ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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アイル・ポッターと秘密の部屋
...な誕生日


 

 

 

 真っ赤な太陽が照らすイギリスの一角。プリベッド通り4番地の、住宅で、一人の女性が小さくため息をついていた。今日もバーノン叔父さんの機嫌が悪い。仕事が休みだからか、朝っぱらからワインを飲んで赤くなっている。

 叔父さんの怒りの矛先は、ハリーに向いていた。また、あのうるさい怒鳴り声が大きな家に響くのだ。

 

 

「何度言ったら分かる! あのうるさいフクロウを始末せんか!」

「だ、だって…もう何週間も外に出てないんだよ?」

 

 

 ハリーの部屋には、ヘドウィグという真っ白いフクロウがいる。その美しい見かけと同時に、大きな声も持っていた。この家に帰ってくる時、フクロウを外へ出す事を禁止された。魔法を使うのも、手紙を出すのも禁止だった。理由はというと、無断で学校に入学したから。ハリーは、元より別のマグルの学校に入学するはずだったので、魔法という特殊なものを全否定し嫌うダーズリー家にとって、それは何をしても許せない事だった。

 仕方ない事なので、アイルは特に反論も文句も言わなかった。ダーズリー夫妻には、家に住まわしてもらったり、仕事を貰ったり、お金を貸してもらったりだとか、感謝してもしきれない事は山程あるのだ。それは、アイルに言い聞かせられたハリーも分かっていた。

 しかし、ヘドウィグのストレス度はMAXだ。流石に魔法で抑えるのも可哀想。

 

 

「まぁまぁ叔父さま…少し落ち着いてください」

「アイル! お前は…お前は…ふぅ、分かった。その代わり、お前があの白いケモノを躾けとくんだぞ」

「はい、勿論です」

 

 

 アイルの叔父さんであるバーノン・ダーズリーは、彼女の姿を見ると心が落ち着いてきた。誰だって、こんな美しい人を見たらうっとりせざるをえなくなる。

 そういえば、ダドリーは何処だろうか。

 

 

「叔父さま、ダドリーは何処でしょうか? 近頃姿を見かけないのですが」

「あぁ、あの子はいつもボクシングの練習にジムに行っているよ。ハリーも行かせた方が良いんじゃないか?」

「いえいえ。ハリーはこのくらいが丁度良いんで」

 

 

 その言い分は酷いんではないかと、ハリーは少しムスッとした表情を浮かべたが、こちらに向けられたアイルの目は「ごめんね」と言っていた。

 ダドリーは今ボクシングに励んでいるようで、此処らの地区では一番強い。もうジュニアチャンピオンでも夢じゃないわと、ペチュニア叔母さんはいつも褒め称える。家に帰ってくると、前よりも筋肉がつきがっしりとしたイケメンが、アイルを出迎えてきた。

 彼はこの頃女の子によくモテるようで、本人も嬉しいらしいが、やっぱりアイルが一番らしい。夏休みに入って、男友達だけではなく女の子もよく家に来ていた。しかしその大半の娘は、アイルの美しい容貌を見て諦めるのだ。

 ハリーから見て、アイルは前よりも一層美しさを増した気がする。ハリーは知らないが、それは「ハリーをヴォルデモートから必ず守る」と心に決めたからだ。人間というのは、自分の高い目標や目的、意思を持つと美しくなれるのだ。

 

 今日ハリーとアイルは、ペチュニア叔母さんのお手伝いを頼まれていた。庭の芝刈り、ペンキ塗り、掃除、買い物など、様々だった。しかし、アイルは嬉々として手伝った。ハリーにしても、アイルが楽しそうにしているので楽しかった。でもどうしても気がかりだったので、庭の雑草を刈っている時にハリーはアイルに聞いた。

 

 

「ねぇお姉ちゃん、どうしてお姉ちゃんはそんなに嬉しそうなの?」

「え? あぁ、お手伝いの事ね。魔法界にいるとね、こういう…自分の手で何かをするっていう感覚がなくなるの。だから、こういうのが懐かしくて。嬉しくって…時々は魔法使いも、魔法を使わずに暮らすというのを考えても良いと思うけどね」

