僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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どうも皆様、理由も無しに前回の投稿をサボった萃夢想天です。
本当に申し訳ございません。どこまで謝罪してもしきれません。

実はちゃんと書いてはいたんですが、また途中で消えちゃいまして。
言い訳になりますが、それがきっかけでまたモチベーションが…………。

加えて前回の話と今回は、元々一話分だったものを無理やり二つに
引き裂いて書いたものなので、前後編に分けて書くことに致しました。
なので、今回も前回同様に短く薄い内容になります。御了承ください。


それでは、どうぞ!





問31「僕と戦いと目の前の事(後編)」

 

 

 

 

 

 

「妹が失踪した理由って、何を言ってるんですか‼」

 

 

全てが反転した校舎内、その中の教室にいる僕は、同じく人ならざる姿をしている目の前の

黒い戦士に__________香川さんに対して、思わず食って掛かるようにして詰め寄った。

 

妹が、明奈が失踪した理由なんてあるのか? いや、あれは僕の単なる不注意だったはずだ。

当時はまだミラーモンスターの事を知らなかったとはいえ、明奈を一人にしたのは僕なんだ。

理由らしい理由があるとすれば、たまたま空腹だったモンスターが近くに居たってくらいだろう。

 

でも、もしも彼が言うような"理由"があるとするなら、僕は黙ってなんかいられない。

 

 

「明奈がいなくなった事をあなたが、何か知ってるって言うんですか⁉」

 

「まあまあ、そう焦らずに。まずは落ち着くことが肝心です」

 

「落ち着いてなんかいられるか‼」

 

あくまでも平静な口調で会話を行おうとする、香川さんの態度が余計に僕の癪に障る。

確かに彼の言っていることは間違ってないし、この場合は落ち着いて話を続けることこそが

正しいのだと言うことも、キチンと分かってはいる。でも、兄としては止められない。

 

先程よりもさらに一歩、物理的に詰め寄って距離を縮めると、僕は周囲に鎮座している机や

椅子をやたらめったらに弾き飛ばしながら、怒気を募らせつつ無感情な仮面を睨みつける。

 

 

「落ち着きなさい。これから話す事を、一時の感情に流されて無下にしてはいけない」

 

「分かってるよそんな事は‼」

 

「…………まぁ、肉親の死について、六年も経ってから浮き彫りになる事があるなどと

赤の他人から告げられた君の心境。月並みな言葉になってしまうが、察して余りあるよ」

 

「その………済みませんでした。僕は、えと」

 

「構いません。年端もいかない妹を失う悲しみなど、他人と共感しえないでしょう」

 

 

本当に僕は何度、香川さんの手を煩わせてしまったことだろうか。いい加減恥ずかしくなる。

ミラーワールドに入る前にも注意されたし、僕は馬鹿ではあるけど大馬鹿でないと思いたい。

 

けど、こればっかりは譲れないものがある。明奈がいなくなった事に、理由があるとすれば。

明奈が消えなきゃならない理由があったとするなら、僕はその理由を作った奴を許さない。

そしてそれを知る風な事を語った眼前の戦士も、場合によってはこの場で始末すべき敵になる。

 

この人が明奈の失踪に関与していると分かったなら。その時はもう、僕は僕を抑えられない。

 

 

「さて。あまり時間も残されてはいない。手短に話すとしよう」

 

「…………お願いします」

 

このライダーバトルに参加している以上、彼もまた僕と同じく、願いの成就のために戦いを

繰り広げるライダーの一人に過ぎない。だとすれば、事と次第によらずとも彼は、敵だ。

いつ戦闘になってもいいようにと、なるべく攻撃的な対応を取らないようにと敵意を隠し、

自分の戦い方が最も活かせるような間合いを意識しながら、彼の言葉に耳を傾けようとした。

 

 

「____________さ君? 明久君?」

 

 

その時、今いる反転世界の中では決して聞こえるはずのない声が、僕の耳に届いた。

 

 

「え⁉」

 

「だから、落ち着きなさいと言ったでしょう。アレは向こう側から聞こえる声ですよ」

 

 

慌てて周囲に視線をばらつかせた僕に、オルタナティブ・ゼロは嘆息しながらそう語る。

なるほど。ライダーじゃない彼女、声の主である友香さんがここに来る方法は、考えうる限り

モンスターの捕食という最悪の手段以外は無いはずだから、彼の分析は間違いないだろう。

 

だとしても、何で彼女がDクラスの教室にいるんだろうか。それが分からない。

しかもよりにもよって、このタイミングで邪魔が入ることは想定してなかった。

目の前のライダーが現段階では敵でないとはいえ、今後もこうして二人っきりで密かに語らう

機会なんて、そうそう巡るものじゃない。この機を逃せば最悪、二度と彼と話せなくなるかも。

 

