ヴォルデモートに死ぬほど愛されています、誰でも良いので助けてください 作:カドナ・ポッタリアン
俺はルシファースト・マルフォイ。由緒正しい純潔族の「マルフォイ一家」の長男だ。俺の父は、死喰い人で、俺の家にはヴォルデモートが出入りを行っていた。
丁度あの頃、俺はホグワーツの6年生。学校内で俺は、ある少女に好意を抱いていた。
「ねぇルシフぅ、どうしたのぉ?」
ホグワーツでは俺は、女に好かれた。顔なのか金なのかは分からないが、女共は俺にいつも擦り寄ってくる。成績は学年で2番手ほど、その所為でいつも父親に叱られる。どんなに頑張っても成績は伸びない。だって俺の上には、越えられない壁があったから。
バーン!という大きな音がして、大広間の扉が吹っ飛んだ。こんなことは、日常茶飯時。
「アイル・ポッター! また扉を壊して!」
「あー…」
「これで何度目ですか?! 嗚呼、137回目ですね!」
「何で覚えてるんですか…」
漆黒の髪を持った赤い目の少女、心なしかヴォルデモート卿に似ている少女は、本当に美しかった。始めはそんな事は微塵も思っていなかったが、再び時は遡る。
そう、あれは俺が3年生の時の事だ。相も変わらず俺は2番手。勉強もクィディッチも2番手だった。アイルは、勉強なんてしていなかった。練習もしていなかったーー少なくとも俺にはそう見えていた。昼休みはいつも湖で何かをしている。グリフィンドールが競技場で練習していても、アイルの様子は見えない。
自分は誰よりも頑張っているのに、何でいつも2番なんだ? おかしいだろ?
もしかすると、不正行為でもあるのかもしれない。先生に何か媚とか色々売って、点数を稼いでいるのかもしれない。
そんなモノで、自分の成果が消されるのは許せないーー俺はそんな気持ちで、本性を暴くべく彼女をつけ始めた。
授業から昼休みまで姿を隠してーー
しかし、そんな甘い工作では彼女を騙せるワケなかった。
「ねぇストーカー君、一体全体朝から何なのかしら?」
「っ!」
アイルは人通りのない廊下で、俺がいる所をジッと見つめた。すると、見る見るうちに魔法は解けていく。無言で魔法を解く、何て強い魔力だとあの時は思った。
「スリザリンの…同学年かな」
アイルが一歩近づいてくる毎に、俺は一歩下がった。
「何で逃げるんだい? スリザリンの少年」
「…じゃあ聞きたい。何故お前は勉強しないのに学年トップなんだ? 何故お前は練習もしていないのにクィディッチが上手い?」
「勉強はそう…既に小さい時からしていたから。覚えているだけよ。クィディッチは、皆がいなくなった頃に『禁じられた森』上空でやっているわ。一人の方がやりやすいもの」
「え…」
「許可は取ってある」
彼女は真顔で首を傾げて、俺を見つめた。
「どうしてこんな事を?」
「俺は…由緒正しい家系の人間だ。文武両道でなければならない。オマエが…いつも一番だから…」
「ふぅん、私が何かやってるんじゃないかって思ったんだね。でも残念ながら…私は何もやってないわ」
「そのようだな」
「でもまぁ…血なんて気にする事ないよ。勉強だって、クィディッチだって、君は才能で溢れてる。私なんかよりもずっとね。今聞いた話だと、成績が上がらないのは、私を追い抜かせないからっていう『言い訳』にしか聞こえないよ?」
アイルの言葉は、刃物に姿を変えて俺の心に突き刺さった。と同時に、暖かい優しさのようなモノが俺の傷を治していった。
「君は頑張ってる…勉強にもクィディッチも、貴方は頑張ってる。だからそのまま、上を目指せば良いの。貴方には頑張って欲しい。でも、私は気を抜くつもりはないよ。貴方が望むなら、私は貴方と同じくらい勉強する。同じくらい皆と練習する。それでどう?」
「っ…」
「うん、じゃあ、頑張ってね」
俺は彼女を追いかける事が出来なかった。優雅な背中を見つめる事しか出来なかった。
翌日から、アイルは有言実行となった。勉強に励み、クィディッチは競技場で練習しているのを見かけた。それを見て、俺も頑張った。
俺は何だか、アイルを見ていると胸が熱くなっていた。気がつくと写真まで撮っていた。少し自分に寒気がしたけども、そこで俺は気がついた。
「俺は彼奴が好きなんだ…」
*
ホグワーツの6年生にもなった時も尚、俺はアイルの事が好きだった。勉強も碌に頭に入らないほどに好きだった。丁度その時、俺には弟が生まれたドラコ・マルフォイという名前らしい。早く家に帰って会いたい。
暗黒時代真っ盛り。俺の父さんと母さんは死喰い人となり、ヴォルデモートに屋敷を貸しているらしい。というより、ヴォルデモートが滞在しているというべきか。
ある日、俺には父さんから手紙が届いた。
今すぐに家に帰って来い。彼の方がお呼びだ。来ないと殺されるぞ。
ルシウス・マルフォイ
「父さん…」
短い手紙だったが、それだけは俺は全てを悟った。彼の方、というのはヴォルデモートの事だろう。俺は慌てて帰宅した。何故だか、アイル・ポッターは今年いなかった。
*
「嗚呼、ルシフ。お帰りなさい」
「母さん…一体何が…」
家に帰るとすぐに俺は両親の安否を確認した。良かった、まだみんな生きていた。聞いた話だと、俺は何やら仕事があるらしい。
だがそんな仕事も伝わらない間に、事は起きた。
