ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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決意

 

 

 

 ハリーはもう鏡は探さなかった。ダンブルドアにそう言われたし、どうせあの場所に行ってもないだろうからだ。それに、ダンブルドアのお使いなら、もうしばらく戻ってこなくても、無事だという事が分かる。ロンもハーマイオニーもあの鏡の事は知らない。もう記憶から消し去ろうと、ハリーは忘れようとしていた。あんな幻みたいなモノ、覚えておいても何ら得はないだろう。

 ハリーは時間を見計ってから、翌日の夜遅くの誰もいない談話室で、ハーマイオニーにも透明マントを見せた。

 

 

「これって…凄いわハリー。透明マントだなんて、本当に魔法じゃない。本で読んだ事があったわ。確か…何か珍しい魔法生物の毛皮でできているんじゃなかったかしら。それにしても、こんな高品質なモノを作るなんて、アイル先生やっぱり凄いわね」

 

 

 と、褒めまくってくれた。アイルはハリーにとって唯一の誇りだ。それを褒めてもらえるなんて、嬉しい事はまたとない。ハーマイオニーはもう、ハリーの機嫌を良くする方法を掴んでしまったようだ。

 透明マントの事も一緒に、ルシフの部屋で聞いたあのセリフを二人に話した。今までの自分の安心を全否定するようだったが、ダンブルドアのお使い以外に、ルシフに捕らえられている可能性も視野に入れたかった。

 

 

「でもさ、『魔法の錬金術師』とか、『ホグワーツ史上最高の魔女』とか言われてるんだぜ? マルフォイに捕まるかな?」

「ロン、でも分からないわよ。アイル先生はマルフォイ教授の事が好きだし、部屋までヒョコヒョコついて行って、そのまま不意を突かれてって事も…」

「お姉ちゃんの手紙には、『ダンブルドアのお使い』って書いてあったんだ。もし捕まってたら、ダンブルドアが気がつくはずだけど…」

 

 

 しばらく黙りこくった挙句、ハーマイオニーが何かを思い出したかのようにハッとした。

 

 

「そう、そうよ! 賢者の石の事を調べたの。これよ」

 

 

 自分のバックの中から分厚い本を一冊取り出した。随分の古い本で、継ぎ接ぎだらけ。表紙には、「古代の珍魔法道具」と書かれていた。ハーマイオニーは付箋のついているページを開いた。そこには真っ赤な楕円形の細長い石が描かれており、「賢者の石」と大きく見出しがついていた。

 

 

「これよ。『賢者の石。それは、かの有名な錬金術師、ニコラス・フラメルの作成した石である。あらゆる金属をも黄金に変え、命を水を生み出す。現在は、アルバス・ダンブルドアの保護の下、隠されているらしい』」

「そんなモノを、何でホグワーツで守ってるんだろう?」

「貴方達、新聞読まないの? まぁ、忘れているかもしれないけど、ホグワーツに入学した翌日、『日刊預言者新聞』でグリンゴッツに強盗が入った事が載ってたわ。きっとその金庫、賢者の石が入ってたのよ。闇の魔法使いか魔女の仕業だって」

 

 

 ハーマイオニーはバックの中から、まだ新しい綺麗な新聞を取り出した。その日付は、9月2日。ハリー達が入学した日の翌日だった。そして大見出し記事には、『グリンゴッツ、強盗に破られる! 闇の魔法使いか魔女の仕業か』と書かれていた。

 

 

「君、こんなモノ持ち歩いていたの?」

「違うわ。ホグワーツの図書館には、『日刊預言者新聞』がずっと取ってあるのよ。借りてきたわ。見て」

 

 

 

 グリンゴッツ、強盗に破られる! 闇の魔法使いか魔女の仕業か

 

 先日、グリンゴッツに強盗が侵入する。

 担当しているゴブリン曰く、「盗られたモノはなにもない」との事。その金庫は、その以前に空になっていたという。最低限の守りでも、破る事が出来る人間は少ない。魔法省は、この強盗を闇の魔法使いか魔女の仕業と発表。グリンゴッツは厳重警戒の姿勢を示している。

 

 

 

