僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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先週投稿予定だったはずなんですが、私用が入りまして………。
前回同様に言い訳になってしまうのですが、それが理由です。


書くつもりはもちろんありますので、どうかご容赦を‼


それでは、どうぞ!






問7「龍騎とナイトと願いの為に」

既に夕日が西の地平線に沈みかけている。

そんな時間だというのに、今目の前には紅とオレンジの鮮やかな炎が灯っている。

これが単なる火ならば問題は無いのだが、燃えているのは軽自動車であった。

焼け焦げた金属と燃えるガソリンの臭いをまき散らしながら、黒煙が立ち昇る。

丁度暗くなりかけている空と相まって、その煙はあまり目立ってはいない。

炎の塊と化した車を挟んで、僕と黒い騎士がくたびれたコートを着た男を睨む。

僕達の視線に勘付いたのか、男はヨロヨロとした足取りで寂れた工場の中へ逃げた。

隣にいた黒い騎士はすぐさまその後を追ったが、僕はくるりと体の向きを変える。

 

「何をしている!」

 

「この子を安全な所へ逃がしたら、すぐに!」

 

「………分かった」

 

僕を大声で咎めた黒い騎士は、僕の言葉に頷くとそのまま廃工場に消えていった。

後ろ姿を目で追った後、僕は腕の中で小刻みに震えている小山さんに優しく話しかけた。

 

 

「大丈夫、小山さん?」

 

「え、ええ…………」

 

「立てる? 急いでこの場を離れないと」

 

「__________嫌ッ‼」

 

 

僕が小山さんの腕を掴んで立たせようとすると、彼女が僕にしがみついてきた。

急に抱き着かれたもんだから慌てたけど、何とか体勢を保って彼女を支える。

その間にも彼女の体の震えが、鎧越しにでも僕の体に伝わってきた。

相当怖かっただろう、目の前で人が死ぬ惨劇を二日続けて見せられたんだ。

無理もないことだろうし、それで平然としてられる方がどうかしてるんだ。

……………………どうか、してるんだよな、僕も。

 

 

「小山さん、落ち着いて」

 

「落ち着けるわけないでしょバカ! バカ、バカ‼」

 

「ちょ、ちょっと小山さんってば!」

 

「………………ばか、ばかぁ、怖かったよぉ………」

 

「………小山さん」

 

 

丁度腹筋のあたりにしがみついている彼女を引き離そうとして止める。

小山さんはひたすら両目から涙を溢れさせながらも、僕をバカ呼ばわりしてくる。

でも僕はそんな理不尽な彼女の言葉も、甘んじて受け入れようと思った。

だって、僕があの時小山さんを追いかけていればこんな目に合わせずに済んだんだ。

昨日彼女を襲ったミラーモンスターを倒してからって、流石に油断しすぎていた。

だから、小山さんは悪くない。彼女を巻き込んでしまった僕に責任があるんだ。

 

 

「うぅ…………ひっく………………」

 

「小山さん、もう大丈夫だから。とにかく今は僕の話を聞いて?」

 

「いや………いやだ……………」

 

「お願いだ小山さん。僕は行かなきゃいけないんだ」

 

「……………………………」

 

「ここからは確か、家は近かったよね?」

 

「……うん」

 

「だったら、すぐに帰って今日は外出しちゃ駄目だ。

それと、光を反射したりするものには絶対に近付いちゃ駄目だからね!」

 

「………うん」

 

「離してくれてありがとう、小山さん。

……………………それと、ゴメン。助けるのが遅くなって」

 

「…………ううん。あたしが悪いのよ、吉井君と一緒にいれば」

「だから、あの時僕が小山さんを怒らせちゃったじゃない?

理由は今も分かってないけど、どちらにせよ僕が悪いんだから」

 

「そんなこと………アレだって私が」

 

「このままじゃ話が終わらないから、僕が悪いって事でおしまい!

