ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
ちなみに、指摘があったので言っておきますが、今作ではリリー、ジェームズは37歳没という事でお願いします。
生き残った男の子と愛された女の子
ヴォルデモート卿は死んだ。ハリー・ポッターを殺そうとして死んだのだ。
マルフォイ家は、それが分かった途端アイル・ポッターを地下室から解放した。アイルはそれを親切心と受け取る。逆らうと殺されるから、仕方なしに地下室を貸していたと...そう、思い込もう。
「死喰い人」達は、魔法をかけられて従っていたかのように見せかけたりなどして、大半が逃げおおせた。
アイルは、すぐに「闇祓い」達に保護された。闇の帝王に溺愛され、監禁までされていた事を知った彼らは、すぐさまアイルを安全な場所へ保護。
『生き残った男の子ハリー・ポッター』と『愛された女の子アイル・ポッター』。
この二人を知らない人間は、魔法界にはいないだろう。
*
プリベッド通り4番地の一角。そこには、アイル・ポッターその人と、白髪で長い髭を持った老人。そしてトラ猫がいた。
真っ暗な番地は、何故か街灯の明かりがついていない。
「ダンブルドア先生、私…」
「君は、何も言わなくて良い。でも大丈夫じゃ。もう君は安全じゃ」
「ハリーは…?」
「本当に君は弟思いの良い姉じゃのう」
ダンブルドアと呼ばれた老人は優しく微笑んだ。半月形のメガネの奥で輝く彼の淡い目は、アイルの心の中を全て見透かすようだ。
彼はアルバス・ダンブルドア。アイルの通うホグワーツ魔法魔術学校の校長だ。
「マクゴナガル先生、こんな所でずっと何をしているのかの」
ダンブルドアはトラ猫に目を向けた。否、そこにトラ猫はおらず、四角いメガネをかけた厳格そうなキリッとした女性が立っていた。
エメラルド色のローブを着て、メガネをカチャッと押し上げている。
「私は…一日中この場所で、この家の住人を見ておりました。校長」
「どうしてそんな事を? 先生も周りと同じくどんちゃん騒ぎをしていれば良かったのに」
「それには同意しかしかねません。全くもって、皆軽率過ぎるのです。今日イギリス中で様々な事が起こっていますが…全て我々の仲間の仕業ですよ?」
この日は、流星群が降ってきたり、ふくろうが昼間に飛び交ったり、普通の人間(マグル)のいる前でも魔法使い・魔女が大声で語り合ったりーーと、何時も以上に目立つ奇怪な行動が繰り広げられていた。
「まぁまぁ、あまり責めないであげてくれ。祝う事なんて、この暗黒時代一度もなかったのじゃから」
「そう、ですが…」
マクゴナガルは苦虫を噛み潰したような顔をした。すると、アイルはダンブルドアに質問をする。
「先生、ヴォルデモートは…ハリーを殺そうとしたのですよね? あの最強の魔法使いと謳われたヴォルデモートが、何故ハリーに負けたのでしょう?」
「あぁアイル…その名前は…」
アイルの一言で、マクゴナガルは震え上がった。ヴォルデモートという名前は、所謂「禁句」となっており、その名前を聞くだけで恐怖に慄く人間は大勢いる。
「ミネルバ、貴女のような聡明な人間が、彼の事を名前で呼べないなんて事はありませんじゃろう?」
「っ…わ、わかりました。ヴォルデモート卿、ですね…」
「アイル、何故ハリーがヴォルデモートに打ち勝ったのかはわからぬ。想像するしかないじゃろう」
「そうですか…まぁ、ハリーが無事なら!」
彼女は急に笑顔になる。大好きな弟が生きているだけで、彼女は満足だった。
「しかし、ハグリットは随分遅いのう…わしもう眠い」
「そろそろ来るハズですが」
「先生、私は何故、こんな所に?」
「それは勿論、君とハリーを叔母さん夫婦に預けるためじゃよ。魔法界にはもう親戚はいないのでな」
ダンブルドアの言葉を聞くと、マクゴナガルはヴォルデモートと聞いた時以上に顔を青ざめた。
