ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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お客様は神様のはずなのに

 

 ウィーズリー家は、アイルとハリーを心温かく歓迎してくれた。今家にいるのは、双子、ロン、そして兄の一人であるパーシー・ウィーズリーと今年ホグワーツに入学する、妹のジニー・ウィーズリーと両親だけだった。まだ兄が二人いるようだったが、仕事で今はいないとの事だ。

 ジニーはハリーの前だと緊張して、いつも逃げ出していた。アイルは「青春だなぁ」と遠目で見つめていた。

 休暇中は、宿題をしろとアイルに指導されながら、ハリーはウィーズリー家の子供達と毎日無邪気に遊んでいた。昼頃になると、人目につかない場所に行って、林檎でクィディッチの練習をしていた。ハリーの「ニンバス2000」に代わり代わりに乗り、1メートルほど浮かんで遊んでいた。しかし、パーシーだけはその遊びに参加せず、ずっと家で勉強に勤しんでいた。ある日、それを見かねたアイルがコーヒーを持って行ってあげるついでに聞いてみた。

 

「少しは息抜きでもしてみたらどう?」

「僕はアイル先生や兄達と同じように、優秀な人間になりたいんです。だから、勉強は怠れません」「でも、ずっとヒッキー状態じゃ、体に悪いわ。私とお散歩でもどうかしら?」

「…分かりました。丁度キリが良いので、少しだけなら」

 

 パーシーは魔法界に関する独自の考えを持っていた。一教師として、アイルはパーシーの夢を実現してもらいたかった。全力でサポートしてあげようと、そう思った。パーシーは横目でアイルの横顔を見て、何故か心がドキドキした。美しい人を前にしているからでもあるだろうが、それとはまた別の感情も感じた。

 *

 買い物の日がやってきた(切実)。ダイアゴン横丁に、今年の新しい教科書などを買いに行く事になったのだ。家族全員で行く事になり、魔法使いのローブを着て、9人という大人数で、ウィーズリー家の暖炉を囲むように並んでいた。

 モリーは”灰入れ”を手に持ち、中をかき混ぜていた。

 

「『煙突飛行粉(フルーパウダー)』も少なくなってきたわね…でも、全員行くのには足りるでしょう」

 

 ただ一人、暖炉の前で顔に疑問を浮かべる少年がいた。アイルはハリーが「煙突飛行」の移動法を知らないという事を思い出し、慌てて説明した。

 

「魔法界の暖炉は大体が繋がっていて、おば様が持っている粉ーーあれが『煙突飛行粉』と言って、あれを使って移動ができるの。やり方は…見た方が早いかもね」

「「じゃあ、ロン、お前が先に行け〜い」」

「何で僕なんだよ…」

 

 双子に背中を押され、ロンは小さくボヤきながらも暖炉の中に足を踏み入れた。そして、モリーの持っている”灰入れ”から中の粉を片手いっぱいに取り、皆の見守る中叫んだ。

 

「『ダイアゴン横丁』!」

 

 その声と同時に、粉が暖炉に沈み、エメラルドの炎となって全てが失せた。そこにロンの姿はなかった。ハリーは唖然としていた。これが魔法なのか、と改めて感じたのだ。

 

「簡単でしょ? まぁ、最初は抵抗があるモノだけど…重要なのは、ちゃんと場所を発音する事。もし間違えて発音したら、何処に飛ばされるか分からない」

「もし間違えちゃったら…?」

「さほど大きな間違えでない限り、大丈夫よ。せいぜい、近くの暖炉に飛ばされるだけ。そんな顔しないで…私は今まで五回くらい変な場所に飛ばされてるから。大丈夫。行ってら!」

「そう…?」

 

 ハリーは疑心暗鬼になりながらも、アイルに見送られて暖炉の中に入った。粉を手に掴み、初めての感覚に心を踊らせる。そして叫んだ。

 

「『ダイアゴン横丁』!!」

 

 粉が舞い落ちると同時に体が暖かな炎に包まれ、ハリーは自分がグルグル回っているような気がした。心地よかった。アイルの笑顔で見えなくなると、気がつけばハリーは「漏れ鍋」の暖炉から転げ落ちた。

「隠れ穴」の方といえば、もう既に双子が二人仲良く暖炉に消えていった所だった。一応教師が最後に移動するわけにもいかないので、アイルは暖炉の中に入る。粉を手に取るが、既に四人が移動した後なので、灰が舞っていた。それでも何とか体勢を持ち直し、大きく息を吸う。同時に埃と灰を多く吸い込み、完全にむせ込んだ。