それじゃ、今言ったこと守ってよ? …………行ってくるから」

 

最後に小山さんの言葉を遮って僕は彼女に背を向ける。

そのまま僕は振り向かずに廃工場の中へと走っていく。

彼女が去り際に「あっ………」と寂しげな声を上げたのは、耳には届いた。

だとしても、僕にはやるべきことがあるんだ。

僕がこの戦いに賭けるもの、『明奈の命』を手にするためには僕以外の

全てのライダーと戦い、そして勝利しなくてはならない。

つまり、12人の人間を、殺さなくてはならない。

 

 

「_____________覚悟は、出来てる」

 

 

消え入りそうな声で僕は呟き、手ごろな大きさの鏡を見つけて飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄骨の所々に赤茶けた錆が目立つ廃工場の中を、須藤は息を切らして走る。

ぜぇぜぇと息を切らしながら、彼は頭の中でひたすら状況の把握に努めていた。

入口からある程度離れた場所で立ち止まり、息を整えようと試みる。

 

 

「はぁ…………はぁ…………まさか、龍騎とナイトに出くわすとは!」

 

 

恨めしそうな視線を、先程まで二人がいた外の通路の方へと向けて呟く。

実は、須藤は【仮面ライダー龍騎】と【仮面ライダーナイト】の存在は知っていた。

新たにライダーが誕生すると、既にライダーである者にその報告がやって来る。

無論その報告をしてくるのは、自分にライダーデッキを与えた鏡の中のあの男(・・・・・・・)

 

「……………か、【神崎 士郎】め、アレはルール違反ではないんですか⁉」

 

 

少し息の整った須藤は、全く別の方向へと怒りの矛先を向け始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

須藤は、4年前の1998年の春に警察庁に入った。

当初は安定した給料と危険手当、そして彼自身の性格の都合上という理由だった。

しかしある時、彼は非番の日に限って麻薬の密売現場を目撃してしまったのだ。

本来であれば警察官として、刑事の卵である彼は警察に連絡して丸く収めるべきだった。

だが、彼の元々の性格が災いして丸く収まる事は無かった。

須藤という男は、子供の頃から『他人と自分を比較し、常に自分を上にする』性格の

一般的な人間から見ればある種、歪んでいるような性格の持ち主だった。

その為、警察などの犯罪者に関わる職に(たずさ)われば、罪を犯した人間と

それを取り締まる自分との具体的かつ明らかな差を見て、優越感に浸れると思ったのだ。

そんな彼は、麻薬の密売人の後を着けて住所を割り出して、後日警官として訪問した。

もちろん相手は抵抗しようとしたが、そこで須藤は密売人にこう話しかけた。

 

 

「私が警察の捜査二課………つまり麻薬関連の捜査内容を君に流しましょう。

その見返りとして、君の仕事の売上の4割、いえ3割ほど頂ければ………どうでしょう?」

 

 

こうして須藤とその男は、2年間に渡って犯罪の片棒を担ぎ合った。

しかし須藤が刑事としてそれなりになってきた頃、上司であり先輩であった初老の

刑事に関係を怪しまれ、一度は麻薬密売幇助(ほうじょ)(犯罪を手助けする事)の疑いをかけられた。

このままでは自分の人生が台無しになってしまう、そう考えた須藤はすぐに行動を起こした。

 

 

「お、おい………何の真似だよあんた!」

 

「私は疑うのは好きですが、疑われるのが嫌いなんでね………」

 

 

麻薬密売人を真夜中の廃工場に呼び出して、ナイフで刺殺した。

死体を隠蔽するのに、誰も近付かないこの寂れた工場はうってつけだったからだ。

須藤は男の死体を工場の剥がれたタイルの下にドラム缶に詰めて埋め立てた。

彼にかけられた麻薬密売幇助の疑いは、その後証拠不十分によって取り消された。

その直後、須藤の目の前__________というより落ちていた鏡にあの男が現れたのだ。

 

「な、なんだ………この耳鳴りは⁉」

 

『_________どんな事も自分の思うような人生を、歩みたくないか?』

 

「…………な、何なんだ……」

 

『_________自分の為の人生を歩みたいのなら、戦え』

 

そう言って鏡の中に現れたその男は、一つのカードデッキを手渡してきた。

カードデッキの表面には、黒く縁取られた金色の意匠の蟹がデザインされていた。

鏡の中の男が言うには、それで【仮面ライダーシザース】になれるらしい。

何のことかよく分からなかったが、男が去り際に言った一言が全てを物語った。

 

 

『_________自分の欲するものの為に、命ある限り戦え‼』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回も、あの時のように埋めれば終わりだと思っていたのに…………クソ!」

 

 

【仮面ライダーシザース】となった日の事を思い返し、盛大に毒づく。

だがそんな彼の背後から、足早に近付いてくる靴音が聞こえてきた。

もう追いつかれたのかと須藤は焦るが、ある物を見つけて表情を一変させる。

 

