僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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先週は投稿できなくて申し訳ありません!
少し個人的な急用が出来てしまって………言い訳ですよね。

さて気を取り直して。
実は友人と話し合った結果、バカテスと龍騎のどちらに
重点を置いて話を構成するべきかという議題だったんですが、

龍騎の方に重点を置くことに決定いたしました。
理由としては、頂いている感想の多くが龍騎関連だったという
至極簡単なものです。バカテス重視の方には申し訳ないですが。


それでは、どうぞ!


問6「僕と終戦とライダーバトル」

 

 

「あの、えっと………さ、試獣召喚(サモン)です!」

 

『Fクラス 姫路瑞希 _____________現代国語 339点』

VS

『Dクラス 平賀源二 _____________現代国語 129点』

 

「え? あ、あれ?」

 

Dクラスの教室内に()び出された二体の召喚獣。

片方は重厚な鋼の輝きを宿した鎧で頭部以外を完全に覆っていて、

もう片方は一般的な武者鎧を着込んだ侍調の服装で佇んでいる。

最初に喚び出された召喚獣が自分の身長の2倍はありそうな大剣を振りかざし、

相手に狙いを定めて一気に風を割きながら振り下ろした。

 

 

「ご、ごめんなさいっ!」

 

 

可愛らしい声と共に放たれたのは、可愛さとは対極の場所に存在する攻撃。

明らかに重たげな獲物を軽々と捌き、平賀君の召喚獣を一刀のもとに両断した。

 

 

「戦争終結! 勝者、Fクラスッ‼」

 

『『『いよっしゃあぁぁぁぁーーーッッ‼‼』』』

 

 

Dクラスの戦闘を見届けた教師が、手を挙げて戦争の終結を高らかに宣言した。

僕らが待ち望んでいたセリフに、Fクラスのほぼ全員の魂の絶叫が教室に木霊する。

それと同時に膝から崩れ落ちていくのは、対戦相手のDクラスの生徒達。

みんな信じられないとでも言いたげな表情で天井辺りを見渡して現実逃避している。

そりゃそうだ、最低ランクのクラスに負けたんだ。現実逃避したくなるのも分かる。

でもコレは紛れもない現実だ、僕達が上位のDクラスに勝利したんだ。

 

 

「そ、そんな………」

 

「えっと、その………喜んでいいんでしょうか?」

 

 

僕の目の前でこの戦争の勝敗を分けた二人がそれぞれ違った反応を見せていた。

勝利した姫路さんは相手を気遣って、敗北した平賀君は絶望を体現している。

__________そう、僕らは戦争に勝利したんだ!

 

はじめは戦力差に潰されかけ、加えて相手側の策略によってこちらの戦力が分断、

さらに味方側からの援誤射撃(誤字ではない)によって主に僕の身に危険が及んだ。

それらを乗り越え、僕らの秘密兵器である姫路さんを最終局面まで温存しておき、

戦線が硬直した瞬間に彼女を投入し、一気にDクラスに攻め入り勝利をもぎ取る。

僕らの大将、坂本雄二が考案した必勝の策。

すでに太陽は西の空に傾き、白色の輝きは燃えるようなオレンジになっている。

時刻は現在16:33分。六時限目も終了し、他の生徒が帰り始めていた。

 

「まさか、Fクラスに負けるなんて………いや、その驕りが敗因か」

 

 

Dクラスの代表、大将である平賀君が独り言を呟いている。

そんな彼を見て、他のDクラスの生徒達も同じように俯いている。

彼を責めてもおかしくないはずなのに、思う事でもあったんだろうか。

しばらくしてから、ようやく僕らの大将が満遍ない笑みを浮かべてやって来た。

 

 

「よお平賀。所詮大将の真似事じゃ、大将には勝てないってこったな」

 

「坂本か……悔しいが俺はお前達と自分に負けたんだ。認めるよ」

 

「潔い男は好かれるぜ。さてとそんじゃそろそろ恒例のアレといきますか」

 

「ああ、分かってる。敗者として、この教室は明け渡す……………だが」

 

やって来た雄二と皮肉交じりに会話する平賀君。

ああ、そういえば雄二と平賀君は1年の頃体育で競い合っていたっけなぁ。

意外と仲がいいのかもしれない、彼らのやり取りを見てそう思った。

そして雄二が戦後対談として話を切り出した途端、平賀君が口ごもった。

 

「何だ? 今更教室が惜しくなったか?」

 

