僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

32 / 38


どうも皆様、「小説家になろう」に手を出そうかと考えている萃夢想天です。
ただでさえ手が回らない上に文章力もポンコツな私が、あんな神聖な舞台に
足を踏み入れようなどと、思い上がりも甚だしいのは分かっているんですが。

友人が真剣に小説家を目指していて、彼を追いかけるようにしてSSを書く
自分を見つめなおしたら、私もいよいよと思ったのですが…………。


恒例の私事はここまで。


前回は、王蛇が乱入したところで終わっていましたね。
現在連載中の他の作品でもそうなのですが、たまに執筆がはかどらない事態、
いわゆるスランプに現在陥っておりまして。上手く筆が乗らないんですよね。
そのせいで日曜日更新がズレにズレて、まさかの水曜日に更新する羽目に。


愚痴はここまでといたしましょう。
それでは、どうぞ!





問30「僕と戦いと目の前の事(前編)」

 

 

 

 

 

陽は完全に落ち、周囲を静寂と暗闇が支配する春の始夜。

全てが反転した世界の中、男たちは集った。

 

身の丈ほどはある重鎗を構えながらも、受けた傷によろめく黒騎士ことナイト。

若草色の装甲のあちこちにヒビを奔らせ、しかし余裕のある道化師ことベルデ。

毒々しい紫の装甲に身を包み、片手剣ベノサーベルを振るう狂戦士こと王蛇。

 

ひとたび鏡の世界で出会ったなら、己の命を賭けて戦う宿命にある三人の戦士たち。

自身が抱く願いを叶えるために、十二人の命を奪い合い、唯一の勝利者を決める戦いに

勝ち残ろうとする黒騎士と道化師の前に、戦うことこそが願いである狂戦士が現れた。

 

 

「ははァ………楽しい祭は、ここからだァ!」

 

命の奪い合いを"祭"と称して昂る王蛇は、湾曲したドリル状の武器、刃のない片手剣を振り上げ、

動きを見せようとしないナイトとベルデに戦いを促す。けれど、二人は一向に戦いを始めない。

否、戦いを始めるつもりが無いのだ。

 

彼らとて、自分のコンディションと態勢が万全であったのなら、王蛇の誘いに乗ったのだろうが、

今はとてもではないが勝負に出られるほどの力は無かった。カードもそれなりに使用した以上、

相手の実力が未知数な時点で、ナイトもベルデも真っ先に考えついたのは、撤退であった。

 

ナイトは特に、早急な対応が求められる状況にある。

ミラーモンスターとの戦いを終えた直後、ベルデから戦いを吹っ掛けられて応戦。しかしながら、

予想以上の苦戦を強いられてしまったため、ナイトの鎧に受けたダメージ量も決して少なくない。

この場は退こうと考え始めたころになって、第三のライダーが介入してきたとあっては、普通に

考えて一番最初に撤退の二文字が頭に浮かぶ。よってナイトは、この戦闘からの離脱を決定した。

 

しかし、この場に於いてもう一人、より効率的で合理的な撤退策を考えた者がいる。

 

 

【FINAL VENT】

 

「なに⁉」

 

「ァあ?」

 

 

街中に配置されている街灯のわずかな明かりの下で、仮面越しに聞こえてきた電子音声の内容に

ナイトは驚愕し、王蛇はようやくやる気になったかと内心喜んでいた。そして、彼は動き出した。

 

乱戦模様の現状、この混乱を利用して一人でも多く敵を倒そうと、そう考えたベルデが動いた。

 

悟られぬようにデッキから抜き取ったカードを、左太腿にある召喚機バイオバイザーから伸びる

糸に取り付け、瞬時に手を離した。すると糸は自動で巻き戻り、本体へと装填されていく。

そうして人知れず発動された必殺の一撃、その矛先は王蛇_________ではなく、ナイトだった。

 

 

「ヘっヘヘ…………ハッハァー‼」

 

 

唐突に宣言されたファイナルベントに驚く二人をよそに、ベルデは行動を開始する。

まず、ナイトの後方に音も無く契約モンスターのバイオグリーザが現れ、口内から伸びる舌を

街灯の緩やかに曲がった部分へと向けて伸ばし、三重ほどにグルグルと巻き付ける。

そこからさらに伸びる舌は、対角線上にいるベルデへと向かっていき、そのタイミングを完璧に

把握している彼は、自分の真上に舌先が来た瞬間にバック転の要領で跳躍し、足に舌を絡ませた。

 