「見つけたぞシザース、そろそろ鬼ごっこは終わりだ」

 

「………………ナイトですか。くっ、ふふふふふふふ」

 

「何だ? 追い詰められておかしくなったか?」

 

「…………一つ、聞いてもいいですか?」

 

「………………?」

 

「何故私がシザースだと? いつ、どこで気付いたんですか?」

 

黒い騎士__________ナイトは僅かだが首を傾げる素振りを見せる。

その様子を見て、まずは作戦の第一段階が成功したことを小さく喜ぶ。

この問いかけは時間稼ぎだが、実は本当に知りたかったことでもあった。

自分の計画は(実際は違うが)完璧に近いと思っている。

なのにナイトも龍騎も、ボルキャンサーを使役していたとはいえ何故?

どうやって須藤という一人の人間をシザースと特定したのであろうか。

 

 

「警察官が襲われた事件、あの日の夜にある馬鹿から連絡が入ってな。

『モンスターに襲われたけど、知り合いがケガをした』とかなんとか。

だから俺が代わりに現場を見に行ったんだ。するとどうだ?

現場から撤収する警官の中で一人だけモンスターとお話している奴がいてな。

気になってその人物をある時から尾行、監視を続けていたんだよ」

 

「なる………ほど……」

 

「これで満足か?」

 

「ええ、満足です___________充分に時間が稼げてね‼」

 

「何⁉」

 

『ギギッ! ギュイッギギ‼』

 

 

須藤の質問に答えたナイトの真横から、ボルキャンサーが飛び出してきた。

唐突な出現に驚いたナイトは、ボルキャンサーのタックルに押し負ける。

 

『ギュカッ! ギィギィ‼』

 

勝利を祝うかのようにハサミを振り上げて唸るボルキャンサー。

何故気配もなく突然ナイトの死角に出現したのかは、彼の能力にある。

ミラーワールドに住むミラーモンスターには、それぞれ種ごとに能力がある。

ある者は空を泳ぐように飛翔し、ある者は鋼鉄すら引き裂く爪を有する。

ある者は三匹で一体となり活動し、ある者は電気を体内で生成し放電する。

そんな特異な能力を個々に保有するのが彼らミラーモンスターだが、

もちろんその能力の強さや汎用性などにもレベルが存在する。

 

ボルキャンサーは強さの面で言えば、並のモンスターとほぼ同等だ。

しかし、このモンスターには独自の特殊能力が存在する。

その固有能力は、『鏡界移動(ミラーワープ)』というものだ。

簡単に言えば、彼らミラーモンスターは鏡などの反射物を利用して世界を移動する。

人間の世界とミラーワールドは、そういった反射するものを隔てて隣接しているのだ。

ところがボルキャンサーは、それを自分でその扉____反射物を作り出せる。

それによって瞬時に自分の任意の場所に転移し、奇襲を仕掛ける事が出来るのだ。

他にも口から泡を吐いて爆裂させたり、ハサミで並の鉄板を切り裂いたりなど、

蟹らしい特性もあるのだが、最も恐ろしいのが先のミラーワープだろう。

 

そんなボルキャンサーが、はるか後方に吹き飛ぶ。

悲鳴すら上げずに吹っ飛ぶ契約モンスターを、須藤は凝視する。

ボルキャンサーと反対方向にいたのは、赤色と銀色の鎧を纏ったライダーがいた。

 

 

「遅かったな、龍騎」

 

「あ、すみませんれn_________ナイト!」

 

「…………まあいい。今は、とにかくコイツを片付けるぞ」

 

「ハイ‼」

 

龍騎とナイトが須藤の前で合流し、臨戦の構えを取る。

それを見て若干逃げるべきかと思ったが、その考えを切り捨てる。

そして即座に懐から目の前の二人の腰にある物と同じ物を取り出して構えた。

 

「来るぞ」

 

「分かってます」

 

「………二対一とは不利ですがね、仕方ない_________変身‼」

 

 

左手にカードデッキを持ち、あらかじめ地面に砕いて落とした鏡の破片を見つめる。

すると鏡に映った須藤の腰に、重厚そうなベルトが独りでに装着されていった。

鏡の中の須藤にベルトが装着されると、現実世界の須藤にもそれが反映された。

龍騎とナイトが仮面越しに見つめる中で、須藤は右手を胸の前に折りたたんだ後、

即座に前方に押し出して人差し指と中指を立てて、残りの指を折り曲げる。

その後左手のデッキをベルトのバックル部分に装填し、ライダーの装甲を身に纏う。

 

