僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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どうも皆様、約一か月ぶりの萃夢想天です。
またしても長らく更新ペースを落としてしまい、申し訳ありません。
他の二つの作品が遅れるとどうしても、こちらに支障が出てしまって、
割を食う羽目になってしまうようで………お待ちいただいている皆々様の
寛大な御心に甘えてばかりの弱輩者で、心苦しく思います。

自己嫌悪タイム終了!

色々とこちらにも事情があるもので、こちらの作品は本当によく
更新ペースが落ちてしまいますが、それでも完結目指して頑張ります!

それと、今回は結構短めになると思いますが、ご了承ください。


それでは、どうぞ!





問23「僕と疑問と戦争終結」

 

 

 

 

 

FクラスとAクラスの生徒全員からの視線が、こちらへ向けられるのがハッキリ分かる。

そりゃそうだよね。いきなり戦争から抜け出して、しばらくして戻ってきたんだから、

何をしていたんだと訝しまれても仕方がない。けど、こっちはそれどころじゃないんだ。

 

 

「雄二!」

 

「明久! お前、どこ行ってやがった!」

 

「………何してた?」

 

「吉井! このバカ、どこいってたのよ!」

 

「吉井君! 何かあったんですか?」

 

 

今まさに最終決戦に臨もうとしてた大将の名を呼ぶと、Fクラスの皆が僕の顔を見て

心配そうにしてくれた。その厚意は本当にありがたいんだけど、今は後回しだ。

 

僕の顔を見た直後から顔つきを変えた雄二の前まで歩き、今の状況を尋ねる。

 

 

「雄二、もしかして今から、大将戦?」

 

「ああ、そうだ。お前がどこぞに消えてから、こっちは負けなしで二連勝したんだ。

アレ? もしかして明久がいないほうが俺たちの勝率が上がるんじゃねぇか?」

 

「何だよそれ! 流石に横暴だよ!」

 

「………その可能性は否めない」

 

「ムッツリーニまで⁉ 僕の味方はいないの⁉」

 

「あ、えっと………わ、私は吉井君の味方です、よ?」

 

「安心しろ吉井、俺もだぜ」

 

「ひ、姫路さん! 八嶋君!」

 

 

現状を聞こうとしただけで唐突に始まった茶番を、Aクラスの生徒が白い目で見てくる。

何やってんだアイツら、って言いたいんだろう? 僕だってそう言いたい気分だ。

ってそうじゃなくて、大事なのはこれからの話だ。一度場の緩んだ空気を断つために、

強めの口調で我らが最後の頼みの綱へと言葉をかける。

 

 

「大丈夫なんだよね、例の作戦は」

 

「ああ、安心しろ。この俺がぬかると思うのかよ」

 

「…………任せたよ、雄二」

 

「おう! 任されてやるぜ、明久」

 

 

大事な話とは言ったものの、もうここから先に僕の出番なんてありそうにない。

やはり最後の最後で決めてくれるのは、我らがFクラスの先導者であり統率者である、奴だ。

目の前で不遜な態度をとる悪友に、右拳を軽く突き出し、向こうも応じるように突き出す。

拳と拳が軽くぶつかり、ただそれだけでもう互いの意思は通じ合った。

 

雄二は振り返って再び壇上へと歩みだし、全く振り返るような気配を見せない。

そして僕らもその後ろ姿を無言で見つめて、彼が勝利の栄光とともに帰還することのみを

考えて、Fクラス生徒が見守る陣営の中へと戻っていった。

 

 

「ねぇ、吉井」

 

「ん? なに、島田さん」

 

 

そんな中で、いつの間にか僕の横に来ていた島田さんから小さな声で呼びかけられた。

こんな人混みの中でわざわざ小声で話そうとするなんて、何か良からぬことなのかも。

そう思って少し警戒しながら、彼女の言葉を聞き取るために右へと向き直った。

 

 

「アンタさぁ、さっきはどこに行ってたのよ」

 

「え、あ、アレは………えーと」

 

「なに? 言っとくけど、秘密ってのは無しだからね」

 

「う………」

 

 

やっぱり彼女は無駄に鋭いところがある。さて、どう答えればいいものか。

必死に考えてどうにか、彼女に僕の秘密を知られないようにしようとしていると、

ちょうど僕の後ろに立っていた八嶋君が話を聞いていたらしく、助け舟を出してくれた。

 

 

「島田、吉井はトイレに居たんだよ。しかも職員用のな」

 

「え? 職員用って、なんで?」

 

「そりゃ決まってるだろ、生徒用の方まで我慢できなかったからさ」

 

「…………な、なるほど」

 

「顔赤くしやがって。何を想像してたんだ、島田?」

 

「う、うるさい! 吉井のバカ!」

 

「何で僕が⁉」

 

 

