僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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どうも皆様、カントリーマームに癒されている萃夢想天です。
その点カントリーマームっていいよな、最後までチョコたっぷ(略

前回はひどい前書き詐欺を働いてしまい、申し訳ありませんでした。
今回こそはちゃんと龍騎が活躍しますので、どうかご安心を!

あ、それと前回友人から質問をされたのですが、
この作品に出てくるFクラスの八嶋はオリジナルキャラクターです。
原作にもいたかもしれませんが、とりあえずはオリモブということで。


それでは、どうぞ!





問22「龍騎と共闘と戦争の行方」

 

 

 

 

手近な職員用トイレの鏡からミラーワールドへ入り込んだ僕は、再び頭に直接響く耳鳴りの

ようなエコーを頼りにして、今いる場所から飛び出して音の発生源に向かって駆け出す。

 

ここは文月学園の一階フロア、そこの正門側の昇降口に位置する場所だ。

一年生から三年生までの生徒の外履きが靴箱に揃えられている。ま、授業中だしね。

もちろん来客用の靴箱もあるんだけど、そこはいつも通りに空箱となっていた。

 

 

(って、それよりも今はモンスターだろ!)

 

 

のんきに学校見学なんてしてる場合じゃないと自分を叱咤し、必死に校内をひた走る。

段々とエコーの反響音も大きくなってきているから、敵が近くにいることは間違いない。

走るうちに僕はAクラスのあった新校舎の一階、そこにある職員室を目指していて、

その付近からモンスターの反応があることに気付いた。まさか、奴は教師を食べる気か!

 

 

「させるかッ!」

 

 

ライダーとなって鍛え上げられてきた足を速く回し、十数メートルの距離を一気に詰め、

仮面の溝となっている部分にある赤い複眼で職員室の扉を確認して、蹴破ろうとする。

しかし右足を振り上げたその直後になって、頭に響くエコーの位置が微妙に変化した。

 

 

「ど、どういう事だ⁉」

 

 

いきなり場所が変わったことに困惑する。別に、ただ場所が変わるだけなら問題はない。

けど、エコーが聞こえてくる場所へと視線を向けると、その先には学園の床があるのだ。

僕がいるのは新校舎の一階。三階の下には二階があり、二階の下には一階がある。

 

では、一階の下には?

 

 

「____________そうか、地下があるのか!」

 

 

ここにきて僕の天才的ひらめきが冴え渡った。この学園の地下には、まだ空間があるのだろう。

それを一般の生徒である僕が知らなくてもおかしくない。クソ、厄介なところに現れて!

 

でも、地下に人間がいるのだろうか。昼とも呼べないほどの時間に、しかも授業中に。

 

脳裏をよぎった謎に一瞬だけ首をかしげたけど、よく考えれば確かめる方法は一つしかない。

直接行ってこの目で見る、それが唯一の策だ。それに、モンスターがわざわざ現れるんだ、

そこに餌である人間がいないはずがない。僕はそこで思考を打ち切り、下に行く方法を模索する。

 

 

「地下に行くにはどうすればいいんだ? エレベーターなんてあるわけないし………」

 

 

早急に手を打たなければ襲われている人を助けられない。どうにかしてここから地下へ行く

方法を考えないといけないのに、頭が回らない。エレベーターが仮にこの学園内にあっても、

ここはミラーワールドだからそもそも動かせるわけがない。だったら、階段で降りるしかない。

でも階段がある場所を僕は知らない。まさしく八方塞がりの状況に頭を悩ませたその時だった。

 

 

『ウフフフッ! フフッ‼』

 

「んぐっ⁉ うわあッ!」

 

 

急に鳴り響いていたエコーが大きくなり、その発生源が僕の目の前に躍り出てきたのだ。

いきなり肥大化した反響音に驚かされて初手が遅れた僕は、現れたソイツから不意打ちの一発を

くらって吹き飛ばされてしまった。腹部の装甲に圧力を感じたってことは、近接攻撃か。

 

 

『フフフフフ‼ ウフフッ‼』

 