「違うさ、確かに明け渡すが………時間が時間だ。明日でもいいかな?」

「ああ、そういう事か。それについては心配いらない」

 

 

雄二が平賀君の合理的な案を聞いて納得したように頷き、はにかむ。

その間僕らはこのDクラスで明日から暮らすことが出来るという喜びを

みんなで噛みしめ、ウキウキしていた。

 

 

「この教室はいらないからな」

 

ついさっきまでは。

 

 

「雄二‼ どういう事だよ⁉」

 

「今から説明するから大人しく正座してろバカ」

 

「…………………」

 

「どういう事なんだ、坂本?」

 

 

相手の平賀君ですら困惑している。

そりゃそうだ、上位のクラスの教室を得る権利を自ら放棄するなんて有り得ない。

だからこそ僕や後ろにいるFクラスのみんな、更にはDクラスの生徒までもが

雄二の説明とやらを聞こうと静まり返っている。

 

 

「んじゃ話すぞ。平賀、まずお前らのクラスを獲らん理由は二つある。

一つ目は俺たちの最終目標、Aクラスの設備を手に入れるという事にある」

 

「だったら最初からAクラスに挑めばいいじゃないか」

 

「お前は………あのな、レベル1の勇者が最初っからラスボスを倒せるか?

どう考えても不可能だろ? なら、経験を積んでいけばいい。

つまりこの戦争は小手調べ、いうなれば前哨戦ってヤツだな」

 

「なるほど…………それじゃ、もう一つの理由って?」

 

「それは、取引材料にするためだ。

平賀、聞いての通り俺たちの目標はAクラスでな。ここに興味は無い。

ここを獲った途端に、ウチのバカ共がやる気をなくす可能性も出てくる。

そんな訳で教室を獲らない代わりに、一つ協力してもらいたい事があんだ」

 

 

誰が見ても悪いことを考えているような表情で雄二が詰め寄る。

その顔を見て平賀君は少し戸惑っていたが、顔を上げて仕方なさげに頷いた。

 

 

「協力? 命令の間違いだろ?」

 

「分かってんなら都合がいい、なら早速俺からの交換条件だ。

俺が指示を出した日に、お前らの窓の外に部屋の間取り上仕方なく設置された

哀れな子羊をほんのちょっといじって動かせなくしてもらいたいんだ」

 

「…………Bクラスの室外機?」

 

 

雄二が指さしたのは、彼の言ったように部屋の間取り上の都合で

Dクラスの窓の外に設置されているBクラスのエアコンの室外機だった。

でも、どうして今それが話に出てくるんだろうか?

すると同じ疑問を抱いたのか、平賀君が雄二に質問した。

 

 

「でも、なんでアレを動かせなくしたいんだ?」

 

「対Bクラス戦での切り札になる。学校の備品を壊すんだ、多少教師達に目を

付けられるだろうが…………一学期の大半をカビ臭い部屋で過ごしたいか?」

 

「………破格の条件だな、ありがたくその条件を呑ませてもらおう」

 

「タイミングの指示は後日として、今日はお開きにしよう」

 

「Aクラスとの決戦、お前達の勝利を祈っているよ」

 

「ほざいてろ、顔にはっきりと『負けろ』って書いてあるぜ」

 

「酷い奴だな。勝てるとは思ってないが、負けろとまでは言ってないぞ」

 

「似たようなもんだ。それじゃまた明日な」

 

 

雄二が一方的に話して、最後に対談終了の合図として大将同士が握手する。

二人して笑みを浮かべて、僕らは雄二の後ろについてDクラスを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、しまった。日本史の教科書卓袱台の上に置いてきた」

 

「あほ、早く取って来いよ。待っててやるから」

 

「うん、すぐ戻るよ!」

 

 

戦争が終わってから二十分程、僕らは帰ろうと昇降口に来ていた。

雄二と僕の家とは進行方向が同じだから、よく一緒に帰っている。

僕はすぐに校舎内に戻ってFクラスに向かって小走りする。

すぐに目的地に到着し、時間が無いため中を確認せずに勢いよく扉を開ける。

 

 

「よ、吉井君⁉」

 

「あれ? 姫路さん?」

 

すると教室内には、何故か姫路さんがいた。

時刻は既に16:58分と、部活に所属していない彼女が校内に残っているのは

少々不自然な時間帯になっていた。

僕は自分の卓袱台まで近付き教科書を鞄に詰め込み、改めて彼女に向き直った。

姫路さんは僕が来てからずっと挙動不審な動きをしていて、少し気になる。

 