八嶋君と島田さんの話し合いがヒートアップした結果、何故か僕に飛び火してきた。

な、なんで僕が島田さんの右ストレートをいただかなくちゃいけないんだ……不幸だよぉ。

 

仲間内でのちょっとしたハプニングがあったものの、雄二が壇上に上がりきってこちらに

視線を向けてきた辺りから、僕らはみんな嘘のようにシンと静まり返っていた。

そして、雄二の登場に応えるようにして、『彼女』もまた壇上へと姿を現した。

 

Aクラス最上位にして、我らが第二学年の中で最高の頭脳を持つ女生徒。

 

 

「よぉ、翔子。やっとここまで来たぜ」

 

「………待ってた。この日が来るのを、ずっと」

 

「それは俺のセリフだ。今日こそ、決着をつける」

 

「………(コク)」

 

 

スポットライトを独占する壇上の二人が、何やら意味深な会話を繰り広げているけど、

僕らFクラス生徒はともかく、どうやらAクラス側にも意味が分かってはいないようだ。

それもそのはず、雄二と霧島さんの二人が実は幼馴染であるという彼らの言葉を直接

聞いていた人物は、ごく限られている。多分、宣戦布告の際の交渉メンバーだけだろう。

でも、改めて見ても、あの二人が幼馴染なんて思えないよなぁ。美女と野獣が相応しい。

多分今二人が話しているのは、大将同士ではなく、幼馴染としての私的な事なんだろう。

しかしその話も一段落着いたようで、二人は互いを見るのを止めて正面へ向き直った。

 

 

「では、教科を選択してください」

 

 

彼らの行動を準備万端と受け取ったのか、高橋先生が待ってたように言葉をかける。

そう、僕たちFクラスがAクラスに勝つために編んだ、最後の秘策『教科選択』。

最初から最後までこの権利に頼りきりだけど、それでも得られる勝利に変わりはない。

さぁ、見せてやろうよ雄二。僕たちが学園の歴史に刻みつける、最初の栄光(しょうり)を!

 

高橋先生の言葉を逆に待ちわびていたとばかりに、我らが大将が笑みと共に宣言する。

 

 

「教科は日本史。内容は小学校時点で履修済みのもの、方式は百点の上限付きだ‼」

 

 

最底辺の頂点が堂々と選択した教科内容に、教室内の一同が途端にざわつきだす。

 

 

『上限付きって、マジか?』

 

『しかも小学生レベルって………俺らの代表の勝ちは確定だろう』

 

『どういうつもりかしら?』

 

 

一同とは言ったけど、そのほとんどは僕らの向かい側のAクラスの生徒たちばかりで、

Fクラスの生徒たちは逆にほとんどが落ち着き払っている。いや、そうでもないか。

 

 

『ほ、ホントに大丈夫かよ………』

 

『なんか、腹痛くなってきたかも』

 

『大丈夫なんだよな? 俺たち、勝てるんだよな⁉』

 

Fクラス陣中でも、少なからず動揺があるようで、少々取り乱している人もいる。

確かに普通に考えれば、普通じゃない選択だ。

 

どう転んでも全面戦争で真っ向からぶつかり合ったとしても、僕たちがAクラス相手に

勝利を収められる確率はゼロに等しい。これは流石の僕にも分かっている事実だ。

だからこそ雄二は、"負けない策"ではなく、"勝つための策"を選んだのだから。

 

僕たち最底辺に残された最後の勝算、全てはアイツ一人にかかっている。

 

 

「…………そうなると、問題を用意する必要がありますが?」

 

「俺は構わない。時間をかけてくれてもいいですよ」

 

「………私も、問題ありません」

 

「分かりました。では、私はテスト問題を制作してきますので、各クラス代表両名は

今から視聴覚室へと移動してください。そこで私監修のもとでテストを行います」

 

担当である高橋先生が、眼鏡を凛々しく指で押し上げながら打開策を講じて、

壇上の二人はそれを承認した。ここまでの流れは全て、雄二の想定通りだ。

 

Aクラスへの宣戦布告を行った今日の朝から、少し前のFクラスのSHRにて、

僕らの大将は今回の無茶ともいえる前代未聞の作戦を立案し、その根拠を語った。

 

 

『Aクラス代表の翔子は、俺の幼馴染でな。それ故に、弱点も知り尽くしている。

おい、今カッター構えた連中は後で屋上に来い。そーだ、利口なのはいいことだ。

んで確かにアイツは知っての通り天才で、非の打ち所がない。それは俺がよく分かってる。

だが、奴にはただ一つだけ、絶対に間違える問題があるんだ。その一点を、突き崩す!』

 

