僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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どうも皆様、先日は投稿できず、すみませんでした。
色々と野暮用がありまして、その結果こうして月曜日に書く羽目に………。
日曜日の方が大勢の方が見てくださるんですが、これは仕方ありませんね。

さて今回は、タイトルから大体の内容は察することができるかと。
バカテス側のストーリーばかりに目を向けすぎて、肝心のライダーバトルを
疎かにするわけにもいきませんし、こうしてちょくちょくと戦いを挟んで
行こうかと思っていますが、どうでしょうか?


それでは、どうぞ!





問29「騎士と道化師と始まる戦い」

 

 

 

 

「痛たたたた‼ おい、いい加減に放せ、翔子‼」

 

「………私を置いて帰ろうなんて、甘い」

 

 

チッ、俺としたことがとんでもないヘマをしたもんだ。時間が時間だから、もうとっくに俺を

置いて帰ってるかと思ってたのに、チクショー。まさか校門前で今まで待っていやがったとは。

 

俺は翔子から逃げるために色々と手を尽くしていたんだが、そこに明久が現れて今度の学園祭に

協力してくれ、なんて助けを乞われたせいで、わざわざFクラスの何人かを集めた会議まで開き、

あげくは学園長に直談判までするハメに。面倒なことが嫌いな俺にとっては、はた迷惑過ぎる。

 

だが、明久のおかげと言うべきか。学園が裏で怪しい取引をしていたという事実はさておき、

ついこの間、翔子と約束しちまった『如月ハイランド』への優待チケットの知りたくもなかった

裏事情を知ることとなった。明久と今日話さなかったら、俺は学園祭が終了すると同時に翔子と

籍を入れる未来に縛られていたかもしれん。そういう意味では、アイツに感謝しておくべきか。

裏事情を知らなければ、翔子は間違いなくただのプレオープンペアチケットを手に入れるために

召喚大会に参加し、Aクラス主席の力を以てこれを入手。あとはもう、考えたくもねぇ。

 

とにかく、これで俺も戦わざるを得ない理由ができたわけだ。あーあ、お先真っ暗だぜ。

 

 

「………雄二、もっとくっつく」

 

「だぁあああぁああ‼ お前、バカか! 関節技(サブミッション)キメながら距離を詰めるな‼」

 

「………何のことか分からない」

 

「お前なぁああああああ‼ 肘が‼ 俺の肘が明後日の方向に⁉」

 

 

お先真っ暗というか、お肘真っ黒というか。変色し始めてるじゃねぇか!

 

 

「ったく! 毎度毎度死にかけてたまるか!」

 

「………残念。もっと雄二に近付きたいのに」

 

「関節技さえキメなきゃ、俺もさして抵抗しねぇよ」

 

「………何のこと?」

 

「オイ、嘘だろ? お前アレ素でやってんのか? 嘘だろ?」

 

 

強引に振りほどいた肘をさすりながら、既に陽が落ちて薄暗がりが増えた通学路を下校する。

やたらと長い下り坂を並んで歩き、そこから同じ道を通って俺たちは家路へと着くのだ。

翔子と俺の家はそこまで離れてねぇから、自然とお互いの通学路は同じになるわけだが、

こうも毎度毎度酷い目に遭わされたら、誰だって嫌がると思うのが普通だ。何故分からん。

 

西の空に陽はとっくに沈み、近くに見えてきた街並みの明かりが光源となって夜空を照らす。

星の光も輝いてはいるが、やっぱり人工物の光の方が明度が高いな。これも文明の利点ってか。

しかし、アレだな。俺は割とホラー系に耐性があるからさほどでもねぇが、それでもやはり

街灯のない通路とか、人気のない暗がりなんかは、不気味なものを感じる。怖くはねぇぞ。

ただ、こういう暗闇の中で突然物音がしたりすれば、いくら俺でも多少ビビったりはするさ。

だからなるべく速足で過ぎ去る。人っ子一人いない薄気味悪い通路とか、眺めても意味ねぇし。

 

