僕と契約と一つの願い   作:萃夢想天

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初めましての方は初めまして。
ご存知の方はお久しぶりです。

萃夢想天と申します。

前々から書きたかった作品を遂に書く決心が
出来たので書こうと思いますが、文章構成などが
下手だったり、更新が不定期だったりするのが嫌な方や、
明久のヒロインが姫路や美波もしくは優子じゃなきゃ
認めない!と言うような方は閲覧をお控え下さい。


それでは、どうぞ!


記入「吉井明久、11歳」

 

 

 

1996年5月13日、僕が小学校五年生に上がって少し経った頃だった。

 

その日、僕は家族と一緒にデパートへ来ていた。

来年から姉さんが海外の大学へ通うことになったから、向こうの生活で使う

家具とかを買う為の買い物だったけど、僕らも着いて行ったんだ。

父さんと母さん、僕と姉さんと…………そして、妹と。

 

「アキくん、しっかりと明奈(あきな)を見ているのですよ」

 

「うん、分かった」

 

 

僕はその時姉さんに言われて、妹の明奈のお守りをしていた。

明奈は少し前に父さんに買って貰ったアイスクリームを舐めていた。

そのままデパートの通路で立っているのも周りの迷惑だと思ったから、

僕達は近くのソファに座って家具コーナーへ消えた姉さん達を待つことにした。

大体十分くらい経った頃だったか、明奈がアイスを食べ終わるとすぐに

トイレへ行きたいと言い出したから、僕は明奈をトイレへ連れて行った。

 

 

「じゃあ、お兄ちゃんはここで待ってるからね」

 

「うん」

 

僕が女子トイレへ入るのはマズいので、外で明奈を待つことにした。

どうせすぐに用を足して戻ってくる、子供の僕はそう考えていたんだ。

 

 

 

 

_______________でも、それが間違いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレ………? おかしいな、もう二十分くらい経つのに」

 

 

明奈はいつまで経ってもトイレから出てこなかった。

そろそろ戻らないと姉さん達が家具を買って戻ってくるかもしれない。

心配になった僕は、少しオドオドしながら女子トイレへ入っていった。

いけない事だって分かってたけど、何故だか胸騒ぎがして待っていられなかった。

 

 

「ねぇ明奈………? もう戻らないと姉さん達が」

 

初めて入った、女性用のトイレ。

普段僕や父さんが使っている場所とは違って、個室ばっかりだったが全て扉は開いていた。

 

 

「__________明奈?」

 

女子トイレの中で僕が最初に見たのは____________明奈の履いていた靴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕達一家は、その日からバラバラになった。

あの時あの場所で何が起こったのか、僕には全く分からなかった。

その二日後に「吉井 明奈失踪事件」として警察が捜索を開始して

様々な方法で明奈が消えた原因を探ったが、結局これといった成果は出なかった。

世間でもこの事件はそれなりに取り上げられ、近所では好奇の視線に晒された。

自称専門家達が画面の向こう側で、好き勝手な事を言って騒いでいたが

僕達残された家族については決まって「無責任」の一言しかなかった。

 

明奈がいなくなって半年後、母さんが家を出て行った。

あの日以来、母さんは精神を病んでしまって譫言(うわごと)のように明奈の名を呟いていたが

父さんとの口論が本格的な溝になって、母さんは海外の親類の元へと行ってしまったのだった。

しばらくは僕と姉さんと父さんの三人で暮らしていたが、母さんのことが心配だと言って

父さんも同じく海外へと飛び立っていった。

 

そしてそこから三年後、僕が中学校を卒業する間際になって姉さんも海外へ行くと言い出した。

あの事件の影響で姉さんの進学も先延ばしになっていたのだが、向こうで母さんが病にかかって

入院したと父さんに伝えられて、姉さんは介助と進学の為に海外へと行くことになった。

その時姉さんと何か約束した気がするが、もう覚えてはいない。

 

そんな約束を忘れてしまうほど、過酷な契約(しゅくめい)を背負ってしまったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2001年12月17日、クリスマスが近づいて町も人も活気付く頃だった。

僕はその日、運命の選択をした。

この先の未来を決める、最初で最後の『後悔の無い選択』だった。

僕は高校に入っても、周りに上手く馴染めなかった。

いつまで経っても明奈の事を引きずって、他人と関わろうとしなかった。

だから部活にも委員会とかにも入らなかったし、課外も取らなかった。

別に学校が嫌いって訳じゃないし、寧ろ好きな部類に入ると思う。

だけど……………やっぱり普通の日常を生きる皆が、僕は気に入らないんだ。

「おーい明久ぁ! この後ゲーセン寄ろうぜー」

 

