僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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大体二週間ぶりくらいでしょうか?
お待たせしてしまって大変申し訳ないです。

しかし、今私が執筆しているSSの中で最も閲覧数
及びお気に入り登録数が多いのがこの作品であるという事に
驚きを禁じえません。

これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。

それでは、どうぞ!


問5「僕とDクラスと迫る影」

 

 

 

 

「吉井! 木下達がDクラスの連中と渡り廊下で交戦状態よ!」

 

 

トレードマークであるポニーテールを揺らしながら駆けてきたのは、

僕と同じ部隊に配属された島田 美波さんその人だった。

今僕らが居るのはFクラスの教室のある旧校舎を出て少し先の廊下だ。

お昼休みが終わって二分後だというのに冬の名残とでもいうのだろうか、

太陽が南の空から大きく西側に傾き、暖かい日差しが校舎に隠されている。

そんな時間帯に僕らが廊下に出ているのは、今まさに行っている試験召喚戦争の

先兵として送り出されているからだ。

幾つかの部隊に分けられた内の一つであるこの部隊の指揮官は、僕に任命されている。

つまるところ、この部隊のリーダーは僕ということだ。

そのリーダーに対して他の部隊の近況を報告してくれたのは戦闘員の島田さん。

改めて彼女の姿を見てみると、背もそれなりに高くて脚も綺麗に伸びてはいるというのに

どうしてか女性らしさ、あるいは女性としての魅力が欠けているように思えてしまう。

一体何が足りないのかと思った僕は、少し視線を上にずらしてその答えに行き着く。

 

 

「ああ、胸か」

 

「アンタの指を引き千切ってあげる。もちろん足の方の指も全部」

 

 

イカン、僕の絶命へのカウントダウンが始まった。

 

 

「そ、それよりもホラ! 試召戦争に集中しなきゃ!」

 

 

今戦闘の最前線にいるのは僕らがアイドルの秀吉率いる先攻部隊で、僕らはその援護が

総指揮官兼大将の雄二から言いつけられている主な任務だ。

でも援護の僕らが集中してなきゃ何の役にも立てはしないだろう。

戦場になっている渡り廊下の状況を知っておくべきだろし、覗いてみようかな。

 

 

「さあ来い、この負け犬が!」

 

「て、鉄人⁉ 嫌だ、鬼の補習室だけは嫌なんだぁ‼」

 

「黙れ! 敗者のお前らは捕虜となり、全員戦争が終わるまで補習室で特別講義を受ける!

それが規則だからな、甘んじて受け入れろ。終戦まで何時間かかるか知らんがな!」

 

「頼む、あんな拷問に耐えきれる訳がない! み、見逃してくれぇ‼」

 

「拷問? バカ言うな、コレは立派な『教育』だ。ここにいる全員、誰もがみな補習を

終える頃には趣味が勉強、尊敬する人物は二宮金次郎、そんな模範的生徒にしてやろう!」

 

「あ、悪魔ッ‼ 誰か助け__________嫌だァァァァァァッ‼‼(バタン、ガチャ)」

 

 

なるほど、これが最前線か。

 

「島田さん、控えている中堅部隊に通達して」

 

「何? 何か作戦でも思いついたの?」

 

「__________総員撤退」

 

「このヘタレ‼」

 

 

僕が涙を飲んで伝えた苦肉の策も、グーパンと共に一蹴された。

しかも躊躇無く顔面に向かって…………本当の悪魔がここにいる。

 

 

「顔が、顔がァァァッ!」

 

「目を覚ましなさいこの馬鹿! 指揮官が臆病風に吹かれてどうすんのよ!」

 

目を覚ますどころか目が二度と開かなくなりかけてるんだけど⁉

 

 

「ウチらが木下の部隊を援護するってことが、どれだけ大事か分かってるの?

戦闘で消耗した点数を補給するために下がってくる時、前線を留めるのはウチらでしょ!

もしウチらが逃げ出したりなんてしたら、それこそ勝利を諦めることと同義なのよ⁉」

 

日本語が苦手なくせに、やたら正論を言ってきた島田さん。

でも彼女の言っていることに間違いはないし、僕らの役割はとても重大だ。

いくら戦死したときのペナルティがアレだからって、指揮官の僕が仲間を見捨てて

自分可愛さに逃げだそうだなんて………………羞恥心(と激痛)で前が全く見えないよ‼

 

 

「そうだよね………よし、やるぞ!」

 

「その意気よ、吉井!」

 

『『『うおぉぉーーーッ‼‼』』』

 

張り上げた声と共に握った拳を挙げる僕達の部隊。

士気を高めて突撃の用意も済ませた僕らの前に、伝令係の八嶋君がやって来た。

 

 

「島田、前線が崩れかけて後退を開始したぞ!」

 

「総員撤退よ」

 

 

お前今なんて言った?