「くそ………ん、アレは初めて見るタイプのモンスターだ」

 

不気味な笑い声を耳にして、その声のする方向へと仮面の下の複眼を向けてみると、

そこには発している音と同じような印象を抱かせる出で立ちのミラーモンスターがいた。

 

赤黒い表皮が身を包み、さらにその上から銀色の包帯のような帯状のもので覆っている。

胸部から腹部にかけては赤い血管のようなラインが、古代文字を表すように複雑な紋様を

描き出していて、人ならざる異形の恐ろしさをより強調しているようにも見受けられる。

そして極めつけはその頭部にある、キツネザルに似た形状の大耳と朱赤の三眼。

仮面ライダー龍騎となってまだ数か月の僕にとって、ソレは未知数の存在であった。

 

 

「どうする………相手の攻撃手段とかも分からないし、能力とかも………」

 

 

職員室前の廊下という、狭いエリアでの戦闘が始まったことにも愚痴をこぼしたくなるけど、

そんな事よりも敵の情報が少ないことに僕は苛立っていた。迂闊には攻め込めなくなるし、

何より警戒し過ぎて攻撃の手を鈍らせれば、要らぬ攻撃を受けることにもつながってしまう。

最悪の想像をすれば、コイツに殺られることだってありうる。けど、逃げられても面倒だ。

 

どうすればいい!

 

 

『フフフッ! フフフフッ‼』

 

 

必死に打開策を考えている僕を、小馬鹿にするように笑い声を上げ続けているモンスター。

色んな鳴き声を聞いてきたけど、こういうタイプもいるんだなと、余計なことを考えさせられる。

しかしただ見つめ合っていたところで状況は変わらないし、変えられない。ならば先手必勝だ。

 

 

「行くっきゃない‼」

 

『ウフフゥ‼』

 

 

相手の様子を観察することを優先しながら、僕は両拳を握りしめて敵への最短距離を駆ける。

対して向こうもこちらの敵対行動を認識したのか、両手を振り上げながら突進してきた。

 

先攻をかけようとしたけど、それをまるで読んでいたかのように一手先を打たれた。

互いにあと数メートルという地点に差し掛かった瞬間、相手がその場で大きく跳躍し、

上の階へと続く階段の手すりに摑まって位置を調節した後、そこから飛びかかってきたのだ。

 

 

『フフフッ‼』

 

 

両手の指先に並ぶ鋭い爪の先端を下から見つめつつ、右手を腰のバックルへ伸ばして

カードを一枚手に取り、それを左手の篭手型召喚機に装填して読み込ませる。

直後にドラグバイザーから男性の低い声のように感じる電子音声が響き渡った。

 

 

【SWORD VENT】

 

廊下に電子音声が反響し終えるのと同時に、どこかからか飛来してきた僕の愛刀が開かれた

右手に自分から収まり、もはや握り慣れてしまったグリップの感触を伝えてくる。

そして見上げた先には、上の階から落下してきている未知のミラーモンスターの爪先。

 

 

「せりゃああぁ‼」

 

『ウフゥ⁉』

 

 

右手に握ったドラグセイバーの切っ先を、一度左肩の上に置いてから即座に右へ振り抜く。

横一文字に振るわれたその剣先は、落下してきたそのモンスターの両手先を捉えていて、

人間程度なら容易く引き裂けたであろうその鋭い爪を、そのほとんどを切断できていた。

反撃を受けたモンスターは随分と驚いているようだけど、この程度で終わる僕じゃないよ?