「そうなんだ…」

「そうよ。魔法は、とても便利なの。ただその分、自分で何かをする事の喜びや楽しさを忘れてします。魔法は魔法使いたちの暮らしを豊かにしていくけど…案外そうでないのかもしれない」

 

 

 アイルは小さく微笑むと、ハリーの頭を撫でた。

 

 

「マグルって凄い。魔法がなくても、自分たちで生きる術を生み出すんだから。私魔法使いも、そうやって進歩していかなくちゃね。マグルを見習って」

 

 

 この日はハリーの誕生日だった。しかし、アイルはその事は口にしなかったし、ダーズリー家は覚えているかさえ分からない。最悪な気分だった。いつもなら、誕生日はアイルが起こしに来て、朝早くに誕生日プレゼントが貰えるはずなのに、今日は貰えなかった。

 それに、ロンやハーマイオニーからの手紙も一切届かなかった。そんな事は絶対にないだろうが、もしかして「忘れられてしまったのでは」という思いがハリーの頭の中をグルグルと回っていた。そんなわけないと、自分に言い聞かせるしかなかった。

 ハリーは、蒸し暑い黄昏の7月の空気の中、一人塗りたてのベンチに座って整えられた生垣を見つめていた。今アイルは、バーノン叔父さんの介抱を頼まれていた。

 

 

「あぁ…僕は何でこうなんだろう…?」

 

 

 ダドリーみたいに強かったら、かっこよかったら、アイルもロンもハーマイオニーも僕の事を気にかけてくれたかのかもしれない…そんな事を考えていた。ハリーは緑色の生垣から目を反らして、首筋を焼き焦がす空を見上げた。目の奥がジリジリと熱くなり、やがて涙がこぼれた。

 ハリーは比較的頭の良い方だ。姉が優秀な魔女で、親の血だって継いでいる。ハーマイオニーに次ぐ学年2位の魔法使いだ。それなのに、何でこんなに劣等感があるんだろうか。知識はハーマイオニーには劣るが、魔法力は何方かと言えば勝っているというのに。

 

 

「もっと強くなれば良いのか? もっと魔法を覚えたら良いのか? そしたらお姉ちゃんも僕の事…もっと大好きになってくれるのかな…」

 

 

 そして自分の手を見つめた。途端、何かを見られている感覚がして、ハリーはバッと立ち上がった。生垣の方で、何かが動いた。感覚だけでない。気配でさえも感じた。周りをキョロキョロと見回し、何もいないのを確認すると、ふぅと小さく息を吐き、家の中に入っていった。

 ドアを開け、中に入ると、丁度アイルがいた。彼女は驚いた顔をして、小さく笑った。

 

 

「ええっと…ハリー、もしかしてベンチに座った?」

「え、座ったけど…」

「うん、お風呂に入ってこようか」

 

 

 ハリーの背中はピンク色だった。髪も若干ピンクがかり、固まってパリパリになっていた。それを見たアイルは、あまりのおかしさに吹き出し、笑い出した。何だかハリーも笑わずにはいられなくて、二人して笑ってしまっていた。

 ようやく笑い収まってきたと思ったら、アイルは少し名残惜しそうに言った。

 

 

「ねぇハリー、この後お客様が来るのよ。叔父様のいつもの商談ね。ハリー、悪いのだけど…二階の自分の部屋にいてもらえないかしら? シャワーを浴びて」

「あっ…うん。分かった」

 

 

 アイルは、ハリーの誕生日の事なんて覚えていないんだ…そんな事を彼は今確信した。アイルの言葉を聞くと、今まで最低だった気分がもっと悪くなった気がした。そして、気持ちを切り変えるためにハリーはアイルに質問をする。

 

 