 

 

「吉井、ボケっとしてないで撤退するわよ!」

 

「え? う、うん」

 

 

人間として致命的に間違ってる気がするけど、まぁ仕方ないよね。

勝てない戦に無謀にも突っ込んでいくのは勇気とは言わない、それは蛮勇だ。

即座に回れ右して本陣のFクラスへと駆け出した僕達を、誰が(とが)められようか。

そう思っていると、Fクラスの扉の少し前にクラスメイトの横田君が立っていた。

 

 

「横田じゃない、何してんのよこんな所で」

 

「大隊指揮官殿より、伝令があります!」

 

 

手にしたメモを確認のために改めて見直しながら、若干雄二の呼び方に違和感がある

横田君がハッキリとした口調でメモに書いてある僕らへの新たな伝令を告げた。

 

 

「『逃げたらコロス』」

 

「「総員突撃開始ィーーッ‼」」

 

 

気が付けば僕と島田さんが同時に全く同じ命令を下していた。

誰が撤退なんてするものか、仲間を見殺しになんて僕らには出来ないよ‼

方向転換して走り出した僕らの先に、絶世の美少女が現れた。

 

 

「おお、明久よ。援護に来たくれたのか、かたじけない!」

 

「秀吉、大丈夫だった⁉」

 

「うむ。じゃが味方が四人地獄へと連行されてしもうた…………かくいう儂も

ほとんどの教科をかなり削られてしもうての、コレ以上は補充せんと駄目じゃ」

 

 

そっか、僕らの救出が間に合わなかったばかりに四人も…………。

なんて非道な連中なんだDクラス、 この代償は高くつくからな!

僕らに謝りながら後ろのFクラスへと戻っていく秀吉の背中を静かに見送る。

戦死した皆の為にも、僕らは顔を見合わせて戦場の最前線へと駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間としても距離としても、そんなに長くは走っていないのに妙に疲れる。

しばらくも経たないうちに、僕らの目の前にDクラスの人達の姿が見えてきた。

 

「吉井、見て! 五十嵐(いがらし)先生と布施(ふせ)先生がいるわ!

Dクラスの奴ら、化学の教師を引っ張り出して勝負するつもりのようね‼」

 

 

島田さんに促されて見た方向には、二人の男性教師が立っているのが見えた。

二人共化学の科目教師だから、一気に採点速度を上げて僕らを攻め立てに来たのか!

 

「島田さん、化学の点数に自信とかある?」

 

「全く無いわ、60点後半の常連だもの」

 

 

流石はFクラスの生徒、お世辞にもいい点数とは呼べないなぁ……………。

でも二人も教師が固まってるなら、他の場所にはさほど戦力は投じられてはいまい。

そう考え付いた僕は、部隊の一部を残して島田さんと数人を連れてその場を移動した。

少し離れた場所で、他の教科での戦闘が行われているのを目撃した僕らはそこにいる

Fクラスの二人に加勢すべく一気に駆け出したその時、通路をDクラスの数人に阻まれた。

 

「見つけましたわよお姉様! 五十嵐先生、こちらに来てください!」

 

「しまった!」

 

 

道を阻んできたDクラスの生徒の中で凄く特徴的な女子が先生を呼んだ。

マズイな、こっちも召喚獣を出して応戦しないと二人仲良く補習室行きになる。

 

 

「よし、島田さん。ここは君に任せて僕は先に行くね!」

 

「普通逆じゃない⁉ 『ここは僕に任せて君は先に行け』じゃないの⁉」

 

「現実はそんなに甘くはない。なまっちょろい言葉は通じないのが世の常さ!」

 

「このゲス野郎! 待ちなさいってば!」

 

「お姉様、逃がしませんわ!」

 

「『美春』ッ! ウチの邪魔しないでよ‼」

 

 

五十嵐先生から10m程________召喚フィールドの効果範囲_________離れて様子をうかがう。

相手の子が召喚獣を出し終えた頃になって、やっと島田さんの覚悟も決まったようだった。

 

 

「_________試獣召喚(サモン)ッ‼」

 

 

