僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

30 / 38




どうも皆様、一か月も更新停止してしまって申し訳ありません!
何かと立て込んでおりまして………ですが、ようやく一段落着きました!

これからしばらくの間は、通常更新の軌道に戻れるかと思います。
ですのでどうか、これからもよろしくお願いいたします。


実を言うとコレ、テイク2なんです。ま~たプチ反抗期なんです。
それでは、どうぞ!





問28「僕と取引と"代用者"の正体」

 

 

 

 

 

 

 

既に今日の授業日程は終了し、窓ガラス越しにオレンジ色の光が差し込み始めた頃。

僕は悪友の雄二と二人で、教室の環境改善への助力を乞うべく、学園長室に歩を進めていた。

 

僕らFクラスの教室がある旧校舎から、学園長室のある新校舎一階の角まではそこまでの距離は

ないから、せいぜい二分くらいで着くことができた。さて、問題は学園長がいるかどうかだけど。

相談する相手が不在だったらここまで来た意味ないし、と考えていると、数人分の声が聞こえた。

 

 

『…………賞品の………として隠………!』

 

『……こそ、………勝手に………如月ハイランドに………!』

 

『まずは…………べきです。それに…………すれば、どちらも……』

 

 

学園長室の豪勢な造りの扉、その向こう側から、何やら言い争っているような声が響いている。

どうやら三人ほどいるようだ。三人、か。もしかしなくても、お取込み中ってやつだよね。

こういう場合って普通は日を改めるか、少し待ってから行くもんだろうと常識的判断を下して、

長くなるかもしれないと考えていた僕を無視して、隣に居た悪友はごく普通に扉をノックした。

「え、ちょっ! 何してんの雄二⁉」

 

「失礼しまーす!」

 

「本当に失礼なガキだねぇ。普通は返事を待つもんだろうに」

 

 

一切の躊躇いもなく部屋へと進んでいく悪友の背を追って、僕も慌てて学園長室に入室する。

すると第一声から、すさまじい正論を、ビックリするくらい口汚い言葉で放り返された。

確かにその言葉は間違ってない。社会的なマナーから言ったら、相手からの返事を待つのは当然。

でも、それを罵倒とともに交えて語ったのが、当の学園長というのが問題なんだよなぁ。

 

部屋の中に入った僕らと対面したのは、外からも聞こえていた通り、三人の大人たちだった。

一人は、言わずと知れた文月学園の学園長。外見は平安時代から生き永らえてる妖怪の如し。

そんなBBAと対面して顔を歪めているのは、この学園の教頭の地位に就く、竹原先生だ。

鋭い切れ目と知的なメガネが一部の女子に人気らしいんだけど、どうも僕は好きになれない。

この二人のことは分かる。僕だって一応、この学園の生徒だから集会とかで何度も見てるから、

学園長と教頭の顔を見間違えるはずもない。ただ、残った最後の一人が誰なのか分からない。

 

竹原教頭と同じような切れ目の持ち主で、ただこちらは黒縁の眼鏡でそれをすっぽり覆っている。

それに、少し妙なところがある。何と言えばいいんだろうか、その、教師っぽく見えない人だ。

すごく頭が良さそうに見えるのは確かなんだけど、着ている服が白衣という事もあってなのか、

教師や教員というよりも科学者っぽい印象の方が強い。もしかしたら、召喚システムの関係者?

 

そうやって僕が視界内に居る大人たちを観察している間にも、状況はどんどん進んでいた。

 

 

「まったく、とんだ来客だ。これでは話も続けられ_________まさか、貴女の差し金ですか?」

 

「馬鹿言うんじゃないよ。なんであたしが、そんなセコイ真似しなきゃならないんだい?