「まさかダンブルドア、この家の者達ではないでしょうね?!」
「せ、先生?」
「ダメですよダンブルドアっ。あの家は、今まで私が見てきたマグルの中でも、最低です! よりにもよって、あんな大マグルの家族に…伝説になりうるアイルとハリーを預けるだなんて…」
「この場所が、二人にとって一番良いのじゃ」
白髪の老人は、ゆったりとした長いローブを翻してアイルを見た。
「アイル、君は、魔法界で伝説として過ごしたいかね?」
「いえ…あまり注目はされたくありませんし。過ごし辛そうです。できる事なら、しばらくは離れた所で静かに過ごしたいです」
「よろしい。アイル、君は熟練の魔法使いに匹敵するほどの魔力と能力を兼ね備えている。よって、ホグワーツ魔法魔術学校を卒業という形にしてもよろしいかな?」
彼は悪戯っぽく笑う。だが、アイルにとってそれはショッキングなものだった。
彼女は学校が大好きだ。毎日のように勉強して、遊んでーーホグワーツはもう一つの家のようだったから。
「大丈夫じゃ。再び戻る事はできる。安心してほしい。わしとしてはまだいてほしい所じゃが、ハリーを一人にするのは可哀想じゃからのう。それに、君もハリーと離れたくないじゃろう」
「はい。ありがとうございます」
アイルは丁寧にお辞儀をする。
彼女の頭の方程式は、「ハリー>>>学校=勉強」だ。アイルはもう肉親が死んだという事実を受け止めてはいるが、まだ心の準備もできていない赤ん坊に、苦しい気持ちを味あわせるわけにはいかない。
「ハリーは…ハグリットが連れてくるのですか?」
「その通りじゃ。そろそろ来るハズじゃが…」
ダンブルドアが漆黒の空を見上げる。数多の星がきらめき、街灯の消えたプリベッド通りを薄暗く照らしていた。
途端、低いゴロゴロという音が静かなプリベッド通りに響き渡り、空中から大きなオートバイが降ってきて、道路に着地した。
着地したオートバイの大きさと言ったら、普通のモノと比べて三倍ほどあるだろう。しかし、それに乗っている男はゾウのような巨体を誇っていた。
大男は、ボウボウとした手入れされていない黒い髪と髭が顔中を覆っていて、目をほとんど見えなかった。
その大きな腕には、何か毛布にくるまれた小さなモノがあった。
「ハグリット! 久しぶり!」
「おうアイルか。無事なんだな、良かった良かった」
この大男は、ルビウス・ハグリット。ホグワーツの森の番人だ。
ハグリットとアイルは仲がよく、よく二人で魔法生物の事について語り明かしたり、森に入って生物の手当てをしたりーーと中々気の合う友達だった。
アイルは、ハグリットの腕に抱かれているモノに目を向けた。
「っ! ハリー!」
ハグリットは、アイルに毛布に包まれた赤ん坊ーーハリーを渡した。
「嗚呼ハリー! 無事だったんだね、嗚呼もう…こんな傷までできて…」
アイルは、ハリーの額に稲妻型の傷跡がある事に気がついた。スヤスヤと眠っているシルクのような漆黒の髪を持つ赤ん坊。
彼はアイルを心を安らがせるのだった。
「この傷…」
マクゴナガル先生が覗き込む。
「一生残るものとなるじゃろう」
「そう、なんですか…」
「さてと。そろそろ済まさなければ」
「先生、オレはこのバイクをシリウスに返して来ますだ」
「わかった。気をつけるのじゃぞ」
「へい」
ハグリットは名残惜しそうにハリーとアイルを見ていたが、すぐにその場からオートバイに乗り込んで立ち去った。
「アイル。わしは、この真夜中に君をこの場所に置いていくのは気がひけるのじゃが…この家でハリーと待っておいてくれて大丈夫かの?」
「はい。えっと…親戚がいないのでって事で大丈夫ですよね?」
「あぁ、勿論。しかし、詳しい説明は…この手紙を」
ダンブルドアは、アイルに封筒を渡した。
「ペチュニア・ダーズリーという、君の叔母さんに渡してほしい」
「はい。わかりました。それでは先生、お元気で」
「あぁ。幸運を祈るよ、アイルに…ハリー」