まぁ色々な事がありまして御座います………。
長く話すのも面倒なので、割愛します。
それでは、どうぞ!
2002年4月8日、僕がこの文月学園に入学して二度目の春が来た。
本校舎に続く長く長い急勾配な坂道には、風で舞い散った桜の花びらが敷き詰められ
この道を歩いている新入生や卒業生達にそれぞれ異なる感情を抱かせているだろう。
…………………まぁそれはちょうど中間の在校生である僕もなんだけどね。
まさしく桜色の温暖な吹雪の中を歩いている僕の心中は、一つの事でいっぱいだった。
少しづつでも歩いていけば、どんな長い道のりでも終点へとたどり着けるように
無駄に長ったらしい坂道もとうとう終わりを迎え、桜並木のある校門へと到着した。
新入生は普通に校門を通過していくが二、三年生達は校門で教師達から封筒を受け取る。
僕もその封筒を______と言うより、その封筒の中身を受け取りに、だけど。
「吉井、急げ。後二分遅ければ遅刻だったぞ」
昇降口の前で声を掛けられて振り向く。
するとそこには浅黒い肌色をした短めの髪の大男がスーツを纏って立っていた。
「あ、西む_______鉄人。おはようございます」
「何故だ吉井、貴様何故今俺の名を呼びかけて故意に呼び間違えなおした?」
「呼び間違えなおすって、すごい日本語ですね」
「黙れ吉井、そういうことは現国のテストで40点以上を取ってから言ってみろ」
「………………………………………………………」
ヤバい、コレ以上口答えしたら確実に血を見ることになる。
しかも陰で西村先生のこと『鉄人』って呼んでるから、うっかり出ちゃったよ。
ちなみに何故この先生のあだ名が鉄人なのかと言うと、その理由の一つに彼の趣味が
トライアスロンであるということがある。しかも日本記録とは二秒差だという………。
「それにしてもだ、吉井。お前はよくも進級出来たものだな」
「進級ぐらい訳ないですよ。むしろ僕の事バカにし過ぎなんですよ先生は」
「お前の成績を見れば誰でもそう考えると思うが……………まぁとにかくだ」
僕が進級出来たことをわざとらしく驚いていた先生が、懐から封筒を取り出す。
そのまま僕に手渡してきた。…………鉄人、なんだよコレ。封筒が熱帯びてんだけど。
差し出された封筒の宛て名の欄には、『吉井 明久』と僕の名が大きく書かれていた。
気になるのは、何で名前の横に『問題児』って横線で消された文字があるのかだけど。
「あ、どーもです。…………ねぇ西村先生、どうして文月学園はクラスの編成を
こんな面倒臭いやり方で発表するんですか?それこそ掲示板か何かに張り出して
みんなに一斉に公表すれば手っ取り早いし、教員も何かと楽になるのに」
「お前はそういうことには頭が働くんだな……………だが確かに一理はある。
それでもこの学園は普通の進学校とは
ただでさえそれの事で世間から注目されてるんだ、他の事でも何か並の高校とは
違ったことをしないと良いアピールにはならないのだろうよ」
「そんなもんなんですかね」
鉄人先生の大して有り難くも無い話を適当に流しながら早速封筒を開けてみる。
実はこの封筒には、各個人の在籍するクラスが書かれた紙が入っているんだ。
さっき言った、並の高校とやらとは違った緊張感があってドキドキしてくる。
僕はまぁ…………あんな事があったから中学では勉強サボり気味だったけど、
高校に入ってからは勉強に専念したんだし、最高ランクのAクラスとまでは
行かなくても、せめてB、いやCクラス程度には在籍しているはずだきっとそうだ!
逆に言えば、最低ランクであるFクラス。あそこにだけは行きたくないよな。
容姿も性格も成績もゴミみたいな連中の吹き溜まりだ、とか先輩が言ってたしね。
所属するクラスだけでその人間の頭の出来が分かる、恐ろしい制度だよね……。
「あー、その、吉井。今だから言うことなんだがな?」
「?」
僕がいざ中身を拝見しようとした瞬間に、鉄人が声を掛けてきた。
少し申し訳なさそうな表情で、顔を上げた僕へと向けた視線を逸らしつつ続ける。
「俺は去年一年間を通してお前を見てきた結果、
『吉井 明久は常軌を逸した想定外のバカなんじゃないか?』なんて
そんな事を考えて日々を過ごしてきたわけだったんだが……………それは誤解だった」
何を真顔でとんでもなく失礼極まる話をカミングアウトしてんだこの合金男は。
「ま、まぁ僕もこうして大人の階段を順調に昇っているわけですし?