「ふふふ………さあ、始めましょうか!」

 

「負けるか! 【SWORD VENT】 行くぞ‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが反転した鏡の中の世界で、無数の剣戟が弾き合う。

実際には、龍の尾を模した剣とコウモリの背を模した重鎗と巨大なハサミの

三種類の異形の武器が互いに攻め合い、そして弾いている戦場の音だった。

かれこれ、三人が刃を交えてから5分ほどが経過している。

ところが二対一という有利な条件であるのに、僕とナイトは攻め切れない。

原因はシザースの契約モンスターのボルキャンサーにあった。

ヤツは突然現れては攻撃してきて、応戦しようとすると瞬時に離脱する。

いわゆる『ヒットアンドアウェー』の戦法で、僕達を翻弄している。

 

 

「それなら! ナイト、僕がヤツを足止めする、だから‼」

 

「いいだろう!」

 

「って事で、行くぞ‼」

『ギュカカ‼ ギギィ‼』

 

眼前のボルキャンサーに向けて、手にしたドラグセイバーの切先を向ける。

ヤツも応戦の意思があるのか、両手のハサミを振り上げてこちらに構えた。

睨み合いも数秒、僕は剣を構えたまま走ってボルキャンサーと距離を縮める。

ボルキャンサーは口のような部分から無数の泡を吐いて僕の視界を遮った。

だが僕はソレに構わずドラグセイバーを振るって泡を薙ぎ払い、一度止まる。

 

 

「い、いない…………でもそのパターンは覚えたよ!」

 

『ギュギギィ‼』

 

「そこだ真後ろォ‼‼」

 

『ギ、ガァッ⁉』

 

完全に死角を取ったのだろうが、生憎その攻撃はもう三度目なんだよ!

 

 

「いくら僕がバカでも、三回も同じパターンなら覚えられるさ!」

 

『ギィ…………ギギィ』

 

「流石に契約モンスターだな、まだ倒れないか」

 

 

汗を拭うような仕草で、頭に冷静さを取り戻させる。

いくらモンスターでも、底なしに体力があるわけじゃない。

このまま戦っていれば勝機は見える。それに、これはあくまで足止めだ。

 

「さてと………第2ラウンドといきますか‼」

 

 

僕はそう一言吠えて、士気を高ぶらせる。

だが次の瞬間、僕の背後の暗闇から電子音声が響いてきた。

 

 

【FINAL VENT】

 

 

「何⁉」

 

『ギギ、ギュギィィ‼』

 

 

唐突に背後から聞こえた音声に驚いて僕が振り返った瞬間、

ボルキャンサーは足元に巨大な鏡を出現させてその中に飛び込んだ。

慌てて後を追おうとしたが、寸前でその鏡は消失して途絶えてしまった。

悔みながらも、僕は不吉な予感を拭うことが出来なかった。

 

 

「まさか、(れん)さん…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殴打、刺突、弾かれ、躱す。

 

ナイトは手にした重厚な重鎗を巧みに操りシザースを攻撃する。

対するシザースは完全な接近戦特化の為、間合いに入れず苦戦する。

 

「くっ!」

 

「どうした、その程度か?」

 

「…………舐めないでください!」

 

相次ぐ攻撃で膝を屈したシザースは、バックルのデッキからカードを取り出す。

取り出したカードを左手のハサミ状の篭手【シザースバイザー】に装填した。

その瞬間、どこからか巨大な金色の物体がシザースめがけて飛来してくる。

 

 

【GUARD VENT】

 

 

飛来してきたものが、シザースの左手の篭手と同化して強固な盾となった。

『ガードベント』とは、使用者に頑強な壁となる盾を装備するカードだ。

ところがこのカードには、もう一つの特性が存在している。

それは、『装着している間はある程度の衝撃を緩和できる』というものだ。

これにより生半可な攻撃では怯むことすら無く相手と対峙できるようになる。

 

 

「厄介な! くっ‼」

 

「褒め言葉としてッ! 受け取らせて貰いましょう‼」

 

