ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください   作:カドナ・ポッタリアン

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みぞの鏡

 

 

 外はもう暗闇の中。透明マントの影に隠れ、二人はホグワーツ城を歩いた。城内は真っ暗ではなく、僅かに松明や明かりがついて辺りを照らしていた。夜のホグワーツは、美しかった。肖像画は眠り、ゴーストは目を閉じたまま彷徨う、窓から見る黒い湖には、月明かりに照らされてホグワーツ城が摩天楼のように映し出されていた。

 二人は無言でホグワーツの中を歩いた。途中、見回りの先生も見かけたが、ーー気配は感じたかもしれないがーー気がつかれなかった。

 

 

「ねぇ、あれ見てよロン」

 

 

 ハリーが指差す方向には、ルシファースト・マルフォイがいた。ロウソクを片手に、怪し気にキョロキョロと辺りを見回していた。その表情は何処か硬かった。見回り、というわけでもなさそうだ。ハリーは、ルシファーストに対する容疑を一瞬にして思いついた。ロンが横を見た時には、ハリーの目からは正気が消えていた。

 此処で声を出したら確実にバレる。故にロンは、無理矢理ハリーを引き止める事が出来なかった。こんな事なら、聡明ならハーマイオニーを連れてくるべきだったとつくづく感じた。

 

 二人はルシフの後を追った。行き着いた先は、立ち入り禁止とまっている4階のあの三頭犬の部屋だった。ルシフはその中に躊躇せず入ったが、二人は戸惑った。入るべきか、入らぬべきか。いや、今日は此処で止めておこうーー

 

 *

 

 翌晩もまた翌晩も、ハリーは透明マントを乱用して学校中を見て回った。ロンには内緒で、だ。そして毎晩ルシフを探した。何か怪しい動きをしていないか、見張っていたのだ。寝不足になんてならない。だって、大好きな姉のためなのだから。

 ある日の事だった。いつもどおりハリーがルシフをつけていた。ルシフはいつも夜には自分の部屋にいる。この頃、少し右足を引きずっているようにも見える。

 

 ハリーはどうしても中の音が聞きたかった。悪趣味だとは思ったが、「盗み聞き魔法」というのを習得してみた。

 丁度この日、ハリーはその覚えた魔法を実践した。こうやって日常生活(?)に使ってみるのは初めてだった。ハリーには中の声が丸聞こえだった。

 

 

『あぁアイル、何て君は美しいんだ…』

 

『彼の方が欲しがるのも無理はない』

 

『この腕でずっと抱きしめていたい、アイル…』

 

『俺がずっと側にいるから』

 

 

 彼は聞くのをやめた。これ以上は、聞きたくなかったのだ。踵を返し、いつの間にか知らない空教室にいた。満月が大きな窓から差し込み、明かりもないのに辺りを白く照らしていた。冷たい空気に包まれ、ハリーは歩いた。その教室には、背丈の二倍くらいはある、大きな鏡があった。金の不死鳥の彫刻が施された豪華な縁に、小さくこんな文字が書いてあった。

「すつうを みぞの のろここ くなはで おか のたなあ はしたわ」

 

 一体なんの事だろうと、鏡を見たハリーは驚いて透明マントを落としてしまった。隣にアイルがいたのだ。しかし、急いで横を見ても姉の姿はない。鏡の中にいるのかもしれないと、鏡を叩いてみたが、アイルはただただこちらを向いて笑っているだけだった。

 姉の顔を久しぶりに見た。頭が良くて優しくて綺麗な自慢のお姉ちゃん。今何処で何をしているのだろうとふと考える。ハリーはアイルからプレゼントされた透明マントをかぶると、その場に座った。鏡の中には、アイルが写っている。ずっとこうしていたかった。ずっとアイルが見ていたかった。

 

 ずっと呆然と鏡を見つめていた。どのくらい時間が経ったのかは全く分からない。でもアイルはずっとそこにいた。寝ずにずっとそこにいた。鳥のさえずりが聞こえて、やっと我に返った。もう朝になっていた。窓から月ではなく、太陽の光が入っていた。早く自分の部屋に戻らないと、ロンに抜け出した事がバレてしまう。ハリーは笑顔でアイルに手を振って、急いで寮へと戻った。

 

 その日も、また次の日も、またまた次の日も、ハリーはその場所へやってきた。誘われるかのように、足が勝手に向くのだ。ロンにもハーマイオニーにも話さない、ハリーだけの秘密の場所だった。

 アイルは微笑んでいた。いつもの優しい姉だった。しかしーー

 

 

「ハリー、君は…また来たのか」

 

 

 終わった、と感じた。

 振り返るとすぐそこには、真っ白で長い髪と髭を持った偉人ーーアルバス・ダンブルドアがいた。口に細長いスナック菓子を咥えながら、楽しそうにしている。しかし、ハリーは大して驚かなかった。その場所にいた事は知らなかったが、驚くまでもなかった。

 

 

「先生…いつからそこに?」

「わしはずっといたぞ。ただ、君が気が付かなかっただけじゃ」

 

 

 この目の前の朗らかな老人を見て、ハリーは少し安心した。夜遅くに出かけるのは校則違反。もしこれがダンブルドアではなくマクゴナガル先生だったとしたら、罰則だけでは済まなかっただろう。

 

 

「その鏡は、『みぞの鏡』という。君は…その鏡に何を見るかの?」

「僕は…」

 

 

 ハリーは鏡をもう一度見て、つぶやいた。

 

 

「お姉ちゃんが見えます」

「なるほど、アイルが見えるのか。いやはや、中々姉思いの弟のようじゃ。アイルも嬉しい事じゃろう」

「ダンブルドア先生、この鏡は…一体なんなのでしょうか? 『みぞの鏡』とやらは…」

「これはのう…その人の心の奥底に眠る『願い』を映し出すのじゃ。君は、姉であるアイルしかいないから彼女が映る。なので、二人きりの空間が見えるのじゃ。この鏡は中々危険なモノじゃ。見る者を魅了し、いつかは発狂へと導いてしまう。明日、わしはこの鏡を別の場所に移そうと思う。大丈夫。君は自分の望みを、いつでも叶える事が出来る。無欲な子じゃのう…さて、その手作り透明マントを被って、寮へお戻り」

 

 

 ダンブルドアの言葉はごもっともだった。こんな現実なのか幻なのか分からない鏡に、ずっと魅了され続けたのだ。それに、アイルに会えばこの鏡以上の幸福感だって得る事が出来る。ハリーは透明マントを被りがてら、ダンブルドアに質問した。

 

 

「僕は姉ですが、先生には何が見えるのですか?」

「わしか? わしはそう…スナック菓子に囲まれておるな。みんなわしに、ヘルシーな野菜なんかを食べろと言ってくるのじゃが…わし菓子食べたい」

 

 

 

 

 

 




♪ 試験なんてやーだな
 受験なんてやーだな
 た〜だた〜だ布団にもぐってい〜たいよ〜ぉ

時というのは残酷なモノですね。という事で今日は少し短めでした。賢者の石が何処まで続くのかは、神のみぞ知る。

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