島田さんの声に応じて、彼女の足元になにか幾何学的な魔方陣のようなものが現れる。

科目教師の立会いの下にシステムが起動した証拠として、召喚獣が姿を現すのだった。

青い軍服を着用し、右手に反り返ったサーベルを持っている点を除けば島田さんに

驚くほどそっくりな顔つきの召喚獣、ただし、その身長は80センチにも満たないほどだ。

言ってしまえば、『デフォルメされた島田 美波』のような外見を持った召喚獣に対するのは

同じようにデフォルメされたような外見の小さなDクラス女子だった。

 

「お姉様に捨てられて以来、この日を一日千秋の想いで待っておりました……………」

 

「いい加減にウチの事は諦めなさいよ美春‼」

 

 

いよいよ僕の目の前で本物の戦闘が行われる、そう思うと少しだけ寒気がした。

そんな僕になどお構いなしに、二人による戦闘の幕が切って落とされた。

 

 

「こっちに来ないで! ウチは男が好きなんだって言ってるでしょ⁉」

 

「見え透いた嘘を。お姉様はこの美春だけを愛していると確信しています!」

 

「ふざけないでよぉ!」

 

「大真面目ですわ、お姉様!」

 

 

…………何でだろう、島田さんがとても遠くの人に見えるや。

 

 

「ていっ!」

 

「このっ!」

 

 

二人の戦闘が徐々に激しくなっていくのが遠目でも分かる。

しかし相手はレベルが文字通りに二つも上の相手、正面からぶつかるのは不利だ。

互いの手にしている武器から火花が散りそうなほど激しくぶつかり合う二人。

 

 

「島田さん! 向こうの方が格上なんだっ!」

 

「分かってるけど、細かい制御は難しいんだってば!」

 

 

僕のかけた言葉に反応するほどの余裕はまだあるみたいだ。

それでもやっぱり島田さんの召喚獣が少しずつだけど圧されてきている。

その事実を裏付けするかのように、彼女らの召喚獣の頭上には化学の科目での

戦闘力(テストの点数)がハッキリと表示されていた。

 

 

『Fクラス 島田 美波 ___________ 化学 53点』

VS

『Dクラス 清水 美春 ___________ 化学 94点』

 

 

島田さんめ、何が60点台後半だ。明らかにサバ読んでたじゃないか。

 

 

「さ、お姉様。勝負は着きましたね?」

 

倒れた島田さんの召喚獣の喉元に刀の切先を向けた相手の召喚獣。

腕や足を切られたくらいなら点数が減るだけで済むけど、頭部と心臓部は違う。

特定の部分を攻撃されれば即死__________つまり補習室行きは確実となる。

 

「い、嫌! 補習室は嫌ぁ‼」

 

「補習室? 今から行くのは保健室ですわよお姉様!」

 

「え………何で保健室に?」

 

「ふふふ………へへ、今なら保健室のベッドは空いてるはずですから………」

 

「吉井ぃ! 早く援護を! なんか知らないけど補習室よりヤバい所に

連れていかれるような気がするのぉ! 早く助けて!」

 

うん、だろうね。 その子の口の端からよだれが垂れてるもの。

 

 

「分かった、今すぐ助「殺します、美春の邪魔をするなら誰だろうと」け………」

 

 

助けたかったけど、僕には荷が重すぎる気がするよ。

 

 

「島田さんの勇姿を僕は忘れないッ!」

 

「コラ吉井ぃ! 逃げるなんて卑怯よ‼」

 

 

反転して逃げ出した僕の背後でひたすら責め立てる声が聞こえてくる。

でもしょうがないじゃないか、狩る側の目をしたあの子が怖過ぎるんだもの!

僕が目の端から涙を流しながら脱兎の如く駆けると、その先にいた部隊の一人の

須川君が入れ替わるように駆け出し、僕の代わりに島田さんの回収に向かってくれた。

素直に感謝しながら、背中に吐き続けられる呪詛の言葉に恐怖しつつ部隊の再編成を

するために一度前線の後ろ側へと一気に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、旧校舎とは違い清潔感溢れる新校舎の一室。

そこには午後の授業を大半が真面目に受けている生徒達の姿があった。

ちょうど教室の中央辺りに衣服を正して座っている女子生徒、小山 友香は

若干の眠気を覚えながらもしっかりと板書された項目をノートに写していた。

授業が始まって今は15分くらいしか経っていないが、やけに外が(うるさ)く感じる。

実際は怒号にも似た大声が廊下に木霊しているのだが、各教室は防音にも対応しているため

そこまで不快なようには感じはしなかった。

 