客観的にその技を説明するのなら、大道芸人やサーカス一座が演目で行う、空中ブランコの如く。

宙吊り状態になったベルデは、空いた両腕をいっぱいまで広げながら、振り子と同じ運動方法で

前方でこちらを警戒しているナイトの、その足元へと急速に接近していった。

 

ベルデのファイナルベントの名は、『デスバニッシュ』という。

コレは、全ライダーが所有するファイナルベントの中でも、対人戦に於いて最強を誇る技である。

その理由は単純明快。このデスバニッシュは、そもそもライダーを仕留めるためにある技なのだ。

この技が発動し、このままベルデが順調に事を運べば、ナイトの命運は間違いなく尽きる。

振り子の運動によって、街灯を主軸に扇状の移動をする彼は、掻っ攫うようにしてナイトの足を

両腕でホールドした後、足に巻かれた舌を離させ、運動エネルギーと自然落下の二つを利用して

ナイトを始末するのだ。ナイトの足を掴み、両脇を自身の足で踏み、その態勢のまま地面へと

敵を頭から叩きつける。平たく言ってしまえば、空中で行うパイルドライバーである。

 

人間は弱点が多い。そしてその構造上、首の骨が折られただけでも、生命活動を維持できない。

ベルデのファイナルベントは、敵を頭から地面へ激突させるため、一度捕縛に成功すれば、

あとはもう間違いなく敵と葬り去ることが可能な技。それが今、満身創痍のナイトへ迫っていた。

 

 

「逃げるにしても、一人潰してからの方がいいよなぁ! せっかく弱り切ってる奴を前に、

尻尾だけ巻いて逃げ帰るってのも勿体ねぇ! コレでまた一人脱落だ、あばよナイトォ‼」

 

 

空中ブランコをしながら迫るベルデが、地面すれすれを滑空しつつ高らかにまくし立てる。

この技は対人戦に於いて最強と説明したが、だからといってモンスターに通じないという

わけでもなく、人型に近しい外観のモンスターであれば、大抵同じ末路を辿らせられる。

ベルデはこれまでの経験上、ダメージが蓄積したことで撤退を視野に入れた敵ほど、

単なる攻撃や追撃よりも、とどめの一撃を加えられるという方がよりプレッシャーとなることを

理解していた。さらに、ナイトにはかつて、キャンサーを始末する際にこの技を見られている。

デスバニッシュは、正面からの一対一という戦闘には不向きな技で、むしろ奇襲や不意打ちなどの

暗殺系統の技であることを、ベルデは熟知している。故にこの一撃は、必殺でなくてはならない。

 

一度目に始末し、二度目があるならば完全に抹殺する。三度も同じ技を目撃されてはならない。

いきなり最終技を繰り出してきたベルデに、警戒心を塗りつぶす驚愕によって対応が遅れた

ナイトは、何とか急接近してくる敵を排斥しようと重鎗を構えるが、もうその行動は遅過ぎた。

 

迎撃態勢を整えようとした頃にはもう、ベルデの死の抱擁が、ナイトの足元まで近付いていた。

 

 

「ォあア‼」

 

 

だが、死の抱擁がナイトの足を抱き締める寸前、王蛇の持つサーベルがベルデの胴を切り裂く。

 

 

「がッッ⁉」

 

 

宙吊りの状態で逃げ場のないベルデは、自分の運動エネルギーも相まって、相当な深さでの

切り傷を胸部から胴部にかけての装甲に受けてしまい、一瞬でナイト以上の痛手を負った。

 

あちこちに奔っていたヒビは、今の一撃を受けた箇所から伸びる亀裂とつながり、より大きな

ヒビとなって装甲を隅から破片へと変えていく。もはやベルデは、己の身を守る鎧が機能を

果たすことのできぬ状態となっていた。しかしながら、ここで手を休めるほど王蛇は甘くない。

 

 

「ハッハハ………ハッ! オラッ!」

 

「ぐっ___________あああぁぁ‼」

 

「ォお………いいぞ、コレだァ。この感覚だァ、俺を楽しませてくれるのは‼」

 

ファイナルベントが不発に終わり、さらに深く重い一撃によって道端に雑草のように転がった

ベルデに近づき、王蛇は痛みに悶え苦しむその体へ、何度も何度も力を込めて足踏みを繰り出す。

狂戦士の足が打ち下ろされるたびに、ベルデの体からは装甲が消え、代わりに苦痛の悲鳴が響く。

戦う事で何かしらの快楽を享受しているらしい彼は、欲望の赴くままに足を交互に打ち下ろした。

 