 

 

「どりゃあああ‼」

 

 

頭上高く掲げたドラグセイバーと共に、受け身も取れずに廊下に落ちた相手へ突っ込む。

こちらに気付いて立ち上がろうとしているものの、ここまできたらもう射程範囲内だ。

 

右斜め上から左斜め下へと切り伏せ、相手はその痛みと勢いから僕の左側へ転がる。

追い打ちをかけるように一歩足を踏み出して突きを繰り出す。切っ先は眼前にいる敵の

腹部へと突き刺さったが、案外浅かったようで苦し紛れの反撃で弾かれてしまった。

お返しだとばかりに振りかざされた両腕を、左腕にあるドラグバイザーを盾にして防ぎ、

がら空きになった胴体へ右腕に持ったドラグセイバーで、反撃の体勢のまま切りつける。

モンスターの切り裂かれた腹部や、それを押さえている両手からは血が流れ出ていた。

 

 

『ヴフゥ………ヴウウッ‼』

 

 

まるで肩で息をするように激しく上下させている敵は、その三つの赤い眼で僕を睨み付ける。

モンスターの考えていることなんて理解することはできないけど、言葉にするのなら、

"よくもこんなことをしてくれたな"ってところかな? 本当かどうかは分からないけど。

 

けどいい調子だ。コイツはさっきのジャンプを見る限り、敵をかく乱させるような動きで

翻弄して、そこからの不意打ちや奇襲で止めを刺すようなタイプなんじゃないだろうか。

多分それは間違いない。今のところ、目立った武装による攻撃なんかはしてきてないし。

でも、そうなると厄介なのが能力の方だ。コイツにはおそらく、何か強力な能力がある。

 

ミラーモンスターはその姿形から、様々な動物をモチーフにしていることが見受けられる。

分かりやすい例は、僕のドラグレッダーやナイトのダークウィングとかかな。

とにかくミラーモンスターは、モチーフとなる動物の特徴を生かした狩りを得意とするのだ。

しかし中には強力な武器を持たないヤツもいる。そういうヤツらは、どう狩りをするのか。

答えは簡単だ。武器や武装など必要としないほどに、強力な能力を身に着けて狩りに使用する。

こちらも例としては、シザースのボルキャンサーやベルデのバイオグリーザが該当するだろう。

今回の敵は一見して分かりにくいけど、多分サルか何かがモチーフなんだろうと仮定して、

それをもとに戦略を組み立てる。閉所や高所でのかく乱戦法、か。それはもう怖くない。

敵を剣で斬りつけた結果、今の僕らがいる場所は職員室から離れた一本道の真ん中辺り。

飛び上がって摑まれる階段も手すりもなければ、近くに武器になりそうなものも無い。

 

 

(良し! このまま押し切れば、いけそうだ!)

 

 

未知の敵が相手でも、冷静に対処すれば出来ないことはない。僕もやればできるんだ!

ここから一気に攻勢に移って畳みかけるべく、僕は右手のドラグセイバーを強く握り直す。

鋼色の剣先が傷だらけの敵に向けられ、その攻撃力を身を以て知った相手はたじろぐ。

 

 

「行くぞ‼」

 

 

これ以上余計な時間は与えられない。そう考えた僕は、急かされたように突貫する。

握りしめたドラグセイバーを振りかざし、モンスターの頭部を狙って距離を詰める。

ダメージのせいか、思うように動けていない敵は身じろぎを一つしただけで、そこから

逃げ出そうともしない。どうやら観念したようだ。ならその首、僕がもらい受ける!

 

 

「うおりゃあああ‼」

 

 

駆ける速度と腕を振るう勢いを重ね合わせ、剣による攻撃力を増加させてからの斬りつけ。

薙ぎ払うようにして空間を滑るその切っ先は、モンスターの頭と胴体に別れを告げさせる。

 

____________その、はずだった。

 

 

『ウフフフフッ‼』

 

 

ドラグセイバーの射程範囲内まで到達した僕の耳に、またあの不気味な嘲笑がこだました。

 

 

ドンッ‼

 

 

直後に聞こえてきたのは、TVドラマや映画などでよく耳にした、火薬の炸裂音(・・・・・・)

それとほぼ同時に、僕は胸部から腹部にかけての装甲に、すさまじい痛みと衝撃を感じた。

 

 

「がはッッ⁉」

 

 

斬りつけようとした時に吸い込んだ空気が、胸の中で暴れ狂い、喉から押し出される。

生理的な反応で酸素を失った体は急速に力を失っていき、ふらふらとよろけてしまう。

敵の前でこんな隙を見せれば、当然次に何が起こるのかも容易に想像できた。

 