どうしたらいいのかと狼狽する僕に、黒い戦士はやれやれと肩を竦ませ、僕の肩を軽く叩いた。

 

 

「これではまともな話し合いなど出来ませんね。今回は、ここでお開きとしましょう」

 

「そ、そんな‼ だってまだ僕は何も‼」

 

「吉井君、いいですか? 君はまだ高校生である以上、私としても下手な事は出来ません。

そして裏では仮面ライダーなのですから、あまり多くに怪しまれる要因を作るのも避けたい。

ならばこそ今は耐えてください。次に機会を見つけたら、またこうして話すとしましょう」

 

「次にって………いつになるんですか⁉」

 

「まずは落ち着くことです。冷静さを欠いている君に話しても、私としては意味が無い。

正常な判断力が残っている状態でなければ、私の話の真意を理解できないでしょうから」

 

 

では、今日はここまで。そう言って彼は僕の肩を掴んで振り向かせ、勢いよく前へ押し込んだ。

振り返った僕の先にあったのは、このミラーワールドへ入る時に通ってきた、黒板の置き鏡。

ろくに受け身も取ることができずに倒れこんだ僕は、ライダーの性質により鏡を難なく通り抜け、

何もかもが平常になっている現実の世界へと戻った。派手な音を立てて、机の群れに突っ込む。

 

 

「うわっ‼」

 

「きゃっ__________って、明久君⁉ ちょっと、大丈夫? 何があったの?」

 

「痛たた………と、友香さんこそどうして?」

 

「心配だから探しに来たの! いつまで待っても来ないんだから!」

 

「あ…………そっか」

 

「そっかじゃないわよ、バカ!」

 

 

仮面の上から頭を押さえる龍騎の姿に、鏡から飛び出すようにして現れたことを何よりも

心配した友香は、起き上がろうとする彼に手を貸しながら、自分との下校の約束を綺麗に

忘れていた事に憤慨する。しかし、心中は彼への心配が勝り、罵倒の語彙力に思考が回らない。

仕方なく最も言い慣れた『バカ』を用いると、彼はベルトからデッキを外して変身を解除し、

いつも見ている普段の彼の姿に戻ってから、申し訳なさそうな顔をして謝罪してきた。

 

 

「本当にゴメン、友香さん。けど、色々なことが重なっちゃって」

 

「………その色々なことって、なに?」

 

「それは……………」

 

「また言えない?」

 

「………ゴメン」

 

「もういいわよバカ。ほら立って! 七時過ぎてるのよ、早く帰りましょ」

 

「え、あ、ちょっと!」

 

 

腕を引っ張って強引に連れて行く友香さんに抗う事は出来ず、成すがままに連行される僕は、

教室を出る間際に首だけ振り返って鏡を見た。するとそこには、無表情な仮面の黒い戦士が。

 

 

『また会いましょう、吉井 明久君』

 

 

仮面である以上口は見えず、また前方で憤慨する彼女の声以外は何も聞こえてこないのに、

僕にはどうしてか、鏡の向こう側でこちらを見つめる彼が、そう呟いたように思えて仕方ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルタナティブ・ゼロ、香川さんとの思いもよらない邂逅も過去となり、時は今に至る。

街並みを黄昏に染めていた夕陽は地平線に没し、取り替わって淡い月光が夜の闇に輝く。

普段の下校時刻からは大きく遅れてしまった現在、僕は友香さんと二人で下校していた。

 

 

「本当にごめんなさい」

 

「もういいわよ。それに、その、明久君が無事なら何よりだもの」

 

「友香さん…………」

 

「かか、勘違いしないで! 私はただ、あの化物から私を守るあなたが必要なだけなの!」

 

共に下校する約束を完全にすっぽかしていた事を誠心誠意謝罪すると、彼女は頬を緩ませて

僕を見つめながら、無事でよかったと言ってくれた。不意の優しい言葉と笑みに、僕は驚く。

しかしその後、僕を伴っての下校の理由を早口で語られて納得した。要するにSPってわけね。

 

でも彼女に何かあったら僕だって嫌だ。前みたいに、僕の不注意のせいで友香さんに危険が

及ぶなんて、想像するだけでも気分が悪くなる。彼女だけは、何があっても守り通したい。

自分でも知らないうちに、彼女を守ることを優先させていた僕は、最後に付け加えられた

言葉を微笑みを以て受け入れた。すると彼女は、顔を一気に赤くして俯いてしまった。

 

どうかしたのかと尋ねようとするより早く、彼女は頬を叩いて持ち直し、逆に問いかける。

 

 

「それで、さっきは何で鏡から? というか、どうしてあんな場所に鏡があったの?」

 

 

現状と、ライダーバトルという儀式に等しい逃走の本質を知らぬが故の、無悪な問いかけ。

彼女自身に悪気なんてこれっぽっちも無かったという事は、言われなくても分かっている。

でもどうしても、あの時の僕は思わずにいられなかった。今も、思わずにはいられない。

 