 

「………雄二」

 

「あ? なんだ?」

 

「………アレ、なにかな」

 

「アレ? どれだよ」

 

「………あそこ」

 

 

暗がりの方へ目を向けないように前を見つめながら行こうとすると、横合いから服の裾を

引っ張られて、翔子に何かを尋ねられた。オイオイ、勘弁しろよ。この歳でお化けだとか

言うつもりじゃねぇだろうな。つーか、本気でやめろ。冗談にしても場所選べっての。

 

翔子に促されて周囲を見ても、何もない。そしたら翔子が、ゆっくりと道の奥を指差した。

俺たちが進んでいる通路の真横だな。確か、あそこを曲がるとすぐ先にT字路があるはずの。

周囲の暗さと、まだ完全に夜になりきっていないというシチュエーションが、今まで見てきた

数々のホラー映画などの一部と合致し始める。バカ野郎、こんなんで俺がビビるかってんだ。

 

さりげなく翔子を背中へ移しながら、俺は目を凝らして指先が示した暗がりの先を睨む。

 

 

「……………ん?」

 

 

そして、俺の瞳は何かを捉えた。

 

直後に、瞳だけでなく、耳も何かの音を拾った。

 

「………雄二」

 

「よく見えん。だが、人の足っぽく見えたな」

 

「………足?」

 

「ああ。でも、立ってたわけじゃねぇ。完全に横向いてた」

 

「………寝てる時みたいに?」

 

「そんな感じだな。ホームレスかなんかだろ」

 

 

明かりに乏しい通路の奥で微かに動いていたのは、人の足。まぁ、靴は履いてたけど。

翔子が言うように、完全に真横を向いていたその足は、例えるなら寝ているような状態だ。

ただ、自分はホームレスだって言ったが、そうは思えない。若干だが、下に履いていたのは

革靴っぽかったし、ここは町のはずれだって言っても、浮浪者がいたのは見たことがねぇ。

何か、何かがおかしい。それにさっきから、何か聞こえる。薄気味悪くなる、変な音が。

 

 

ずるずる、ずるずる

 

 

また聞こえてきた。何なんだ、この音は。いや待てよ、コレって、引きずる音に似てないか。

アスファルトの地面と擦れるのも構わずに、力任せに引きずっているような音が聞こえる。

それも、今しがた睨みつけている通路の奥から。ここまでくると、背筋に鳥肌が立ちそうだ。

 

 

「………雄二?」

 

「妙だ」

 

「………どうしたの?」

 

「あの足、動いてる………真横向きながら自分で動けるか? 無理だろ、絶対」

 

「………誰かに、引っ張られてる?」

 

「かもな。行くぞ、翔子」

 

「………うん」

 

 

どうもおかしい。嫌な予感が実感となって、いつの間にか握っていた拳の内側に、大量の

脂汗を掻かせてくるが知ったことじゃねぇ。まったく、一体何がどうなってやがるんだ。

 

流石に無視していくわけにもいかず、俺は翔子を背に庇いながら、通路の奥へ足を踏み入れる。

一歩ごとに周囲の暗さが増していき、街灯の明かりが徐々に離れていってしまう。

少しばかりそれが心細く感じるが、そんな情けない姿を翔子にだけは見せるわけにはいかねぇ。

半ば意地になった状態のまま、俺はすぐ手前まで迫っていた通路の曲がり角を、覗き込んだ。

 

 

「なっ⁉」

 

 

そこには、何もなかった。

 

いや、正確には、二つだけあった。明らかに異常なものが、二つ。

 

 

「なんで、こんなところに血痕があんだよ‼」

 

 

一つは、おびただしい量の血の痕だ。通路を曲がったところから、至る所が遍なく赤い。

しかもソレは、何故か緩やかな線を描きながら、少し先のカーブミラーまで続いていた。

そしてこれもまたおかしなことに、そのカーブミラーの下で、血痕がプッツリ途切れている。

 

 

「………なに、これ」

 