 

「ダ…イアモ、ン横丁ッ!」

 

 喉が火傷する感覚に襲われるアイルは、炎の中に消えていった。ウィーズリー家は冷や汗を流す。五回間違った場所に飛ばされたというのは、あながち嘘ではないようだった。

 

「今先生、何て言った…?」

「『ダイアモン横丁』」

「あそこはそんな豪奢な名前じゃないよ…」

 

 *

 

 アイルは大きな音と同時に、何処か分からない暖炉から転がり出た。ほぼ涙目になって、その場でしゃがみこむアイル。

 薄暗い場所だった。廃れた店のようで、しかしまだ商品が置いてあるからやっていない事はないのだろう。幸運な事に店主も客もいない。アイルは心を落ち着かせ、ゆっくりと立ち上がった。埃っぽい店内には、見るからに「闇の魔法使い」の扱う物品が置かれていた。黄ばんだ骸骨、淡く光る青い大きなダイアモンドのネックレス、背の高いキャビネット、ミイラの手などーーダイアゴン横丁ではないようだった。

 誰か来ないうちに皆の所に戻ろうと、アイルは軋む床を抜足差足で歩き、店から出た。

 石レンガの敷き詰められた地面に上には、顔を隠した魔女や魔法使い達が早足で歩いていた。ふとアイルの出てきた店の名前を見ると、「ボージン・アンド・バークス」と書かれていた。

 薄暗く太陽の光もあまり通らないこの場所は、「夜の闇横丁(ノクターン横丁)」のようだった。此処は、闇の魔術の物品を専門にする店の集まる横丁だ。つまり、闇の魔女や魔法使いがわんさかいるという事だ。しかし幸運な事に、この横丁は「ダイアゴン横丁」に隣接する。ある程度移動すれば、すぐに横丁に出られる。

 途端に誰かに肩を掴まれる。反射的に振り返ると、そこには真っ黒なローブに身を包んだ汚れた魔法使いが立っていた。

 

「お前、アイル・ポッターか?」

「ッ!」

「やはりそうだ! アイル・ポッターだ!!」

 

 辺り一帯を闇の魔法使いらしき集団で囲まれ、まさに四面楚歌となってしまった。忘れていた。アイルはハリーと違って、顔が割れているのだ。特に「死喰い人」関係では特にーー

 杖を取り出し、無詠唱で辺り一帯の時を数秒間だけ止める。その間にアイルは走り抜けた。たどり着いた先は、何とも嬉しい事に「ダイアゴン横丁」だった。

 安堵のため息を漏らすと、杖をしまって辺りを見回した。ウィーズリー家の姿はなかった。すると、一人の見覚えのある少女が目に入った。彼女は豊かな栗毛を揺らし、こちらに走ってくる。

 

「アイル先生! 見つけた!」

「ハーマイオニー…久しぶりね」

「はい先生、お久しぶりです。あぁ良かった…ハリー達が探してて…」

 

 ハーマイオニーは笑顔でアイルに言う。久しぶりに大好きな先生に会えて、とても嬉しそうだった。アイルが彼女にハリー達の居場所を聞くと、可愛らしい少女は答えた。

 

「『フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店』です」

 

 アイルは彼女についていって、教科書などの揃えられる書店へ向かった。何だかいつもより人だかりが出来ていて、特に魔女が多かった。ハリー達は店の奥にいるようだったので、仕方なく人混みを魔法で優しくかき分けて奥へと進んだ。

 

「ハリー、見っけ!」

「お姉ちゃん! 見つかって良かった…何処に飛ばされたの?」

「知らない方が良い事もあるモノよ…」

 

 ハリーは急いで駆けつけてきて、アイルに抱きついた。可愛い弟に、「危うく闇の魔法使い達に襲われる所でした☆」なんて言えない。

 ふと顔を上げると、そこにはブロンドの背の高い男性がいた。ハンサムな顔立ちをしてはいるが、アイルは特に何とも思わなかった。彼の前には、男性が書いたのか「ギルデロイ・ロックハート著」の本が何冊も並べられていた。周りの魔女達の反応からして、かなりの人気者のようだったが、正直アイルには誰だか検討がつかなかった。対してロックハートは、本の題名を読むアイルに見惚れていた。

 途端に人混みが再びかき分けられ、ボサボサ頭のカメラマンと記者が一番先頭ーーアイル達と同列ーーに立った。

 

「ロックハート先生! 『日刊預言者新聞』の者です!」

「あぁ、ではそろそろ開始しようか」

 