「がフッ‼」

 

再び先程と同じ衝撃をこの身に浴びて、僕の身体は耐え切れずに後方へと吹き飛んだ。

しかし今度はハッキリと知覚することができた。衝撃を受ける直前に響いた発砲音(・・・)を。

 

「クソ………モンスターが銃火器なんて、使うなよ……!」

 

『ウフフフフフフッ! フフフッ‼』

 

 

うめきながらに顔を上げ、硝煙を上げる銃口を向けて嗤う怪物(モンスター)を仮面越しに睨み付ける。

 

これまでに戦ってきたモンスターたちは、そのどれもが刃物や杖などの近接武器で

こちらを攻撃してきた。そうでないものは、特殊な能力でこちらの戦力を削いできた。

けれど今目の前にいるソイツは、明らかに弾丸を発射する遠距離武器を使っているのだ。

確かに、今までいなかったからと言って存在しないわけではない。理屈ではそうなる。

でも実際にそれを目の当たりにして、「理不尽だ」と思わずにはいられないのが人間だ。

痛む身体を仮面の下の複眼から見つめれば、赤と銀の装甲にヒビやくぼみが幾つもあった。

僕が聞いた銃声は二回。衝撃を受けた回数も二回。だが傷跡がその事実を否定する。

明らかに音や感触とそぐわない弾痕や傷跡を見やり、僕はヤツの武器の特性を見抜いた。

 

 

「あの銃__________もしかしなくても散弾銃(ショットガン)か!」

 

 

口にしたその言葉に、僕自身が震えあがる。

 

ショットガンとは、普通の銃とは異なる性質の弾丸を発射するための銃火器だ。

その特性は、銃火器にしては珍しい『近距離であるほど殺傷能力を増す拡散弾』というもの。

発射して直後に弾核が分割し、勢いそのままに四方八方へと炸裂していく弾を撃つ銃は、

遠距離戦にはあまり向いていないデメリットがあるものの、その代わりに近距離戦では

まるで別物のような戦果を上げる事ができる武器として、そちらの世界では有名過ぎるのだ。

一般市民の僕ですら特性を知っているほどの武器を、いったい今までどこに隠していたのか。

 

 

「…………まさか、尻尾が銃になってたのか?」

 

 

立ち上がっていくモンスターを身体を起こしつつ観察し、先程と変わった部分を見つけた。

あのモンスターが階段の手すりに摑まるためにジャンプした時、ヤツの臀部には確かに

尻尾のような形状のパーツがあった。しかし両足で立つ今のヤツには、ソレが見当たらない。

隠していたどころか見せつけてさえいたのか、と銃撃で痛む胸を押さえながら舌打ちする。

 

 

(クソ、クソクソ! 油断した! 押せば勝てると思って、急ぎ過ぎた!)

 

 

相手の行動にも苛立ちを覚えたけど、何より腹立たしいのは迂闊だった僕自身だ。

最後まで冷静に対処すべきだった。途中まではしっかりと相手をよく見て動いていた。

あのままずっと距離を置いて戦っていればこんな事には。そこまで考えてから頭を振る。

 

もしもの話をしても仕方ない。今更どうこうしたり出来ないんだから。

 

過去の自分のミスを、今の自分が取り返すことはできない。既に時は経過しているのだ。

こんな当たり前の事は明奈が、妹が消えてしまったあの日に学習したはずなのに。

あまりの不甲斐なさに対して、怒りで顔を歪ませるより先に笑みがこぼれてきた。

 

 

「……はは、あーあ。僕ってやつは本当に、いつまで経ってもこうなんだよなぁ」

 

 

それは嘲笑の笑み。どこまでいっても変わらない僕自身への、蔑みの嗤いだった。

笑おうと息を吸えばすぐに受けた傷が反応して、吸ったばかりの空気を吐き出してしまう。

かといって酸素を補給しなければろくに動くこともできないまま、死を迎えることとなる。

どうすることも出来ない状況下で、僕は痛みに苦しみながらモンスターを無心で睨んだ。

 