「見るな翔子‼ 後ろにいろ‼」

 

「………でも」

 

「いいから‼ それと、すぐに警察に連絡しろ‼」

 

「………わ、分かった」

 

 

異常なものはもう一つある。さっきの足が履いていたっぽい、上品な見た目の革靴だ。

さっき俺が見た時はちゃんと、二足そろってたはずだ。なのに今は、片方しかない。

これも血痕と同じで、カーブミラーの真下に転がってる。いったい、何がどうなってる。

 

 

この時の俺たちは、あまりに日常からかけ離れた光景を見たせいで、狼狽し、混乱していた。

だから、気付けなかった。いや、気付いていても、幻覚か何かだと割り切っていただろう。

 

俺たちが不可思議な惨状に竦む中、カーブミラーには黒い騎士の姿が映り込んでいたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤髪の青年と黒髪の美少女が戦慄するカーブミラーの、その向こう側にある世界の中では、

全身を黒い強化スーツに身を包み、白銀の鎧を一部まとった黒騎士が異形と戦いを終えていた。

 

 

「ふん、ファイナルベントを使うまでもなかったか。大したエサにはならないかもな」

 

『キュイィィ‼』

 

「…………まあいいか」

 

 

勢いに任せたこともあってか、肉体的疲労が思っていた以上に重くのしかかってきているため、

その黒騎士________仮面ライダーナイトは、手にした細身の剣を杖代わりにして佇んでいる。

 

彼の上空には、既に暗くなっている夜空と同化するような色合いをした、彼の契約モンスター

であるダークウィングが旋回しつつ飛翔していた。ナイトが斃した敵モンスターの肉体から

抽出されたエネルギーを取り込むと同時に、用は済んだとばかりに去っていったが。

 

大したケガもなく無事に戦いを終えたナイトだが、何故かその場から動こうとはしない。

否、彼は動くことができないのだ。戦い始めた時から感じていた、何者かの気配を察知して。

 

 

「………最近、どうも誰かに監視されているような気がする」

 

ポツリと呟くようでいて、周囲にも聞こえるほどの音程で言葉を漏らしたナイトは、

自分が今いる通路を一望できる場所はないかと首を動かすが、それは徒労の結果に終わる。

ナイトがモンスターを倒し終えた通路。そこに面している家屋の屋根の上に、ソレはいた。

ソレはしゃがみこんでいた姿勢を正してから、一回の跳躍でナイトの目の前に降り立った。

 

 

「お前は、あの時の」

 

「油断も隙もねぇ奴だ。龍騎とかいうケツの青っちょろいガキの方が、よっぽど楽かもな」

 

「………シザースの一件以来、ずっと俺たちを監視していたのか」

 

 

夜の帳が下りた町の通路に現れたのは、いつぞやの戦いで乱入してきた、若草色のライダー。

過去にナイト自身が苦戦を強いられ、撤退を余儀なくされた因縁の敵、仮面ライダーベルデ。

 

人を小馬鹿にしたような態度を取る相手だと知っているナイトは、自身に冷静を心がけるべきと

内心で言い聞かせて、今度は奴の口車に乗せられないように慎重になろうと、警戒心を強める。

逆にベルデの方はと言うと、先ほど以上に警戒する雰囲気が増したナイトからの威圧感を受けて、

やはり襲撃するのは龍騎の方にすれば良かった、と若干後悔していた。

 

そんなベルデは、ナイトからの高圧的な言葉に返事を返す。

 

 

「ああ、そうだ。あの時はお前らのおかげで、楽に一人脱落させられたからな」

 

「お前がやらなくても、俺がやっていたさ」

 

「そいつはどーかな? 龍騎みたいなガキとつるんでんだ、お前も充分ガキなんだよ」

 

「俺はアイツとは違う‼」

 

 

ベルデの態度と言動を前にして、早くも冷静な心が乱されかけていると我に返ったナイトは、

右手に持った細身の召喚剣を強く握りしめて、そのまま剣の切っ先を眼前の敵に向ける。

 