防御力を底上げしたシザースが先程とは逆に有利に戦いを進める。

ナイトの重鎗_________ランスは一撃の攻撃力は高いが小回りが利かない。

先程まではその攻撃力に任せてシザースを牽制していたが、今度はそれが仇になった。

攻撃に怯まなくなったシザースが、ひたすらランスを掻い潜って接近戦に持ち込む。

接近戦に慣れていないのか、ナイトは徐々にシザースに追い詰められていく。

そもそもナイトが得意とするのは、武器を用いた中距離戦闘である。

だが今シザースによって展開されているのは、徒手空拳による肉弾戦。

故に、その差が少しづつお互いの力の差を明確にしていった。

 

 

「捕まえましたよ」

 

「ぐっ! く、くそ……‼」

 

「無駄ですよ。私はこれでも刑事ですので柔道などは有段者なんです。

一度接近戦に持ち込んでしまえば、並の人間では相手にはなりません!」

 

 

とうとう背後を取られてナイトは組み敷かれて動きを制限された。

ギリギリと音を立ててナイトの首がシザースの両手によって絞められていく。

だが膝をつかされた体勢のまま、ナイトはデッキからカードを取り出して右手の

剣と一体化した【ナイトバイザー】に差し込んで機構を動かし、装填する。

その行動で読み込まれたカードの内容が反映され、電子音声と共にやって来る。

 

 

「並の…………人間なら、な!」

 

【NASTY VENT】

 

「ぐうっ‼ あ、うおおぉぉ⁉」

 

 

ナイトが読みこんだのは、『ナスティーベント』というカード。

その効果は、ナイトの契約モンスター『ダークウィング』の巨大な両翼の起こす

羽ばたきと超高音パルスによって発生する不快音波で自分以外の対象を行動不能にする。

いわば、アクティブジャマーのような効果のカードだった。

『ナスティーベント』の効果をモロに受けて耳を押さえて地面にうずくまるシザース。

拘束から解放されたナイトは、好機とばかりに新たなカードを取り出す。

それを見て焦ったシザースは、同じようにデッキからカードを取り出した。

 

 

「…………行くぞ」

 

 

ナイトが右手のナイトバイザーに、カードを装填する。

少し遅れてシザースも同様に、左手のシザースバイザーにカードを装填した。

そのカードには、デッキの表面の紋様と全く同じマークが描かれていた。

 

 

【FINAL VENT】

 

【FINAL VENT】

 

 

ナイトとシザースが発動したのは、『ファイナルベント』のカード。

最終召喚(ファイナルベント)の名の通り、ライダーの持つ最強の力を持ったカードで攻撃力は絶大。

直撃してしまえばほぼ間違いなく命を落とし、奪うであろう力を持ったカード。

 

「来い、ダークウィング‼」

『キュィキュィ‼‼』

 

「来なさい、ボルキャンサー‼」

 

『ギギギィ‼‼』

 

 

ナイトは手にしたランスを構えて、シザースに向けて突撃する。

対するシザースは背後に出現したボルキャンサーが交差させたハサミに飛び乗った。

疾走するナイトの背後に、召喚されたダークウィングが舞い降りマントに変化する。

シザースはタイミングを合わせ、持ち上げられる力と共に大きく上昇した。

 

 

「おおおおおおおおぉぉ‼‼」

 

「はああああああぁぁ‼‼」

 

 

マントを纏い若干の飛行能力を得たナイトは上空へ飛び、ランスの切先を真下に構え

背中のマントを発生させた竜巻に合わせて自身を覆うように巻き付けて急降下する。

逆にシザースは空中高くに放り上げられ、その勢いを利用して高速で回転し始めた。

そのまま自然落下するエネルギーを利用して強力な(かかと)落としを決めようとしたが、

上空から落下してくるナイトの【飛翔斬】の速度に追い付けずに直撃した。

 

 

「ぐおおぉぉあああああああぁぁぁ‼‼‼」

 

 

全身を覆っていたマントが元の状態に戻り、地面に着地したナイトが振り返る。

二つの大技が正面からぶつかったことによる衝撃で、大きな爆発が起きていた。

その爆発の中心地で、満身創痍となったシザースが全身に駆け巡る痛みに悶える。

 

「がっ! ああっ! ああ、うぐぅ‼」

 

「………………終わったか」

 

ナイトは少し声のトーンを低くして呟く。

いくら自分の願いを(・・・・・・・・・)叶えるためとはいえ(・・・・・・・・・)、一人の命をこの手で

奪う事になってしまった現状への憤りと罪悪感は、決して無い訳ではない。

彼とて、ライダーである以前に一人の人間なのだから。

 