 

『………フフフフ』

 

 

視線の先にいるヤツは、その特徴的な声ではなく、本当に笑うように肩を揺らした。

自分に襲い掛かってきた敵が、仕掛けた罠に飛び込んできたんだからそれも当然か。

変なところで冷静になった僕は、ヤツの手にした散弾銃の銃口が向けられるのを、

ただ黙って見ていることしかできなかった。チャキ、と引き金に指が掛けられる。

 

 

(こんな、ところで‼)

 

 

いかに龍騎の鎧と言っても、そう離れてもいない距離で立て続けに散弾を浴びせられては

無事では済まない。既に何か所にもわたって破損が起こっているんだ、次で最後だろう。

ゆっくりと感触を味わうように、ヤツは赤黒い表皮に覆われた指で引き金を引いていく。

あの指があと数ミリ動かされれば、三度目の散弾が僕の全身にばら撒かれ、終わる。

 

 

『フフフッ‼』

 

 

癪に障る不気味な笑い声と共に、モンスターの右人差し指が、引き絞られた。

 

 

【Accel Vent】

 

 

けれど、僕の耳に届いたのは火薬の炸裂音ではなく、女性の電子音声だった。

 

 

『フヴゥッ‼』

 

そしてそのさらに後から、あのモンスターの悲鳴のような声が聞こえてきた。

一体何が起きたのかと、身を強張らせた時に閉じていた両目を開き、複眼越しに覗く。

目の前にいたのは、先程までのモンスターではなく、漆黒の外装に覆われた戦士だった。

 

どことなく僕らのとは違う、機械的かつ人工造物的な印象を抱かせる黒い装甲には、

至る所に銀色の円形のくぼみと、何かの培養液のような蛍光黄色のラインが光っている。

そんな特徴的な鎧の下にあるパワードスーツは、これも僕らのとは異なっているようで、

分厚いゴムのような見た目でなおかつ四肢の部分には暗い青色に、それ以外は黒色に

染められていて、本格的に異質なものであると感じさせるものとなっている。

加えてその頭部の仮面は、完全にライダーとは違う構造になっていた。ほぼ完全に別物だ。

龍騎もナイトも、鎧兜(フェイスヘルム)には溝のある仮面が上から重ねられているのに対し、

この戦士の仮面にはソレがない。兜顎(クラッシャー)より上には、黒く塗り潰されたバイザーがあるのみ。

何よりこの戦士がライダーと一番異なっている点は、腰のカードデッキとベルトだ。

他の部分と同じく龍騎とは異なり、ベルトの形状もデッキの外観もまるで別の代物なのだ。

突如現れた謎の戦士を見上げて訝しんでいると、その戦士が声をかけてきた。

 

 

「これはちょうどいいところに。君と話がしたいと思っていたところだったんです。

おあつらえ向きにここは鏡世界(ミラーワールド)、誰かに聞かれる心配が無くなりましたね」

 

「え、あの」

 

「どうやら君は、あのデッドリマーに手酷くやられた様ですね。選手交代といきましょう。

君はそこで休んでいてください。あとは私が代わりに戦いますから」

 

 

そこまで話してから、漆黒の戦士はくるりと向きを変え、モンスターを見据える。

いきなり何を言い出すのかと思えば、何なんだこのライダーは。そもそもライダーなのか?

 

何が起こっているのかすら把握できなくなっている僕は、黙って見ているしかなかった。

 

 

「さて、それでは手早くかたずけましょう。制限時間は限られてますから」

 

 

漆黒の戦士が誰に語るでもなく呟き、腰のカードデッキから一枚のカードを取り出す。

今の僕からではよく見えないけど、あのカードも僕らのものとは違っているように見えた。

しかも(声からして男だから)彼は、左手でカードを抜き取った。僕らは右手で取るのに。

どこを見ても異常なその人物は、抜き取ったカードを右腕にある巨大な鋼の篭手へと近付け、

龍騎のように機構を動かして装填するのではなく、カードリーダーにスキャンした(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

【Sword Vent】

 

 

