ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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パーセルマウス

 そろそろ練習を終えようと、アイルは一息をついた。しかし最後に、誰か生徒二人に模擬戦をやってもらっても良いかもしれない。今夜習った事をフルに生かして、楽しい決闘を繰り広げてくれる人は…。

 アイルは練習を終わらせ、ステージの周りに人を集めた。ロックハートの石化はまだ解けていなかった。彼を気にしている人なんて、もう誰もいなかった。忘れていると言った方が正しいかもしれない。あまりにも面白おかしく楽しい授業だったので、皆時間も心配事も忘れてしまったのだ。多くの生徒達が、このクラブを毎晩開いてほしいと願った。

 

「じゃあ、最後に誰か〆として決闘をしてもらえないかしら? ほんの数分だけど…誰かやりたい人いるかしら?」

「アイル、我輩の寮のマルフォイと、君の弟ではどうかな?」

「えっ…ハリーと…?」

 

 アイルは、ハリーがドラコ・マルフォイに敵わないなどは一切思っていない。しかし、やはり弟故に心配なのだ。

 

「お姉ちゃん、僕なら平気だよ」

 

 ハリーは笑顔でそう言いながら、ステージへと上がってくる。対してドラコも、杖を持ってステージに上がってきた。何やらスネイプが何かを囁いている。作戦でも教えているのだろうか。

 

「そう? …怪我をしない程度にね。もし掠ったりしたら、私がすぐに治してあげるから!」

 

 アイルはハリーの両肩を掴み、よくよく言い聞かせた。眼鏡の少年は、大好きな姉がこんなにも

 自分を心配してくれる事を嬉しく感じ、絶対にマルフォイに勝ってやろうとやる気を奮い立たせた。アイルとスネイプはステージから降り、ジッと二人の様子を眺めた。

 お辞儀をし、杖を構えた。

 

「じゃあ、三秒数えるわ。一…二のーー」

「『エヴァーテ・スタティム 宙を舞え』!」

 

 ドラコはアイルが秒を数え終わらないうちに、呪文を使ってハリーを吹き飛ばした。各寮から野次とブーイングが飛ぶが、これも作戦のうちだ。否定は出来ない。だまし討ちなんて、実践では必要だ。格式ある儀式の場合は許されない事ではあるが。

 ハリーも負けじと呪文を唱えた。

 

「『リクタスセンプラ 笑い続けよ』!!」

 

 杖先から銀色の線香が飛び出し、ドラコに命中した。彼は突然笑いの発作に襲われ、息をする事が出来なくなり、床に倒れこんでゼーゼー言いだした。

 

「『タラントアレグラ 踊れ』!」

「あらハリー、ステップ上手いわね」

 

 ドラコが唱えた呪文で、ハリーの足は勝手に動き、クィック・ステップを踏み出した。アイルがクスクスと笑うと、このままでは両者勝負にならないと思ったスネイプが、その呪文を解いた。

 もう止めをかけようとアイルがステージに上がろうとした所で、ドラコが再び叫んだ。

 

「『サーペン・ソーティア 蛇出よ』!」

 

 彼の杖先が炸裂し、そこからニョロニョロと長い黒蛇が出てきた。皆ギョッとし、何歩も後ずさりをした。蛇は鎌首をもたげ、攻撃の態勢に入った。一体誰を攻撃してやろうかと辺りを見回すと、そこにいたのはアイルだった。

 咬みつこうと口を大きく開けた所で、蛇の頭の中には声が流れ込む。

 

 〔止めなさい、蛇さん〕

 

 それは、目の前の人間から発せられていた。蛇は頭を下げ、口を閉じた。

 

 〔申し訳ありません。まさか私と会話する事の出来る方とは〕

 〔まぁ、それで良いのよ。…貴方には悪いけど、消えてもらうわね〕

 

 赤い瞳の魔女は杖を掲げ、蛇を消し去った。

 辺りを見回すと、案の定、皆冷や汗をかき、恐怖に固まっているのが分かった。こうなる事は分かっていたが、仕方がない。ハリーはそんな生徒達の様子を見て、訳がわからないといわんばかりに首を傾げた。

 

「あ、アイル…?」

 

 スネイプでさえも、アイルを警戒し、鋭い目つきでこちらの様子を伺っていた。

 

「勘違いしないでほしいわ。…今日のクラブはこれで終わり。早く寮に戻りなさい」

 

 *

 

 翌日から、ホグワーツは戦慄した。学校の一教師がスリザリンの継承者であり、猫を襲い、マグル生まれを脅迫するような文章を書き残したという悪評な流れるのは、学校側としてもとても困った状態だ。勿論アイルはパーセルマウスではあるが、スリザリンの継承者ではない。

 それだけではなく、血の繋がりのあるハリー・ポッターもスリザリンと同じ血が流れていると言われ、他の生徒からは避けられ、疎まれていた。

 しかし、何百年も前の人物だ。アイルやハリーがスリザリンの継承者だという点は否めない。故に、アイル自身は否定しつつも口を紡ぐ態度を保っていた。

 