「お姉ちゃんは、どうするの?」

「私? 私はそうね…お散歩にでも行こうと思ってる。気分の入れ替えに。この頃、ずっとインドアヒッキーだったから」

「…僕は行っちゃダメなの?」

「えっ…あ…ダメってわけじゃないけど…」

「じゃあ、待ってて! 準備するから」

 

 

 ただ一人、佇むアイルを残して、ハリーはどたどたと階段を駆け上がっていった。その目には、大粒の涙がたまっていた。散歩と聞いて、自分には部屋にいろと言っているから、もしやルシファーストと密会でもするのではとも思った。しかし、そんな訳でもなく着いて行って良いかと問えば、あっさりと了承が取れたのだ。

 そんなにもどうでも良い存在となってしまった事が、ハリーにとって何よりも悲しかった。

 冷たい滝を浴びながら、ハリーは静かに泣いた。友達がいないよりも、ダドリー軍団にいじめられるよりも、ホグワーツに行けないよりも…アイルに嫌われるのが一番嫌だった。怖かった。恐ろしかった。愛してやまない姉に嫌われたという気持ちが、何よりも心を痛めた。

 

 アイルが支度していると、ダドリーが帰ってきた。ジムに行っていたが、今はキッチリとしたスーツに着替えておめかしをしている。ペチュニア叔母さんはいつになくご機嫌で、バーノン叔父さんの酔いはすっかり飛んでいた。

 もう外は薄暗くなり、月がそろそろ顔を見せる頃だろう。

 ハリーは新しい服に着替え、一階に降りた。ダーズリー家は皆リビング。玄関ではアイルが待っていた。

 

 

「お姉ちゃん…待った?」

「ううん、全然。じゃ、行こうか」

「うん!」

 

 

 でも今は、アイルと一緒に過ごせるだけでも十分幸せなのだろう。

 外に出て、二人でゆっくりと歩道を歩いた。不思議と暑くはなかった。整えられた鏡合わせなプリベット通りは、気持ちが悪いほど続いていた。シックな街灯が足元を照らし、生ぬるい風が頬を撫でていた。

 アイルの長い黒髪が風に靡き、花の良い香りをハリーは感じた。

 アイルが何も喋らないので、どうしたのかとチラリと彼女の横顔を見る。横顔も鍛錬に整えられ、神の作り出した芸術品の中で、最も美しいと言っても過言ではなかった。何処か悲し気な真っ赤な瞳は、ハリーの心を深く惹き付けた。

 そしてついに、アイルは口を開いた。

 

 

「ハリー…ごめんね。私、ルシフと会おうとしてた」

「えっ…?」

 

 

 意外だった。何を考えているか分からないアイルの思考が、この時だけ読み取る事が出来ていたのだ。ルシフに会うつもりだった…とはどういう事だろうか。

 あの事件後、突如として姿を消したアイルの恋人。

 

 

「彼は今何処にいるか分からない…でも、やっぱり忘れられないんだ。あの笑顔が。あの優しさが。日を増す毎に思い出す。日を増す毎に心が痛む。ルシフの事が忘れられなくて、夜も碌に眠る事が出来ない…一目で良いから、会いたかった。でも、そんな事できるわけないし…。ごめんね、ハリー」

「謝る事なんてないよ。僕だってお姉ちゃんがいなくなった時、物凄く辛かった。お姉ちゃんの気持ち、物凄くわかる」

「あぁ、貴方に気付かされた。私にはハリーっていう可愛い弟がいるのに、確実ではない事を何気にしているのだろう…てね。ありがとうハリー。私の大好きな人」

 

 

 アイルは立ち止まり、ハリーを強く抱きしめた。少し恥ずかしかったが、それに勝る嬉しさがそこにはあった。何だか、やっとハリーの心にアイルが帰ってきたような気がした。やっと再び自分だけのモノになったような気がした。言葉にできないほど嬉しかった。

 

 

「じゃあ、もうちょっとお散歩しようか」

 




秘密の部屋へ突入! ハイ、レッツゴー!

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