先生のそんな無礼極まりない間違いも許せるぐらいに広い心もありますし?
何より、そんな誤解をしているようじゃ、更に不名誉なあだ名がついちゃっても
仕方ないかもしれませんよ~っと………あ、やっと取れた。どれどれ…………」
さっきから封筒の底でピッチリ側面に張り付いて取れなかった中身が取れた。
それに、一年生最後の振り分け試験に至って言えば、僕はかなり自信があった。
まぁその二日前にミラーモンスターが人を襲ってるのを目撃しちゃって、
仕方なくテスト勉強を放り出して助けに駆け付けたから多少は落ちてるかも。
でも、きっと今回の点数に鉄人も考えを改めたに違いないだろう。
「そうだな、今回の振り分け試験の結果を見て、先生は間違いに気付いた」
「そりゃ良かったですねっと!_________________え?」
ようやく引っ張り出せた紙を開いてみると、そこには簡潔にたった一文字
大きく達筆で書かれた『F』の文字が激しい自己主張をしていた。
「喜べ吉井、貴様の評価の疑問詞は削除された。
_________________貴様はバカだ」
「これが格差社会ってヤツなのかな………………」
僕はAクラスの扉の前で、目元から流れる塩水を拭きながらつぶやいた。
僕が脳みそが錆びついた鉄人から死刑宣告を温もり付きで手渡された後、僕たち二年生の
クラスがある校舎の三階へやってくると、そこにあったのはバカデカく豪華な教室だった。
並の教室の4倍…………いや、5倍くらいあるよね。____________畜生。
元々僕のクラスメイトになるはずだった人達がどんな人なのか気になった僕は、
「皆さん進級おめでとうございます。
私はこの二年Aクラスの担任、高橋 洋子です。よろしくお願いしますね。
そしてこちらの方はこのクラスの副担任の、
「皆さん初めまして。高橋先生のご紹介通り、今日から皆さんのクラスの副担任を
務めさせていただく久保田です。一年間、よろしくお願いします」
髪を後ろでお団子状にまとめ、眼鏡をかけてスーツをきっちり着こなした知的美人と
少し痩せていて、髪も潤ってなさそうにしおれたオールバックの初老の紳士的男性が
凄まじく広い教室の後ろの人にも伝わるように、黒板代わりの巨大パノラマモニターを
使って皆に自己紹介をしていた。っつーかモニターでかッ‼‼
僕が驚いていると、高橋先生が再び説明を再開した。
「まずは設備の確認をします。ノートパソコン、個人用エアコン、個人専用冷蔵庫、
リクライニングシートその他の設備に不備のある人はいませんか? 」
ち ょ っ と 待 っ て ほ し い
今僕が耳にしたのは、大型家電量販店の搬入メモか何かか⁉
いや絶対そうだよそうに違いないよじゃなきゃおかしいもん認めるかこんな理不尽‼‼
学費が全生徒共通で何なんだこの差は‼
最近の社会縮図なんてメじゃないよこの理不尽極まる異空間は‼
僕が心中で嘆き身体で憤慨していると、いつのまにか話が進んでいた。
「……………では、次にクラス代表を紹介します。霧島さん、前へどうぞ」
「……はい」
先生に名前を呼ばれて席を立ったのは、艶やかな黒髪を腰元まで伸ばした大和撫子だった。
物静かな雰囲気を漂わせる彼女はその整った容姿も相まって、穢れを寄り付かせない
ある種の神々しさすら放っているようだった。………歩いたそばから花とか生えてないよね?
そんな彼女には、自然とクラス全員の視線が集まっていく。
Aクラス代表__________それはつまり、僕ら二年生の中で最も成績の優秀な存在。
この優秀な成績の人だらけのクラス内において、頂点に君臨する至高の頭脳の持ち主。
「……
彼女は大勢の視線の集まる中、顔色一つ変えずに淡々と名を告げた。
しかし、これだけの美人がいるならとっくに誰かが手を出しているはずだよね。
なのにそういった浮いた噂が出てこないということは……………あまり考えないでおこう。
僕がある一つの結論に至って身震いしていたら、霧島さんは席に戻っていった。
彼女が着席したのを確認してから、再度高橋先生が話を切り出した。
「Aクラスの皆さん。これから一年間、霧島さんを代表として協力し合い、研鑽を重ねて
ここから更なる高みを目指してください。これから始まる『戦争』で、負けないように」
「皆さん。今日この時を持ちまして、私達は信頼できる仲間であり、友であり、
また互いを切磋琢磨し、各々の持つ個性を再発見させてくれる良きライバルとなります。
私と高橋先生から古きを学び、我々は貴方たちから新しきを学ぶ………これが私の望む
教師と生徒との理想的な関係。実現出来るよう、全力を持ってペンを取りましょう」
担任と副担任の締めの言葉が述べられ、教室から拍手が沸き上がる。
おっと、こうしちゃいられない。僕も手違いか何かで割り振られたクラスへ向かわないと。
僕は走らない程度の速さで急ぎながら、窓辺から手を放した。
二年Fクラスと書かれた木の板のぶら下がってる教室の前で、僕は
今時刻は8時36分………ヤバいな、言い訳のしようのないほどの遅刻だコレ。
新学期早々遅刻してくる人を、暖かく迎えられるほどの教養のあるヤツがいるのだろうか?