すると右腕の巨大な篭手から女性のボイスアナウンスが響き、手にしたカードが消える。

呆気にとられてその様子を見ていた僕に、背中を向けたままの戦士が笑いながら呟く。

 

 

「いずれお話しますよ。私についても、この【オルタナティブ・ゼロ】についてもね」

 

 

彼がそう言い終わると同時に、どこからか彼のまとう装甲と同じ色合いの大剣が飛来し、

そこに来ることが当たり前であるかのように開かれていた左手に、音もなく収まった。

謎の戦士、オルタナティブ・ゼロとやらの出した大剣は、ハッキリ言って異様な物だった。

大きさや幅の違う幾つかの六角形が縦に重なって、剣先に向けて左右10本の刺らしきものが

くっついている。六角形の先端から突き出た両刃の刀身を見ても、並の剣ではない。

 

やたらと柄の長いそれを、オルタナティブ・ゼロは左手で逆手持ちにしながら軽々と振るい、

ゆったりとした足取りで、銃を構えて立つデッドリマーと呼ばれたモンスターへと向かう。

あの大剣は龍騎のドラグセイバーより遥かに長い。射程は目算でおよそ、僕の2.5倍ほどか。

 

『ウフフフ! フフフフッ‼』

 

「そうやって笑っていなさい。苦しげな断末魔ほど、聞くに堪えないものは無いからね」

 

 

デッドリマーの向ける銃を恐れることなく、オルタナティブ・ゼロは駆け出す。

でもソレは愚策だ。いくら僕より射程の長い武器を持っていても、ヤツの方が有利だ。

 

 

「危ない!」

 

 

僕は思わずそう叫んだ。大剣という武器を手にしても、勝てない武器を体験しているから。

しかし僕の言葉に耳を傾けることなく、オルタナティブ・ゼロの歩みは止まらない。

彼があと数歩踏み出せば、間違いなくモンスターの持つショットガンの射程範囲内となる。

 

 

『フフッ‼』

 

 

龍騎の装甲にヒビをいれたあの時と同じ、自分の勝利を確信したかのような不気味な笑声が、

肉薄するオルタナティブ・ゼロに向けられる。そしてその指が、散弾銃の引き金を絞った。

直後に火薬の炸裂音が高鳴り、続いて散弾銃より放たれた無数の弾丸の絶叫が聞こえた。

 

__________だが、オルタナティブ・ゼロの進軍は止まっていない。

 

 

『ウフッ⁉』

 

「さっき戦った時の事をもう忘れたのかね? せっかく説明してやったと言うのに」

 

 

驚愕に三つの赤い眼を見張るデッドリマー。その様子を見て、漆黒の戦士が溜め息を吐いた。

一体何が起きたのだろうか。何故彼はあれほどの弾丸の雨の中を、怯まずに進めるのか。

痛みが引いてきたせいか、戦いに目が釘付けになっている僕に背中越しでも気付いたのか、

ひたすら歩み続けている彼は、絶えずに襲い来る弾雨の中から平然とした口調で語った。

 

 

「あなたには言ってませんでしたね。ついでですから、教えておきましょう。

私は子供の頃からある能力を持っていましてね。いわゆる、"瞬間記憶能力"という

ヤツでして。この目に映ったものは、たった一瞬でも完全に記憶してしまうのですよ」

 

「瞬間記憶能力………」

 

「ええ。ですから私は、このモンスターの放つ攻撃の全てを"覚えてしまった"のです。

銃を撃つタイミング、銃口の角度、発射された弾丸の拡散範囲など、その全てをね。

ですから、どうすれば私自身がダメージを負わずに済むかを、(ココ)で計算出来たんです」

 

「そ、そんな事って」

 

「出来ますよ。知恵と経験と、そして勇気。これらがそろえば、出来ないことはありません」

 

 

なんて事もないように語られた言葉に、僕は何も言い返すことができなくなってしまった。

彼の言っている言葉の意味が理解できないわけじゃない。むしろその逆で、理解したくない。

敵を倒すためには攻撃をしなきゃいけないのに、彼は一度受けた攻撃を覚えてしまうという。

もしもそれが本当の事だとしたら、いや、本当の事だとしても認めたくない。

 