負い目なんざ、これっぽっちもありゃしないってのにさ。どうなんだい、ええ?」

 

「………そこまで仰られるのなら、この場はそういう事にしておきましょう。では」

 

 

何やらすごい剣幕の竹原教頭と、対照的に飄々とした態度の学園長とが言い争ってたけど、

どうやら決着……というより、落としどころを見つけたようで、二人の口論はそこで途切れた。

その後、一礼もせずにこちらを向いた竹原教頭は、何故か部屋の隅に飾ってある花瓶の方を

一瞬だけ横目で見て、扉の前に立っていた僕らのわきをかすめるようにして去っていった。

何だったんだろうか、今の。いや、そんなことよりも今は、やるべきことがあったんだ。

 

改めて僕らがここに来た理由を思い出したところで、先立って雄二が話を切り出してくれた。

 

 

「本日は、学園長にお話があって来ました!」

 

「そうかい。でも、あたしは今それどころじゃないんだ。悪く思わんでくれよガキども。

あー、学園の経営関係についてなら、今出てッた竹原に言うんだね。ああそれともう一つ。

相手に話聞いてもらおうってんなら、まずは名を名乗るのが社会の礼儀ってもんだ」

 

こんな横柄な性格の人間に、社会のマナーを説かれるなんて、世も末だよね。

 

「失礼しました。俺はFクラスの代表、坂本 雄二で、隣に居る間抜け面は_________」

 

 

そう言ってたら、雄二は意外にも反抗せずに自分の名を口にした。ん? 今なんて言った?

 

 

「_________二年生を代表する、バカです」

 

「おいコラ雄二! それは紹介じゃなくて酷評だよ! ってか、そんなの伝わるわけが」

 

「あぁ~、そうかい。アンタらがFクラス始まって以来の問題児、坂本に吉井かい」

 

「なんで伝わってるの⁉ 僕まだ名乗ってないんだけど‼」

 

 

今の雄二の言葉の、どこを聞いたら僕の個人名を特定できるのか問い詰めてやりたい。

が、しかし、今の僕らはお願いを聞いてもらう立場に居る。ここは我慢するしかない。

顔色一つ変えずに友人をバカと言い切った雄二と僕を交互に見て、学園長は何やら悪巧みを

企てているぞ、と言いたげな表情を浮かび上がらせて、棒立ちする僕を鼻で笑って応えた。

 

 

「いいだろう。気が変わった、話を聞いてやろうじゃないか」

 

「貴重なお時間を取ってくださって、ありがとうございます」

 

「慣れないブサイクな礼なんざ要らないね。そんな暇あったら、言いたいことサッサと言いな」

 

「分かりました」

 

 

それにしても、学園長の教育者と思えない口ぶりもそうだけど、驚くべきはむしろ雄二だ。

ここまで口汚く暴言を吐かれているというのに、この男がただ黙って聞いているだけだとは。

普通ならとっくにキレて殴りかかっているところなのに。敬語も使ってたし、本当に有能だな。

内外共に腐りきっていたとしても、上位者相手に礼節を欠かないとは、雄二も隅に置けないね。

 

 

「お話というのは、Fクラスの設備について…………その改善の要求にうかがった次第です」

 

「そうかい。そいつぁ暇そうなことで、なんとも羨ましい限りだよ」

 

「現状、我々の教室は、まるで学園長先生の脳みそのようにスッカスカ。穴だらけの状態です。

時折、隙間風も入ってくるほどに老朽化したその様は、もはや学園長の外観と同一と言えます」

 

 

とか思ってたら、雲行きが怪しくなってきたぞ?

 

 

「学園長のように、戦国時代以前から生きていると思しき老いぼれならばともかく、

現代社会を普通に生きている高校生にとっては、危険です。由々しき事態だと進言します。

このままこの問題を放置しておけば、健康に害を及ぼす可能性が非常に高くなると思われます」

 

 

一見すると、紳士的でかつ模範的な言葉に聞こえるかもしれないけど、その随所には地雷原に

匹敵するほど危険な言葉が散りばめられている。ご丁寧に、無礼と慇懃を適度に混ぜ合わせて。

これは多分、コイツも相当キレかかってるんじゃないかと思う。あ、目元が引きつってるし。

 

 

「長ったらしいねぇ。もっと簡潔にまとめな、ウスノロめ」

 

「要約すると、クソが作ったクソみたいなクソ教室のせいで、体調を崩す生徒が出てくるから、

業者でもなんでもいいからさっさと直せってんだよこのクソババア! と、いうことです」

 

 

あ、これはもう駄目だ。もう隠す気すら見当たらなくなってる。

 

しかし、これだけの言われようだといのに、学園長は何やら思案顔になって小言を呟くばかり。

少なくとも怒ってないことは無いだろう。あれだけの事を言われて、許せる奴はそうはいない。

いきなり先行きが不安でいっぱいになったと嘆いていると、学園長が顔を上げて答えを出した。

 

 