「……………ゴメン、また今度ね」

 

 

授業が終わって僕がすぐに帰る身支度をしていると、数少ない友人の一人が声を

掛けてきたけど、僕はそれを断って教室を出た。

多分彼らは付き合い悪いよなぁと思っているんだろう。事実そうだもんね。

部活へ向かう生徒や、委員会の仕事をしている生徒、参考書を抱えた教師達の横を

俯きながら無言で通り抜ける僕は、まるで別の世界で生きているようだった。

 

此方からは向こうが見えて向こうからは此方が見えない、そんな別世界………………。

 

そんな風に独り思い耽っていると、昇降口横の男子トイレが見えた。

少し尿意を感じた僕は、自宅の水道費の事も考えて学校で用を足すことにした。

トイレに入った途端、鼻につく臭いが僕を出迎えた。

顔をしかめつつ、一番出入り口に近い場所へ近付いた。

 

 

ピシッ……………………パリンッッ‼‼

 

 

すると突然、手を洗う為の蛇口台に立てかけてある鏡が音を立てて割れた。

僕は驚いて鏡があった方向を見るが、そこには誰もいなかった。

いったい何があったのか分からないが、僕は気味が悪くなってきたから

トイレからすぐに立ち去ろうとした。

 

 

______________キィィイィィィン

 

 

 

「ッ‼⁉ 何だ、この音! あ、頭が………うぅ」

 

 

その時、唐突に響いてきた不快な音が僕を襲った。

でも、何故だか聞き覚えがある音のような気もした。

鼓膜にじゃなく、直接頭の中に響くようなこの音が。

 

「何なんだよクソ! あぁ‼」

 

 

両手で頭を抑えて音を少しでも遮断しようとしても効果は無く、

僕はその音が止むまで、ただそこで立っていることしか出来なかった。

だけどしばらくして、つんざくような音は止んでいた。

僕は恐る恐る両手を放して辺りを見回した。

すると足元に散らばっていた鏡の破片が、カタカタと震えだして光を放った。

僕がまぶしさに顔を手で覆っていると、どこからか声が聞こえてきた。

 

 

『やっと私の声が聞こえたか、吉井 明久』

 

「_______え⁉ 何! 誰⁉」

 

 

光が収まって薄れていくのを感じて、僕も顔を覆っていた手を下げると

床一面に鏡の破片があって、その全てに同じ人の姿が映っていた。

でも僕の周囲に人はいない………何がどうなってるんだ‼

 

 

『私を認識出来たのならば、決断の時だ』

 

「何なんだよ……何言ってるんだ、そもそもあなたは誰なんだよ‼」

 

僕はさっきから何が起こっているか分からない恐怖で頭が混乱していた。

だから初対面の人にも、荒い口調で詰め寄ってしまった。

でも相手の人はそれに構わずに、僕の目を見つめながら話を続けた。

 

 

『もう時間は無い、すぐそこまで迫って来ている(・・・・・・・・・・・・・)

私はお前の全てを知っている、お前の欲する物を知っている、お前の願いを知っている。』

 

「何が…………言いたいんだ」

 

 

鏡に映っている男の人が、僕に無言で何かを差し出してきた。

僕はソレをよく見ようと顔を近付けると、男の人の手に持っていた物が飛び出してきた。

 

「うわぁぁ‼ な、何⁉」

 

『ソレはお前を変えるもの、お前の運命を変えるもの、お前の願いを叶えるもの』

 

「え…………?」

 

 

僕の手に収まっている物を渡した男の人は、振り返って歩き出した。

鏡に映っていた向こうの景色はただただ黒い空間で、その中に男の人はゆっくり消えていく。

そしてまた段々と光が大きく強くなっていくのを感じて、左手で顔を覆う。

僕の視界が光で埋め尽くされる直前、男の人の声が聞こえた。

 

 

『さぁ、戦え。最後の一人になるまで……………………………………ひたすら前へ進め。

戦わなければ生き残れない、人の願いがぶつかり合う【ライダーバトル】へ……………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2002年3月25日、もうすぐ高校2年生に進級するほど成長した僕は今、戦っている。

家を出たのが夜の9時くらいだったから、今は多分9時半辺りだろうか。

だがそんな事は今の僕にはどうでも良かった。

今僕の目の前には_______怪物がいるからだ。

 