 

「…………それでも、俺は」

 

 

決意を新たにしたナイトは、完全なとどめを刺すべくシザースに歩み寄る。

当のシザースは痛みに苦しみながらも、必死にナイトから逃げようとしていた。

手にしたランスを振り上げ、切先を振り下ろす。

それで一人倒せる。それで一人消える。それで一人__________殺す。

 

「やるしか、ないんだ」

 

言葉に出してはいるが、ランスの切先が微かに震えている。

自分でも制御できないほど小刻みな震えは、ナイトの心情を体現していた。

迷っているのか、この期に及んで俺は‼

自分を心の中で叱責しても、震えは止まりはしなかった。

だがそんな切先から目線を少しずらすと、シザースの体があった。

目の前にあるのに、俺の願いを叶える手段が、目の前にあるのに。

 

 

「俺は………俺は!」

 

 

自分は迷うことしか出来ないのか。

迷っているだけで、彼女(・・)を救えたか。

どんな手段であっても、俺は俺の願いを叶えたい。

その為に、多くの犠牲が必要だというのなら…………。

 

 

「う………う、ぐっ…………」

 

「しぶとい奴だな」

 

 

ナイトから少し離れた場所で、シザースがよろめきながら立ち上がる。

フラフラとした不安定な立ち方は、彼の戦う意思の消失を感じさせた。

その姿を見つめていたナイトがランスを構えた、その時だった。

 

 

【FINAL VENT】

 

「何⁉」

 

 

突如どこかから聞こえてきた最強の切札を宣言する電子音声。

不意を突かれたナイトは辺りを見回すが、それらしき姿は無い。

眼前のシザースも聞こえたようで、よろけながら辺りを見回す。

そして次の瞬間、前触れ無くナイトの視界からシザースが消えた。

驚いたナイトはランスを構えて警戒するが、影も形も見えなくなっていた。

 

「そぉらぁっ‼‼」

 

 

慌てふためくナイトの右側から、固い物がアスファルトに当たって

粉々に砕けるような破砕音と膨大なエネルギーの衝突による爆音が響いてきた。

すぐにそちらに振り向くと、そこにいたのは_______________

 

 

「か……………は…………………」

 

「ふぅ! チョロイもんだったぜ、ハッハー!」

 

「コイツ、新たなライダーか⁉」

 

 

シザースをアスファルトの地面にパイルドライバーの要領で突き刺し、

その上に乗ってご機嫌そうにガッツポーズを組む若草色のライダーだった。

 

 

「んん~、ん? はは、コイツぁ当たりか。まだライダーがいたとは」

 

「その契約の紋章…………お前が【仮面ライダーベルデ】か⁉」

 

「そーゆーお前は確か………ナイト、だったか?」

 

 

眼前でシザースの頸椎(けいつい)を砕き折って倒したライダー、

ベルデが両手を広げて芝居がかった歩き方でナイトに詰め寄る。

ランスを構えたナイトに対して、ベルデはただ、淡々と告げた。

 

 

「この世じゃ所詮、力のある奴が勝つんだよ…………分かるか?

さて、それじゃそろそろ始めようか……………【ライダーバトル】をな‼」

 

 

 

 

 







ハイ、いかがだったでしょうか。
先週投稿できなかった分の埋め合わせはいずれまた……………。

今回の見どころは何といっても、シザースの最期!
人知れず死んでいくなんて、さっすが「卑怯もラッキョウも大好物」な
蟹刑事さんは雑魚キャラとしての格が違いますわ、格がwww

そしてこれまた、新たなライダーの参戦。
【仮面ライダーベルデ】、今作の序盤で重要なキャラです。
彼は原作でテレビスペシャルでしか登場しないゲストだったので、
一体どう絡ませようか悩みに悩んだのです。それがこの結果です。

やはり、原作重視を謡う私としてはナイト(というかボルたん)に
須藤の引導を渡してもらいたかったんですが………ベルデの引き立て役、
良かったねシザース、自滅じゃなくておいしく死ねたよ!


それでは次回!

突如乱入してきた新たなライダー、ベルデ!
彼の介入によって、ライダーバトルは加速する!
そして明久とFクラスは、遂にBクラスとの戦争を開始する‼

戦わなければ、生き残れない‼

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