怖そうな人とか痛そうな人とか、嫌なヤツやBカップ以下の女子とかがいないといいけど……。
「なんて、考えすぎだよね………こんな僕を知ってる人なんて、そうそういないよ」
たかだか遅刻程度でビビッてどうするんだよ僕、いつももっとヤバいのと戦ってるじゃないか。
それに…………僕はあの日以来、後悔することは止めにしたんじゃないのか。
そうだ、そうだよ。泣くのも嘆くのも後にすればいい。
うん、大丈夫。僕は一年の時は本当に限られた人としか交流なかったからね。
そんな僕が遅刻してきたとして、後々に響くことなんて何もないって!
ネガティブに楽観的な方向に気を紛らわせた僕は、思い切ってFクラスの扉を開けた。
「すみません、ほんの少しだけ遅れちゃいました♪」
「さっさと席につけミイデラゴミムシ」
まさかの固有名詞ッ‼‼‼
「聞こえねぇのかカス野郎が、あぁ?」
全く、さっきから聞いてればなんて言い草だ。
いくらこんな吹き溜まりのクラスの教師でも、言い方ってものがあるだろうに。
僕は反抗の意を込めて、教壇に立っている男を睨みつけた。
身長は思っていたほど高く、薄い赤色の逆立った短髪が特徴的だった。
身体の輪郭は制服越しでは分かりにくいが、かなり鍛えられているように見える。
………………………ん? 制服?
「
教壇から僕を見
制服を着用しているから分かるだろうけど、コイツは教師でも何でもない。
「んだ明久か。担任が遅れるってんでな、代わりに教壇から見
「ソコはせめて見下ろすと言ってよ………」
本当に性格のねじ曲がった男だ。それでいて喧嘩で鍛えてるんだから余計質が悪い。
それにしても、今この野生児は代わってと言ったのか?
「代わってって、なんで雄二如きが?」
「いっぺん捻り潰すぞ。………まあ俺がこのゴミ溜めの代表だからな」
雄二がドスの効いた声で僕を脅した後で自分がクラスの代表だと告げた。
その言葉を聞いて僕は初めてこのクラスを一望した________そして絶望した。
ここは学校だと言うのに、まさか椅子が無い教室が設けられているとは。
流石と言うべきなのか、コレがFクラスなのか………………。
「おっ、来たみたいだ。先生、点呼終わってまーす」
「ああはい、ありがとうございます。それでは皆さんおはようございます」
僕がFクラスの環境に絶句していると、雄二が教壇から降りて空いてる場所に座った。
椅子が無い以上、僕も同じように空きスペースに座るしかないみたいだ。
丁度一人分の空き場所を見つけて座ると、入れ替わりで教壇に立った教師が話し出す。
「私は二年Fクラスの担任、
そう語りだした先生が黒板へと向き直ってチョークを手に…………したけど折れた!