(ああ、そう言えば吉井君がDクラスと戦争するって言ってたわ)

 

 

昨日の晩に自分の命を救ってくれた、頭の足りない男子の顔を思い浮かべる。

途端に味わった恐怖を思い出して気分が悪くなるが、同時に心が安らいでいった。

吉井 明久___________自分が馬鹿だと見下していた学園最底辺クラスの生徒。

一昨日まではそんな認識しかしていなかったし、興味も無かった。

自分は頭のいい人に好感を抱く、両親が昔から自分に言い聞かせていたように。

だから彼についてはほとんど知らないし、クラスの男子もよく知らないようだった。

 

(彼の秘密を漏らさない代わりに、私の秘密も誰にも言わない………そんな口約束なんて

普通なら反故にするだろうし、何よりこの約束は互いにメリットがなさ過ぎるわよね)

 

 

先程までしっかりと教師の解説を聞いていた聴覚を遮断して物思いにふけり始める友香。

自分が慌てて彼に課したあまりにも弱々し過ぎる紙クズのような足かせ。

すでに終わっている事なのに、彼の事となると心配で考えずにはいられない。

 

(でも何の損得も無く私を助けるような人が、秘密を故意に漏らすかしら)

 

 

彼の行動を実際目の当たりにして、今までの評価を覆すような考えを抱き始める。

少なくとも助けた自分の傷の手当てまでしてくれる人間が、他人の弱味につけ込む

ような真似はしないだろう。吉井 明久という人間にはそう思わせるだけの温かさがあった。

今まで自分が見てきた相手は、すぐに優劣を決めたがるような利己的な人ばかりだった。

実際、自分をあの場に置いて逃げ出したあの男もそういった類の人間だったし、

自分の実の両親ですら物事を有益か無益かで判断するような人間だった。

血の繋がった人ですら、好意を伝え合った相手ですら、こうなのだ。

なのに吉井 明久はそれらとは全く違った行動しか見せない。

 

 

(もしかして私だけに⁉ …………それは流石に無いか)

 

 

一瞬だけ自分の頭の中に浮かんだ言葉に対して心臓が跳ね上がったような感覚に見舞われた。

だが彼がそのように人を選り好みするような人物ではないと結論付くと、すぐに治まった。

それでも一度熱を帯びた顔の表情は戻らず、しばらく俯かなければならなくなった。

傍から見れば自分が眠っているように見えても仕方ないだろう。

しかし自分はこのCクラスの代表なのだ、そんな情けない姿はクラスメイトにも晒せない。

 

 

(でも寝顔よりももっと恥ずかしいところ、見られたのよね………ああもう!)

 

 

 

気をしっかり持とうと意気込んで顔を上げた途端に、昨日の醜態を思い出し再び顔を伏せる。

先程よりも更に顔が熱を帯び、隣の女子が心配になるほど挙動不審に悶絶し始める。

もはや黒板に書かれた数学の計算式なんて頭には無い。

彼女の頭の中にはたった一人の男の事しか入ってはいなかった。

 

 

(どうしてくれるのよ吉井君! 帰りになったら覚えてなさい!)

 

 

右手のシャーペンを握りしめながら、友香は理不尽な怒りに燃え上がる。

沸騰しかけたヤカンのように真っ赤な頬のまま、残り20分となった授業に身を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見つけた、見つけた。とうとう見つけた。

血の匂いを辿(たど)れと言われたが、まさか本当にいるとは思わなかった。

もうすでに他の怪物(モンスター)に喰われていると思っていた、だが違った。

しかもここにはかなりの量の人間(エサ)共がうじゃうじゃしている。

まるで自分の為に用意された絶好の狩場のように思えて仕方ない。

 

「ギィィィ……………キュカカ」

 

 

だがこの場にいる人間共を食べることは契約者(あのおとこ)が許さないだろう。

契約者は人間共の中でも変わった力を持っているらしく、ここにいる人間共よりも

大きな人間共とほとんどいつも行動を共にしている。どんな意味があるのかは知らない。

確か前に自分が人間を狙っていた時に、契約者が止めに入った事があった。

 

 

「止めろボルキャンサー、今殺ったら私が疑われてしまうだろ」

 

 

あの時言った言葉の意味は未だに理解できないが、要は勝手な真似をするなという事か。

 

 

「ギュッ、ギャルルゥゥ‼」

 