絶対に勝てない相手がいるなんて、考えたくない。

 

 

『フフッ、フフフフッ⁉』

 

「随分手こずらせてくれましたが、仮面ライダー龍騎にも会えたので結果オーライですかね。

オルタナティブ・ゼロの最終調整用のデータも充分でしょう。本当にご苦労様でした」

 

『フ、ウフフウフゥ‼』

 

「今更みっともなく暴れないでください。滅ぶべき時は、誰しも滅ぶのですから」

 

『ウフフフゥ‼』

 

「では、さようなら!」

 

 

隠し玉であり切り札でもあった散弾銃が意味を成さないことに恐怖し、怯えるように身を

竦めていたデッドリマーの前に仁王立ち、漆黒の戦士はその歪な大剣を逆手に振り上げる。

まるでモンスターと会話しているかのようなやり取りの後、彼はその切っ先を振り下ろし、

眼前にいた存在を物言わぬ骸と成り果てるまで、執拗に何度も剣を振りかざし続けた。

 

頭部から首を介して上腹部に至るまでを大剣で切り裂いた彼は、僕に向き直った。

受けたダメージが大きかったのと、当たり前のように会話してきたことですっかり忘れて

しまっていたけど、この人もライダーなんだ。決して気を抜けない相手なのだ。

おそらく満足に動けない僕と戦って勝つつもりなんだろう。そう思って身構える。

ところが予想に反して、オルタナティブ・ゼロは手をひらひらと振って苦笑していた。

 

 

「いやいや、私は君と戦うつもりは無いよ。私の敵は君じゃない(・・・・・・・・・)

 

「………同じライダーなのに、どうやってそれを信じろと?」

 

「はっはっは、いやぁ、君も随分とこの【ライダーバトル】で揉まれたようだね」

 

「笑い事じゃない‼」

「………そうだね、笑い事ではない。何の意味も無いこの戦いは、まさに笑い事ではないよ」

 

「えっ⁉」

 

 

剣の切っ先を下ろした漆黒の戦士と会話する中で、聞き捨てならない台詞を聞いた。

何の意味も無い戦い、だって?

 

「ど、どういうことだ‼」

 

 

慌てて彼の言葉を言及しようと、声を荒げる。しかし____________

 

 

「________ん、時間か」

 

「えっ、あ、あ!」

 

 

タイミングを見計らっていたかのように、僕らの鎧が限界時間をむかえてしまい、

サラサラと砂が風に舞い散っていくようにして、装甲のあちこちが消え始めたのだ。

話を詳しく聞こうと詰め寄ったのに、彼は身を翻してどこかへと歩き出していく。

後を追いかけようと僕も遅れて一歩目を踏み出した直後、全身を激痛が襲った。

胸部と腹部に受けた傷が激しい主張を繰り返している。こ、こんな時に限って!

 

 

「慌てる必要はありません。また、近いうちに会えるでしょう」

 

 

断続的な苦痛に仮面の下の顔をしかめる僕に、またしても彼は背中越しに語ってきた。

あまりにも紳士的な態度に戸惑いを覚えつつも、彼の言った言葉が本当であるかどうか

信用できず、結果的に助けられたお礼も言わずに、先に疑いの言葉を口にしてしまう。

 

「待て、お前は! 何が、目的でこんな、事を……!」

「目的? 目的、ですか…………それもまた、次の機会に」

 

 

しかし背を向けて歩き続けている彼は、僕の必死の言及もはぐらかして躱した。

そうしているうちに彼の姿はどんどん小さくなり、校舎の角に差し掛かる。

そこで彼はようやく歩みを止め、頭だけをこちらに向けて言い忘れたとばかりに告げた。

 

 

「五月末に行われる、文月学園『清涼祭』で会いましょう________吉井 明久君」

 

 

思ってもみなかった彼の言葉に、語られたその人名に驚き、僕は一瞬呼吸を忘れる。

どうして、僕の名前を?