 

「御託はいい。言葉遊びも御免だ。さっさとかかってこい」

 

「へっ、手っ取り早くて助かるね。でもいいのか? 龍騎のヤツを呼ばなくて」

 

「言ったはずだ、俺はアイツとは違うとな!」

 

「どーだかな。ああそれと、あのガキ。ゾルダの野郎とも手ぇ組んでるみたいだぜ?」

 

「なに?」

 

「へっへっへっへ………確認してないのか?」

 

「黙れ。そっちからこないなら、こちらからいくぞ‼」

 

「チッ………好きにしろよ」

 

 

再三にわたって口八丁を披露するベルデに、ナイトは聞く耳を持たずに剣を構えた。

その様子を見て、これ以上はもう効果は見込めないと悟ったベルデもまた、寸分の隙も

見せない黒騎士の姿を前にして、両手を広げた独特のスタイルで応戦の意思を見せる。

 

しかし、この場でナイトだけが、自分が不利な状況にいると理解していた。

 

彼はつい先ほどまで、モンスターと戦っていたのだ。大したケガもしなかったうえに、

ベントカードもほとんど使用してはいないため、ライダーと戦う分のストックは充分にある。

けれど、確実に勝てるという保証はない。何故なら、彼のまとう鎧には、制限時間があるからだ。

おそらくベルデは、それを消耗させた状態で戦うことを、その有利さを熟知しているからこそ、

今までのように遠巻きから監視して、絶好のタイミングを狙って現れたのだろう。

 

つまり、今回の戦いで圧倒的に有利なのは、言うまでもなくベルデの側だ。

 

 

(……………今の様子じゃ、あと六分といったところか)

 

 

変身直後でも、十分未満しかない制限時間だ。これ以上、下らない舌戦に費やす無駄な時間は

あるわけがない。それが分かっているからこそ、ナイトは早期決着に対して焦っていた。

 

内心で焦燥感に駆られるナイトと、道化師のように敵を翻弄するベルデが、対峙する。

 

「いくぞ!」

 

「どこからでも来いよ!」

 

 

光源が遠くの方で、夜闇を寂しく照らす反転した夜景の中、ライダーバトルが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは、この感覚は!」

 

「ええ、誰かと誰かが戦っているようですね」

 

 

僕がDクラスの教室に立てかけてあった鏡を通じて、この鏡世界(ミラーワールド)へとやってきた直後に、

仮面ライダーとして戦う者だけに作用する、特殊な反響のようなものが頭に響いてきた。

モンスターとライダーの反応は、結構違うから僕でも分かる。これは、ライダーとライダーだ。

つまりこれは、どこかでライダーバトルが始まったということに他ならない。

 

本当ならば、僕はすぐさまそこへ駆けつけて戦いたい。ライダーを一人でも減らしたい。

人を殺すという事実に変わりはないけれど、それでも、僕は明奈の命を手に入れたいから。

そんな僕の焦りを理解しているかのように、眼前の香川さん________オルタナティブ・ゼロは

龍騎へと変身した僕の肩に手を置いて、「まずはこちらの話の方を優先すべき」とだけ語った。

ライダーバトルよりも優先される話なんて、本当にあるんだろうか。あったとしても、どんな。

 

戦いを無視してまでの話の内容が気になり、僕は彼に食ってかかる。

 

 

「話してください、香川さん。一体何の目的でこんな」

 

「その前に、いいですか? 今のあなたは龍騎、私はオルタナティブ・ゼロです」

 

「は?」

 

「ですから、いくら人気(ひとけ)の少ない場所を選んだといっても、誰かに聞かれる可能性がない

わけでもないんですよ。ですので、なるべく本名は避け、ライダーとしての名を使うべきです」

 

「は、はぁ………」

 

「以後、気をつけなさい。おっと、それよりも本題でしたね」

 

 