「よしよし。アンタらの言いたいことはよぉーく分かったよ」

 

「え? そ、それじゃあ、直してもらえるんですね!」

 

「却下だよクソガキ」

 

 

うん、まぁ正直分かってた。アレだけ言われて怒らないのは多分、聖人君子レベルだろうから。

なんてことを呑気に考えていたら、意外にもこめかみに青筋を立てている悪友が口を開く。

 

 

「な、る、ほど…………でしたら、どういうことかお教え願えますか、ババア‼」

 

「僕からもお願いします、ババア‼」

 

「………お前さんたち、本当に聞かせてもらう気はあンだろうね」

 

 

しまった、勢い余ってつい本音が。

 

「そこまでにしましょう、お互いに。自分の立場を考えて発言を選んだ方がいいですよ」

 

 

罵詈雑言の応酬を拡大させようとしたところで、それまで無言だった白衣の男性が僕たちの

言葉を遮るように声を上げて、その場を収めようとしてくれた。この人は良識がありそうだ。

 

白衣の人の言葉で冷静になった学園長と雄二の二人は、一度睨み合った後で口を閉ざした。

よかったよかった。これ以上機嫌を損ねられたら、どうなるか分かったもんじゃないからね。

 

 

「頭に上った血が戻って何よりです。では学園長、ご説明を」

 

「………説明も何も、設備に差をつけるのはこの学園の方針の一端なんだから、無理だね。

たかだかミカン箱と茣蓙で50分の授業を受けるくらいで、ガタガタ抜かすんじゃないよ」

 

 

なんてババアだ、それでも教育者の端くれなのか。

これが僕らの通う学園の長と言うんだから、涙すら出てくる。

でも、僕らのような男子高校生だって我慢ならないんだ。ましてや女子なんてあんな環境に

耐えられるわけがない。姫路さんはそれが原因で体調を崩してるし、退くわけにはいかない。

 

 

「それは困ります! 僕らはともかく、体の弱い女子がもう」

 

「__________と、いつもならそう言ってやるとこだけどね」

 

 

何としてでも首を縦に振らせようと決意を固めた直後、学園長が僕の言葉を遮ってきた。

驚いて口を閉ざした僕を見て満足そうに、手を顎に当てた彼女は自分勝手に話を続ける。

 

「こちらの頼みを聞く気があるんなら、相談に乗ってやろうじゃないか」

「よろしいのですか、学園長?」

 

「構やしないよ。向こうだって何やら企んでんだし、腹の探り合いは好かないね」

 

「貴女らしい」

 

どうやら、交換条件ということらしい。ただで頼みを聞くほど、大人は甘くないってか。

それにしても、こういう策謀やら画策なんかが得意な雄二が、何の反応も見せていない。

何やら真剣な顔つきで考え事をしているみたいだし、この場は僕が預かろうかな。

 

 

「その、条件って何ですか?」

 

「清涼祭で行われる、召喚大会は知ってるね?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「なら、その優勝賞品も当然知ってるね?」

 

「優勝賞品?」

 

 

黙り込んでしまった雄二の代わりに、学園長と取引の話を合いを始めちゃったけど、

どうしてここで召喚大会の賞品の話が出るんだろう。というか、優勝賞品あったんだ。

元々出場する気が無かったから、さほど興味が無く、知らなくてもしょうがないよね。

自分で自分を納得させている間にも、学園長は勝手に話を進めていく。

 

 

「学園から贈られる正賞には、賞状とトロフィーと『白金の腕輪』が出される。

副賞は『如月ハイランド プレオープン・プレミアムペアチケット』ってのが

用意されているんだけどね。この横文字の多い二枚の紙きれが厄介なのさ」

 

聞く限りでも、随分と賞品は豪勢なものらしい。賞状とトロフィーは定番だろうけど、

残る二つは相当レアな物なんじゃないだろうか。いやまぁ、さほど興味は無いけどね。

けど一瞬、ほんの一瞬だけ、隣に居た雄二の肩が震えた気がした。気のせいかもだけど。

 

「はぁ………でも、それと交換条件に何の関係が?」

 

「話は最後まで黙って聞きなクソガキ」

 

 

酷い言われようだ。

 

 

「この副賞のペアチケットなんだが、ちょいと良からぬ噂を聞いたもんでね。

出来ることなら、こちらとしては回収して、使用されることを避けたいのさ」

 