 

「ん? 何コレ?」

 

そんな彼女から目線を少し落とした卓袱台の上に、何やら見慣れない物が。

良く見てみるとそれは可愛らしい便箋(びんせん)と同じ柄の封筒だった。

これら二つが意味するものは____________ラブレターではないだろうか。

クソ! このクラスの中に姫路さんがラブレターを送りたい相手がいるだと⁉

なんだか無性にイライラしてきた…………で、でもまだ決まったわけじゃない。

落ち着け、落ち着くんだ僕。素数を数えて落ち着こう。

素数は誰にも割る事が出来ない数字だ、えっと……1,2,3,5,………アレ?

 

 

「ここ、これはですね! あの、その………」

 

「……………大丈夫だよ、僕は分かってるから」

 

「え⁉」

 

 

何となく数字を数えただけだけど、少しは落ち着く事が出来たようだ。

落ち着いた僕の頭脳は、冷静に一つの結論に至りイライラを解消させる。

彼女が誰に恋文を送ろうとも、僕には関係ないじゃないか。

僕はもう彼女のように、誰かを好きになったりなられたりする日常には戻れない。

日々命を懸けて鏡世界(ミラーワールド)で『仮面ライダー』として戦う事を決意したんだ。

そしてライダーになるという事は、自分の願いを懸けて他のライダーと戦うという事。

自分の欲するものの為に、誰かを犠牲にしなければならない残酷な世界の住人。

そんな僕が、彼女と関わることなんてこれ以上は無いだろう。

 

 

「うん、分かってる。頑張ってね」

 

「え、えっと………ハイ! が、頑張ります!」

 

「うん。それじゃ、また明日」

 

「あ……さ、さようなら」

 

 

僕は彼女に背を向けて教室から出ようとする。

その一歩一歩が、ずいぶん重たく感じられた。

やっぱり、僕はまだ初恋ってヤツを引きずっているんだろうか。

小学校の頃に、僕は彼女の事を好きになっていた。

でも、僕はその年に妹の明奈を失い、家族を失い始めた。

そして高校一年の時、僕は今までの僕を捨てた。

いつまでもくだらない過去を持ったままではいられないんだ。

___________明奈を、取り戻すために。

 

 

僕は扉の前で一度立ち止まって、改めて姫路さんの方を見る。

彼女は卓袱台の上にあった便箋と封筒を回収して、その手に収めていた。

姫路さんからの告白だ、断る男なんてオカマかゲイくらいだろう。

願わくはそのどちらかに意中の相手が分類されていないことだね。

今できる最高の笑顔を作って、僕は彼女に『別れ』を告げる。

 

 

「さよなら、姫路さん」

 

 

そして、僕の初恋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はその後そのまま昇降口に戻って玄関を出た。

そして待っているであろう雄二の姿を探したけど、どこにもいなかった。

待つことに飽きて先に帰ったんだろうか、あの薄情者め。

仕方なく少し暗くなりかけている通学路を帰ろうと校門をくぐる。

すると、そこには見覚えのある女生徒が立っていた。

 

 

「遅いわよ吉井君! さ、行きましょ」

 

「え………えっと、小山さん? もしかして本当に待ってたの?」

 

「失礼ね、待っててあげたの」

 

そこにいたのは、Cクラスの小山さんだった。

昼間僕に言ってたことは本当だったのか…………参ったな。

そうなると随分長い間待たせていた事になる。

女の子一人でこの校門で下校時間になっても待っててくれたなんて。

 

 

「あ、ありがとう」

 

「別に感謝は要らないわ。あなたが私との約束を破らないか心配なだけ」

 

「破らないし、破っても僕にメリットなんて無いよ…………。

それに、僕なんかに時間を使う小山さんの方がデメリットが大きいんじゃない?」

 

「分かってるんならもっと早く来なさいよ!

まだ春先なんだからこの時間帯は寒いんだからね!」

 

「ご、ごめん。でも本当に大丈夫なの?