友香さんが、君が邪魔していなければ、僕は明奈の死の理由を聞けたかもしれないと。

 

勿論そんなのは八つ当たりだったことも分かってるし、彼女に非が無いことも理解してる。

けどダメなんだ。あの子が、明奈が死んだことに『運が無かった、ないし、全くの偶然』

以外の理由があったとするなら、『何者かの作為による理由』があったとするなら、僕は

知らなくちゃいけなかった。知りたかった。だから、その機会を潰した彼女を恨み憎む。

 

そんなのは嫌だ。彼女は悪くない。でも、兄としての僕は、彼女を憎んで揺るがない。

 

 

「……………それは、えっと」

 

 

思わず言い淀んでしまう僕に、言葉の切れが悪い事に違和感を抱いたであろう彼女が、

こちらの顔を覗き込むようにして近付いてくる。端正な顔立ちの美少女の顔が近いという

事実は、二重の意味で僕の心に波風を立てる。けど、その不安げな表情を見て意思を固めた。

 

 

「実は__________________」

 

 

気を抜けば恨みつらみを口走りそうになる自分を律しつつ、僕は彼女に今日の出来事を語る。

技術者として学園に来た男、香川がオルタナティブ・ゼロという仮面ライダーであることを

初め、つい先ほどDクラス内にて彼と会話をし、そこで妹の死の理由について何かを知っている

素振りの彼に、それを聞く機会があったことも。言われた通り、冷静であることに努めながら。

 

休むことなく話し終えて口を閉ざした僕は、途中からやけに顔色を目まぐるしく変えていた

彼女の様子を横目でうかがうと、何やら罪悪感を感じているような、申し訳なさげな顔をして

こちらを見る彼女に気付いた。言い過ぎたのかと焦る僕に、友香さんは顔色を曇らせ謝罪する。

 

 

「ごめんなさい! 私が余計な事をしたから…………」

 

「友香さんは悪くないよ。あれはただ、間が悪かっただけだから」

 

「でも、でも私が口を挟まなかったら、妹さんの事を」

 

「…………うん。でも、いいんだ」

 

 

心の底から申し訳なさそうにしている彼女の顔を見れば、本気の謝罪だとすぐに分かった。

だからこそ僕は、最初から考えていた通り、彼女には謝る理由なんてない事を諭しつつ、

香川さんとの会談があのタイミングで御破算になったことが良いことだと笑顔で答える。

 

 

「あの時の僕は冷静じゃなかった。何を言われても、きっと信じられなかったと思う。

実際何度も落ち着けって言われちゃったしね。だから、あの場はアレで良かったんだよ」

 

「明久君、でも、私は」

 

「いいんだってば。けどそんなに気にするなら、代わりに僕に勉強を教えて?」

 

「え?」

 

「今度の召喚大会、僕も出場する理由が出来ちゃったからさ。だから、お願い!」

 

「……………妥協案を出す側が頼み込んでどうするのよ、バーカ」

 

「うぅ」

 

 

未だに食い下がる友香さんに、僕は駄目押しの妥協案を出した。そこまでは良かったけど、

自分でも気付かないうちに下手に出ていたらしく、結果的に彼女が主導権を握ることとなる。

さりげにバカ呼ばわりされて情けなさを痛感すると、先程までの曇った表情を一変させて、

暗い夜空を照らす月のように穏やかな笑みをたたえた彼女は、ゆったりと距離を縮めてきた。

そのまま、ほとんどゼロ距離になった僕の右肘を掴みつつ、普段通りの勝気な口調で続ける。

 

 

「もう、いいわよ。手伝ってあげるわ、仕方なくね」

 

「ありがとう!」

 

「い、いいってば! もう、それじゃ明日からは猛特訓ね!」

 

「うん!」

 

 

こんなに暗くなった夜でも分かるほどに顔を赤くした友香さんに、僕は感謝を述べる。

いつのまにか立場が逆転してしまっているけど、こういうところが僕と彼女らしいといえば、

そういうことになるんだろう。それに今、改めて分かったことがもう一つあった。

 

 

「そうと決まれば、早く帰りましょう! 明久君!」

 

「_________________うん!」

 

 

 

小山 友香という人には、今みたいに笑っていてほしいということだ。

 

 

 

 









いかがだったでしょうか(息も絶え絶え)


もう本当に、どこまでも手抜きな前後編で申し訳ないです。
最近の自分は何というか、心情描写よりも戦闘描写の方が割合的に
書きやすくなっているとでも言いましょうか。ええ、まぁいいわけですね。


それではまた、戦わなければ生き残れない次回をお楽しみに!

御意見ご感想、並びに質問や批評なども受け付けております!

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