ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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校長との対話

 

 ダンブルドアは静かにアイルの前に座った。アイルは目の前の老人の青い澄んだ瞳を見つめた。いつもこの目を見ていると、隠し事なんて出来ないような気がする。アイルはトム・リドルの事が聞きたかったが、それだけのためにこの場所にくるのはただの時間も無駄。故にアイルは、ずっと気になっていた事を聞いた。

 

「…先生、ヴォルデモートは何故、私を愛する事が出来たのですか? …先生は私にふと漏らした事があります。ヴォルデモートは『愛を知らない』と。それなのに何故ーー」

「あやつは君と出会い、愛というモノを知った。ただそれだけの事じゃ」

「そんな答えじゃ、納得いかない」

 

 アイルの問いに、ダンブルドアはこれ以上の答えを出さなかった。すると、話題を変えたいのかダンブルドアは透明な皿に入ったポテチを勧めてきた。アイルはお礼を言って一枚取り、口に入れた。ダンブルドアがハマるのも納得がいく美味しさだった。香ばしいオニオンの香と辛い塩味が絡み合い、口の中でハーモニーを奏でていた。是非、メーカーをお教えしてもらいたい。

 

「そうだ、さっきトロフィー室に行ってみたんですけど、中々興味深い部屋でしたね」

「そうじゃの。確かに歴史を感じられる部屋じゃ」

「そこで私の名前も見かけたのですが…私はホグワーツの特別功労賞を取った覚えはないのですが」

 

 彼女の言葉にダンブルドアは悪戯っぽく笑い、ポテチを口に突っ込んだ。体に悪いのではいかとも思ったが、まだ元気だからきっと大丈夫。

 

「でもまぁ、ホグワーツを飛び級で卒業した事になっているから…それくらいあっても良いかなぁと…思ったのじゃ怒らんでくれ謝るから」

「別に怒ってはいませんよ。あぁそうだ、確かトム・リドルって人も私と同じような感じだったな…」

 

 ダンブルドアは、アイルの言葉に激しく反応した。知っているという事はすぐに分かった。しかし、ダンブルドアがトムを知っているだけでは信用するには値しないので、アイルは彼について質問をした。

 

「その様子からして、知ってますね。どんな人だったんですか?」

「…まぁ、知らない方が良いかもしれんが、とても優秀で魅力的な若者じゃった。君が入学する前までは、ホグワーツ創立以降最も優秀な生徒という立ち位置は彼のモノだったのじゃ」

「頭の良かった人なんですね、もしかして、マグル生まれだったりとか?」

「いや、彼は半純血じゃった。マグルの孤児院に入学するまでいたがの」

「そうなんですか…大人しい生徒だったり?」

「いや、君のように信者の出来るようなタイプじゃったよ。…何故そこまで聞くのじゃ?」

 

 目の前の老人はアイルに真っ青な瞳を向ける。全てが見透かすような彼の目が 、アイルは好きだった。隠すような事でもないが、アイルはあえて日記の事は話さなかった。危険な人でないという事は分かった。今はそれで良いのだ。

 

「ありがとうございました。まだモヤモヤは残りますが」

「短い昼休みじゃ。ゆっくりと過ごすと良い」

「えぇ」

 

 *

 

 アイルは自分の部屋に戻り、窓ガラスから外の景色を眺めながら考えた。何故ダンブルドアは、アイルが「トム・リドル」という言葉を発した時にあんなにも驚いたのだろうか。彼女がその名を知っている事? それとも、二人の間で何かあったのだろうか。何方にしろ、気になる事は層を増して伸び続ける。

 ダンブルドアはいつも何でも分かっているのに、ダンブルドアの事はいつも何にも分からない。彼は何も教えてくれない。指導者のはずなのに、本当に知りたい事をいつもはぐらかされる。残酷な人だ。知る必要はない、とも取れる。

 

「あぁも〜ッ! あの人苦手!」

 

 ムシャクシャしたアイルは、リドルの日記を開いてペンを持った。

 

「『ダンブルドアに聞いたわ、貴方の事』」

 

 返事はすぐに返ってきた。

 

『へぇ、どうだったんですか?』

「『優秀な生徒だって聞いたわ。功労賞も貰っていたわね。一体何をしたのかしら?』」

『大した事はないですよ』

「『ホグワーツ創立以来の秀才だったとか』」

『お褒めに預かり光栄です』

「『その言い方、何だか癪に触るわ』」

 

 謙遜しているようで、でも裏では馬鹿にされているような気がしてならなかった。だからこっちは大人気ないが、馬鹿にしてやろう。

 

「『でも、その座は私が頂いているわ』」

『おや、負けちゃったんですね』

 

 案外あっさりした返事。つまらない…。

 

「『絶対モテないでしょ、トム』」

『いやいや、僕はホグワーツでも結構モテていましたよ。何しろ、極端に容姿が良かったモノですから』

「『自分で言うかしらねー?』」

『特別ですよ、貴女ですから。貴女に良く見られたいだけです。日記越しに見える、美しい貴女にーー』

 

 アイルは迷わず日記帳を閉じた。まさか、”記憶”がアイルの姿を見ているとでも言うのだろうか? しばらく日記帳は開かないようにしよう。しかしアイルは、無機質な文字の陳列でさえも、心なしかときめいてしまった。

 ルシフがいなくなってしまって、心が寂しかった。トムは、何でも気軽に話せる人になってくれるだろうか。魔法であろうと”記憶”であろうと、トムは自分の心を満たしてくれるだろうか。でも、彼は人ではなくても実質学生であるし、教師としてそれはいけない事なのでは…という自己嫌悪にも襲われた。

 

「本当私、バッカみたい…」

 

 恋愛をするにはもう遅い年齢かもしれない。ルシフとは別れていないが、これでは遠距離恋愛のようだ。寂しい。初恋なだけあって、喪失感が半端ではない。それならば、一応安全なトムに心を開くべきだろうか。いや、今まで遭ってきた経験が経験なので、人でないモノを信用するのは愚かだ。それでも、彼女はーー

 

「あ゛ぁッ! 会いたい…会いたいよ…!!」

 

 自然と目から涙がこぼれた。こんなにも人の温もりが欲しくなったのは、ヴォルデモートに監禁された時以来だ。ヴォルデモートはアイルを愛している。でもそれはアイルにとって苦痛でしかなかった。今は、それとはまた違う痛みを感じていた。寂しさによる悲しみ、愛する人が離れてしまった孤独感。自分にはハリーがいるけれど、あの子は自分だけのモノじゃない。

 溢れる涙を拭きながら、チラと日記帳を覗く。途端に、何もしていないにも関わらず真っ黒な表紙が捲り上がり、羊皮紙には文字が浮かび上がった。

 

『その喪失感、僕なら埋められる。僕はそう…貴女の家族になります。弟なんてどうでしょうか。ハリー以上に僕ならば、貴女の心を満たせる。弟兼恋人…みたいな?』

 

 本当に馬鹿らしかった。こんな日記帳の言葉にクラクラと惑わされるなんて。

 

 アイルは、日記帳の魔に堕ちた。

 


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