好きでもない男の為に寒い中待ってるなんて、普通しないよ?」

 

「うるさいわね! だ、黙ってなさいよ……………バカ」

 

顔を赤らめて僕を罵倒した小山さんはさっさと歩き始めてしまった。

待っててくれた人をほったらかしには出来ないから、僕もつられて歩く。

急勾配な坂道を下りながら、二人並んで歩いて帰る帰り道。

既に辺りは薄暗く、木々の連なる場所に何かが潜んでいそうなほど暗かった。

お互い何も話さずに黙々と歩き続けるだけ、ただ時間と距離だけが過ぎていく。

そんな均衡を、小山さんが破った。

 

 

「そう言えば、あなた達Dクラスに勝ったんですってね。おめでとう」

 

「え、ああ。うん、ありがとう」

 

「何よ、嬉しくないの?」

 

「いや、小山さんがそんな事言うなんて思わなくって」

 

「……………あなたも見た目で判断するのね」

 

「え?」

 

「何でもない! もういいわ、また明日ね」

 

 

何やら機嫌を悪くした小山さんが歩調を速めて去っていった。

取り残された僕はどうしようかと迷うが、自宅の方へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小山友香は不機嫌だった。

寒いからではない、帰宅が遅れたからではない。

待っていた彼の言葉が、自分の神経を逆撫でしたからだった。

そんな彼女の心情を体現するかのように荒い歩調で道を進んでいく。

顔も心なしか普段よりも険しい表情になっていたが、すぐに掻き消えた。

彼女は歩幅を狭め、ついには立ち止まってしまった。

 

「…………うぅ」

 

彼女が立ち止まったのは、昨日の事故現場。

途端に彼女は昨夜の惨劇を思い出し、唐突な吐き気に襲われる。

あまりの恐怖に対して人間は、体調を崩して気を紛らわせることがあるという。

今がまさにその状況であるが、友香は落ち着いてはいられなかった。

 

 

(こんな所に長く居たくない…………早く帰ろう)

 

凄惨な現場からなるべく目を逸らすように歩いてその場を通り抜ける。

上を見るように歩くと、ちょうど通路の角に設置されているミラーが目に入った。

沈みかけている夕日を跳ね返し、オレンジ色の光を道路にぶち撒けている。

何て事のない科学現象だったが、少し奇妙な点があった。

オレンジ色の光が、僅かに動いているようだったのだ。

友香は光の上下運動に気付き、立ち止まってミラーを角度を変えて覗き込んだ。

____________覗き込んでしまった。

 

 

「きゃあぁーーーッ‼‼」

 

『キュカカ! ギギィギィ‼』

 

 

カーブミラーの中に映りこんでいたのは、黄金色の蟹の化け物だった。

人型のうえ二足で直立しているのに蟹だという根拠は、両腕の大きなハサミ。

人間でいう肘から先が巨大なハサミの形状になっている為、蟹のように見える。

眼前に迫る恐怖に怯えた友香は、尻もちをついてその場に倒れこむ。

その拍子に気絶しなかったのは、幸運とも不運とも言えよう。

恐ろしさのあまり震えていると、鏡の中から蟹の化け物が飛び出してきた。

声帯が縮み上がって悲鳴すらも上げられない、助けも呼べない。

震え上がる彼女の頭上で、蟹の化け物がそのハサミを振り上げる。

命を絶たれる、数秒後に訪れるだろう最悪の未来を凍える脳で予測する。

 

 

『ギュッ! カカッ、ギッギィ‼』

 

まるで喜んでいるかのような高音程の鳴き声を上げる蟹の化け物。

友香はそのハサミを見ていられず、顔を背けて目を固くつぶる。

あと3秒だろうか、2秒だろうか、自分の死が訪れる時を震えながら待つ。

しかし、いつまで経ってもハサミが振り下ろされることは無かった。

恐怖よりも好奇心が勝った友香は、その両目をゆっくりと開き前を向く。

その先に広がっていた光景は、待ち望んでいた希望ではなかった。

 

 

『キュイィィ! キュイィィ!』

 

『ギュカ‼ ギギ、ギュイィ⁉』

 

 

眼前に広がっていたのは、蟹と蝙蝠(コウモリ)のようなもう一体の化け物が戦っている戦場だった。

翼を羽ばたかせて、黒一色の巨大な蝙蝠の化け物が蟹の化け物に体当たりを仕掛ける。

蟹の方も負けじと上空にいる敵に、何度かハサミを振り回して応戦しようとする。

するとどこかから黒い騎士が現れ、手にしている巨大な重鎗(ランス)で蟹の化け物を打つ。

勢いよく振るわれた重鎗の威力で吹き飛ばされた蟹の化け物は、その先にあったミラーの

中に吸い込まれるように消え、蝙蝠と黒い騎士も同じように鏡の中に消えた。

 

 

「はぁっ! はぁっ! はぁ………はぁ……………」

 