 

_________________調子に乗るなよ、たかが人間風情が。

 

 

 

「ギュ、キュカカ! ギィギィ‼」

 

 

思い出すたびに無性に物を壊したくなってくる。

所構わず何かにこの衝動をぶつけて、発散したくなってくる。

自分は『契約のカード』によって一時的に共同関係を結んでいるに過ぎない。

それを契約者はまるで自分が支配しているかの如く自分に命令を下してくる。

鏡を超える力を分け与えたのは、この自分なのだ。

お前は黙ってその力で自分を飢えさせぬように怪物を狩ればいいのだ。

 

 

「キュキュ…………ギギィ」

 

 

一通り両手_________両ハサミを振り回すと気持ちが落ち着いた。

そのまま改めて人間共が大人しく無防備に集まっている場所を見つめなおす。

自分が嗅ぎ付けた匂いの元である人間は、確かに今もここにいる。

多過ぎてどれがそうなのか特定までは出来そうにないが、いるのは確かだ。

契約者に報告して、その後どう動くのだろうか。

消すのだろうか? だとしたら、自分に喰わせてくれるだろうか。

現段階ではまだ分からない、だが可能性が無いわけじゃない。

 

「ギギィ! ギュッ、ギュカカ‼」

 

 

そうと決まれば話は早い、さっさと契約者の所に戻ろう。

報告して、時間が余れば怪物狩りにでも連れ出そうか。

怪物を狩って自分がそれを喰う、そうすれば結果的に契約者も強くなる。

時間はかかるかも知れないが、お互い損だけはしないはずだ。

「ギギィギ______________ギ?」

 

『ブオォォォォォオ‼‼』

 

 

そう思って契約者の元へ帰ろうかと思っていたら、背後から鳴き声が聞こえた。

あまり聞いた事の無い鳴き声だ、珍しいタイプか何かだろうか。

振り返った自分の視線の先にいたのは______________

 

 

「ギ……………ギュッガ⁉」

 

『グォォォォォオアアァァァ‼‼』

 

 

まるで人間共の腹を掻っ捌いた時に出る血のように真っ赤な双眸に漆黒の巨躯。

決して細くは無い体周りをくねらせ、空中でとぐろを巻き始める闇の権化。

自分に向けて放っているのは、単なる遠吠えか。それとも尋常ならざる怨嗟か。

ただこれだけはハッキリと分かることがあった。

眼前に現れた圧倒的な力の塊を見て、直感した。

 

 

『グォォォォォオアアァァ‼‼』

 

「ギュ…………ギギィ!」

 

 

____________コイツは、ヤバい。

 

 

 

『__________ボルキャンサー、か』

 

「ギッ⁉」

 

 

ふと呟くような声が漆黒の巨龍の背後から聞こえてきた。

驚愕と恐怖に体を震わせながらも、声の発生源を確認せずにはいられなかった。

黒く小さめな自分の両眼をそちらに向けると、そこには『影』が立っていた。

自分と仮面越しに目が合った気がして、より一層体の震えが激しくなる。

逃げるか戦うかどちらを選ぶか悩み始めた時、相手がまたも小さく呟いた。

 

 

『______行け、お前に興味は無い』

 

『グオォォアァァァ‼』

 

「ギギギ…………キュカ、ギュイ‼」

 

 

行けと言われてわざわざここに留まる理由は無い。

今の自分には契約者が居ない、あんな奴でもいないと確実に戦えない。

後ろを振り返らずに、一気に人間共のいる場所から遠ざかるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『__________ここに、いるんだな』

 

 

一人残った漆黒の仮面と装甲を纏う『影』が静かに佇む。

その背後には空中をグルグルと小さく旋回しながら吠える漆黒の巨龍がいた。

全く同じ色の双眸を怪しく輝かせて、ボルキャンサーの見ていた鏡をのぞき込む。

しばらくそうしていたが、やがて満足したのか鏡から離れて振り返る。

そのままゆっくりと歩き出し、『影』は呟きながら闇の中へと姿を消す。

 

 

『_________もうすぐだぞ、待っていろ…………明奈』

 

 






ハイ、いかがだったでしょうか?

長時間書いているとPCがすぐ処理落ちしちゃいます。

それでは次回もお楽しみに!

戦いの幕が上がり、戦士たちが相まみえる。
自分の願いの為に、他人の命を犠牲にして。
賭けるのは自分の命、決して降りられないゲーム!

戦わなければ生き残れない!

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