「はッ! はァッ! ハッハァッ‼」

 

「ガハッ、ぐぅ! クソ、がアアァァ‼」

 

 

子供がお気に入りの玩具に夢中になるように、王蛇はひたすらベルデの体をその足で踏み抜く。

戦う事の悦楽に浸り、敵を足蹴にして優位を誇る行為が、彼の中にある攻撃性をさらに刺激し、

一発を入れるたびに、どんどんその威力と力のいり具合が増していく。その姿は、まさに狂戦士。

 

だがここで、振り降ろされ続ける王蛇の右足をベルデが掴み、仮面越しに怨嗟の声を張り上げる。

 

 

「イイ気に、なってんじゃ、ねぇぞ…………ガキがぁぁああぁ‼」

 

 

仰向けに倒れたことが功を奏したのか、両手で掴んだ王蛇の右足へ向けてさらに自身の両脚を

絡ませ、そのままベルデは本来なら曲がり得ない方向へと、全体重をかけて掴んだ足を抑え込む。

型にすらなっていない寝技によって固められ、極められた右足から想像を絶する痛覚信号を送り

込まれた王蛇は、ベルデの動きとともにもんどりうちながら、アスファルトへと倒れこんだ。

 

完璧に足を極めた道化師は、そのまま右足をへし折ろうと力を込め、あらぬ方向へと全体重を

かけていこうとしたが、危機を察知した狂戦士の左足の蹴りが若草色の背中を猛烈に踏み抜く。

 

 

「ぐおッ! くっ、ああ、畜生………クソが‼」

 

「ァあ………おオォ、ハハハ! まだまだ、祭はこれからだよなァ‼」

 

「何なんだテメェは! ああ、最悪だ‼ ナイト、お前の始末は先延ばしにしてやる‼」

 

【CLEAR VENT】

 

「ッ! 待て‼」

 

 

蹴られた衝撃を利用して王蛇から離れたベルデは、そのまま急いでデッキからカードを取り、

バイザーに装填して効果を発動させた。彼が使用したカードは、自身を透明化させる効果を

発揮し、全身を完璧な光学迷彩で包み込んだ。このカードを使う場面は、ベルデにとって二つ。

 

奇襲を仕掛けるための接近。そしてもう一つは、言わずもがな、戦線からの離脱・撤退である。

 

姿を消したベルデは、ナイトと起き上がった王蛇をその場に残して、戦闘区域から逃げ出した。

追撃しようにも、姿は見えないうえに自分の身も危ないため、ナイトはやむを得ずベルデを

取り逃がすことを選択する。今は、逃げを選んだ敵よりも、より厄介で危険な敵がいるのだ。

 

「………この状態で、どこまでやれるか分からんが」

 

「なんだ? これからが楽しくなるところだろォ…………まァ、お前でも楽しめそうだな」

 

「逃げておいた方が良かったと、後で後悔する事になるぞ」

 

「俺は今が楽しけりゃそれでい_____________あン?」

 

 

大層大きな口を叩くナイトではあるが、その実、内心では撤退のための策を考えていた。

彼自身、この数分にも満たない邂逅の間に、目の前のライダーの異常な強さは感じている。

ファイナルベントを発動している相手へ、逆に自分から突っ込んでそれを迎撃するなどとは、

常人の考えではない。自分へ矛先が向けられていないのであれば、普通は傍観するだろう。

だが、このライダーはそうしなかった。加えて先ほどからの言葉の通り、戦意に溢れている。

 

逃がしてくれるとは思えない。どうにかして逃げなくては。

 

ナイトがそう考え、撤退する策を内心で練り始めた時、ふと王蛇の視線が別を向いた。

自分よりもさらに後ろへと向けられた視線に気付き、ナイトも同じ場所へ視線を向ける。

 

そして、本日何度目になるかも分からぬ驚愕に、身を震わせた。

 

 

「なっ………龍騎、何故お前が⁉」

 

「おォ、あの時の奴かァ………‼」

 

『………………………』

 

 

ナイトの背後には、一言も発することなくただ、呆然と立ち尽くす龍騎の姿があった。

 

時間帯が完全に夜となっているためか、いつもよりやけに暗い雰囲気を感じさせるが、

それでも外見は完全に龍騎のソレであった故に、ここにいることが不自然でならない。

それに、普段ならばライダーがミラーワールドに入る際に感じられる、頭に直接響くような

あのエコーのような感覚が全くなかったのもおかしい。何かが、どこか、不可解なのだ。

 