 

目の前で起こった出来事が現実離れし過ぎていた為か、汗が流れ落ちる。

たった二日で普通の女子高生だった自分が二回も死の危機に陥るなんて想像してなかった。

出来るはずがない、鏡の世界から化け物が襲ってくるだなんて。

しばらく立ち上がる事も出来ずに震えていると、誰かが走って近付いてきた。

顔を上げて確認すると、長いコートを羽織ったやつれている見知らぬ男性だった。

化け物を見た直後のせいか、人間相手に若干警戒心が緩んだ友香は安堵のため息をつく。

すると、男がコートの中から警察手帳を取り出しながら話しかけたきた。

 

 

「私は須藤、警察の者です。こんな所でどうかしたんですか?

近くを通っていたところ、女性の悲鳴が聞こえてきたので駆けつけてきましたが」

 

「あ、ハイ………刑事さん、ですか?」

 

「ええ、そうです。それで、何があったんですか?

ここは昨日殺人事件が起きたばかりでして、犯人も捕まっていないんです。

まだ17時過ぎだからと言って、女の子が一人ではあまりに危険ですよ。

とにかく、まずは何があったのか話をしてくれませんか?」

「え、ええっと…………」

 

 

須藤と名乗った刑事が手を差し伸べてきて、友香は少し不安を覚えた。

いくら刑事だと言っても、知らない相手にそこまで気を許してもいいものか。

それに、正直に何が起こったか話しても相手にされないだろう。

『蟹の化け物と蝙蝠の化け物に襲われそうになりました』、言える訳がない。

どうしようかと迷っていると、男は後ろに止まっている車を指差して言った。

 

 

「あそこに私の上司の車が停まってますので、それで送りましょう。

何があったかは車の中でも、また改めて後日でも構いません。

ですが、私はこの殺人事件を担当しているものですので、解決の糸口はどんな

些細(ささい)な事であろうと知りたいのです。…………どうしますか?」

 

新たに明かされた第三者の存在に警戒心を露わにした友香だったが、

その先にあった車の運転席から初老の男性が顔を出し、笑顔を見せた。

少なくとも、見た目からは悪人には見えないと友香はそう考えた。

それになにより、こんな場所にはもうこれ以上いたくないという思いが

強まったせいか、差し伸べられた須藤の手につかまり立ち上がった。

須藤は嬉しそうに笑みを見せ、エスコートするように歩き出す。

 

 

「それじゃあ後部座席に乗ってください、私は助手席へ行きますので。

こうすれば襲われる心配は少しは薄れるでしょう?」

 

「えっ……その、すみません」

 

「いえいえ。自分の身は自分で守る、良い心掛けだと思いますよ。

今の時代、警察だと言っても信用されないことなんてよくありますので」

 

自分が唯一懸念していた事も言い当て、紳士的な態度を取る男に謝る友香。

初老の男性はともかく、目の前の須藤という男は少し信頼できると考えて

言われるがままに車の後部座席へ乗り、ドアを閉めて車が発進した。

運転手の初老の老人に進行方向を教え、その間に何があったのかを須藤に話す。

そんな作業を十数分した頃、須藤が助手席から初老の男に声をかけた。

 

 

「すみません、そこを右に曲がってもらえますか?」

「ん? この子の家はこのまま真っ直ぐ行きゃすぐなんだろ?」

「ああいえ、私の方の用事なんですが………先に送り届けるべきでしたね」

「………お嬢ちゃん、ちょいと寄り道してやってもいいかな?」

 

「え………ハイ、構いません」

 

「だそうだぜ、須藤よ」

 

「………無理を言ったようですみませんね、ではお願いします」

 

「あいよ」

 

 

交差点を右折して自宅から遠退く事を少し寂しく思った友香だったが、

須藤という男が用事という以上、捜査に関することなのだろうと考える。

それに、どうせ遅く帰ってもあの(・・)冷めた両親がいるだけだ、問題は無い。

初老の男性が須藤の指示通りに道を曲がっていくと、ついに車が停まった。

窓に近付いて外を見ると、そこにあったのは古びた工場跡地だった。

どうやら潰れた工場の跡地が売れず、取り壊す業者すら呼ばれなかった為に

建物が錆びれていても未だに残っているのだろう。

 

「なぁ須藤よ、お前さんここでどうするんだ?」

 

「ええ、少し………片付けをするだけですよ」

 

「片付け? 一体何を片付けるってんだ?」

 