 

「ハァァァァ……………ギィ、ギュイィ………」

 

僕の前で手を広げながら空中で水を掻くような不気味な動きをしている鏡世界の怪物(ミラーモンスター)

赤黒い体表のこの怪物……………名前は確か、『ゲルニュート』だったか。

ヤツは背中に巨大な手裏剣を所持していて、さっきから僕の動きを制限してきた。

あの手裏剣攻撃はかなり厄介だったが、もう突破口は見えた。

僕は荒く息を吐いているゲルニュートに向かって、全速力で突っ込んだ。

 

 

「うおぉぉぉぉぉりゃぁぁぁ‼‼」

 

「ギィ! シャァアァァ‼」

 

 

僕が向かっていくと同時にゲルニュートが背中の手裏剣を投げ飛ばしてきた。

その攻撃を予め読んでいた僕は、走りながらベルトのバックルに(・・・・・・・・・)手を伸ばした(・・・・・・)

そこから一枚のカードを取り出し、僕の左手にある龍の頭部を模したソレのギミックを動かし

カードを挿入口へと差し込み、再びギミックを動かしてカードを読み込んだ。

 

 

【STRIKE VENT】

 

「せぇぇぇやぁぁぁ‼‼」

 

 

カードが読み込まれ、その内容が反映される。

目の前に迫ってくる手裏剣よりも早く、僕の右手めがけて空の彼方から何かが飛来してきた。

僕はそれに合わせて右手を前に突き出して、飛んで来た何かを装着した。

眼前まで迫っていた手裏剣に向かって、走った勢いを乗せて右手のソレを振るう。

 

ガキィィイィィンッ‼‼‼

 

 

大きな金属音を立てて手裏剣を掴んだのは、右手に装着された『赤龍撃爪(ドラグクロー)』。

掴んだその手裏剣を、力を込めて右手の龍の頭が噛み砕いた。

粉々になって地面に散らばっていく手裏剣の破片を見たゲルニュートは少し後ずさる。

 

「逃がすかッ‼」

 

 

僕は手裏剣を噛み砕いた右手のドラグクローをゲルニュートへ向けて構えた。

僕の行動に身の危険を感じたのか、ヤツは近くの住宅の塀をよじ登って屋根に飛び乗り、

そのまま別の屋根に飛び移ろうとしている………このまま逃げる気だろうけど、させない!

 

 

「はあぁぁぁぁぁ……………!」

 

 

僕は声を上げながら左手を前へゆっくりと突き出し、右手を構えたまま後ろへ引く。

そして左足を右足より後ろへ下げつつ、屋根を飛び回るゲルニュートに狙いを定める。

十字路の角にある家の屋根に飛び乗ったヤツは、次に移る屋根(あしば)を探していて無防備だった。

ドラグクローの口から、炎が溢れ出て僕の仮面の頬(・・・・)を明るく照らす。

充分な量の炎が溜まった右手を、雄叫びと共に前へと突き出す。

 

 

「おおぉぉりゃぁぁあァァァッ‼‼‼」

 

 

ドラグクローから発射された一発の巨大な炎の弾が、ゲルニュートへと直進していく。

僕の攻撃に気付いたゲルニュートはすぐに跳躍しようとしたが間に合わず、爆発四散した。

耳をつんざく断末魔と共に燃え上がる炎に飲み込まれたヤツの最期を見届けながら背を向ける。

そのまま近くのスーパーの擦りガラスの前に立って、ふぅと小さく息をつく。

そして僕はそのガラスを手慣れた態度ですり抜けて(・・・・・)、先程とは何もかもが

反転した__________もとい、元通りになった世界に帰り着いた。

 

スーパーを出て、すっかり暗くなってしまった空を見上げる。

僕は家へと帰る道を歩きながら、ふと思ったことを口にした。

 

 

「2週間後には2年生か…………アレからもう6年も経ったのか。

これからが本番なんだよな…………待ってろ明奈、今度はお兄ちゃんが迎えに行くからな!」

 

 

 

 

 

 

僕の新しい高校生活と、激しさを増していく闘いの日々が

待っているであろう4月が、僕は待ち遠しく感じられた。

僕の願いを………『明奈の命』を、手に入れるために。

 

 

 




ハイ、序章です。
こちらは完全に不定期更新ですので
ご理解ご容赦下さい…………書きたいけど。


ご意見ご感想、お待ちしてます‼

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