 トムはそんなアイルの話を熱心に聞いてくれていると同時に、何故だか喜んでいるようにも感じた。自分がパーセルマウスだと全校中に知れ渡るのを喜ぶ人間なんて、普通いない。

 

 アイルの呪文学の教科を休む生徒も増えてきた。マクゴナガルはアイルに、少しの間休暇を取ったらどうだと提案してきたが、一人の教室として職務を投げ出すわけにもいかなかった。特にアイルも気にしていないという理由もあるが、今年に大きな試験を持つ生徒が音を上げる可能性もあったのだ。生徒の未来もある意味懸かっている。

 

 ある日、グリフィンドールとハッフルパフ合同の呪文学の授業が終わると、ハリー達がアイルに相談にやってきた。

 

「どうしたのかしら?」

 

 ハリーは何だか怒っている様子で、ロンとハーマイオニーはそんな親友に呆れかえりつつも、心配している。アイルはとても三人に申し訳なくなった。自分が皆の前でパーセルマウスを使ってしまったから、彼等にも迷惑がかかっているのだ。本当、教師として無責任な行為だったと思う。

 

「お姉ちゃん…お姉ちゃんは、本当にスリザリンの継承者じゃないの?」

「それが、否定できないのよ。私もハリーも半純血だけど、お父さんの血筋は古くから伝わっている純血の多い一族だから…可能性としてはゼロではないのよ」

「可能性…ゼロじゃないにしても、凄く高いだろうな」

 

 ロンが苦笑を浮かべながらつぶやく。何故?とアイルが問うと、

 

「実は、僕も蛇と話せるんだ」

 

 とハリーが切羽詰まった様子でアイルに言った。様子からして、ロンもハーマイオニーも知っているようだった。魔法界でも稀有である「蛇語使い(パーセルマウス)」。血筋による天性的な場合と、後から学ぶ後天的な場合があるが、そもそも蛇の言葉なんて学ぼうなんて人は少ないし、人間と蛇は声帯が違うので話す事ができない。理解はできても、話せないという人物はいる。ダンブルドアが良い例だ。

 

「…知ってる」

「え?!」

「ずっと前から知ってるよ。そのくらい」

 

 アイルは努めて笑顔で答えた。ハリーが動物園で蛇をダドリーにけしかけた時から、アイルはハリーが蛇と話せる事を知っていた。蛇と会話するハリーを真横で見ていたのだから。

 

「な、何で…」

 

 ハリーが俯く。その肩は細かく震えており、アイルは血の気が失せた。ハリーを悲しませてしまった、怒らせてしまったーー心が締め付けられるような気分で、アイルはただ彼の頭を撫でてあげる事しか出来なかった。

 しかし、

 

「何で教えてくれなかったんだよ!」

 

 目に涙を溜めて、ハリーは心の奥底に眠っていた不満を吐き出した。

 

「何でパーセルマウスだって教えてくれなかったの?! 僕を信用してないの? 何で伝えてくれなかったの?! 嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよ嫌だよッ!!」

「は、ハリー…?」

 

 ハリーの豹変っぷりに、アイルだけでなく、親友達でさえもたじろいだ。可愛い弟はアイルのローブを両手で強く掴み、涙を流しながら縋ってくる。

 

「お姉ちゃんの事で僕が知らない事があるなんて絶対に嫌だ! お姉ちゃんは僕のモノなんだ!! 秘密なんて作らないでよ!」

「わ、分かってるよハリー。ごめんね、ごめんね…」

「…じゃあ、誠意を示して」

「…え゛?」

「それが嘘じゃないって、証拠を出して」

 

 ハリーは真顔でそんな事を言ってくる。しかし証拠と言われても、何をすれば良いのだろうか。今ハリーに隠している事と言えば、日記帳の事程度だ、が…もしかして、今ある秘密を全て暴露しろとでも言うのだろうか。

 

「な、何をすれば良いのかしら?」

「明日は休みだから、ずっと僕と一緒にいて。僕以外の人と会わないで。話さないで。部屋から出ないで。食事も何も全部僕が用意するから」

「お、オーケーだけど…クィディッチの練習は?」

「スリザリンに練習時間を取られちゃったんだよ。新しいシーカーを教育するとか言って。フレッドもジョージも悪戯三昧だし、ウッドは作戦を考えるので忙しいから、僕暇なんだ」

「そ、そうね。明日は一緒に過ごしましょうか」

 

 ロンとハーマイオニーは、ハリーの狂気に飲まれ、この日は悪夢に魘されてしまった。

 自分の弟の愛が強すぎる事は、アイルも懸念していた。早いうちに自立させないと、将来が心配だ。でも明日だけは、たっぷりと甘やかしてあげよう。

 


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