「回収、ですか? でもそれだったら、そもそも賞品として出さなければいいんじゃ?」

 

「出来るんならとっくにしてるよマヌケ。この賞品に関しては、あの教頭が進めた話とは

言えども、文月学園と如月グループとが行った正式な契約になっちまって手が出せない。

今更、おいそれと覆せるような代物じゃあないのさ。分かったかい?」

 

話を聞く限りじゃ、自業自得な感じが否めない。仮にも学園の最高責任者なんだから、

せめて経営関係の話は自分で立ち会うべきだと思う。やはり、学園長は召喚システムの

調整やらで手いっぱいだから、学園運営は他の先生に丸投げしてるって噂は本当らしい。

 

 

「何となくは分かりました。けど、その良からぬ噂っていうのは?」

 

「つい最近聞こえた話なんだが、如月グループは新規設営の如月ハイランドという場所に、

一つのジンクスを生み出そうとしてるのさ。『ここを訪れたカップルは幸せになる』ってね」

 

「………それのどこが良からぬ噂なんですか? 別にどこにも悪そうな部分は」

 

「そのジンクスを作り出すために、プレミアムチケットを使用したカップルを、グループ総出で

結婚するとこまでコーディネートするらしい。企業全体で、多少強引な手を用いてでもね」

 

「何だと⁉」

 

 

学園長からの話を聞いている最中、突然無言を貫いていた雄二が声を張り上げた。

 

 

「ど、どうしたの雄二。そんな大声出して」

 

「どうしたもこうしたもあるか! つまり、プレミアムチケットを手にしちまったら最後、

どうあがいてもそのペアはカップル成立どころか、人生のペアになっちまうって事だろ‼」

 

「い、言い直さなくも理解できてるよ」

 

「ちなみに、そのカップルを出す候補は、我が文月学園になったってわけさ」

 

「クソが‼ そんなもん、白羽の矢が立つどころか、脳天に直撃してんだろうが‼」

 

悔しげに唇を噛みながら狼狽する雄二。珍しいな、この男がこんなに焦る姿を見せるなんて。

なんだか顔色まで悪くなってきてるみたいだし、様子が明らかにおかしいぞ。

 

 

「ま、そんなわけで、本人らの意思をまるっきり無視して、可愛い生徒をくっつける。

明るい未来を強引に決定づけようとする計画が、あたしにゃどうも気に食わなくてね」

 

 

うーん、可愛い生徒ってところが妙に信じられないけど、それってつまりは…………

 

 

「などと申されていますが、実際は『自分よりも半世紀以上も年下の若造どもに、

先を越されたなんてことがあったら、年上の威厳と面目が丸潰れじゃないか、爆ぜろ』

という、行き遅れを隠そうとする陳腐で矮小な個人的思考から基づく提案なわけです」

 

「余計なこと言うんじゃないよクソインテリ眼鏡‼」

 

 

あ、白衣の人が全部ぶっちゃけた。

 

 

「つまるところ、君たちに提示したい条件とは、召喚大会の賞品の確保です」

 

「…………無論だが、優勝者から譲ってもらうってのはナシだよ。強奪も当然不可さ」

 

 

チッ、考えていた可能性を一度に二つとも潰された。こうなると、自力でやるしかないのか。

 

 

「僕らが優勝したら、教室の改修と設備向上を約束してもらえるんですね?」

 

「何言ってんだい、学園側が手ぇ出すのは教室の改修だけさね。設備の方は我慢しな」

 

「教育方針だから、ですか」

 

「そういうことさ。ただし、清涼祭の出し物で得た真っ当な利潤を使っての向上に関しては、

今回だけは特別に目をつむってやるよ。分かってると思うけど、これは他言無用だからね」

 

 

流石にそこまでは鬼じゃない、といったところか。学園を預かる身としては、勝手な理由で

学園そのものの教育方針を歪めたとあっては、責任問題を問われかねないだろう。

それに、この話し合いは要するに裏取引だ。言い方を変えるなら、学園長から生徒への逆賄賂(わいろ)

こんな事が教育委員会や他方面の人間にばれたら、それこそあらゆる意味での終わりとなる。

 

 

「分かりました。この話、お受けします!」

 

「俺も引き受けた。何が何でも強制ゴールインだけは防いでみせる‼」

 