 ロックハートは指を鳴らし、近くにいた助手のような人物から一冊の本を受け取った。その本には、「私はマジックだ」と書かれていた。

 

「紳士淑女の皆さん、この度ギルデロイ・ロックハートは、私の新作の自伝…『私はマジックだ』の発売を記念いたしまして、サイン会を開催いたします!」

 

 彼の言葉と同時に、周りの客達から大きな拍手が巻き上がった。新聞社のカメラが眩いシャッターを焚き、それと同時にロックハートも負けない笑顔を見せつけた。すると彼は、人混みの先頭に立つアイルの手首を掴み、強引ではあるが優しく彼女を前へ連れてきた。あまりに唐突な事で頭が痛くなってきた。

 カメラの真ん前に連れてこられるとロックハートに肩を抱かれ、再びシャッターが光った。しかしあまりに眩しく吐き気がしたので、アイルは迷わずロックハートを突き飛ばした。彼は倒れはしなかったが、まさか自分がつき飛ばされようとは思わなかったので、驚きの表情を浮かべた。シャッターも止まり、アイルは目を片手で覆い隠した。

 

「痛い…目が痛い…」

「おやおや、照れているのですか?」

「照れてなんてない! というか、よくそんな光浴びて目がやられないわね…感嘆するわ」

「褒められて…いるようだ」

 

 アイルは自分の目の奥が痛みを訴えるのを止めると、再びロックハートに向き直った。アイルの顔には、呆れが写っていた。ふと前を見ると、ハリーが周りが恐怖するほどの殺気を帯びている事に気がついた。新聞社の人間は腰を抜かし、ロンは冷や汗をかきながらハリーを落ち着けようとした。

 しかし眼鏡の少年の怒りは凄まじく、今にも杖を取り出して、ロックハートを殺してしまいそうだった。

 

「ダメだハリー! 杖、ダメ! 絶対!」

「離せよロン。僕はあのブロンド野郎をぶっ殺さなきゃならない」

「ダメよハリー。あんな偉大な方を殺すだなんて…できっこないわ!」

「そういう問題じゃないよハーマイオニー…」

 

 ロンとハーマイオニーの制止も聞かずに、ハリーは杖を取り出してロックハートに掴みかかった。周りの中年魔女達は悲鳴を上げ、店員が急いで止めに入った。それでもロックハートは笑顔を振りまくだけで、アイルから離れようともしなかった。

 アイルは慌ててハリーをロックハートから引き離し、彼を落ち着かせようとしゃがんで肩を掴んだ。

「何をしてるのよハリー! 暴力はダメよ。魔法も…ダメだけど」

「だって、あの金髪はお姉ちゃんを汚した! あの汚らしい手でお姉ちゃんに触れた! お姉ちゃんに触っても良いのは、僕だけなのに!!」

「あと、ルシフね」

 

 ハリーは涙目でアイルに訴えかけた。周りの人々はそれを息を飲んで見守る。若干の狂気を少年から感じつつも、事の成り行きに任せた。

 

「でもハリー、暴力はダメよ。あれでも一応ファンも多いから…下手するとハリーが睨まれる。私は平気だから。このローブも捨てるし、もうあのブロンドスマイルには触らせないから」

「…分かった」

 

 渋々了承したハリーの頭を撫で、アイルはロックハートをジロリと睨んだ。弟にこんな事をさせるような行動をするロックハートが、もっと恨めしくなった。しかしこのブロンドはそんな事も気に止めず、輝く歯をむき出しにして言う。

 

「んんん…私のファンには、中々過激な子もいるようだ。それでお嬢さん…お名前は?」

「…アイル・ポッターよ」

 

 アイルの吐き捨てるような一言で、店中に戦慄が走った。ロックハートはさぞ嬉しそうに笑顔を浮かべた。もしかして、この笑みを見せればどんな女でも虜になるとでも思っているのだろうか。否、アイルにはルシファーストという愛しい人がいるし、面倒な男は嫌いだ。

 

「おぉ! 皆さんお聞きになりましたか! あの『例のあの人』さえも魅了した、魔法界きっての美貌を持つアイル・ポッターさんが、この私の著書を買いにいらっしゃった!」

 

 別にお前の本なんて欲しかねぇよと突っ込みたいアイルだったが、騒ぎが一層大きくなるのは避けたかったので、代わりに黙って人混みの中へ戻っていこうとする。しかし、アイルはロックハートの発した言葉を聞いて、足を止めた。

 