途中で嫉妬に狂いかけた連中の報復行動があったりもしたけど、概ねこんな感じだった。

つまるところ、あの男はこの学園内で唯一、Aクラス最強の盾を貫く矛を持つ男というわけだ。

具体的にどんな弱点なのかまでは教えてくれなかったけど、わざわざ日本史の小学校レベルを

範囲指定した以上、そこに彼女の弱点があることに間違いはない。完全無欠の天才に本当に

弱点があったら、の話なんだけどさ。

 

高橋先生に連れられて雄二と霧島さんが教室を去って、実に十五分が経過した頃、

Aクラスの教室内に残っていた初老の男性教師が誰かと連絡を取り始めたと思ったら、

急に教室内の機器を操作し出して、巨大ホワイトボードに映写機で映像を投影した。

何事かと驚く生徒一同に、先の初老の先生が実に紳士的な口調で説明を口にする。

 

 

「みなさん、こちらの映像は現在、視聴覚室で最後の科目である日本史のテストを

受けている代表両名のものです。無論、定点カメラですので、音声も入れられません。

小学生時点で履修済みの範囲となれば、およそ三十分程度で全問解答させられるとの

目算ですので、それまではどうか生徒諸君、この映像でお二人を見守ってあげてください」

 

 

そう言い終えた先生は壇上から降りて、教室の出入り口のところまで行って立ち止まり、

自分で言ったように事の行く末を見守ろうと押し黙った。まるで、生徒への手本のように。

そんな初老の男性教師の姿を見て感化された一部の生徒は、口を固く結んで映像に食い入り、

他の生徒も彼らと同様に、映し出された二人の姿を目に焼き付けるようにしている。

 

そうして二人がテストを解くのに集中するのと同じく、映像を見るのに集中していた僕らも

時間が経つのを忘れていて、気が付けば先生が言った時刻になっていた。

初老の先生が腕時計を見たのとほぼ同時に二人がペンを置き、椅子から立ち上がって去る。

この行動が意味するのは、僕らFクラスとAクラスとの戦争に、決着がついたということ。

 

まだ視聴覚室から帰ってこない雄二を待ちながらも、僕らFクラス陣営は有頂天にいた。

 

 

『これで俺たち、Aクラスに勝てたんだよな⁉』

 

『傷だらけの卓袱台とも、綿のねぇ座布団とも、穴の開いてる障子戸とも!』

 

『ああ、おさらばできるんだ‼』

 

『夢にまで見たシステムデスクと、個人用冷暖房設備‼』

 

『俺たちの人生___________』

 

『『『『バラ色だぁぁぁ‼‼』』』』

 

 

見渡せば笑みをこぼす野郎の集団だらけ。もちろん、僕もそのうちの一人だ。

ただ、Aクラスからしたら急に勝ちを確信したような騒ぎように驚いたのも束の間、

察しの良い何人かは自分たちのクラスの敗北を、何も言わずに理解していたようだ。

 

まるでお祭り騒ぎのように浮かれている僕たちのところへ、視聴覚室から戻ってきた雄二が

やって来て、すさまじい疲労の色を見せた。無理もないよ、これまで気の抜けない戦いが

連続してきたんだから。でも、今日ばかりはコイツにもはしゃいでもらわなきゃね!

 

 

「どうしたんだよ雄二! 勝ったんだから喜ぼうよ!」

 

「ん、あ、ああ。そう、だな」

 

「………どうした?」

 

「坂本、アンタどうしたのよ」

 

「坂本君、何かあったんですか?」

 

 

そう思っていると、何やら浮かない顔色をしたままでいる雄二を不審に思ったみんなが

集まり出してきた。次々と何かあったのかと尋ねるも、何故かアイツの表情は硬い。

コレは本格的におかしい。雄二の性格上、『なーんちゃって、うっそぴょ~ん!』とか

そういうノリをするような事はほぼないから、コイツが沈んだ風な演技をする理由が

あるとは思えないんだけど………ここまで考え付いた直後、僕は弾かれたように顔を上げて、

視聴覚室の映像の代わりに二人の対戦結果が表示されるホワイトボードを睨みつける。

 

数瞬の後、そこに表示された結末は。

 

 

《日本史限定テスト 百点満点》

 

『Aクラス 霧島 翔子___________97点』

VS

『Fクラス 坂本 雄二___________53点』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕らの卓袱台が、みかん箱になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







いかがだったでしょうか?

すみません、本当に今回は短くなってしまいました!
心から謝罪させていただきます! すいませんでした‼

理由はまぁ、察していただけると助かります………はい。

次回はまた、うまく回れば二週間後ということになりますが、
多分三週間後辺りに長引いてしまうのではないかと考えております。
事情うんぬんは差し置いても、最近どうやらまたスランプを
生意気に再発させてしまったようなのです………これは本格的に困った。

どうにかして脱出を試みておきますので、応援よろしくお願いします!


それではまた、戦わなければ生き残れない次回を、お楽しみに!

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