「そうかい。なら、取引成立だね」

 

 

学園長から持ち出された取引を受ける形で、僕らの望む教室の環境改善措置は仮決定した。

しかし、学園の召喚大会での優勝かぁ。確かアレ、二・三年生で分けられてないんだよね。

となると、最悪の場合は3年生のAクラス生徒と戦う羽目になる可能性だってあるわけか。

いくら来年卒業だからと言っても、最後の大会だ、って血気盛んに飛び込んでくる人はいる

だろうから、なるべくなら当たりたくはないけど、気を引き締めていかないと勝てない。

 

その後、雄二が学園長に持ち掛けた提案によって、二対二のタッグトーナメント方式の大会で

勝てるための策として、対戦カードの決定と対戦科目の指定をやらせてもらうこととなった。

流石は元『神童』、抜け目がない。対戦科目さえ把握しておけば、どの科目に集中して勉強すれば

いいか分かるし、絶対的なアドバンテージになる。これはもしかしたら、僕らでも行けるかも。

 

「そんじゃボウズども、任せたよ」

 

「「おうっ‼」」

 

 

こうして、学園長公認のもと、文月学園が誇る最低ランクのコンビが結成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、吉井君。少々お時間よろしいですか?」

 

「え、あ、あの………あなたは?」

 

 

目的だった学園長との話し合いも、お互いが納得する形で収まり、背を向けて部屋を去ろうと

した直後、何故か僕だけが白衣の人に呼び止められた。僕は思わず、その人に尋ねてしまった。

すると知的なその男性は、「これは失礼」と眼鏡を指で押し上げてから、自らの名を名乗る。

 

 

「私は、香川(かがわ) 英行(ひでゆき)と申します。召喚システム開発の関係者です」

 

「あ、どうも。僕は吉_________アレ? 僕の名前をどうして」

 

「君は有名人ですからね。召喚システムの回路を壁ごとぶっ壊した、エンジニア殺しと」

 

「あ、アレはですね! えと、その!」

 

「構いませんよ、復旧自体は済ませてありますから。それよりも少し、お話をしませんか?」

 

 

白衣の男性_________香川さんは、僕の肩に手を置きながら誘導するようにそう言った。

僕としては早く帰りたいんだけど、Dクラスの壁のことはまだ負い目に感じているから、

そのことを話題に出されると断りにくくなる。この人、案外イイ性格してるんじゃないかな。

 

結局、Fクラスのみんなへの報告は雄二に任せて、僕は香川さんと共に校舎へと足を運んだ。

途中で何度か質問をされたけど、僕の個人的な話なんて、本当に召喚システムの役に立つ事が

あるんだろうか。それになんだか、話を続ける内に、なんだかこの人が不気味に思えてきた。

言葉ではうまく言い表せないけど、危険な感じがする。本当に、よく分からないけど。

 

そうしていると、香川さん先導のもと、僕ら二人はDクラスの教室の前にたどり着いた。

もう既に夕日も地平線の彼方へ沈もうとしている。薄暗がりが増えた校舎は、どこか怖い。

そんな場所へ躊躇なく踏み込んでいく香川さんに続いて、僕も懐かしのDクラスの教室へ入る。

 

…………ん? もうとっくに下校時刻なのに、なんで鍵が開いてるの?

 

 

「さぁ、吉井君。そこの黒板を見てくれ」

 

いきなり身を翻してこちらを向いた香川さんに驚きつつも、彼の言葉通りにそちらを向く。

かつてのBクラス戦で勝利を得るために、僕が龍騎の力を使って破壊した、あの壁がある。

ただ、学園長室で香川さんが言っていた通り、もう傷跡などは見当たらない。

 

しかし、そこには、今までなかったはずのものがあった。

 

 

「____________鏡?」

 

 

黒板の下にある、チョークを置く場所。そこに立てかけてあったのは、顔を映すほどの鏡。

よくトイレの洗い場なんかにあるような形のソレが、なんだって教室の黒板にあるのか。

ただ、僕はこの鏡をもう一度よく見直した直後、衝撃を受けた。

 

 

「えっ⁉」

 

鏡に反射して映る僕の横には、まるでライダーのカードデッキのような物を持った香川さんが

いて、今まさにそれを鏡に向けて突き出しているところだった。

 

 

「ソレは!」

 