ひっどいな、設備がボロ過ぎて他のは使えないみたいだ。
手を少し払って粉を落とし、先生は自己紹介を諦め次に進んだ。
「えー、各自もし設備に不備を感じたら、学校の規則に反しない程度でですが
自宅からの持ち込みを許可します。まあエアコンとか持ってきても無意味ですが」
だね。窓が割れて隙間風が素肌にダイレクトアタックしてきてるもん。
「えーでは、さっさと自己紹介して終わりましょう」
投げ出した! とうとう担任がクラスの事投げ出しちゃったよ‼
なんて僕がカルチャーショックを受けていると、先生が廊下側に視線を向けた。
多分廊下側から自己紹介を始めてくれとでも思ってるんだろうか。
すると廊下側の最前列の人はその意思を読み取ったのか、おもむろに立ち上がる。
「ではまずワシから。木下 秀吉じゃ、演劇部に所属しておる。
名前についてはかの偉人との関係を黙秘しておくぞい。
ちなみに承知していると思うが、この通りワシは『男』じゃからな」
そう言ってAクラスで見た霧島さんとは違った髪質の『美少女』が振り向く。
彼の名前は聞いての通り、すごく突っ込みたくなる点が二つほどあったけど…………。
何故美少女の秀吉がじじい言葉を使用しているかについては未だに謎だけれど、
もう一つの、何故自分の性別を偽るのかについて、これは皆理解している。
((((自分が女だって、まだ自覚出来てないんだな~))))
満場一致である。
僕らが体内のナノマシン(という怪電波)で意思を統一していると、
秀吉の自己紹介が終わっていた。ちなみに彼は僕の数少ない友人の一人だ。
そして数人の紹介が終わった後で、また僕の知ってるヤツが出てきた。
「………
相変わらずの口数の少なさで名を告げたのは、友人の一人だった。
身長は一般的な男子の中では小柄な方でも、引き締まった肉体で運動神経は
抜群な男なんだけど…………やたらと大人しいんだ、職業柄。
それにしても、見渡す限りに男だらけだなホント。
学力が学園最低ランクだからか、女子の姿がまるで見当たらないな……がっかり。
「_______です。海外育ちで日本語の読み書きがまだ不慣れです」
僕がさっきの友人の職業について深く考察していると、既に次の人へ。
なんだか男にしてはハスキーな声のトーンだなぁ…………ポニーテールの男子?
「あ、でも英語も苦手です。海外でもドイツ育ちで………えっと、趣味は____」
いや違った、普通に女の子じゃないかビックリした。
一名を除いて男だらけのクラスだと思い込んでたから、彼女を見てなかったよ。
しかしこのクラスに来るほどか…………仕方ない、僕が勉強を教えてあげようかな。
「_____趣味は吉井を殴る事です☆」
誰か彼女に世間の常識をご教授願えませんかッ‼⁉
とてつもない危険な言葉を吐き出した彼女を方を見て思わず悪態つく。
笑顔でこちらに手を振っていたのは_________
「うぅ………島田さん」
「吉井~、今年もよろしく………………ね?」
またしても僕の知り合いで、一年の頃から僕の命を狙っている島田
それにしても、あまりにも僕の知り合いが集まりすぎているような……………?
そういえば、類は友を呼ぶとかって言葉を聞いたことあるけど、まさかね。
「
僕が悪夢のような考えに縛られていると、僕の前の人の紹介が終わったようだ。
よぉし、さっきの件で僕の評価は『遅刻してきたミイデラゴミムシ』となっている。
そんなふざけた悪評は、今からの自己紹介で拭い去る事が出来るはずだ!
こう言ったことは出だしが肝心なんだ。
僕は仮面ライダーとして戦わなきゃいけないし、他人をあまり巻き込みたくない。
だから極力、大勢との接触は避けなきゃいけないからね、うんうん。
そうだ、思いっきり滑ってみるのはどうだろうか?
いっそのことその方が僕一人で行動することが多くても問題は無い。
よし、それでいこう‼
「____コホン。えーっと、吉井 明久って言います。
僕の事はこれから、『ダーリン♪』って呼んでくださいね!」
「「「「ダァァーーリィーーーン‼‼」」」」
「失礼、忘れてください。とにかくよろしく……………オエェッ」
このクラスで生きていける自信が、音を立てて崩れ去った。
ハイ、頑張りました。
これからは少し文章を節約します。
じゃないとライダーバトル終わらないので。
最後の締めにバカテストを一つ。
『バカテスト ~国語~』
【第一問】
問、以下の意味を持つことわざを述べなさい。
「(1)得意な事でも失敗すること」
「(2)悪いことが続けざまに起こる喩え」
姫路 瑞希の解答
「(1)弘法も筆の誤り」
「(2)泣きっ面に蜂」
教師のコメント
正解です。流石は姫路さん、優秀ですね。
他にも(1)なら『猿も木から落ちる』や『河童の川流れ』
など、(2)なら『踏んだり蹴ったり』や『弱り目に祟り目』
などといった答えもありますが、ご存知でしょうね。
土屋 康太の解答
「(1)弘法の川流れ」
「(2)蜂弱り踏んだり」
教師のコメント
シュールな光景ですが、(2)はただ残酷です。
吉井 明久の解答
「(1)猿も木を誤る」
「(2)泣きっ面蹴ったり」
教師のコメント
何をどうしたら猿が木を誤るのか非常に
気になりますが、(2)について君は鬼ですか