話の内容を聞くことに焦るあまり、確かに僕は周囲に気を配ってなどいなかった。

余裕がないといえばそれまでだけど、彼の言う通りだと遅まきながら理解はできた。

今後はこういうことにも、気をつけなくちゃいけないよな。やっぱり難しいんだなぁ。

 

って、今はそれよりも大事なことがあるんだった。気を引き締めないと。

 

気を取り直した僕は、本題に入るという前置きのもと、香川さんの話に耳を傾けた。

 

 

「君の妹が失踪したその理由、知りたくはないかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ………ハァ……くっ!」

 

【SWORD VENT】

 

「……ハァ………ハァ……チッ!」

 

【HOLD VENT】

 

 

戦闘を開始してからおよそ二分ほど経過した頃、ナイトは召喚機と剣が一体化している

ダークバイザーで中距離戦を展開し、逆に徒手空拳のベルデはそれらの斬撃を潜り抜け、

蹴りや手刀を浴びせていた。だが、一向に埒が明かないと判断した二人は、ほとんど同時に

デッキからカードを抜き取り、自分の持つ召喚機へと装填し、新たに武器を召還する。

 

ナイトは、漆黒の夜空と同じ色合いをした、重厚なウィングランサーを手にして構え、

ベルデも、自身の契約モンスターの一部である、バイオワインダーを右手に装備した。

 

今度は互いに武器を手に取り、得物を持つという点ではアドバンテージは五分五分だが、

直接矛を交えたことが今まで一度もなかった二人は、武器の相性を熟知してはいない。

 

「そらよっ!」

 

「なにっ⁉」

 

 

先攻を取ったのはベルデ。彼はバイオグリーザの目と思わしき部位を模った武器である、

バイオワインダーを巧みな手捌きで操り、ランス系の武器であるウィングランサーを

構えたナイトに一撃を与えた。そのことに驚愕するナイトは、相手の武器を把握する。

 

(なんだあの武器は! 投擲武器かと思ったが、ヨーヨーみたいなものなのか⁉)

 

 

ナイトにダメージを負わせたソレは、シュルシュルと音を立ててベルデの右手へと戻り、

そのまま掌の中に再び収まった。その見た目はさながら、射程距離の長いヨーヨーである。

円盤状の見た目から、投擲するタイプの武器だと勘違いしていたナイトは、ここにきて

自らが鈍重で巨大なランスを召還した判断を、過ちだと悟り、内心で自らを叱責した。

ベルデの方は、敵の召喚した武器が大きめのランスということで、遠距離からチマチマと

攻撃できる武器をセレクトすれば、いい時間稼ぎ程度にはなるとだけ考えていたのだが、

これが意外にも相性が良い。当たりを引いたと内心小躍りしかけるベルデは、そこから

右手だけでなく、全身を用いて舞うように身体を動かし、己の武器を自由自在に操る。

 

 

「そーりゃ!」

 

「くっ!」

 

「ははっ! どーしたぁ?」

 

「チィッ!」

 

「はっははは! 無様だなぁ、ナイト‼」

 

 

糸でつながっているとはいえ、必ずしも放物線を描いて移動するというわけではなく、

ベルデの挙動一つでその方向を変え、不規則な軌道へと曲がり、ナイトを翻弄していく。

巧みな体捌きで舞いながら、右手に戻ってくる円盤を瞬時に放り返すその姿はまるで、

大玉の上に乗りながらジャグリングをする道化師さながら。怪しく、けれど実直な動作。

 

トリッキーな攻撃方法に押され気味なナイトだったが、これまでの戦いの場数の違いから、

ベルデの攻撃は、一回一回がさほど攻撃力がないことを理解し、攻勢に打って出た。

 

 

「はぁ!」

 

「へっ、そんな鈍い槍が当たるかよ!」

 

「それはどうかな」

 

「なに?」

 

 

切っ先を左に向けたウィングランサーを、射程範囲にベルデを捉えた瞬間横薙ぎに振るった

ものの、軽業師のような軽快な回避によって躱される。が、彼の狙いはベルデではない。

 