「ご、ご主人様...その娘は...」
「ルシウス、そう言えばこの屋敷には地下牢があったな。この娘をそこへ連れて行け。鎖で繋ぎ、決して逃げられないようにするのだ」
「か、畏まりました...」
俺はヴォルデモート卿を初めて見た。アイルと同じ真っ黒な髪と真っ赤な瞳、ハンサムな顔立ち。一見成人間近の青年に見えたが、卿からは何か恐ろしい空気を感じた。何人も人を殺めたような雰囲気だ。そして彼の手には、見覚えるのある者が抱えられていた。
アイルだった。気絶した様子で、眠り姫のように目をとじていた。驚いた。家に帰っていたハズの彼女が、何故こんな所にーー
地下室に彼女は閉じ込められた。頻繁にアイルの叫び声が聞こえる。何がされているのか、考えたくなかった。こんな声も聞こえた。
「嗚呼、僕のアイル…痛かっただろう? ほら泣かないで…僕が癒してやるよ…」
ヴォルデモートは少し若返っていた。俺と同じ年くらいに。声も恐ろしいモノではなく、若い冷静な声だった。
俺は彼女が心配になって、ヴォルデモートが出かけた時俺は地下室に降りて彼女の様子を見に行った。鎖で繋がれたアイルは、酷く衰弱したように見えた。何度も何時間も「磔の呪い」をかけられて事だろう。可哀想に。これがずっと続くのだ。
どうやらアイルは俺の事を覚えていないようだった。しかし、そんな事どうでも良い。彼女を助けたかった。でもそれは、ヴォルデモートを敵に回す事になる。アイル自身の苦しみを長引かせたのは、ある意味俺だったのかもしれない。
*
ヴォルデモートは滅んだ。アイルは解放された。あの時の彼女は、本来なら精神が壊れている所だろう。しかし、彼女には「弟」という心の支えがあったのだ。
あれから10年。父さんから、アイルがホグワーツの教師になった事を聞いた。丁度、「闇の魔術に対する防衛術」の教師がいないという事なので、求人広告が出されていた。俺はそれを見つけるや否や、ダンブルドア当てに手紙を送った。職につきたい、と。
すると、1日も経たずにふくろう便が帰ってくる。「勿論じゃ。いつでも歓迎じゃぞ」と書かれてあった。ダンブルドアはきっと、俺の気持ちが分かっているのだろう。
ホグワーツに行く。久しぶりの学校だ。
早速大広間の扉を開ける。生徒達の目が一斉に俺に集まる。俺はずっと髪を伸ばしていた。その所為で、歩く度に髪がウザったらしく揺れる。
自己紹介をしながら、俺は教職員テーブルの所までくる。ダンブルドア、マクゴナガル、そしてーーアイル。彼女は俺を強く睨みつけてくる。理由は、分からなくもない。だが、あれは仕方なかった。本当に悪いと思っている。
夕食の席が終わった後、俺とアイルは二人きりで大広間に残った。
「アイル・ポッター…俺はオマエを助けたかった」
「戯言かしらね? 私には、虚言にしか聞こえないわ。私がどんな思いをしていたか、知らないくせに」
「違う…俺は両親を死なせたくなかっただけだ。あの人の力は膨大だ」
「私は、彼奴に勝てない事はない」
「分からないだろ? そんな事」
嗚呼アイル、いつもながら何て美しいんだ。
しかし、その本心を出さず、俺はため息をついてグリフィンドールの席に座る。
「…貴方の父親と母親は『死喰い人』なのでしょう? 何故捕まらないのよ。そうでもすれば、私の心は少しでも軽くなるのに」
「俺は知らない。俺に言われても分からない。俺はあの人に逆らえなかっただけだ。もう忘れてくれないか?」
「…」
「俺はやり直したい」
俺は真剣な目でアイルを見る。嘘でも冗談でもない。心からの言葉だ。
「俺の事は、ルシフと呼べ。暗黒の時代は終わった。もう過去に囚われる事はない」
「何故、何故貴方はそれを私に言うの? 何故ホグワーツに…」
「オマエに会いたかった、ただそれだけだ」
「え…?」
「俺はずっと…オマエの事好きだったから」
俺は、今までずっと伝えたかった事を口にした。アイルは少し驚いた顔をしたが、途端に低いうなるようなーーそして恐ろしい声が聞こえたような気がした。
『…俺様を差し置いて…』
「っ!」
「ど、どうしたの?」
「いや…」
*
それから一ヶ月の月日が経った。俺はその間、アイルに対する想いがさらに強くなってきていたのを感じた。そしてアイルも、心なしか俺の事が好きなんじゃないかと思い始めてきた。この間、髪が邪魔だろうと緑色のリボンで結んでくれた。物凄く嬉しかった。
俺は覚悟を決めて、アイルに言った。月明かりの下、満面の星空が見守る中ーー
「アイル、俺は…前も言った通りオマエが好きだ。いや、そんな甘い言葉じゃ伝えられない。愛している」
「っ…私は…」
「どうか、俺と付き合ってもらえないか?」
「それは…恋人?」
「あぁ…」
「そっか、恋人か…」
しばらく不思議そうな表情を浮かべていたアイルだが、しばらくすると再び口を開いた。
「良いよ。私もルシフの事好きだもの」
「ほ、本当か?!」
「うん。でも、自分から好きだっていうのは恥ずかしくって…嬉しい」
「良かった…!」
俺は嬉しくって仕方なくって、アイルに思いっきり抱きついた。彼女はビクッと震えたが、優しく微笑んで頭を埋めてくれた。嗚呼、何て可愛いんだ。
「ありがとう…」
恋愛語る奴は恋人いないっていうけど、本当だね。