佇んだまま一言も発さない龍騎を訝しむナイトとは真逆に、王蛇は怒りを露にしていた。

ナイトは知らぬことだが、王蛇は前に一度龍騎と戦ったことがあり、その圧倒的な戦闘力を

以て攻め立てたものの、目を見張るような大反撃に遭い、完全に打ち負かされたのだ。

 

その一件以来、王蛇はいつか龍騎を打倒しようと、日々機会を得ようとライダーとしての

戦いに慣れるべく、時間があればミラーワールドに入るようにしているほどだった。

 

 

「はァァ………ちょうどいい。一人減ったから、お前も祭に参加しろ」

 

『……………………』

 

 

ベルデが逃げ出した状況を祭で例える王蛇だが、何故か龍騎は無言のまま立ち尽くすだけ。

依然とどこか様子が違う事にやっと気付いたのも束の間、手にしていたベノサーベルの

制限時間が終了したことで、ガラスが割れるような音とともにそれは粉々に砕け散る。

しかし、得物が無くなったことなど意に介さず、王蛇は徒手空拳で龍騎に襲い掛かった。

 

首をぐるりと回し、コキコキと音を鳴らしてから駆け出した王蛇は、ほんの数秒で距離を

詰め切ったかと思うと、両手を握り拳へと変えて構えも何もない戦法で、豪快に振るう。

 

 

『…………ふん、遊んでやるか』

 

 

ここで初めて言葉を発した龍騎は、目前まで迫っていた王蛇の拳を、何事もなく捉えた。

大の男が大振りで振るった拳を、いとも容易く受け止めて見せた龍騎に、流石のナイトも

ここで違和感が確信に変わる。龍騎の姿をしているが、目の前にいる奴は彼ではないと。

 

それは王蛇も同様で、あの時戦った龍騎は少なくとも、こんな余裕のある戦い方をする

ような人物ではなかったことを思い出し、力を込めても動かない拳を睨んで怒鳴った。

 

 

「誰だお前、アイツじゃないのか………?」

 

『いいや、正解だ。俺はアイツで、アイツは俺だからな』

 

 

対する龍騎は事もなげに返答を示し、受け止めた拳を解放したかと思うと、蹴りを入れる。

ガラ空きだった胴体に鋭い蹴打を撃ち込まれた王蛇は、大きくのけぞって夜空を見上げた。

それが皮切りとなって、龍騎の烈火の如き攻撃が、幕を開ける。

 

蹴りの一撃でのけぞる王蛇の懐へと潜り込み、上体を起こされる前に右脇腹へブローを

打ち込んだ龍騎はそこから、下腹部、右肩部、左胸部と、すさまじい拳の乱打をち叩き込む。

 

『弱いな』

 

 

一撃一撃がとてつもなく重いのか、傷の無かった王蛇の鎧がみるみるうちに蹂躙されていき、

拳の雨が一通り止んだ頃にはもう、ヒビのない箇所を探す方が苦労しそうな有り様であった。

たった十数秒の攻撃だけで王蛇は崩れ落ち、幽かな街灯がゴング代わりに勝者を照らす。

しかし龍騎は、膝から倒れ伏すところだった敗者を掴んで引き立たせると、そのまま静かに

右拳を握り、腰の後ろへと引き溜めてから前方へ押し出し、狂戦士を一発で吹き飛ばした。

 

街灯の明かりも届かぬ暗闇の先へと飛ばされた王蛇は恐らく、戦闘不能にされたはずだ。

強固な装甲にヒビを入れるほどの拳を受けた後に、ここまでの一撃をまともに喰らったと

あっては、いくら戦闘狂であったとしても不死身ではない。もう立ち上がれないだろう。

 

 

「はっ! そうだ、龍騎‼ アイツは__________いない⁉」

 

 

そんな事よりもと周囲を見回したナイトだったが、既に龍騎の姿はどこにもなかった。

気配を察知されることなく突然に現れ、同様に何の手がかりも残さぬまま忽然と消える。

 

いつの間にかいなくなっていた龍騎の存在に、ナイトは困惑することしかできなかった。

 

 







いかがだったでしょうか?

申し訳ありません、本日は本調子ではない上に短すぎましたね。
本当ならば明久の方も触れる予定だったのですが………何とも情けない。


それではまた、戦わなければ生き残れない次回を、お楽しみに!


ご意見ご感想、並びに質問や厳しい批評も大募集しております!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。