ベルデが投擲し、糸を伝って持ち主の右手へと舞い戻らんとするバイオワインダーの糸。

そこにウィングランサーをぶつけて、糸の軌道を無理やり変化させて自分へと向ける。

 

 

「なんだと⁉」

 

「狙いはお前じゃない。初めからコイツだ」

 

「武器破壊だと…………味な真似を‼」

 

そう、ナイトが狙っていたのは、その性質上糸と直結している武器そのものだった。

彼の目論見通り、ウィングランサーの太い部分に糸が絡め取られ、そこをなぞるようにして

バイオワインダー本体がナイトの手元にやってきた。それを手にしたナイトは、握り砕く。

ガラスが割れるような音を立て、ベルデが召喚した武器が粉々になって消滅した。

 

 

「無様だな、ベルデ」

 

「この、ガキがぁ‼」

 

 

中距離以上の間合いから攻められる利点を失ったベルデは、ナイトが意趣返しの意を込めて

口にした自らの言葉を受けて、たちまち激昂する。しかし、それで現実は変えられない。

一気に不利な状況に追い込まれたベルデは、次なる策を考え、実行しようとデッキに手を伸ばし、

その行動を目聡く察知したナイトも、同じく対抗しようとデッキからカードを抜き取ろうとする。

 

ところが、両者の取ったその行動は、横合いからの第三者によって中断させられた。

 

 

「ん~~…………あアァ‼」

 

「ガハッ‼」

 

「ぐあっ⁉」

 

 

誰もいないはずの通路の奥から、何者かが急接近してきたかと視界の端で捉えた直後には、

ベルでもナイトも一瞬のうちにそれぞれの装甲から火花を散らし、同時に膝から崩れ落ちる。

 

いきなりの不意打ちにロクな防御など取れるはずもなく、ただでさえ残り時間の少なかった

ナイトは、さらにその限界時間を縮めてしまうことになった原因を、立ち上がって睨みつける。

黒騎士の兜の隙間から覗く視線の先には、彼が未だかつて出会ったことのないライダーがいた。

 

 

「なぁんだァ……? もう祭は終わったのか?」

 

「やってくれるなぁ。お前、新しいライダーか」

 

「その紋章………まさか、王蛇⁉」

 

「ォお………暴れ足りない、もっと俺を楽しませろォ‼」

 

 

強化スーツ同様、その全身を毒々しい紫色が染め上げ、肩部が異様に鋭く突き出た装甲や

頭部には、神秘さではなく暴力性を感じさせる激しい金色のラインが輝いている。

言葉の節々から伝わってくる戦闘意欲を前に、ベルデもナイトも否応なく体勢を整えた。

 

 

「はっはっは………そォだ! まだ祭はこれからだろぉ‼」

 

「やれやれ、また面倒な奴がライダーになったみたいだな」

 

「こんな時に限って、くそ!」

 

 

無傷とまではいかないものの、攻撃手段を一つ失っただけの軽微な損傷のベルデに対し、

装甲のあちこちが還元され始め、サラサラと音を立てて鎧の一部が崩壊しているナイト。

その両者をギラギラとした狂気を孕んだ視線で見つめる、紫色の仮面ライダー、王蛇。

槍を手にする黒騎士と、飄々とした道化師、そこに戦いを祭と称する狂戦士が加わり、

願いを叶えようと生命を奪い合い、他者を蹴落とすライダーバトルが、さらに激化する。

 

 

 

 









いかがだったでしょうか?

本編の番組中盤から後半にかけては、本当にどこにでも湧いて出るように
戦いに参加してましたからね、王蛇さまは。あの戦闘狂め、なんて便利なんだ。

さて、明久が香川と接近する中で、新たな戦いの幕が上がりました!
こんなんでバカテスの本編も龍騎の本編も進めていくことができるのか、
いささか不安で仕方ない私ですが、ご期待に添えられるよう頑張っていきます!


それではまた、戦わなければ生き残れない次回を、お楽しみに!

ご意見ご感想、並びに批評も大歓迎募集中でございます!

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