日本ではワインを飲まなくていいというのは、さり気なく嬉しい。
ハルケギニアでは衛生的な面やら貴族的な面やらでワインを飲まなきゃならなかったけど、実はワイン苦手だったし。
日本では蛇口を捻るだけで冷たく綺麗な水がいくらでも出るし、ちょっとコンビニまで行けば紅茶もコーヒーもミルクもジュースもなんでもありだ。最近はコーラにも挑戦した。
安物の紅茶の味にもすっかり慣れ、今日は緑茶に挑戦さ。
草っぽい色はちょっと勇気がいるけれど、才人はいつもおいしそうに飲んでるし正直期待している。
苦味があるってことは、コーヒーみたいな感じかしら?
今、ルイズの前にあるのは緑茶のペットボトルだ。
うん。茶葉から淹れるのなんてメイドの仕事だし、日本では完成品が売ってるんだし、お手軽でいいね!
封を開けてコップにそそぐと、思ったより色が薄い。綺麗な黄緑色だ。
ではさっそく飲んでみよう。ガラスのコップを手に取って、可憐な唇へ。
ごくっ。
――口の中に、風が吹いた。
春の日の、涼しく爽やかな風の香り。
ああ、懐かしきヴァリエール領の草原よ。馬に乗って駆けたあの思い出。
喉を鳴らすと、水よりも清らかであると確信できる冷たさが、スッと流れ落ちていく。
あまりの感動に「おーい」と声をかけたくなるくらい見事なお茶だった。
そんな訳で500mlのペットボトルを一人で空にしたルイズは、満足気に下腹を撫で回す。
それから数十分もしないうちに、そろそろ行けると判断した。
今、平賀宅はルイズ一人である。
そして、このタイミングでわざわざ緑茶体験を、ペットボトルの安物ですませた理由があった。
すなわち!
トイレのウォシュレットを初体験したその日、六度目の【レモネード】タイム突入である。
――トイレの中に、風が吹いた。
春の日の、暖かく爽やかな川の香り。
ああ、懐かしきヴァリエール領の川よ。馬を休ませ素足をひたしたあの思い出。
【ビデ】を押すと、緑茶よりも清らかであると確信できる温かさが、シャーッと流れ溢れていく。
あまりの感動に「あっ――」と喘いでしまいたくなるくらい見事な【ビデ】だった。
『レモネード・パニック!』のラストに続く。