「そして重要なお知らせが一つ! 実は私、今年度、ホグワーツの『闇の魔術に対する防衛術』の教授に抜擢されました!」

「はぁッ?! やだッ…嫌だよッ…」

 

 アイルのつぶやきは誰にも聞こえなかったが、彼女の叫びはロックハートは驚きの声と受け取ったらしく、笑顔で答える。客等は拍手を続ける。アイルは嫌だった。後任がロックハートだなんて、絶対にお断りだ。アイルはこの数分で、ロックハートを嫌悪の対象と認識した。それほど苦手な性質を持った人なのだ。しかしもう決まってしまった事。どうしようもない。

 

「さて、サイン会を始めましょう!」

 

 魔女が雪崩となって集まってくるのを尻目に、アイルは急いで店の一番後ろに移動した。そこには既に、ハリー達が固まっていた。しかし、モリーとハーマイオニーの姿が見えない。恐らく、ロックハートのサインを貰いに行ったのだろう。イケメンだから。

 ハリーは涙目でアイルを見つめていた。

 

「お姉ちゃん…何だか怖かった」

「うん、私も怖かった…」

 

 二人の「怖い」という感情の意味は全く違った。しかし、お互い意思が通じているかのように感じた。アーサーは苦笑を浮かべている。

 

「大変ですね、これから」

「えぇ本当に…すみません、ご迷惑をおかけして」

「いやいや、そんな事ありませんよ?」

 

 双子はニヤニヤ笑ってアイルを小突いてきた。きっといじるつもりなのだろう。

 

「成績下げるぞツインズ」

「おやおやぁ」「俺等、まだ何も言ってないのに」

 

 すると、店内に見覚えのあるシルバーブロンドの親子が入店してきた。寒気がした。まるで生気のない長い髪の男性と、ハリーと同学年の少年。見慣れた黒いローブをまとい、店内を舐めるように見回して、やがてアイルに注目した。アイルがその名を口にするまでもなく、アーサーが親し気に挨拶をした。

 

「ルシウス、久しぶりだな」

「…おや、まだそんな汚らしい仕事をしているのか、アーサー」

 

 ルシウス・マルフォイと、ドラコだった。アイルの愛するルシファーストの父親で、弟である二人は、あのまま幸せだったら家族になっていたのかもしれない人達だ。怒りと憎しみの感情を必死で押さえ込み、アイルは歯を食いしばった。ルシウスの方は、紛れもなくアイルが監禁された時の共犯者だ。

 

「『穢れた血』などと戯れているから、金が足りなくなるんだ。好い加減自分の立場を考えろ」

「お前に言われたくはない」

「そしてこちらは…あぁ、アイル・ポッターか」

「…」

「答えはなしか。義父になるのに、か?」

「今は関係ないわ。…ルシフは元気?」

 

 目線を下げ、白々しく言い逃れをしたルシウスの憎らしい顔を見ないように、アイルは一番知りたかった事を聞いた。すると、彼は肩をすくめる。

 

「さぁ? ルシフはあれっきり一切連絡がない。まぁ元気だろう…しかし、闇の帝王と我が息子さえも魅了するとは…相当魔力を秘めた容姿なのだろうな」

 

 ルシウスは地面を睨みつけるアイルの顎を片手で掴み、自分を向けせた。ハリーがまたもや杖を取り出して喚いていたので、慌ててアイルはその腕を強く握り締め、魔力を込めた言葉を放った。隣にいる、大鍋を持ったジニーを怖がらせるわけにもいかなかったが、今は仕方ない。

 

「何で貴方、まだ逮捕されていないの? 小悪党」

「ッ…」

 

 言葉に秘められた強い魔力に押され、ルシウスはその場で倒れこんだ。そのアイルの表情には、明らかな憎しみがこもっていた。しかし、今この狭い店で魔力を爆発させれば、周りの人間に被害が被る。アイルは店を出た。去り際にルシウスを強く睨みつけて。

 




私がハリポタで嫌いな人物ランキングを作るとするならば、

一位「ドローレス・アンブリッチ」
二位「ギルデロイ・ロックハート」
三位「コーネリウス・ファッジ」

基本悪役は好きだけど、どうもアンブリッチだけはいけ好かないですね。
ロックハートはペテン師でナルシストだから嫌いだ。嘘を吐くんなら自分で何とか頑張りやがれって言いたくなりますね。アイルファイト。
ファッジは可哀想な人だとは思いますが、やっぱり保身に走ったから好きにはなれませんね。

まぁ個人的には、上位二名は多くの方も好まれないとは思います。

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