入っている「ハワイアンブルー味」のポテチを食べながら言葉を続ける。

 

「故に、ホグワーツには君が必要じゃ。君がホグワーツを辞めれば、他に行くアテもなくマグル世界で再び働く事になるだろう。するとどうなる? 君やその周りの人間にも危害が及ぶ可能性が出てきたのじゃ」

「ダーズリー家の人も…私の家族です。とてもお世話になりました。絶対に傷つけたくない」

「だからこそ、君にはホグワーツにいてほしい。それに、君は良き指導者じゃ」

 

 ーー生徒を襲った張本人にそれを言いますか、ダンブルドア。

 

「かつてヴォルデモート卿はーートム・リドルは、あの容姿と巧みな言葉で多くの者を魅了してきた。特に君は、先の年で心に傷を負ったばかり。心を許してしまうのも無理はない」

「情けないです。大人として、教師として人を引っ張る立場にある人間が、あんな魔法如きに…」

「…君は、ホグワーツにいたいかの?」

「当たり前です。此処にならば、私の居場所がある。ハリーも同様です」

「それならば、追い出す必要はないのう」

 

 ダンブルドアは「ハワイアンブルー味」のポテチを一枚、アイルに差し出した。

 

「ホグワーツは、学ぶ意思ありて来る者は、如何なる者であろうと拒まぬ。そして、清き夢や愛を持つ者もまたーー拒む事はせぬ」

「先生...」

 

 ーーあぁ、私は此処にいても良いのね。

 それが分かれば満足だ。この学び舎は生徒達の、そして教諭の家。深く歴史の刻まれたこの城に、まだ自分は身を置く事が出来る。でもーー

 

「残念ながら、私は『ハワイアンブルー味』のポテチを食べるほど飢えてません」

「えー美味いのにー」

「食欲を低下させる色合いのポテチを、食べさせようとするなんて酷いです。この流れなら大体の人が受け取っちゃいます」

「よし、追加条件。ホグワーツにいて良いけど、わしと『ポテチ同盟』を組む事!」

「絶対に嫌です」

 

「ポテチ同盟」とは何たるかをダンブルドアが説明し始めようとすると、校長室の扉がノックされた。そして返事を待つ間もなく扉が開く。

 

「おや…アイル・ポッターか」

「…ルシウス・マルフォイ、一体何用かしら」

 

 今日ルシウス・マルフォイは、屋敷しもべ妖精のドビーも一緒に連れてきている。ドビーは前に会った時よりも傷が増えており、大変痛々しい。

 

「理事会では、貴方を退職させるという意見も出ていたのだが…どうやら自主解決したようですな」

「無論、その通りじゃ。ホグワーツには、わしとアイルがいるからのう」

「…それで、例の事件の犯人は?」

「全て、ヴォルデモート卿が手下にやらせていた事じゃった」

「そうですか」

 

 彼はつまらなさそうにアイルを一瞥すると、「では」と言って去ってしまった。一体何がしたかったのかは分からない。しかし、ドビーは確実に怯えていた。

 ドビーはマルフォイ家に仕えてはいるものの、完全なる忠誠を捧げてなどいない。何かをやらかす度に自分を自分で傷つけさせる。何と残酷な純血一家だろう。あの冷酷な男からルシフが生まれただなんて、正直考えられない。

 

「私…あの人嫌いです」

 

 完全に去ってしまった事を確認すると、アイルは足を組み替えながら言う。

 

「利己的で純血主義。死喰い人の鑑みたいな人」

「これこれ、そんな事を言うでないぞ。もし君がミスター・マルフォイと婚姻関係を結べば、晴れて二人は親子じゃ」

「嫌です。…ルシフ、何処にいるんでしょうかね」

「分からん。しかし、無理に追うでないぞ。君に手紙を残したという事は、何かしら理由があったはずじゃ」

「そう、ですよね!」

 

 少しだけで良いから、また会いたい。一体何処にいるんだろう。

 すると、フォークスがバサバサッと音を立ててこちらに身を寄せてきた。アイルは微笑みながら、フォークスの頭を撫でる。

 