どうして、文月学園のイベントを?

どうして、そこで会おうと?

 

訳も分からず混乱した僕が正気に戻った時、彼の姿をどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…………あ痛たた」

 

未知のモンスターとの死闘、そして現れた謎の戦士の事を考えながら、僕は鏡を通り抜ける。

ミラーワールドでは一切吹かない風が途端に肌を撫で、血を浴びた身体に安らぎを与えられた。

ここは現実世界の職員用トイレ。僕がミラーワールドへ入るために使った鏡の前だ。

慌てていたからって、今思い返せばもう少しましな場所もあったんじゃないかと思う。

けど、人の命には代えられないしね。それにトイレって言っても、ここはマトモな方だし。

戦いが終わった後で恒例となっている背伸びをしようと腕を伸ばし_______かけて止めた。

さっき散弾銃の弾丸を胸やら腹やらに二回も浴びせられたんだ、どうなるかは目に見えてる。

何もしてない今でさえ痛みが酷い。制服の上から血が染み出てないのがせめてもの救いかな。

第一ボタンをはずして服の中を覗き込んでみると、胸板が内出血で酷い有り様だった。

見なけりゃよかったと思いながらも、これは応急処置できそうにもないと悲嘆に暮れる。

 

「吉井! こんなところで何やってんだよ!」

 

「うわぁ! な、なんだ八嶋君か。脅かさないでよもう」

 

急に背後から声をかけられ、驚いて振り向いた先には八嶋君が汗だくで立っていた。

すごい息切らしてるけど、一体何があったんだろう。というか今何時だろうか。

 

「脅かさないでよ、じゃねぇよ! 戦争だ戦争、早く戻るぞ!」

 

「え? え………あぁ‼」

 

 

次いで彼の口から放たれた言葉を聞き、僕はようやく今日の日程を思い出せた。

そうだ、僕らはようやく念願のシステムデスクを得るための戦争を仕掛けたんじゃないか!

こんな大事なことを忘れるなんて………まぁ、あの戦いの後じゃあ無理もないし、仕方ない。

 

「急げ吉井! もうすぐ十分経っちまう!」

 

「う、うん!」

 

 

全てを思い出した僕を先導するように、八嶋君がトイレを出てすぐ横の階段を駆ける。

その背中を追うようにして、僕も痛む全身をどうにか鞭打って新校舎を駆け上がった。

ここから右に曲がって真っ直ぐに行けば、そこでは僕らの戦争が行われているはずだ。

Aクラスへと伸びる廊下を、傷ついた身体を引きずるようにしながらも進んでいく。

先を行く八嶋君が何度も急かしてくるけど、こればっかりはどうしようもないんだ。

牛歩の歩みの如き速度でも、進んでいればゴールにはたどり着くことができる。

その教えの通りに、僕と八嶋君はAクラスの豪奢なデザインが施された扉の前に立ち、

互いに顔を見合わせてから一呼吸置き、意を決して手触りの良いそれに手をかけた。

 

 

「雄二、戦争は___________」

 

 

僕が最も危惧している、戦争の勝敗の行方を尋ねながら、Aクラスの扉を開いた。

そして、僕の目に飛び込んできたのは、

 

 

『Aクラス 2勝2敗』

VS

『Fクラス 2勝2敗』

 

 

まだ勝負が終わっていなという確かな証拠と、

 

 

「大将戦、相手はこの俺だ。さぁ、来いよ翔子」

 

勝負を決める決戦をこれから始めんとする代表の雄姿だった。

 

 

 

 

 

 







いかがだったでしょうか?

前回の詐欺に反省して、龍騎を戦わせたらこの戦闘だよ!
作者もビックリだよ! こんなに戦闘長引くと思ってなかったよ‼

しかしここまできてようやく原作一巻分ですか………はぁ(諦観

ま、まぁ龍騎の成分とかも含めなきゃいけないし、ね!
ともかく、これからも長くなりますが、お付き合いのほどお願い致します。


それでは、戦わなければ生き残れない次回を、お楽しみに!


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