「あの時言ったでしょう__________『清涼祭で会いましょう』、とね」

 

「香川さん、あなた、まさか‼」

 

「ふっ…………変身‼」

 

 

鏡に映った虚像から本人へと視点を移すと、香川さんは右手に持ったソレを上へと放り投げ、

落下してきたソレをタイミングよく掴んで、鏡に映したことで腰に装着されたベルトへと

差し込み、工程を完了させた。つまりアレは、紛れもなく、仮面ライダーへの変身プロセス。

 

一瞬の眩い閃光の後、そこに立っていたのは香川さんではなく、かつて見た漆黒の戦士。

 

 

「オルタナティブ‼」

 

「ゼロ、ですよ。【オルタナティブ・ゼロ】、それがこの代用者(オルタナティブ)の名前です」

 

 

黒く塗り潰されたバイザーを向け、こちらを見据える漆黒の戦士を前に、僕は困惑する。

学校に現れたこと、それ以前に学園の関係者がライダーであることにも驚きを隠せないが、

そんなことよりも、何故自分の正体をわざわざ明かしたのかが、僕には理解できなかった。

 

ベルトもデッキも外見も、何一つ龍騎やナイトと一致しないオルタナティブ・ゼロは、

黒板に立てかけてある鏡に親指を向けながら、ゆっくりとこちらに近づいて話し始める。

 

 

「吉井 明久君。いえ、君を仮面ライダー龍騎と見込んで、頼みがあります」

 

「た、頼みって、何ですか?」

 

「ここでは話しにくいので、鏡世界(ミラーワールド)で話しましょう」

 

 

そう言ってから彼は、「ではお先に」と一言告げてから、設置してある鏡の中へと飛び込んだ。

一体何が目的なんだろうか。僕の目の前で変身して見せて、そのうえで一緒に来いと言われた。

正直言って、警戒せざるを得ない。どう考えても罠の可能性の方が高いだろうし、何も考えずに

ミラーワールドへ飛び込んだら最後、いきなり襲い掛かってくるかもしれない。

 

 

「…………でも」

 

 

そこまで考えてから、僕はオルタナティブ・ゼロと初めて出会った時のことを思い出す。

彼はピンチに陥っていた僕を、助けてくれたのだ。そしてその後も、攻めかかってくることも

ないまま、意味深な言葉だけを残して去っていった。襲うつもりだったなら、ケガを負っていた

あの時の方が絶対に有利だっただろう。そう考えると、彼は安全なのかもしれない。

 

「いや、考えていても始まらないか」

 

 

結局、それだけ頭で考えても、最終的には行動してみないと何も分からないだろう。

着いていった挙句が罠だったとしても、逃げ切ってみせる。むしろ、これはチャンスだ。

妹の、明奈の命を取り戻すためには、どちらにせよあと11人のライダーと戦うしかないんだし、

ここいらで一人減らしておかなくちゃならないだろう。今度こそ、今度こそやってやる!

 

 

「変身‼」

 

 

懐から出したデッキを鏡にかざし、変身の工程を辿った僕は、すぐさま龍騎へと変身し、

何が待ち受けているか分からないことに最大限の警戒をしながら、鏡の中へと飛び込んだ。

 

 

 

 










いかがだったでしょうか?

今回は割とバカテス側で重要な部分が多いので、自然とそちらが多くなりましたね。
しかし、香川先生は科学者だから絡ませやすいのは確かなんですが、どうしても
彼を出すのが早まったんじゃないかという感じが、否めなくもないんですよね。
まぁ、これから先のライダーバトルを激化させるバーサーカーの登場で、
素早く何人か退場していくので、そちらに任せちゃいましょう!

紫の狂戦士で思い出しましたが、なんと復活なされるそうで。
【ビーストライダー・スクワッド】でしたか。完全に戦隊側のコラボ映画に
触発されてますよね、アレ。なんで妙な部分で張り合いをつけようとするのか。
番外映像でもありますが、レジェンドライダーに変身できるシリーズなんて、
本編で使われないのにあんなたくさん造っちゃって大丈夫なんですかね?
ただでさえエグゼイドはCGが現時点でバカにならないらしいのに…………不安です。


やたら長くなってしまいましたね、すみません。


戦わなけれれば生き残れない次回を、お楽しみに!

ご意見ご感想、並びに批評も随時受け付けております!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。