「先生、私…時々思うんです。私はグリフィンドールで良かったのか…なんて」

「はて…それはどうしてかの? 君はグリフィンドールこそ相応しいと、わしは思うが」

「私、組み分け帽子に『君はスリザリンに入るべきだ』と言われた事があるんです。勿論殴って脅してやりましたけど」

「君一度帽子に謝りなさい」

 

 そういえば、ハリーも前に「組み分け帽子にスリザリンが良いと言われた」と言っていた。それはヴォルデモートを倒した張本人であるからなのか、それともその過度なシスコン故か。

 ダンブルドアは笑顔でグリフィンドールの剣をアイルに手渡した。

 

「これは…どのような者が手にする事が出来るか知っておるかの?」

「真のグリフィンドール生」

「その通りじゃ。つーまーりー?」

「私は、グリフィンドールですね」

「正解じゃ。ご褒美にわし秘蔵の『チョコレートポテチ』をプレゼントじゃ」

 

 案外マトモなポテチを渡された。絶対これ湿気ってる。

 

「君は、ホグワーツで働く事を望む。わしも、君が此処にいる事を望む。わしやヴォルデモートに肩を並べる君の実力は、これからもこの場所に留まる事で培われるじゃろう。いつか君は…魔法界で最も謳歌される存在となる」

「褒めすぎです」

「いやはや…わしと違い、君は若い。これからも十分伸びるじゃろう。望みとあらば、わしも教鞭を振るがどうじゃ?」

「私、独学が好きなんですよ」

 

 変なポテチも食べさせられそうですし、とアイルは付け加えた。まだ瞳は、赤く輝いている。

 

 *

 

 学校中を湧かせたのは、石になった者達の復活、ギルデロイ・ロックハートの解雇、そしてそいつの悪事の真実だ。

 ロックハートの醜聞は翌日「日刊預言者新聞」に掲載され、彼はイギリス中の批判を浴びた。勇気ある行動を起こした者の記憶を改竄し、自らの功績としたのだ。これほど酷いものはない。

 ロックハートファンの人達は悲しがっていたが、人は見た目で判断してはいけない事がよく分かる。正直、彼の顔に夢中だった人以外は、あのナルシスト具合と第三者的な文章の違和感に不信感を覚えていた。

 ダンブルドアは、彼の真実を暴くためにホグワーツの教師としてそれを雇ったらしい。他に希望する者もいなかったようだし。それにしても、来年は一体誰が「闇の魔術に対する防衛術」の教鞭を取るのだろうか。

 

「アイル、二つ教科やってみるwww?」

 

 とダンブルドアに聞かれたが、丁重にお断りさせてもらった。違う教科を兼業するなんて体が保たないし、第一疲れる。生徒達も自分も。

 

「マクゴナガル先生…今年はとても疲れました」

「でしょうね。波乱の一年…しかし、これからはもっと大変になりますよ」

「えぇ。勿論」

 

 ーー懸河な花は、まだこれからも咲き誇る。

 






カドナ「やばい、秘密の部屋が完結したのに...アズカバンが進んでない! テスト終わったからって油断してた!」
アイル「ただでさえ更新頻度も遅いし文字数も少ないのに...もう少し頑張りましょう」
ハリー「いや、僕とお姉ちゃんのイチャイチャ的場面を入れてくれるなら、僕は100年だって待つさ」
カドナ「この頃『原作涙目のカオス作品』って友人間でいつの間にか言われてたんだけど」
アイル「ていうか、ヴォルちゃんの死ぬほど愛する要素が、今の所全くもってゼロじゃない」
ハリー「もう改題しちゃおうよ。『ハリーに死ぬほど愛されています、誰でも良いので自慢したいです』って」
アイル「そういえば、カドナが活動報告で私の学生時代のイメージ絵を公開してたわね」
ハリー「僕なら恥ずかしくて絶対に出せない出来だけどね。お姉ちゃんはもっと綺麗」
カドナ「おい人の絵をディスるな」

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