「それは……………私にとって厄介な___________」

 

 

須藤が何かを言い終わる直前、車のサイドミラーが輝き出した。

何が起きたのかと初老の男性と友香は二人してミラーを覗き込む。

そして、そこから飛び出してきた巨大なハサミが、初老の男性の首を断った。

 

 

「_____________貴方ですよ」

 

 

首の断面から血が噴き出す瞬間、男性の身体ごとミラーに引きずり込まれた。

突然の出来事に何が起こったか理解できなかった友香は、ただ唖然とする。

僅かに車のドアに付着した血を須藤がハンカチで拭き取り、ポケットにしまう。

そして掠れるような声で笑い出し、邪悪な笑みを浮かべて友香に向き直る。

 

 

「ずっと、ずっと邪魔だったんだよアンタは!

年老いたジジイのくせに、やたらと勘だけは鋭いときた!

私の計画的な掃除をアンタは見抜き、上層部に捜査の許可を取り次いで!

挙げ句私にその捜査を手伝えだと? 本当に目障りだったよアンタは‼」

 

「ひっ…………」

 

 

狂気に憑りつかれたように暴れだす須藤に友香は恐怖した。

しばらく荒い呼吸をした後で、自分を見つめながらまた呟く。

 

 

「そうそう、あの巡査も目障りだったぁ………。

『街の平和は我々警察に属する者が築けなければ』とか御大層な夢を吐いて

私の計画に勘付いて止めようとしやがった! だから私が殺したかった!

なのに誰かが邪魔をした………たかが怪物(モンスター)の犯行ならまだ許せた。

だが目撃者である君は生きている、つまり助けた奴がいるってことになる‼

鏡世界の怪物(ミラーモンスター)を倒せるのはライダーだけ、つまりそういう事だ‼」

 

「ま、さか………私を餌に、呼び寄せて……⁉」

 

「勘がいいねぇ君は、その通りだよ。

例え通りすがりだろうが君の関係者だろうが、ライダーは必ず潰す。

その後で私の正体を知る君も…………………殺してあげますよ!」

 

 

そう声高に叫んだ須藤が再び笑い声を発する。

だが今の友香にとっては、それすらも恐怖する一因となってしまう。

怖くて仕方ない、でも逃げられない。

泣き叫んでも誰も気付かない、死んでしまう。

死ぬことがこれほど怖いことだと、今改めて実感出来てしまった。

友香が今できる事は、ただ祈ることしかできなかった。

自分を救ってくれる、ほんの僅かな可能性に。

 

 

【ADVENT】

 

「何ッ⁉」

 

『ギギィ⁉』

 

 

そして、その祈りは聞き届けられた。

電子音声と共に、鏡の中から姿を現した紅蓮の体躯を持つ龍。

身体を空中で何度かくねらせ、再び須藤の方へと向かっていく。

慌てた須藤は、鏡の中にいるであろう蟹の化け物に向けて命令した。

 

 

「くっ、ボルキャンサー! 私の身を守れ‼」

 

『ギッギギィ‼』

 

 

紅蓮の龍の口から炎が放たれ、車を焼き上げる。

驚いた友香はパニックになりかけるが、自分の後ろのドアが開いた。

そこにいた人物が、友香の腕を掴んで外に引っ張り出して救った。

息を整えながら見上げると、やっと彼女の待ち望んだ光景が見えた。

 

 

「もう大丈夫だよ小山さん、後は僕に任せて!」

 

 

紅い身体に銀色の鎧を纏った騎士が、友香を抱き寄せた。

その先で車が炎によって爆発を起こし、炎がさらに広がった。

炎の向こう側で、須藤がうめくような声が聞こえる。

それを聞いた赤い騎士こと明久は、一歩前に出て叫んだ。

 

 

「僕が相手だ、シザース‼」

 




はーい、いかがでしたでしょう?

蟹刑事のクズっぷりが止まらない。
そして最初に言っておきますが、彼はもうクライマックスです。

さてさて、今後もライダーをどんどん出しますが、
唯一懸念している事がございます………それは『ファム』です。

友人と作った大体の脚本を読み直して気付きました。
「アレ? ファムがどこにもいねぇ」
ハイ、ピンチです。どうしましょう。


それでは次回!

遂に現れた仮面ライダーシザース!
龍騎と共に並び立つ黒い騎士とは何者なのか!
明久が友香に告げる、本当の戦いの意味とは⁉

戦わなければ生き残れない‼

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