「そういえば、お姉ちゃん、グリンゴッツは物凄く安全だって言ってたなぁ」

「それでも突破出来る…相当強い魔法使いみたいだな。でも、そんなの何で欲しがるんだよ」

「そりゃあ、永遠の命と富が手に入るのよ。誰だって欲しくなるわ。それに…」

 

 

 ハーマイオニーの顔が、少し青ざめた。最悪の場合を想定しているのは容易く想像出来る。

 

 

「『例のあの人』の復活…」

「んなアホな」

「…お姉ちゃん、やつはまだ生きてる。復活を目論んでるって…」

 

 

 しかし、もし闇の魔法使い達に賢者の石が渡ってしまったら、再びあの恐ろしい暗黒の時代へ巻き戻ってしまうかもしれない。もしヴォルデモートが、闇の魔法使い達が命の水を口にしたら、どんなに魔法を受けても死ななくなってしまう。そんな事ーー

 

 

「絶対に止める」

「ハリー?」

「ルシファースト・マルフォイの父親って、『死喰い人』なんでしょ? ドラコが嘯いていたけど、お姉ちゃんの様子からしてそうなんでしょ?」

「あ、あのーー」

「あの部屋の声とか、絶対あやしい。びっこ引いてるし、お姉ちゃんに近づくし…そうだよ、彼奴が賢者の石を狙ってるんだよ!」

 

 

 ハリーは歯を食いしばり、二人に向かって言った。

 

 

「可能性の一環よ。早とちり過ぎるわ」

「そんな事ない。じゃあ、あの部屋から聞こえてきた声は何だって言うんだよ」

「う…でも、決めつけるのは早いわ」

「ダンブルドアに伝えに行かなきゃ…あの変態誑し男を止めなきゃ…」

「待ってハリー! ロン、彼を止めて!」

「もちのロンさ!」

 

 

 ハリーはすぐに透明マントを部屋から取ってきて、談話室に降りてきた。水がゆっくりと流れているようなそのマントは、何処か優しい光を帯びていた。ハリーはマントを被ろうとしたが、ロンが慌てて止めた。

 

 

「何処に行く気だよ」

「まず、あの男を殺す…」

「物騒な事言うなよ」

「じゃあ、ダンブルドアを見つける…」

「うん、そうしようーーって行くな!」

 

 

 透明マントを引っぺがし、ロンはハリーの頭にゲンコツを落とした。ハーマイオニーは嫌そうな顔をしていたが、やがてこう言った。

 

 

「ハリー、私達も行くわ」

「えっ…?」

「一人じゃ危ない。もう門限も過ぎてるし。本当は門限を過ぎているから外出はしてはいけないけど…仕方ないわ。貴方を放置してると、いつか大変な事をやらかしそうだからね」

 

 

 ため息混じりに言う栗毛の少女。ロンも頷いていた。正直、物凄く嬉しかった。こうやって心配してくれる友達が出来た事が嬉しかった。自分の居場所が、アイルの横だけでなくホグワーツにも出来た事を心から感じた。

 アイルがいない時は、此処ホグワーツが心の拠り所となるのだ。

 

 

「ありがとう、二人共」

「せっかちで姉思いの親友を、ほっとけるわけないもんな。行こう。先生を助けるんだ」

「うん!」

 

 

 ハリーは笑顔で言った。こんなに嬉しそうなハリーを見るのは、クリスマス以来だろう。ロンとハーマイオニーは、口ではアイルを助けるや何やかんや言ってはいるが、実際の所たいして信じてはいなかった。

 だって、ルシフが芯からアイルを愛している事は見て明らかだし、ハリーは馬鹿ではないけどアイルの事になるとどうも思考が回らなくなるから、今回の事は勘違いや思い込みによるモノだと考えたのだ。これで、ルシフの所に行って何もなかったら怒られるだけでハリーを納得させられるとも考えていた。

 ハリーがアイルの弟であるという事は、普段の成績から見て明らかだ。筆記系は得意ではないが、防衛術や呪文など、魔法関連はハーマイオニーに劣らないーーいやそれ以上ーーの実力を持っている。このいつ爆発するか分からない危険物を、野放しにしていては危ないのだ。

 

 


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